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第4章 生贄
第10話
しおりを挟む蔵を出たあと、私達はなんとなく言葉を交わすことができなかった。
来た道を戻って、図書室に帰ってきた途端に
倫が意識を失った。
「緊張していたんだろう…」
そう言って蛍さんが倫を抱きかかえた。
いわゆるお姫様抱っこというやつ。
その姿がなんだか絵になっていて
こんなときなのに思わず見とれてしまった。
「家までオレが送っていく」
蛍さんがそのまま図書室のドアを出て行った。
「オレもついて行こー」
それに続いて蓮さんも出て行ってしまった。
「オレはまだ仕事が残っているからまだ帰れないが…戒、一之瀬をちゃんと送って行ってやれ」
「ああ…」
学校を出て家までの道を戒さんと並んで歩く。
いつもならうるさいくらいしゃべるのに
戒さんは口を開かない。
気が付けばもう私の家の前だ。
「じゃあ」と戒さんが背を向ける。
まって!聞きたいことがあるの!
戒さんの制服をギュッと掴んで引き止める。
びっくりして振り返った戒さんに
間髪入れずに私は聞きたかったことを口にした。
「戒さん…あの人、誰なんですか?」
「……」
目をそらされた。
こんなこと今までなかったのに…
からかわれたり、けんかしたことはあるけど
戒さんはいつも私の目を見ていたのに。
「教えてください!私は白薔薇姫としてあの人のことを知る権利があるはずなんです!みんなあの人を嫌っていた。倫なんか震えていた!あの人は一体なんなんですか!?」
大声で叫んでしまったせいで
息があがってしまった。
ぜーぜーと肩で息をしていたら
戒さんが背中を優しく撫でてくれた。
なんなの…いつもはそんなことしないくせに…
「……人殺しだ」
「……!?」
「あいつはただの人殺しなんだ!」
人殺し?
どういうこと?
戒さんの顔色が悪い。
肩で息をしている、呼吸が浅い。
そこにいるのはいつもの戒さんじゃなかった。
余裕があってえらそうな戒さんじゃない。
「と、とりあえず落ち着いてください!家に、家に入って!」
家の鍵を取り出して戒さんを自分の部屋に運んだ。
布団を敷いてブレザーを脱がしてそこへ寝かす。
「戒さん、戒さん!大丈夫!?」
呼びかけに反応しない。
苦しそうな呼吸音だけが部屋に響く。
戒さんがこんな風になるなんて
藤堂さんは一体何者なの!?
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