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第四章:諸国漫遊Ⅱ

ピアスリックス戦①

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ナタリアが叫ぶと、朔は皆と顔を近付けて小さな声で尋ねる。
 
「ピアスリックスって何だっけ?」
「牛?」
「フゴッ!」(知らないです!)
 
 ミラは首を少しだけ傾げ、リトは元気よく答えた。ヒトミは岩の上でピアスリックスの動きを注視しているナタリアに代わり、あきれ顔で説明する。
 
「ハニー、ピアスリックスは長い角を持つ牛のような魔物だよー。Eランクが4本足で、Dランクが6本足だね」
「じゃあ、Cランクは8本足になるのか?」
「んにゃ、翼が生える」
「なんで!? ふがっ」
 
 ヒトミは思わず声が大きくなってしまった朔の口を左手で押さえ、右手の人差指を唇に当ててしーっと合図を送る。朔がこくこくと頷くと、ヒトミは朔の口から手を離した。
 
「飛びたいからじゃない? 足が8本あっても邪魔だから要らないでしょ」
「飛びたいからって、牛が?」
 
 そこにナタリアが岩の上から音も無く飛び降りて来て報告を始める。
 
「群れは8頭ですね。翼持ちはおらず、6本足が2頭に4本足が6頭です」
「それならなんとかなるかな。一当てしてみる?」
「そうですね。角の貫通力が高いので、正面からの攻撃は避けてください。また、水魔法や土魔法を使用することがあるので気を付けてください」
「了解。ナタリア、ミラは後ろから弓と魔法で足並みを乱して。リトは6本足を1体任せるよ。ヒトミはEランクの相手を」
 
 朔の指示に皆が頷くと、それぞれは有利な地形に散開した。
 
 ナタリアが遠距離から矢を放つ。矢は空気を切り裂き、4本足のピアスリックスの頭に突き刺さった。急所を突き刺されたピアスリックスはゆっくりと倒れ、群れは突然のことに騒然となる。一頭が朔たちを認識すると、猛然と彼らに向かって駆け始めた。
 
 1頭の6本足を先頭に5頭の4本足が横並びに追走し、さらに一番後ろからより体格が大きな6本足が速度を合わせて突っ込んでくる。
 
「リア、ミラ!」
 
 ナタリアの矢とミラの魔法が次々と放たれる。4本足のピアスリックスは避け切れずに被弾し、遅れるものもいたが、6本足は矢や魔法を避けながらも速度を落とさずに迫り来ていた。
 
「リト!」
「フゴッ! フゴゴッ!!」(はいです! こっちに来いです!)
 
 リトは先頭の6本足のピアスリックスに対して挑発を発動した。それは突進の向きを変え、リトに迫る。リトはナタリアの助言に従い、正面で受け止めるのではなく、角に対して大盾を斜めに当てるように調整する。
 
角と大盾が当たった瞬間、固い物が擦れる音が鳴る。角が弾かれた六本足は方向を変えて駆け抜けるのではなく、前脚と真ん中の脚に体重をかけて独楽のように体を回し、後ろ脚でリトを蹴りつけようとした。リトは迫りくる後ろ脚を冷静に盾で受け止め、カウンターで後ろ脚の付け根付近に短槍を突き刺す。
 
「ブモオオオオオ!!!」
 
 悲痛な叫び声を上げる六本足のピアスリックスが体勢を整える前に、瞬歩を発動したヒトミが刀を振り上げる。
 
「魔・即・斬!」
 
 STRが底上げされているヒトミであっても、ピアスリックスの太い首を一刀で両断することはできなかった。ピアスリックスは首から血を吹き出しながら角を振りまわすが、ヒトミは後ろに跳躍し、刀の背で右肩をとんとんと叩く。
 
「固いなもー。でも、牛さんはこっちを見ててもいいのかな?」
「フゴオオオッ!!」(隙ありです!)
 
 ヒトミの逆方向からリトが突貫し、先ほどよりも深く腹部を突く。
 
「HPが高いのも考えものだね。早く楽になった方が良かったよ。リト、さっさと倒しちゃうよ!」
「フゴッ!」(はいです!)
 
 
(なんでヒトミはリトの方に……こんなでかい牛の群れに1人って超怖いんだけど……まあいいか。落とし穴は間に合いそうにないからこうだ!)
 朔は土操作で目の前の固い地面を広範囲で砂状へと柔らかくした。4本足のピアスリックスは足を取られてよろけ、互いにぶつかり合いながら転倒したが、6本足は足を着く部分だけを土魔法で固くし、猛然と朔に迫る。
 
「なっ!?」
「ブモオオオオオ!!!」
(やばい、リアとミラが後ろにいるから避けられない! なら!)
「ブモオオオオオ!!!」
「重力魔法!」
 
 朔は鋭い角を躱わし、バトルスタッフを両手で構える。さらに重力魔法によって体重差を無くし、突進を受け止めた。
 
 「うおおおおお!!」
 
 10メートル程度後ろに押されたものの、朔はなんとか6本足を受け止めた。そのまま力技で払いのけ、続けざまにバトルスタッフで硬い頭を打ち抜く。

 一撃で仕留めることはできなかったが、6本足のピアスリックスの頭は大きく陥没していた。突進を止められ、頑丈な頭を砕かかれた6本足は、それでもなお角を朔に向けて唸り声をあげる。
 

「サクさん、魔法を操る魔物との経験不足ですね。とっさの反応がまだまだです」
 
 横から突然現れたナタリアは、6本足のこめかみ部分にレイピアを突き刺す。さらに──
 
「風玉」
 
 ──突き刺さったレイピアの先端で風玉を発生させ、頭の中をずたずたに切り裂いた。ほどなく、ピアスリックスは長く鋭い角と魔石を残し、光の粒子となって消え去るのであった。
 
「リア、助かったよ」
「それが私の役割ですから。それよりも、残りが来ますよ」
 
 ナタリアは微笑み、朔の後方を指差す。朔は重力魔法を解除すると、バトルスタッフを握り直して群れへと向かった。
 
「極悪」
「ふふふ、サクさんの真似をしてみました」
「サクの真似?」
「以前から感じていたことですが、サクさんは一撃で仕留めることにこだわりがあるようですね」
 
 後方からナタリアの傍まで来たミラの呟きに、ナタリアは微笑みながら答えた。二人の元に6本足を片づけたヒトミが加わり、ナタリアの推測に答える。
 
「ハニーは殺すなら苦しませずにって思ってるからね」
「理由はあるのでしょうか?」
「ボク達のいた世界は魔物がいなかったからね。狩りの経験も無かったし。命を奪うことは割り切ってるみたいだけど、長時間苦しませるような行為はなかなか受け入れられないんじゃないかな」
 
 女性陣に見守られながら、朔とリトが残りの4本足を片づけていると、上空を旋回していたシンが声を上げる。
 
「クックーッ!」(何か来たよ!)
「シン! どこからだ!?」
「クッ!」(空!)
 


※後書き※
 更新が大変遅くなり、まことに申し訳ありません。初めてスランプに陥っていましたが、どうにか復調しました。
 今後は週二回を目安に更新していきたいと思います。これからも、本作をどうぞよろしくお願いいたします。

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