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第四章:諸国漫遊Ⅱ
ピアスリックス戦②
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「シン! 一旦、降りて来い!」
「クッ!」(やっ!)
(またかよ!)
朔はシンに向かって叫ぶが、シンは上空へと飛翔し、は両翼に魔力を練り始めた。朔は頭の中で突っ込みを入れるが、すぐに切り替えて付与魔法をシンに向かって放つ。
「MAT強化、AGL強化! シン、受け取れ!!」
「クッククーッ♪」(パパ、ありがとー♪)
ナタリアは岩の上で空の一点を見つめており、朔は彼女の横に跳び上がると小さな声で尋ねる。
「リア、相手は何?」
「ピアスリックスの翼持ちです」
「それってCランクだよね!?」
「はい。介入することもできますが、今は見ていて下さい。来ましたよ」
朔はナタリアの指し示す方へと視線を向けた。翼持ちのピアスリックスは既に朔の視力でも視認できるほどまで近付いてきており、角の先端をシンへと向けたまま翼を羽ばたかせて加速する。
「……? あんまり速くない?」
「ん。遅い」
「はい。やはり陸上の魔物が翼を生やしても、上手く飛ぶことは中々難しいようです」
「Cランクなんだよね?」
「ステータスは6本足より高いですよ? ただし、空中ではそれをあまり生かしきれません。Dランクとはいえ、元々の主戦場が空であるシンちゃんの方がやや有利かと」
ナタリアの言葉通り、シンは翼持ちのピアスリックスの突進を軽く躱し、すれ違いざまに風鎌で切りつける。しかし、傷は浅く、翼持ちは深紅の瞳をぎらつかせて体勢を整えると、体の周囲に先端を尖らせた石つぶてと言うにはやや大きすぎる塊を三つ生成した。
「大きさはすごいけど、魔法はどうなのかな?」
「もともと肉体派寄りですから、そこまでは高くないかと。シンちゃんよりは高いようですね」
「シンはまだ複数の魔法を正確に放てないしね」
朔たちが話している間に、翼持ちは三つの石つぶてを射出する。しかし、王都近郊にあったダンジョンでの禿鷹との戦いと同様に、追尾することも無く、多少大きいだけの遅い石を躱すことなどシンにとっては造作もないことであった。
シンは距離を詰め、翼持ちの周囲を飛び回る。徐々に風鎌での傷が増え、翼持ちは徐々に高度を落として地面に降り立つと、土魔法で両脇と後ろに土壁を作りだした。シンはどう攻めるかを迷っている様子で、ゆったりと空を周回している。
「おお、やっぱりINTが高くなると賢くなるのかな。看破の魔眼でステータスを知りたいけど、ダメだよね?」
「当然です」
「了解、でもなんで翼を生やしたんだろうね?」
朔の質問にナタリアが口を開く前に、横で戦闘を眺めていたヒトミが説明を始める。
「だから、飛びたかったんだよ。彼らが進化の先に求めたのが、単純な強さじゃなくて空を飛ぶことだったんだよ」
「どういうこと?」
「魔物の進化はね、こうなりたいという思いが強く現れるのさ。シンとリトもそうだったでしょ?」
朔はシンとリトの今までの進化を頭の中に思い浮かべる。
シンの一回目の進化は、魔法の修業があまり上手くいっていなかったために魔力操作Ⅰのスキルを習得し、二回目は上達していた魔法関連ではなく、気配遮断のスキルを強化していた。さらに、三回目は再び影魔法を新たに習得するなど、再度魔法関連を強化していた。
また、リトの進化は種族がナイトとなった上で、タンクとして有用なスキルである槍術や盾術の強化、挑発に咆哮といったスキルを習得していた。
「……確かにそうだね。でも、なんで空?」
「ピアスリックスが生きてた時代は、亜竜がいた時代だからさ。対空の偵察能力が欲しかったんじゃないかな?」
「亜竜ってワイバーンとか? というか、ピアスリックスって絶滅してるの?」
「そだよー。多少の制約はあるけど、ダンジョンはその土地の歴史上の魔物はなんでも生みだせるからね。亜竜はワイバーンとか、海にはサーペントとかね。あとは土の中にはマオルヴルとかもね。そのうち会えるんじゃないかな♪」
(そんなおっかない奴らには会わなくていいから!)
ヒトミは親指だけを立てた右手を朔の顔の前に突き出してにかっと笑っており、一方の朔は苦笑しながら、短くため息をつくのであった。そこに、ナタリアから冷やかな声がかかり、ミラが静かに呟く。
「サクさん、ヒトミさん、今はどういう状況かわかっていますか?」
「シンが動く」
朔達が一斉にシンの方を向くと、シンは真っ黒なもやの塊を翼持ちのピアスリックスに向けて放つ。翼持ちは石つぶてでそれを迎え撃った。しかし、もやが消え去ったとき、翼持ちの目にシンの姿は写っていなかった。
そのシンはと言うと……
「クックーッ♪」(パパー♪)
翼持ちのピアスリックスを放置して朔たちの元へと戻り、朔の肩に止まっていた。
「クッククーッ♪」(足止めできたよー♪)
「んん?」
朔が首を傾げていると、シンは羽をぱたぱたと軽く羽ばたかせながら嬉しそうに鳴く。
「クックックク―ッ!」(足止めも斥候のシゴトなのー!)
「そうなんだ! 誰かに教えてもらったの?」
「クックッ!」(うん! イル!)
「おお♪ そっかそっか。偉いぞー、シン♪」
朔はシンをわしゃわしゃと撫でまわした。そんな彼らをナタリアとミラは微笑ましく眺めていたが、ヒトミが刀の鞘でこんっと朔の頭を叩く。
「それで、あの魔物はどうするのさ?」
「クッ!」(やっ!)
(またかよ!)
朔はシンに向かって叫ぶが、シンは上空へと飛翔し、は両翼に魔力を練り始めた。朔は頭の中で突っ込みを入れるが、すぐに切り替えて付与魔法をシンに向かって放つ。
「MAT強化、AGL強化! シン、受け取れ!!」
「クッククーッ♪」(パパ、ありがとー♪)
ナタリアは岩の上で空の一点を見つめており、朔は彼女の横に跳び上がると小さな声で尋ねる。
「リア、相手は何?」
「ピアスリックスの翼持ちです」
「それってCランクだよね!?」
「はい。介入することもできますが、今は見ていて下さい。来ましたよ」
朔はナタリアの指し示す方へと視線を向けた。翼持ちのピアスリックスは既に朔の視力でも視認できるほどまで近付いてきており、角の先端をシンへと向けたまま翼を羽ばたかせて加速する。
「……? あんまり速くない?」
「ん。遅い」
「はい。やはり陸上の魔物が翼を生やしても、上手く飛ぶことは中々難しいようです」
「Cランクなんだよね?」
「ステータスは6本足より高いですよ? ただし、空中ではそれをあまり生かしきれません。Dランクとはいえ、元々の主戦場が空であるシンちゃんの方がやや有利かと」
ナタリアの言葉通り、シンは翼持ちのピアスリックスの突進を軽く躱し、すれ違いざまに風鎌で切りつける。しかし、傷は浅く、翼持ちは深紅の瞳をぎらつかせて体勢を整えると、体の周囲に先端を尖らせた石つぶてと言うにはやや大きすぎる塊を三つ生成した。
「大きさはすごいけど、魔法はどうなのかな?」
「もともと肉体派寄りですから、そこまでは高くないかと。シンちゃんよりは高いようですね」
「シンはまだ複数の魔法を正確に放てないしね」
朔たちが話している間に、翼持ちは三つの石つぶてを射出する。しかし、王都近郊にあったダンジョンでの禿鷹との戦いと同様に、追尾することも無く、多少大きいだけの遅い石を躱すことなどシンにとっては造作もないことであった。
シンは距離を詰め、翼持ちの周囲を飛び回る。徐々に風鎌での傷が増え、翼持ちは徐々に高度を落として地面に降り立つと、土魔法で両脇と後ろに土壁を作りだした。シンはどう攻めるかを迷っている様子で、ゆったりと空を周回している。
「おお、やっぱりINTが高くなると賢くなるのかな。看破の魔眼でステータスを知りたいけど、ダメだよね?」
「当然です」
「了解、でもなんで翼を生やしたんだろうね?」
朔の質問にナタリアが口を開く前に、横で戦闘を眺めていたヒトミが説明を始める。
「だから、飛びたかったんだよ。彼らが進化の先に求めたのが、単純な強さじゃなくて空を飛ぶことだったんだよ」
「どういうこと?」
「魔物の進化はね、こうなりたいという思いが強く現れるのさ。シンとリトもそうだったでしょ?」
朔はシンとリトの今までの進化を頭の中に思い浮かべる。
シンの一回目の進化は、魔法の修業があまり上手くいっていなかったために魔力操作Ⅰのスキルを習得し、二回目は上達していた魔法関連ではなく、気配遮断のスキルを強化していた。さらに、三回目は再び影魔法を新たに習得するなど、再度魔法関連を強化していた。
また、リトの進化は種族がナイトとなった上で、タンクとして有用なスキルである槍術や盾術の強化、挑発に咆哮といったスキルを習得していた。
「……確かにそうだね。でも、なんで空?」
「ピアスリックスが生きてた時代は、亜竜がいた時代だからさ。対空の偵察能力が欲しかったんじゃないかな?」
「亜竜ってワイバーンとか? というか、ピアスリックスって絶滅してるの?」
「そだよー。多少の制約はあるけど、ダンジョンはその土地の歴史上の魔物はなんでも生みだせるからね。亜竜はワイバーンとか、海にはサーペントとかね。あとは土の中にはマオルヴルとかもね。そのうち会えるんじゃないかな♪」
(そんなおっかない奴らには会わなくていいから!)
ヒトミは親指だけを立てた右手を朔の顔の前に突き出してにかっと笑っており、一方の朔は苦笑しながら、短くため息をつくのであった。そこに、ナタリアから冷やかな声がかかり、ミラが静かに呟く。
「サクさん、ヒトミさん、今はどういう状況かわかっていますか?」
「シンが動く」
朔達が一斉にシンの方を向くと、シンは真っ黒なもやの塊を翼持ちのピアスリックスに向けて放つ。翼持ちは石つぶてでそれを迎え撃った。しかし、もやが消え去ったとき、翼持ちの目にシンの姿は写っていなかった。
そのシンはと言うと……
「クックーッ♪」(パパー♪)
翼持ちのピアスリックスを放置して朔たちの元へと戻り、朔の肩に止まっていた。
「クッククーッ♪」(足止めできたよー♪)
「んん?」
朔が首を傾げていると、シンは羽をぱたぱたと軽く羽ばたかせながら嬉しそうに鳴く。
「クックックク―ッ!」(足止めも斥候のシゴトなのー!)
「そうなんだ! 誰かに教えてもらったの?」
「クックッ!」(うん! イル!)
「おお♪ そっかそっか。偉いぞー、シン♪」
朔はシンをわしゃわしゃと撫でまわした。そんな彼らをナタリアとミラは微笑ましく眺めていたが、ヒトミが刀の鞘でこんっと朔の頭を叩く。
「それで、あの魔物はどうするのさ?」
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