白薔薇の紋章

サクラ

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第二章 仲間 

第1話

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あの刀が全てを破壊する。
あの刀が全ての人間を不幸にする。
忌まわしい風習を私が断たなければ…
だから私は逃げる、大事なこの子を連れて。

それなのに、ごめんなさい。
最後まであなたを守ってあげることが出来そうにない。

お願い
最後までどうか
彼らに見つからないで…

あなただけは幸せになって…





「これ、なに?」

お母さんが引き出しから出したものは
キレイな布にくるまれた木の箱だった。

箱を開けると中には朱色の鍵が入っていた。

「珠姫、この鍵を預かってちょうだい」

「どこの鍵なの?」

「それは言えないの、でもこの鍵のことを探している人がいるの。でも絶対に誰にも見つからないようにしてほしいの」

「…わかった」

「ありがとう珠姫」

これがお母さんとかわした最後の言葉だった。









ここに引っ越してきてすぐに
この鍵のことを思い出した。
結局どこの鍵かは分からなくて
今も大事にしまってある。

なんとなく、この村のどこかにこの鍵の扉があるんだと思う。
理事長あたりに聞けばわかるかもしれない。
でも、誰にも見つからないようにという
お母さんとの約束が胸に引っかかって
結局聞けなかった。


この鍵
本当に何なんだろう…




カーテンの隙間から朝日がこぼれる。
あぁ、朝だなと体を起こす。

「おはよう」と声を出しても返事がない。
あぁ、本当に一人で暮らしているんだ。

今までは狭いマンションでお父さんと二人
お母さんがいなくてさみしかったけど、でも一人じゃなかった。
でも今は一人。
しかもこんなに広い日本家屋で


「…さみしい…なんて言っても仕方ない!よし!朝からおいしいもの食べて元気出すぞ!」

台所に行って冷蔵庫を開けると
食材がたくさん入っていた。
そういえば、戒さんがいろいろ準備しておいたって言ってたな。
失礼な人だけど、いいところもあるんだ。



一人分を作るのに慣れていなくて
結局いつも通り二人分作ってしまった。
どうしよう、残りは今日の夕食に回すかな…
いや、お弁当にしようか
なんて悩んでいたら
玄関がガラガラと音を立てた。
台所から顔を出すと
戒さんが靴を脱いで上がってきている。


「珠姫!じゃまするぞ!」



「はぁ!?なんなんですか、人の家に勝手に!!」



ずかずかと廊下を歩いて居間に腰をおろした。
制服を着ているから学校に行く途中なんだろうけど
何なの!?



「初登校だから不安だろうと思って迎えに来てやった、ありがたく思え!」


「すっごく迷惑です!道は教えてもらったから1人で行けます!」


「おっ!何かいいにおい!メシ作ってんの?俺にもちょうだい!」


「ちょっと、人の話聞いてます?ねえ」



最初に会ったときにも思ったけど
なんなのこの人の横柄な態度は
理事長の前と全然違うんですけど!
あれか、ちょっと顔がいいからみんなからちやほやされていい気になってるのか?
どっちにしろものすごく気に入らないことは確かなんですけど?



「メシ!今日食ってくるの忘れたから早くね!」


「食ってくるの忘れたってなんですか!!」


でもここで断れるほど私も強くないし
ちょうどご飯もたくさん炊いてるし別にいいんだけどさ。

はぁっとため息をつきながら
食器をもう1人分用意する。

食器類もたくさん揃っていて助かった。
ここで暮らすお膳立てを本当にされているんだと実感する。



「もう、今日だけですからね!」


「ふうん、うまそうじゃん。いただきます。」





炊き立ての白いご飯に
甘めに作った卵焼き、それとお味噌汁に焼き魚。
これが我が家の定番。
パンもいいけど、やっぱり朝はご飯が一番だと私は思っている。



「あ、うまいこの卵焼き!俺甘いの好き」


「…え、そう、ですか」


予想外の反応にちょっと困惑する。
絶対に嫌なこと言われると思って構えていたのに
もしかしてお世辞?

と思ったけど
本当においしそうにご飯を食べるその姿で
お世辞を言っているように思えなかった。
それどころかご飯をおかわりするほどの
気持ちのいい食べっぷりだ。

なんか朝からちょっと
いい気分になった。
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