悩み

おしり

文字の大きさ
上 下
2 / 4

2作目 適応障害

しおりを挟む
パチパチパチパチ。拍手が起こる。
「大手の契約取れたんだって。」
「おまえは優秀な社員だ。」
「これからもこの調子で、頑張ってくれよ。」
「期待してるぞ。」
期待の眼差しが向けられている。
「ごめん!今日子供が風邪引いちゃって。仕事任せてもいい?」
「いいよ。シングルマザーだもんね。早く子供のそばにいってやって。」
「本当にありがとね。」
同僚は椅子にかけてあった上着を着て急いで、部屋を出ていった。
「はぁ。疲れたな。今日も、残業か。」
私の机には大量の書類がある。書類を一枚めくった。まだまだいっぱいあるな。まだ、頑張れる。買っておいた栄養ドリンクを飲み干した。
「あと、ひと踏ん張り頑張ろう。」

最近は家に帰るのは3時過ぎ。帰る前にふらふらしながらトイレへと向かった。ふと鏡に映った自分を見るとひどいクマがあり、心なしか、顔も青白い。頑張りすぎかな。でも皆頑張ってるんだから。
仕事を全部片付けて重い足取りで会社を出た。駅から歩いて帰る途中に、コンビニがあった。そこで、珈琲とサンドイッチを買う。最近あまり食欲が、湧かない。歩きながら珈琲を飲む。暖かい。疲れた体にしみる。珈琲の香りが眠気を誘う。
「疲れたな。」
ふと、本音が口から出た。
家に着いて、スーツを脱ぐ。体が重たい。ベッドに横たわる。洗濯物畳まないと。お皿洗わないと。ちゃんとしないと。
スマホの目覚ましが、鳴っている。もう朝か…。
「あっ!ヤバ、会社に遅れる。」
急いでスーツを着て家を出る。走るときつい。息が上がる。頭が痛い。なんとか、電車の時間に間に合った。駅の階段を駆け上がる。ホームの黄色い線が、目に入った。ここから飛び降りれば、会社にいかなくて済む。
「黄色い線から下がってください。」
アナウンスが流れる。はっとして我に返った。私今何しようとしてた…。
会社に着くと、ドアの向こうから話し声が聞こえてきた。ドアノブを捻る手が止まった。
「最近入った新入社員、スッゴい便利!」
「この前も変わってくれたの。子供が風邪引いたことにしたけど本当は合コン。」
「本当騙されやすい。」
「えーっ。ひっどぉーい笑。」
聞いてしまった。その瞬間、胃から熱い何かが上がってきた。喉元まで、差し掛かってきた。急いでトイレに駆け込む。今までの感情と吐瀉物が出てきた。
吐き終わった後、レバーを引いた。吐瀉物が渦巻いている。まるで私の気持ちを表しているようだ。
なんとか仕事を終えて近くの内科を探した。スマホで、検索していると、広告で心療内科が、出てきた。導かれるように広告を押す。会社の近くじゃん。
まだ、空いてる。まだ、間に合うかも。急いで、会社を出た。
「今日の患者さんはこれで全部かな。」
「まだ、空いてますか?」
「はい、まだ、大丈夫ですよ。」
その言葉を聞いて、安心したのか全身の力が抜けてその場にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
本当は、大丈夫じゃない。今だって、苦しい。
「死にたい。」
「とりあえず診察室に行きましょうか。」
うなずいた。先生に支えられながら、診察室に向かった。
「ゆっくりでいいですから、話してください。楽になりますから。」
「私、会社にいるのが辛くなってしまって。こんなの甘えですよね。」
彼女は涙をハンカチで拭いながら答えた。
「人によって心の器は違います。他の人がなんともないと思うことでも、人によっては辛く感じてしまうこともあります。」
「苦しかったですよね。今なら全部話してもだれも聞いてる人は、いません。安心して話してください。」
彼女は涙ながらに今までのことを全部話した。医師の診断は適応障害。しばらく会社を休むことを、提案された。彼女は服薬治療を今も続けている。結局、今の会社は辞めることにした。新しい未来のために、職を探している。彼女は適応障害を抱えながら今日も生きていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『飛ばない天使達の中』

segakiyui
ライト文芸
林東子は看護学生だ。小児科実習を迎えて不安が募る。これまで演じて来た『出来のいい看護学生』が演じ切れないかもしれない、という不安が。患者に自分の本性を暴かれるかもしれないという不安が。

風月庵にきてください 開店ガラガラ編

矢野 零時
ライト文芸
正夫のお父さんはお母さんと別れてソバ屋をやりだした。お父さんの方についていった正夫は、学校も変わり、ソバ屋の商売のことまで悩むことになった。 あ~、正夫とお父さんは一体どうなるのだろうか?

お隣の犯罪

原口源太郎
ライト文芸
マンションの隣の部屋から言い争うような声が聞こえてきた。お隣は仲のいい夫婦のようだったが・・・ やがて言い争いはドスンドスンという音に代わり、すぐに静かになった。お隣で一体何があったのだろう。

二兎に追われる者、一兎に絞るのは難しい。

イカタコ
ライト文芸
 ある日突然、ごくごく普通の高校生・石口至のもとにクラスメイトの今見まみが泊まることとなる。  その数日後、至とクラスメイトの相坂ミユは、至とまみの関係を疑うようになり、急接近する。  その後に知り合ったミユの姉、マヤによって関係はさらに捻じれてゆく。  果たして、至は最終的にまみとミユのどちらを選ぶのか? それとも、違う女子に目移りしてしまうのか?  日常かつドロ沼なラブコメここにある。

幼なじみはギャルになったけど、僕らは何も変わらない(はず)

菜っぱ
ライト文芸
ガリ勉チビメガネの、夕日(ゆうちゃん) 見た目元気系、中身ちょっぴりセンチメンタルギャル、咲(さきちゃん)   二人はどう見ても正反対なのに、高校生になってもなぜか仲の良い幼なじみを続けられている。 夕日はずっと子供みたいに仲良く親友でいたいと思っているけど、咲はそうは思っていないみたいでーーーー? 恋愛知能指数が低いチビメガネを、ギャルがどうにかこうにかしようと奮闘するお話。 基本ほのぼのですが、シリアス入ったりギャグ入ったりします。 R 15は保険です。痛い表現が入ることがあります。

俺がメイドで妹ご主人!!?

麻苺 遊奈
ライト文芸
15歳の頃に両親を亡くし、幼い妹と俺は別々の家に引き取られた。 そんな俺が就職した先で待っていたのは、社長令嬢となっていた妹だった!? しかも仕事は…メイド!? 俺の人生どうなっちまうんだ~!!!?

COVERTー隠れ蓑を探してー

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
潜入捜査官である山崎晶(やまざきあきら)は、船舶代理店の営業として生活をしていた。営業と言いながらも、愛想を振りまく事が苦手で、未だエス(情報提供者)の数が少なかった。  ある日、ボスからエスになれそうな女性がいると合コンを秘密裏にセッティングされた。山口夏恋(やまぐちかれん)という女性はよいエスに育つだろうとボスに言われる。彼女をエスにするかはゆっくりと考えればいい。そう思っていた矢先に事件は起きた。    潜入先の会社が手配したコンテナ船の荷物から大量の武器が発見された。追い打ちをかけるように、合コンで知り合った山口夏恋が何者かに連れ去られてしまう。 『もしかしたら、事件は全て繋がっているんじゃないのか!』  山崎は真の身分を隠したまま、事件を解決することができるのか。そして、山口夏恋を無事に救出することはできるのか。偽りで固めた生活に、後ろめたさを抱えながら捜索に疾走する若手潜入捜査官のお話です。 ※全てフィクションです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

処理中です...