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第三章:諸国漫遊Ⅰ聖光教国編

○○と朔の父母

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 宴から二日経っても、ナタリア、ミラ、ヒトミは帰ってきておらず、朔、シン、リトは彼女達をのんびり待っていた。
 
「フゴゴゴ~」(母上達遅いです~)
「クックー」(遅いね~)
「ミラもヒトミもいるから大丈夫だよ。リアは……今回はダメかもしれないけどね」
 
 サクがナタリアの様子を思い出しながら呟くと、シュテが口を大きく開けて笑いだす。
 
「がははははっ、ゴーストに恐怖を感じることは恥じることではない! こいつもまだ怖がっているからな!」
「うっさいな、とーちゃん!! わあっ!」
 
 暴露されたアルドがシュテに文句を言うが、後ろから急に誰かに抱きつかれ、驚いて悲鳴をあげてしまった。
 
「はははははっ! やっぱりアルドは怖がりだな! 夜眠れなかったらあたしが一緒に寝てやるよっ!」
「スズねーちゃん! くっつくなよー!」
「えー、たまにはいいだろー。こんな機会滅多にないんだからさー」
 
 アルドに抱きついた者は、彼の姉であるスズ。アルドから離れるように押されているが、口をとがらせて彼に頬ずりしている。そんな彼らの微笑ましい様子を見ていたカルドスはにこにこと笑みを浮かべていており、その隣では──
 
「なぜ私がこのようなことを……」
 
 宴のときもカルドスの隣にいた神殿騎士が、仏頂面で座っていた。そこに、サクの手伝いをした熊人族の女性が近付いてくる。
 
「あんた、こんな良い所で辛気臭い顔してるんじゃないよ!」
「ひっ! 近づくな! せめて前を隠せ! 猊下、今からでも人族の方に行きましょう!」
「儂は、明日はあちらに行くぞい。お前は、明日もここじゃがの」
「嫌だああああああああ!」
 
 朔はナタリアに止められたが、カルドスに相談したところ許可を得られたため、宴の次の日には結局露天風呂を作っていた。男風呂、女風呂、混浴風呂とあり、どの風呂も種族で分けている訳ではないのだが、男風呂と女風呂は主に人族・エルフ・ドワーフが使用し、混浴風呂は主に獣人族や魔族等が使用していた。朔は、リトのことを怖がる人族が多いため、混浴風呂に来ている。なお、神殿騎士は更生のため、カルドスの命令で湯に浸かっていた。
 
 
 
一方、ダンジョン内でも──
 
「あーーーーー、生き返るねーーー」
 
 女性陣は小部屋の出入り口を塞ぎ、久しぶりの出番となったバームクーヘン型の風呂に入っており、ヒトミが湯に浸かり親父臭い声を出していた。
 
「ん」
「……」
 
 ミラが頷いて同意するも、ナタリアは黙ったまま熱い風呂に口まで浸かり、抗議でもしているかのうようにぶくぶくと音を鳴らしながら、ヒトミをジト目で見つめていた。
 
「リア、いつまで拗ねてるのさ。最後の方はノリノリでゴーストを昇天させてたじゃん」
「ん。ノリノリだった」
 
 二人に指摘され、ナタリアは重い口を開く。
 
「……ヒトミがゴーストを神聖魔法で昇天させるのは良いことだって言うから」
「そりゃそうでしょ。ダンジョンに囚われている魂を輪廻に戻す行為だからね」
 
 その後も、三人でお風呂に入ったまま話していると、ミラがヒトミに問いかける。
 
「ヒトミ、あとどのくらい潜るの?」
「ん~、もうちょっとでレベル20になるから、明日10階層の中ボスを倒したら帰ろっか。ハニーから作ってもらった武器の魔力も大分減ってるし、ジョブチェンジしないともったいないしね」
 
 ヒトミがミラの質問に答えると、今度はナタリアがヒトミに気になっていたことを尋ねた。
 
「そういえば初級軽戦士を2つにしていましたが、何か意味があるのですか?」
「上級軽戦士をマスターしておくのが、剣士系の複合職を取るのに必要だからね。戦士系の職業は身体操作や身体強化、格闘術のスキルの上達に補正がかかるしさ。それに、剣士系ばかり取るとどうしてもSTRの才能値が上がるでしょ? 高ランクの魔物の相手をするには、AGLも上げないと厳しいからね」
「それは……たしかにそうですね」
 
 ヒトミの説明に、ナタリアは彼女から視線を外して同意した。
──歴戦の高レベル冒険者ともなれば、スキルレベルで魔物に負けることはほぼ無い。しかし、ステータスについては、人類が魔物に勝てることもなくなるのだ。ナタリアは戦いに身を置いてきた中で、AGLの重要性を嫌というほど味わっていた。AGLが高い者達が全て生き残れるわけではないのだが、ダンジョンの深部に挑む冒険者たちの中で死亡率が高いのは、ラッキーフラワーのキザンのような前衛にいる硬く遅い者たちや、タンザのような後衛にいる脆くて遅い者たちであった。
 
 ナタリアとヒトミが黙っていると、ミラが少しだけ寂しそうに呟く。
 
「いいな。傍にいられて」
「え……」
 
 ミラの言葉にナタリアは、声を詰まらせた。それは、皆が高レベルになったとき、朔達もいれた6人の中で一番戦闘能力が低いのはミラであることがナタリアには分かってしまうからである。しかし、ヒトミが口をにぱっと開けて笑い、二人の視線を集めた。
 
「あはっ、むしろボクはミラが羨ましいけどね」
「なぜ?」
「だってさ、可愛くて、家事万能で、愛情深くて、お茶目なところがあるって理想のお母さんなんだよ!? パーフェクトだよ!?」
 
 ヒトミは、前のめりになって自らの理想の母親像を力説した。ミラは、そんな彼女の勢いに気圧される。
 
「……でも」
「確かにこの中では、一番良いお母さんになれそうなのは、ミラさんですね。もちろん、愛情を注ぐことは負けませんが、私は結構おっちょこちょいなところもありますし……」
「それは知ってる」
「ひどい?!」
 
続いて、ナタリアもミラの気分を上げようと試みるが、やり返されてしまうのであった。
 
「あははっ、得意なことは人それぞれだからね♪」
「ん。ヒトミ、サクのお父さんとお母さんってどんな人だったの?」
 
 ヒトミがまた笑いだすと、ミラがヒトミに尋ねた。ヒトミはこめかみに指をあてて、記憶を辿ってから、説明を始める。
 
「えーと、ハニーのお母さんは、お節介焼きの明るい人だったよ。治療院みたいなところで働いてたんだけど、病気になったときにおばちゃんの顔を見たら、なんか安心しちゃうんだよね。お爺ちゃん、お婆ちゃん達なんて、おばちゃんの顔を見に行ってる人達もたくさんいたんじゃないかな?」
「サクに似てる。お父さんは?」
「そうそう、ハニーはお母さん似だね♪ おじさんは、頑固者の職人さん。料理に関してはすっごく厳しいけど優しい人で、作ってくれる料理はとっても美味しくて、毎年ボクの誕生日はおじさんの店でご飯食べてたんだよ。おじさんのことで、一番印象に残ってるのはね──」
 
     ■
 
 これは、朔やヒトミがまだ小学生の頃、彼女が彼の家に遊びに来ていたときの話。2人がトランプで遊んでいると、朔の父が見ていたテレビに、どこぞの芸能人が離婚したというニュースが流れ、朔が何気なく父に尋ねる。
 
「ねえ、お父さん。お父さんはなんでお母さんと結婚したの?」
「お母さんのことを、心の底から大好きだからだ。……朔はどんな子と結婚したいんだ?」
 
 朔の父は、ソファから立ち上がって朔達のすぐそばまで近づき、真面目な顔ではっきりと告げた。それから、ちらりとヒトミを見て朔に質問を返した。朔は、ん~と少し唸ってから答える。
 
「わかんないよ、そんなの。どんな人と結婚したらお父さん達みたいに仲良くなれるのかな?」
「そうだな……。自分の娘が成長したら、こういう人に育って欲しいと思えるような人だ。仁実ちゃんは娘にしたいくらい良い子だと思うぞ?」
「えへへ」
 
 朔の父は大きな手でヒトミの頭を撫でながら話し、ヒトミは目を細くして恥ずかしそうに笑っていた。鈍感だった朔は、父の後半の言葉を理解することなく話を続ける。
 
「結婚もしてないのに、子供のことなんてわかる訳ないよ」
「今は分からなくてもいい。だから朔、お前は自分の息子が成長したときに、こういう人になって欲しいと思えるような人になる努力をしなさい。剣道でも、勉強でもなんでもいいんだ。とにかく、何かに一生懸命打ち込みなさい」
「やっぱりよくわかんないけど、うん。頑張るよ」
「ボクも頑張るからね!」
 
 朔の父は、ヒトミの頭に置いていた手とは反対の手を朔の頭の上に置き、二人の頭をわしゃわしゃとしながら、にこりと微笑んでいた。





※後書き※
お気に入りの数で、何十人もの方がなろうからこっちに来てくださってるのがわかり、本当に嬉しいです。ありがとうございます!元々アルファポリスで読んでくださっていた皆様も、これからもどうぞよろしくお願いします(●´ω`●)
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