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第四章:諸国漫遊Ⅱ

レオナルド

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 フローディアは彼に頭を下げてから彼の問いに答える。
 
「はい。レオナルド殿下、この者たちがとても便利な魔導具を持っていますの!」
「わかったわかった」
 
 ライはレオナルドの姿を視認するとすぐに膝をついて頭を下げており、ラッキーフラワー達もまた彼に倣って同じ姿勢を取った。レオナルドは彼らを見回し、一番年上に見えるライに向かって尋ねる。
 
「で、誰と話せば良いのだ? お前か?」
「殿下、私はオルレアン辺境伯情報部所属のライと申します。この者らは、ダンジョン対策特命大使であるアサクラ男爵旗下のパーティ・ラッキーフラワー。なお、このパーティの物資はタンザという者が管理しております」
「お前らがダンジョン対策部隊だと!? 親父は俺を差し置いて、こんな貧相な奴らに国の威信を懸けた部隊を任せたのか!?」
 
 レオナルドは目の色を変えて激昂し、目鼻の通った顔をしかめて叫んだ。その迫力に、すぐ隣にいたフローディアは小さく悲鳴を上げ、腰を抜かしてへたり込む。彼は少しの間目を血走らせてラッキーフラワーを睨みつけていたが、ゆっくりと呼吸を整え、最後に大きく息をついた。
 
「……で?」
 
 タンザは膝を地面についたまま、顔を上げて口を開く。
 
「殿下、私はこのパーティの物資を管理しているタンザと申します」
「ふん、その魔導具を早く見せろ」
「こちらです」
 
 タンザは収納袋に入れていたシャワーの魔導具をレオナルドの前に置き、少し退いて再度跪いた。レオナルドは良く分からない物を差し出され、眉間にしわを寄せながら短く問いかける。
 
「これは?」
「シャワーという魔導具です。先端から温かいお湯がでるためどこでも水浴びができます」
「……フローディア、こんなものが欲しくて俺を呼んだのか?」
「は、はい……申し訳ありません」
 
 レオナルドはへたり込んだままのフローディアを見下ろし、冷淡な口調で尋ねた。彼女がか細い声で同意すると、彼は腰にある革袋から金貨を取り出してタンザの目の前にばらばらと落とす。金貨は金属がぶつかり合う高い音を鳴らしながら地面に散らばった。
 
「これでいいな」
「ありがとうございました」
 
 タンザは笑顔を作って頭を下げ、レオナルドはつまらなそうに鼻を鳴らして言い捨てる。
 
「お前らの主人に言っておけ。国の恥を晒す前に役職を返上しろとな。フローディア、帰るぞ」
 
 フローディアは慌てて立ちあがると、シャワーの魔導具を両手で持ち、よたよたとしながらレオナルドを追いかけて行った。
 
     ■
 
「──ってことがあったのにゃ」
 
 バステトの話が終わり、朔は3人に向けて笑顔で話す。
 
「魔導具を売ったのは構わないよ。壊れた時のためにスペアも渡してたしさ」
「にゃ?! タンザ! 隠してたのにゃ!?」
 
 バステトはフーと威嚇の音を出しながらタンザに凄むが、タンザは冷静に答える。
 
「そうです。毎日入る余裕はないので黙っていました。健康面を考え、今日か明日あたり全員で使用する予定でしたが」
「ひどいにゃ!」
「まあまあ、バス落ち着いて。今日はお風呂を沸かすからさ」
「さすがサク様だにゃ! タンザはケチんぼにゃ!」
 
 バステトが涙目になっていたため朔が風呂を沸かすことを提案すると、彼女は腕と尻尾を大きく上げて喜びを全身で表してから、タンザに向かってベーっと舌を出した。
 
 朔はバステトの頭をぽんぽんと優しく叩き、タンザに対して謝罪する。
 
「俺のせいで嫌な思いをさせてしまってごめん。お金を落とすなんて失礼なことをされて、よく怒らなかったね」
「お金はお金ですから。貴族でしたらあれで煽れるのでしょうが、孤児院育ちの私達にとってはあれでも上客ですよ。それよりも、サクさんを馬鹿にされたことに憤慨していましたけどね」
 
 日本の感覚が残っている朔にとってレオナルドの行為は礼を失しており、彼の印象は最悪になったが、タンザたちは気にも留めていない様子だった。朔は、タンザに礼を述べてから話を本題に戻す。
 
「そうなんだ……。俺は気にしてないから別に良いんだけど、怒ってくれてありがとう。それで、他の3人はどこにいったの?」
「タンザがキザンを煽ったから、意地になってるっす!」
「どういうこと?」
 
 シンとリトの元へ行ってしまっていたバステトに代わり、今度はツェンが説明を始める。
 
「それはっすね──」
 
      ■
 
──10階層のボス部屋は行列が出来ているという情報を手に入れたため、ラッキーフラワーはそのまま7階層の探索をしていたときのこと。
 
 最初にライがぴくりと反応し、続けてバステトが気付いて注意を呼び掛けると、奥から3人組の冒険者たちがこちらへ手を振りながら向かってきた。カインが代表して彼らにどうしたのか尋ねる。冒険者から転移魔法陣を誤って起動させてしまい、3人が転移してしまったという話しを聞いたラッキーフラワーは最奥の部屋へと向かった。
 
 心配そうに魔法陣を見つめている冒険者たちから少し距離を取り、ラッキーフラワーは小声で相談を始める。
 
「ライ隊長どうしましょうか?」
「お前達の判断に任せる」
 
 ライはそう告げると、洞窟の壁に寄りかかって目を閉じた。カインはわざとらしくため息をついてから他の皆に目を向ける。
 
「みんなはどうするべきだと思う?」
「大して知らない奴らのために命は懸けられん」
「行きたくないっす」
「助けられるなら助けたいにゃ」
「私一人で行きます」
 
 皆がそれぞれ意見を話す中、タンザが淡々とした口調で述べ、キザンが声を荒らげて叫ぶ。
 
「ああ?! 何言ってんだタンザ!」
「キザン、落ち着いてください。サク様もそろそろ戻って来るでしょう。転移した3人と私だけであれば、食糧も1カ月以上持ちます」
「サクさんはきっと助けに行ってくれると思うけど、そんな危険なことをさせる訳にもいかないよ」
 
 カインはタンザを諭したが、タンザは冷静に反論する。
 
「サクさんがこの情報を聞いて行かない訳ないでしょう。サクさんは助けられる人は全部救おうとするし、見捨てられる人じゃない」
「じゃあ、あいつらに食料だけ渡して転移させりゃ良い」
 
 キザンは冒険者たちの方を顎でしゃくって示し、ぶっきらぼうに告げた。しかし、タンザはキザンに問いかける。
 
「キザンは本当にそれで良いのですか?」
「なにがだ?」
「一番行きたいのはキザンでしょう? GランクやFランク相手では物足りなさそうにしていたじゃないですか」
 
 キザンは一瞬だけ言葉に詰まるが、タンザの目をまっすぐ見てはっきりと告げる。
 
「……それとこれは話が別だ。俺はお前らを守ると決めてる。守れないかもしれないところには行かんし、行かさん」
「キザン、いつもありがとうございます。それでも私は行きますよ。サク様から教えて頂いた医療の心得も薬やポーションの知識ありますし、私が適任なんです」
「ちっ! おい、カイン! どうすんだ?」
 
 キザンはタンザの説得を諦めて、カインに丸投げした。できるだけ全員で話し合うが、個々の裁量を超えることに対しての決断はリーダーであるカインの役割だからである。全員が黙って考え込むカインを見つめって、判断を待っていた。
 
「あーもう! タンザは頑固だし、もう全員で行こう!」
「なんでだよ?!」
 
 カインの思いがけない言葉に対してキザンは全力でつっこむが、カインは彼を手で制止し、説明を始める。
 
「タンザの言う通りサクさんはきっと来てくれるし、タンザを一人で行かせて何かあったら悔やんでも悔やみきれない。というか……正直、先に転移した3人の冒険者が怖い。食糧がない3人と、大量の食糧を持ってる一人の魔術師……最初は良くても、何が起こるかわからない」
「なるほど、確かにそうですね。私としたことが、先日阿呆と出会ったばかりなのに人の醜いところを忘れていました」
「サクさんの影響っすね!」
「サク様に感化され過ぎだにゃ!」
「ツェンはともかく、バスには言われたくないですね」
「ひどいにゃ!?」
 
 タンザがカインの言葉に頷いて同意すると、にやにやとしたツェンとバステトが絡んだ。タンザが冷静にやり返していると、カインがぱんっと両手を打ち合わせて指示を出す。
 
「よし! じゃあ、行こう!」
「ちっ」「はいっす!」「はいにゃ!」「はい」
 
     ■
 
「──という流れになって、皆で魔法陣に飛び乗ったんす! で、待ってるのも退屈だから、倒せる魔物を探そうってことになったんすけど、強そうな魔物ばっかりで結局1匹も倒せてないんすよ。キザンは諦めきれなくて、カインとライ隊長に頼み込んで魔物を探しに行ってるっす!」
「はあ……稽古でもすれば良いのに……。なんでそんな危険なことやってるのさ」
 
 朔はため息をついて肩を落とすと、話を聞いていたヒトミが親指を立てて元気よく話し、ナタリアは静かに怒りを表す。
 
「男の子だからだね!」
「若い冒険者はそんなものです。特に強くなっていることを実感できているとよくあることですが……帰ってきたら説教ですね」
「南無」
 
 そしてミラは、カルドスに教えてもらった聖職者が行う祈りの姿勢で、神に祈りをささげるふりをするのであった。



※後書き※
皆様いつもありがとうございます。
今後、深く関わることになるレオナルドの初登場でした。
次回は、ダンジョンからの脱出が始まりますm(_ _)m
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