白薔薇の紋章

サクラ

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第一章 血を受け継ぐ者

第7話

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「そうだったの、ごめんなさい。全然知らなかったわ」


「いえ、私も理事長の連絡先を知っていたらご報告したのですが」



「ありがとう。今度お母さんのお墓にお線香を上げに行きたいわ。いいかしら」


「えぇ、ぜひ」


しばらくの沈黙の後
ソファーに深く腰をかけていた理事長が姿勢を正して
私の目をまっすぐ見つめて話を切り出した。



「あなたは、この学校のこと、この村のこと、何一つお母さんから聞いたことはないの?」


「はい、何も…」


「そう、やっぱり何も言わなかったのね…」


理事長は深くため息をついた。


「じゃあ、今からこの村のこと、この学校のこと、あなたのお母さんのこと
全部話すわ」

「は、はい…」


理事長は再び姿勢を正して
私の目をじっと見つめた。









その昔
遠く離れた山の麓に
鬼と呼ばれる異形の者たちが村を荒らしていると帝に報告された。

鬼と呼ばれた者たちは、人とは異なる形をしており
鋭い眼光に刃物のように鋭利なつめをもち
その強靭な力で世界を支配しようとしていた。

人々の恐怖の念、貪欲な心から「鬼」は生まれ
そして人々を恐怖に陥れる。


その事態を重く受け止めた帝は
陰陽師の元に出向き、鬼を封印してほしいと依頼した。

いくら自分が優秀な陰陽師とて、鬼の力は強大で
どうしていいものか悩んでいるときに
刀を持った女性が一人、まだ生まれたばかりの子供を抱えてやってきた。


「私があの鬼の力を封印しましょう」


それだけを陰陽師に告げて
女は鬼が住んでいると言われている山の中へ入って言った。
抱いていた子供を陰陽師に預けたまま。


女が入って行ってから数日後
闇に覆われていた都は光を取り戻し
鬼の妖力で生気を奪われていた人々は目覚しい回復を見せた。

不思議に思った陰陽師はその山へ向かっていった。
するとそこにはもう少しで息絶えてしまいそうな女が横たわっていた。
女の両手にはあの刀が握られており、なにやら札のようなものが巻いてあった。


陰陽師は女を屋敷に連れて帰った
それから3日目の晩に女は目を覚ました。

女は起き上がってすぐあたりを見渡す。


「私の刀はどこに?」

「それなら神殿に奉ってある。あまりにも妖気が強すぎてそのままにしておけなかった」


「そうでしたか。あの刀には鬼の力が封印されています。その力が解放されないために呪封を施してあります。どうかあの山に祠を建てて、そこにこの刀をお納め下さい。そのあと私は完全なる封印の儀式を行います」


陰陽師は女の言うとおりに
鬼の力を封印した山に行き、祠を建てて刀を奉った。

それから数日後の満月の晩
女は白い着物を見にまとってやってきた。


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