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第四章:諸国漫遊Ⅱ

ラッキーフラワーとの合流

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 翌日、朔達は3人の転移陣を起動させた冒険者パーティ『レ―ヴ』の3名とともに、七階層奥へと向かっていた。また──
 
「なあ、なんで俺らは走ってるんだ?」
「コンラッドが勝手に護衛依頼を引き受けるからでしょ?」
「お前が悪い」
 
──コンラッド、さらに彼が率いる鉄槌のパーティメンバー2名も朔達に同行していた。彼らは案内をしている冒険者たちの復路の護衛を朔から依頼され、コンラッドがそれを受け入れたためである。
 
 現在、アル、イル、ウル及び魔法陣を起動させた冒険者3名が先頭を走っており、次にルイ、ロイ、スズ及び鉄槌が続き、最後方に朔達が走っている。
 
 若い冒険者のペースに合わせているため朔達だけで進むほどの速度はないが、彼らが警戒をしつつじりじりと進み、時には隠れて魔物をやり過ごしながら2日間かけて辿りついた道のりを、朔達は半日とかからず走破した。
 
 
 
 魔法陣がある部屋に入り、ナタリアが部屋の地面に膝を突いて地面を凝視しながらほっと息をつく。壁が放つ光によってわかりにくくなっているが、地面には今は起動していない魔法陣がほんの僅かな光を放っていた。
 
「ここですね。間にあってよかったです」
「リア、間にあうっていうのは?」
「ハニー、ダンジョン内の転移魔法陣は定期的に場所が変わるんだよ。だいたい半年から1年間くらいは同じ場所にあるんだけどね」
「そうなんだ。皆さん、有り難うございました。これは報酬です」
 
 朔はナタリアから聞いていた相場の報酬をコンラッドに手渡し、その上に1つの腕輪を置いた。コンラッドは少し首を傾げて朔に尋ねる。
 
「これはなんだ?」
「STRを高める腕輪です。コンラッドさんには特にお世話になりましたし、食糧のお礼と成功報酬として受け取って下さい。皆、行こうか」
「そうか。いらねえと言いたいところだが、貰っておくわ。効果は?」
 
 朔とコンラッドが会話をしている中、全員が魔法陣の上に乗ったところでナタリアが魔法陣の中央に掌を置いた。彼女の手が中央に触れた瞬間、魔法陣は強い光を放ち始め、朔はコンラッドの問いに答える。
 
「効果は30、最大持続時間は20分です。では、またお会いしましょう」
「は? おい!」
 
 朔達は光の粒子となって消え去り、コンラッドは虚空に右手を向けながら唖然としていた。そこに鉄槌の女性冒険者がコンラッドへと近づき、彼が左手に持つ腕輪を手に持ってしげしげと眺める。
 
「やっぱり! 月の家紋が彫られてるし、これアサクラ男爵の作品じゃない!」
「はあ?! そんなもんを寄こすなんて、サクは馬鹿じゃねえか?!」
「馬鹿はアンタよ! サクはアサクラ男爵のファーストネームよ! これ一個で金貨3枚以上の値打ちがあるわよ!」
 
     ■
 
 鉄槌達がぎゃあぎゃあと騒いでいる一方、転移する際の浮遊感を感じた朔達は目を閉じ、数秒待ってから恐る恐る目を開いた。目に映った場所は窓がない石造りの建物の中であったが、天井に大きな穴が開いており、そこから日の光が差し込んでいるため十分な明るさがあった。

 建物の中央ではタンザが食事の用意をしており、朔達を見つけたツェンとバステトが駆けよって来る。
 
「サクさんっす!」
「サク様だにゃ!」
「ツェン、バス! 無事で良かった! タンザも無事そうだし、『レ―ヴ』のメンバーもいるみたいけど……、アル隊長とカインとキザンは?」
 
 朔は転移先の部屋の中を見渡して尋ねると、ツェンは少し気まずそうに口ごもる。
 
「……えっと、あいつらは」
 
 ツェンの様子を見て朔の心臓が跳ねるように鼓動し、朔は慌ててツェンの肩を掴んで問いかける。
 
「何かあったの!?」
「意地になってるっす!」
「ん?」
「実はにゃ……」
 
 朔にがくがくと揺らされて若干グロッキーになっているツェンに代わり、バステトが説明を始めた。
 
──カイン達が7階層の大部屋に辿りついて野営をすることになり、バステトがいつものようにシャワーを浴びた後のこと。
 
「はあ~さっぱりしたにゃ」
「ねえ、そこの猫獣人のあなた」
「にゃ? わたしかにゃ?」
「そうよ。あなた、お風呂にでも入ったのかしら?」
「シャワーだにゃ」
「シャワー?」
「随分汚れているし、入ってみるかにゃ?」
 
 バステトは突然豪華な装備を身に付けた女性に話しかけられた。彼女は女性が埃で汚れていたため、ついシャワーに入らないかと誘ってしまう。女性は警戒しながらも好奇心が勝ち、バステトに連れられてテントの陰へと向かった。

 シャワーの使い方を教えられた女性は、バステトに見張りをさせながら久しぶりの水浴びを満喫すると、横柄な態度でバステトに命令するかのように告げる。
 
「あなた、これを譲りなさいな」
「嫌だにゃ」
 
 バステトが即答し、女性の眉がピクリと動き何か言おうとしたところで、様子を見に来て話を聞いていたタンザが口を挟む。
 
「いくらでしょうか?」
「……いくらならよろしいのかしら?」
 
 女性はふんと鼻を鳴らしてからタンザに尋ね返した。タンザは少し考えるそぶりを見せてから返答する。
 
「金貨10枚」
「ふうん。ちょっと待ってなさいな」
 
 女性が立ち去った後、タンザはシャワーの魔導具をまとめ、テントの中にいたカイン達に事の次第を報告した。話を聞いたカインがびっくりした様子でタンザに捲し立てる。
 
「タンザ、勝手に何言ってるの!? あれはサクさんから借りてるだけで、僕達の物じゃないんだよ!」
「わかっています。が、シャワーを要求してきた方が何者か知っていますか?」
「いや知らないけど、誰なの?」
 
 カインの質問にタンザはちらりとライを見た。すぐそばで静かに話を聞いていたライは、淡々と事実を告げる。
 
「あれは、パストゥール王国皇太子のクランに所属している者だろう」
「え!? でも、皆に相談もせずに勝手に売るのは……」
「まさか王族の関係者とは私も思っていませんでしたが、相手が王族であればなおさら喧嘩を売る訳にはいかないでしょう。物資の管理は私に一任されていますし、話がこじれる前にさっさと売った方が良いと判断しました。といいますか、今回はバスが悪い」
「にゃ!? わたしにゃ!?」
「そうです。サクさんが作った珍しい魔導具は目立たないように使うように言ったでしょう。それを他人に使わせるなんて……」
「でも、あの人ほこりまみれでかわいそうだったのにゃ」
 
 バステトが尻尾と耳を下げてしゅんとしていると、テントの外からわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
 
「こほんっ、宜しいかしら?」
「フローディア、この者たちか?」
 
 シャワーを要求した女性であるフローディアの隣には、彼女よりもさらに派手な装備を身に付けた長身の男が立っていた。




※後書き※
皆様いつもありがとうございます(●´ω`●)
第三章が長くなり過ぎるので、章分けをいたしました。内容に変更はありませんm(_ _)m
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