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第四章:諸国漫遊Ⅱ

転移した先は

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 朔たちが転移した日の夕方、朔は部屋の扉の前に立ち、カイン達の帰りを待っていた。彼がいい加減心配になり始めたとき、3人の足音が聞こえ始め、勢いよく扉が開かれる。
 
「ようやく1匹仕留めた……ぞ?」
「キザン、早く入ってよ……あ」
「3人とも、おかえりなさい。それでどこで何を──ルイさん?」
 
 傷だらけの2人に朔が笑顔のまま詰問を始めようとすると、ルイがライの元へすたすたと歩いていく。朔は彼に視線を向けて呼び掛けるが、ルイは返事をせずにライの目の前に立った。

 ルイは無言で腕を上げ、訝しむような目で彼のことを見ているライの頭に向かって、手のひらを高速で振り下ろした。

 バチンッと鞭で叩いたような乾いた音が部屋の中に響き、朔は驚いて声を上げる。
 
「ルイさん!?」
「お館様、少々待って欲しいであります。ライ隊長、何をやってるでありますか?」
 
 ルイは朔に断りを入れてから、思い切り叩かれたにも関わらず微動だにしないライにいつもよりも低いトーンで尋ねた。ライが黙ったまま答えないため、ルイはさらに彼を非難する。

 
「ラッキーフラワーのことを大事にするのは良いでありますが、甘やかしすぎであります」
「おい! なんで隊長を悪く言う。我儘を言ったのは俺だ」
「僕もです。叩くなら僕達の方を──」
「その通り。が、責任を取るのは上の役割であります」
 
 キザンとカインはライを庇おうとしたが、ルイはカインの言葉を遮って二人にきっぱりと告げた。ライは朔の方を向き、深く頭を下げる。
 
「二人とも止めろ、ルイが正しい。アサクラ男爵、申し訳ありません。私は危険があることを理解しておりながら、二人を連れて外に出てしまいました」
「ぐっ、それは確かにライ隊長の落ち度かもしれませんが、安全は確保していたんですよね?」
 
 朔は奥歯を食いしばり、ライに説明を求めた。ライが何かを言いかけるが、ルイが先に口を開いて朔に尋ねる。
 
「お館様、ここが何階層かご存知でありますか?」
「さきほど、リアから40代と聞きました」
「出現する魔物のランクは?」
「Fが少し、EとDがメインで、Cが群れのリーダー、Bも稀に出ると聞いています」
 
 朔は食事の間に、ナタリアからこのダンジョンの階層と出現する魔物について教授されており、ルイの質問にすらすらと答えた。ルイはうんうんと頷き、ライを指差す。
 
「その通りであります。つまり、ここはライ隊長だけでどうにかなる階層ではないのであります。それなのに、このハゲはラッキーフラワーたちが可愛いあまりに判断を誤り、2人を危険にさらしたのであります」
 
 朔はルイの指につられ、ちらりとライの方を見るが、すぐにカインとキザンへと視線を移し、できるだけ穏やかな口調で声をかける。
 
「そっか。本当に怪我で済んで良かったよ。ライ隊長も反省してるし、この件は以上にしよう。3人とも、明日から忙しくなるから今日はゆっくり休んでください」
「お館様、いずれ領地を持つのであれば信賞必罰ですぞ。なあなあにしてはなりません」
 
 朔が話を切り上げようとするが、今度はイルが横から口を挟んだ。朔はイルの質問に答えながらライの方を向き、再び歯を食いしばってから沙汰を下す。
 
「それはそうかもしれませんが、ライ隊長は私の家臣ではありませんし。ぐっ……ではライ隊長への罰は、頭の手の跡を回復しないということで」
「な!?」
「ぶっ! ハゲ山に綺麗な紅葉が咲いているであります!」
 
 ライのハゲ頭にはくっきりと手形がついており、ルイは我慢できずに吹き出し、皆もつられて笑い出してしまった。ライは顔を赤くし、頭をピクピクとさせながらルイに詰めよるが、ルイは負けずに言い返す。
 
「ルイ! てめえ、さっきからどさくさにまぎれて俺のことをハゲって呼んでんじゃねえ!」
「うるさいであります! 孤児院のシスターに気があるからといって、ラッキーフラワーに優しくしているおっさんに文句を言われる筋合いはないであります!」
「ばっ! あれは俺の末の妹だ!」
「嘘つくなであります! こんなハゲと清楚なシスターが兄妹な訳ないであります!」
「嘘じゃねえ!」
 
 朔達が、ぎゃあぎゃあ喧嘩をしているライとルイを笑いながら眺めている中、カイン、キザン、ツェンは別のことを考えていた。
 
(((ハゲ隊長とシスターが兄妹ってことは……ハゲが義兄に……?)))
 
 3人にとって、彼らの面倒を見てくれていたシスターは初恋の相手であり、思わず阿呆な妄想が頭をよぎっていた。バステトとタンザはやれやれとため息をつきながら呟く。
 
「馬鹿ばっかりだにゃ」
「まったくです」
 
 
 
 次の日、アルたちにダンジョンの探索を任せ、朔たちは部屋の近くを探索することになった。その理由は魔物の強さがわからないことが一つ。さらに、朔達の実力を知らないレーヴのメンバーが、この場所から動かずに高ランククランの到着を待った方が良いと主張したためであった。
 
 準備を整えた後、朔たちは部屋の外へ出る。朔たちの目には大小様々な石や岩があり、草がほとんど生えていない乾燥した大地が映っていた。
 
(起伏のあるれき砂漠か……やっぱり日差しが強いな)
「ちょっと待って、皆これを着てくれる?」
「これは白い布でしょうか?」
「さすがハニー、日焼けは女の子の大敵だからね」
「暑い」
「特にミラとリアは肌が白いから、対策しておかないと後でひどいことになるからね」
「ボクが地黒って言いたいの?!」
「ヒトミは健康的な肌だよ」
「クックー!」(何かいっぱいいるよ!)
 
 上空を飛んでいたシンの呼びかけに、朔達は素早く反応し戦闘態勢を取る。朔達は大きな岩の陰に隠れ、ナタリアは気配遮断を発動してその岩に飛び乗った。ナタリアが目を細めてシンの指す方向をじっと見ていると、長い二本の角が生えた六本足の魔物が小高い丘の頂上に現れる。
 
「あれは……ピアスリックスの群れです!」



※後書き※
皆様いつもありがとうございます♪
レンタル部分を含めると、投稿を始めてからちょうど100話まで辿り着くことができました。
これからもどうぞ宜しくお願いいたしますm(_ _)m
 
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