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第18話:初夜★

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 あれから数日が経ったが、未だケイトから続報はない。国王を説得することは無理だったのだろう。それならそれで、早く事を済ませてしまいたかった。一度は覚悟を決めたのだ。あまりケイトに無理をさせたくもない。
 自室で溜息を吐いた紗香に、茶の用意をしていたメイドが声をかけた。

「お疲れですか、聖女様」
「あ……いえ、すみません。少し考え事を」
「あまり張り詰めていると、肩が凝ってしまいますよ。どうぞ、こちらを」
「ありがとうございます」

 メイドが淹れてくれた茶の香りを吸い込むと、くらりとくるほどの甘い香りがした。こんな香りの茶葉は初めてだ。なんという品種だろう。
 一口飲むと、砂糖も入れていないのに甘みのある温かい液体が喉を滑り降りて、腹に落ちた。ほっとする温度に息を吐く。

「――――……?」
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ……美味しいです」
「それはようございました。冷めないうちにどうぞ」

 勧められるままに、カップの中身を飲み干す。リラックスしたせいなのか、頭がぼうっとする。
 温かいものを飲んだからか、体がぽかぽかした。ぽかぽか、というより――暑い。
 熱い。くらくらする。酒でも飲んだかのようだ。もしかして、あの甘い香りは、ブランデーでも入っていたのだろうか。
 真相をメイドに尋ねる前に。
 紗香の意識は、そこで途切れた。


+++


「サヤカ様!」

 乱暴な扉の音と共に、ケイトが紗香の部屋に入る。
 そこで目にしたのは、赤い顔で息を切らせ、ベッドに横たわる紗香だった。

「……っ勝手なことを! 陛下とはまだ話が済んでいない!」
「その陛下からのご命令です。事が済むまで部屋から出すなと仰せつかっております。それでは、わたくしはこれで」

 追従していたメイドは感情のない瞳で淡々と告げると、そのまま部屋を出ていった。
 鍵の音がして、ケイトは悔しそうに歯噛みすると、紗香の側に寄って軽く頬を叩いた。

「サヤカ様。サヤカ様、意識はありますか」
「うー……?」

 ぼんやりとしながらも一応は返事をしたことに、ケイトはほっと息を吐いた。
 ひとまず体に深刻な影響がないとわかると、腹の底から怒りが込み上げた。

 ――聖女を相手に、薬を盛るなど。

 国王との交渉は難航していた。時間がかけられないこともわかっていた。だがまさか、これほどの強硬手段に出るとは。
 聖女という役割はただ相手の善意によってのみ成り立っている。紗香と接してよくわかった。聖女はただの人間の女性でしかないことに。であれば、召喚など誘拐と大差がない。生活を保障するなど、脅しだ。逆らえば命はないということに他ならない。その状態で、ろくに対価も与えず、自由を奪って、度を越えた責務を一方的に押しつけている。
 本気で紗香が役割を投げ出せば、困るのは国の方だ。聖女こそが今の国の命綱だというのに、王族はまるで聖女を異端者のように扱っている。だから国のために尽くしてくれているというのに、会おうともしなかった。それを今更、強制的に言うことを聞かせたい時にだけ。
 それで言うことを聞かないとなれば、当人の意志を無視して薬物を用いる。これが非道でなくてなんなのか。

 国王は決して暴君などではない。少なくとも、国民にとっては良き王の部類だった。国王は聡明で、理性的で、冷静な人物だ。戦場に出ることこそないが、実のところ武勇にも優れている。緊急時には、己で剣を振るうことのできる頼もしさがあった。国政も正しく行われ、民衆からの支持もある。国王は確かに王の器で、仕えることに疑問を持つ騎士などいなかった。
 ただ、それが自国のみに向けられているだけ。民を守ることの優先度が高いだけ。
 聖女は守るべき民ではないから、その庇護の外側に置かれている。利用できる駒の一つでしかない。
 優しいだけの王は生き残れない。国王は正しく取捨選択ができる。俯瞰して盤面を見ることができる。だからこそ、この小さな国がどこに取り込まれることもなく国のままであれる。
 頭ではそれが理解できていても、仁義を重んずる騎士団から見れば、国のために尽くす聖女は自分達と同志である。同志を傷つけられれば反感も抱く。
 その価値観の差が、決定的な亀裂を生んでいた。それでもケイトが騎士である限り、国王と対等に議論することは許されない。最終的には従うしかないと、わかっていた。
 わかっていたのに。

「あつい……」

 紗香が零した言葉に、意識が引き戻される。少しでも薬が薄れやしないかと、寝台脇に置かれた水差しを手に取り、カップに注ぐ。

「サヤカ様、水を。飲めますか?」

 力の抜けた体を支えて、口元にカップを当てる。
 口の端から零れた水が肌を濡らしたが、喉が動いたので、少しは飲み込めていそうだ。

「ケイト、さん」
「はい。ここにおります」
「ケイトさん」
「はい」

 今にも涙が零れそうなほどに潤んだ瞳で名を呼び、紗香がケイトの首に腕を回す。縋るように頬をすり寄せ、耳元で熱い吐息が漏れた。

「好きです」

 紗香の口から零れた言葉に、ケイトが辛そうに顔を歪めた。

「好き、です。あなたが、すき」

 ――ああ。こんなことなら。

「……私も。サヤカ様を、お慕いしております」

 ――彼女が勇気を振り絞ってくれたあの夜に、抱いてしまえば良かった。


 肌にキスを落とすたび、紗香の体が震える。薬のせいで感覚が過敏になっているのだろう。
 衣服を脱がすために布が肌に擦れる刺激すら、快感として受け取っているようだった。

「ケイトさん、キス、したい」

 唇へのキスをねだる紗香を、ケイトは寂しそうに笑って制する。

「駄目ですよ」
「どしてぇ……?」
「サヤカ様にとって、唇へのキスは特別なのでしょう」
「特別、です。ケイトさんが、特別だから。ケイトさんだけ」
「……貴方が正気の時に、もう一度その言葉が聞けたら。その時はいくらでも」

 正気に戻れば、薬が効いていた間のことは覚えていないだろう。これらは全て戯言だ。
 それでいい。こんなことは、覚えていなくていい。
 
「ふあ、あん!」
「もうどろどろですね」

 足の間に手をやれば、まだ触れてもいないその場所は既に蜜でしとどに濡れていた。
 これならば濡らす必要はないだろうが、ケイトは紗香の足を開いて、匂い立つ場所へと口づけた。

「あっああ、ひあ!」
「……もう、儀式を行うこともなくなりますから。こうするのは、これが最後かもしれませんね」
「ああっ、それ、あん、きもちいっ」

 薬で理性が溶けているからか、羞恥もなく、大きな声を上げて快楽を貪る。
 乱れる紗香の姿を見ながら、ケイトは紗香の一番好きな場所を、舌でくすぐった。
 悶える体を押さえて、固くなった秘芯を口に含む。たっぷりと舐め転がして、形を覚えておくように、舌で丁寧になぞる。強く吸い上げれば、そこは真珠のようにぷっくりと主張した。
 可愛らしいそこを、いい子いい子と指の腹で撫でる。撫でて、擦って、秘芯を虐める指はそのままに、蜜壺にも指を差し込む。
 うねる内壁が指にまとわりつく。その感触に喉を鳴らしながら、ケイトは内側を解すように指を動かした。

「ふああ! あっ、あん、ああっ」
「今日は十分に拡げる必要がありますから……指、増やしていきますね」
「ひあ、あ、んんっ」
「痛みはないですか?」
「きもち、いい、もっとぉっ」

 言葉通り、もっともっととねだるように肉壁がケイトの指を締め付ける。ぐちゃぐちゃと粘度のある水音を立てながら、蜜壺を掻き回していく。核の裏側を押しながら表の秘芯も捏ね回せば、高い声を上げて紗香の体が大きく跳ねる。手を緩めずに内側のいいところを擦って、秘芯を摘まみ上げる。

「ひああ! それ、つよ、んあ! いいっ、もっと、ああん!」

 紗香はすっかりケイトに翻弄され、与えられるもの全てを貪欲に受け入れていた。
 何度達しても体の疼きが収まらないのか、もっともっと、と何度も口にして。
 くったりと力の抜けた紗香のそこは、もうすっかりぐちゃぐちゃだった。
 十分に解れたことを確認して、ケイトが上衣を脱ぎ、下も寛げて苦しそうに収まっていた自身を取り出す。
 そそり立つ剛直に、ずっと蕩けていた紗香が、初めて僅かに怯えた様子を見せた。
 安心させるように微笑んで、ケイトは紗香の目を片手で覆った。

「見ると怖くなりますから、直視しない方がいいですよ」
「……こわく、ないです」
「ご無理をなさらず。気にしておりませんから」
「ほんとに、こわく、ないです。ケイトさんだから」

 紗香は目を覆うケイトの手を退けると、両手を伸ばしてケイトの頬を包んだ。

「わたし、ずっと、優しくしてもらってたから。あなたにされて、怖いことは、ないです。大丈夫。だいじょうぶだから……泣かないで」

 ――何を。

 紗香の手がケイトの目元を拭って。そこでやっと、紗香の体を濡らした雫が、汗ではないことに気づいた。
 瞬きもできないケイトと目を合わせて、紗香が微笑む。その瞳には、平時の穏やかさがちらついていた。
 まさか。この薬を使われて、最中に正気を取り戻すはずが。

「――……また、怖がっているのは、私だけなのか」

 自嘲めいた笑いに、紗香が心配そうに眉を下げた。
 いつもそうだ。肝心なところで、臆病風に吹かれて。彼女の方が、ずっと強い。あの夜、彼女は既に覚悟を決めていたのに。
 込み上げた感情のままに、紗香を強く抱き締める。肩口に顔を埋めたケイトをあやすように、紗香も背中に手を回す。

「必ず、勝ちます。勝って、貴方にもう一度、想いを伝えます。約束します」
「はい。待ってます」

 ――その時こそは。

 ケイトは紗香の唇を手で覆って、その上から口づけた。

「入れますね。痛かったらおっしゃってください」

 こくりと紗香が頷いたのを確認して、濡れそぼったそこに猛る自身を押しつける。ぬるぬると動かしながら、徐々に吞み込まれていく。
 息を詰めて顔を歪めた紗香の髪を、ケイトが梳いた。

「痛みますか?」
「い、え……。でも、なんか、くるし……」

 薬で麻痺しているのか、痛みは感じていないようだった。それでも圧迫感は拭えないのだろう。呼吸がしにくそうな紗香の頭を宥めるように撫でる。

「もう少しだけ、頑張れますか? 辛ければ、爪を立てても、どこか噛んでも構いませんから」

 頷いて、紗香はケイトにしがみついた。その仕草に愛しさを感じながらも、腰を押し進める。
 肌がぶつかって、奥まで埋まったことに、深く息を吐く。

「サヤカ様、全部入りましたよ。頑張りましたね」

 微笑んだ紗香の内側が、きゅうと締まった。
 暫く馴染ませるように動かずにいたが、蜜壺が刺激を欲しがってうねっている。熱い紗香の中で、ケイトの方も理性が溶けてしまわないように必死だった。

「も、うごいてぇ」

 先に音を上げたのは紗香だった。やはり薬の効果は大きい。

「……っ動かしますね」

 ゆっくりと、最初は揺する程度に小さく動かす。紗香の様子を見ながら、その幅を徐々に大きくしていった。繋がった部分が卑猥な水音を立てる。

「あっ、うあ、ああっ」

 中身を押し上げられるたびに、紗香から声が上がる。引き抜こうとすると、離さないとばかりに肉壁が絡みついてくる。それを感じながら中を擦るように動かして、いいところを探っていく。

「ふあああん!」

 入れるのは初めてだが、紗香の内側は舌や指でかなり開発されている。圧迫感にさえ慣れれば、薬の効果もあり、中で快感を拾うこともできた。
 ごりごりと内側を抉られる初めての感覚に、ひっきりなしに紗香が喘ぐ。
 抽挿に抵抗がないと見て、ケイトは腰をぎりぎりまで引き抜いて、奥まで一気に貫いた。

「ああああっ!」

 肌が強くぶつかる音がして、剛直が奥まで届く。それを何度か繰り返せば、紗香の喉から悲鳴のような嬌声が上がる。

「ひあああ! これ、も、だめええ! あ、うあ、ああ!」

 速度はそれほどではないが、深くまで突き刺さるそれに、紗香が生理的な涙を零す。
 それを唇で掬って、ケイトは紗香の秘芯に手を伸ばした。

「きゃああん!?」

 腰の動きは緩まないのに、弱いところをくりくりといじられて、紗香の中がきゅうきゅうと締まる。

「……っ」

 強い締め付けに、ケイトの方も息が乱れる。一つ息を吐くと、抽挿の速度を上げて、秘芯を擦り続けた。

「あっあっうあ、いい、きもちい、も、きちゃ、んあっ、あっあああっ!」

 大声を上げて、紗香の内側がぎゅうと締まった。絞り上げられて、ケイトの張り詰めたものもその熱を放出する。
 紗香の内側に自身の欲を吐き出しながら、ケイトは繋がっているところから力が流れてくるのを感じていた。
 聖女の寵愛は、無事にケイトに与えられたようだった。紗香の方にその自覚があるかはわからないが、ケイトの方は確かにそれを感じていた。

「……サヤカ様」

 声をかけるが、反応がない。一瞬ひやりとしたが、脈も呼吸も問題ない。意識を失っているだけのようだった。
 ほっと息を吐いて、後処理をする。穏やかな寝顔は、薬の効果が切れたことを示していた。

「……おやすみなさい」

 ――次に貴方が目を覚ました時には。

 その時は。
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