ミルクティー

サクラ

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ミルクティー

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好きな人が、自分の家にいる。
これが、恋人同士だったらどんなにいいか!


勢いだけで家に上げてしまったけど
このあと、何を話せばいいんだろうか。

「悪いな、家まであがっちゃって」


「ううん…全然大丈夫」



あぁ、なんでこの家にはこんなに生活感があふれているんだろう。
こんなことならもう少しおしゃれな部屋にすればよかった!
よかったって言ってもそのセンスがあるかは別なんだけど
散らかっていないだけましだと思えばいいんだけど!
あぁ…恥ずかしい。


「そ、それで…えっと今日は…そのぉ…」

何しに来たの?なんて聞けない!
こんなこと聞けるくらいなら
今頃苦労してない!




「あ、うん。突然来てホントごめんな!でもさどうしても話がしたくて」


「は、話…」



話ってなに?どうしよう緊張する。
手に汗かいてる、どうしようどうしよう…
何を言われるんだろう





「最近、俺のこと避けてる?」



単刀直入にきたーーーーー!!
少しもオブラートに包まないできた!
そんなストレートに聞かれたら
なんて答えればいいんだろう…

「うん、避けてるよ♪」

言えるわけない!



「そ、そんなことないよ?最近仕事が忙しくて、前に言っていた後輩の面倒もみなきゃだし」


ごめん、酒井くん名前出しちゃって。


「電話も出たかったんだけど、いっつも仕事の最中で、やっぱり出たらやばいでしょ?」



それは嘘。前は仕事中でも出てた。
むしろ、電話が鳴るのが待ち通しかったくらい。
あぁ、自分でも感心しちゃう。嘘が次から次へと出てくる。


本当は違うのに。
会いたいのに会うのが怖くて
避けているんだ。

どこまで自分をよく見せようとするんだろう。
どこまで素直じゃないんだろう。

真崎くんは、私に避けられてると思って
ここまで来てくれたのに。
それなのに私は嘘をつく。





「そっか、俺の気にしすぎか…夜遅くにごめんな、三井にも謝っておいて」



真崎くんは残っていたミルクティーを飲み干して
家を出て行こうとした。
口は笑っているけど、目が寂しそうで
それは私の気のせいかもしれないけど
そんな感じがした。



「うん、バイバイ…」



ここで見送ってしまったら
なんとなくだけど私は
もう二度と真崎くんと会えないような気がする。
どうする?
でも、こうなるようにしたのは私なのに
いまさら引き止めるなんてできる?


靴を履き終えて、真崎くんはドアノブに手を伸ばす。
私はその手をグッとつかんだ。


私の突然の行動に真崎くんが驚いて目を見開く。
私も、自分のしたことに驚いている。


頭で考えるより先に手が出てしまった。
この先の行動を全然考えていないのに。


















「はるか?」



「あ、その…」




ここまできたんだ!もう言ってしまえ!
どうせ、終わるなら本当のことを言ったほうがいいよね?
ふられてもいい、どうせ…会えなくなることに違いないんだから。




「私ね…本当は避けてたの。真崎くんのこと」



「…なんで?」



「前にね、仕事で真崎くんの会社の近くに行ったときなんだけど。真崎くんが女の子に話していたのを見てね…あの、車で送ってくれてときなんだけど」



真崎くんは、そのあと「あぁ、あの日」と小さい声で言った。
いつの日のことか分かったみたいだ。

「真崎くん、その子に告白でもされたんでしょ?でもすごく冷たくあしらっていたでしょ?」

「…うん、そうだね」

真崎くんの声のトーンが低くなる。
怒っているのかな…



「それで、その子に自分を重ねて、もし真崎くんにあんなふうに言われたらどうしよう、怖いって思って」



「なんで?なんでオレがはるかにそんなこと言わなきゃならないの?」


更に低くなる声に体が震える。
どうしよう、絶対に怒っている…
でもここまで話したんだ。
後には引けない!



「好きだからだよ…」



「え?」



「真崎くんが好きだからだよ!今も、ううん…中学からずっと好きなの!」




言った、ついに言った!
後悔はない、全部本当のことだから。
ここでフラれても大丈夫!もう私は中学のころと違う!
あのころよりは、この失恋に耐えられるはず…だから
思い切ってフッて!!










ギュッと閉じていた目を恐る恐る開けると
真崎くんの顔がこれでもか!というほど真っ赤に染まっていた。

「…真崎くん?」

熱でも出たんじゃないかと心配になって
彼の額に手をのばそうとしたけど
スッとかわされてしまった。




「…嘘だ」

「え?なにが?」


真崎くんの体が震えている。



「中学から好きだったなんて、嘘だろ?」


「う、嘘じゃないよ!嘘ついてどうするのさ!」



「だって、はるかオレが誰に告白されたって気にしてなかったじゃんか!」


き、気にしてないわけないじゃん!すっごく気になってた!
ただ、それを表に出さなかったわけで。
今そんなの関係なくない?

さっきまでのシリアスな雰囲気はなくなって。
私は真崎くんに突っかかってしまった。



「だって、真崎くんバレンタインの前の日に彼女できたじゃんか!それなのに、好きですなんて言えるわけないでしょ?しかも、彼女ってあの隣のクラスの美人さんでしょ?勝てるわけないじゃん!」



「誰が付き合ってなんて言ったんだよ!俺はただチョコをもらっただけで、周りが勝手にそういう風に言っていただけだろ?俺に確認しないで自己完結するなよ!」



「だったら真崎くんだって、大きく否定すればいいじゃんか!!」




あれ?なんでこんな口論になってるんだ?
今こんな話じゃなかったような。

ちょっと待って?
真崎くん何か重要なこと言っていなかった?
オレが誰に告白されても気にしてないとか
あれ?それって…
あれ!?

頭が混乱してきた。
さっきの言葉ってさ
それって…



「あのな、会社であの子に冷たくしたのは、あまりにもしつこかったからなんだ。最初は、場所とか考えてあっちも話しかけてきたんだけど、最後のほうになったら会社でいきなり泣き出したりとか、ところ構わず付き合ってくれとか言い出して…」


「そ、そうなんだ」

さっきまでの興奮はどこへやら。
真崎くんはいつものトーンで
あの日のことを話始めた。
私としてはさっきの発言について
もう少し根掘り葉掘り聞きたいのですが…


「だから、ああやって冷たく言えば、もう寄ってこないと思って。優しい真崎さんが好きです!っていうから、冷たくすれば嫌われるかと」

「な、なるほど…」

それだったら納得。
そうだよね、真崎くんがあんなに冷たい人なわけないもんね。

「でもまさか、あの一件ではるかに避けられてるとは思わなかった」

「あ、そ…それは本当にごめん」

「オレが好きだから…だから避けてたとはねぇ…」



「あーーー!改めて言わないで恥ずかしい!!もう、いいから!フるなら思いっきりふってください!」


思わずその場にしゃがみ込む。
こんな真っ赤になった顔見られたくない!
恥ずかしい!





「誰も、フるなんて言ってない!オレのほうがずっと前から好きだった」


「…え?」



思わぬ発言に、ついまぬけな声を出してしまった
はい?いまなんて言った?





「え?ってなんだよ!これでも勇気をふりしぼってだなぁ、告白してるんだよ!」


「う、嘘だ!!それこそ嘘だ!ずっと好きってそんなわけない!」


「なんでこんな嘘つかなきゃならないんだよ!」


「ど、同情とか…」


「なんで同情しなきゃなんないんだよ!ずっと好きだったっつーの!
でもはるかはオレが誰に告白されても興味なさそうだったし、フラれるの嫌だったし…


でも、この間再会して。やっぱりオレまだはるかのこと好きだなって思って
だからこれはチャンスだと思って頑張ってたんだよ。
それなのに急に避けるから嫌われたと思って不安になって

だから家まで来ちゃったんだよ!」


真崎くんの顔はさっきよりもさらに赤くて
ああ、これは本気で言ってくれてるんだと思った。

そっか、私たちずっと
両想いだったんだね…。


「あぁ、なんでこうなるんだろう…告白するときってもっといいムードとかじゃないっけ?」



「あ、そうだよね。お互い好きだって言ってるのになんか変だね?」



ようやくお互い冷静になって、さっきまでの状況を振り返って
好きって言い合ってるのに言い争いになって
なんかおかしくなって笑った。




「なんだ、両想いだったんだな。さっさと言えばよかった」



「私も、まさか真崎くんが同じこと思っていたとは思わなくて」








玄関に立ったままだった私たちは
再び部屋の中に入ってベッドに腰をかけた
しかも手をつないでいる
恥ずかしいけど、うれしい。



「あのさ、バレンタインのときこのカード書いたのはるか?」


真崎くんは、つないでいた手を離して
財布から1枚カードを出した
それを見て絶句する。これ、あのバレンタインで書いたカードじゃない!!
なんでまだこれもってるの!?



「…な、なんでこんなものを」


「そうなんだはるかだったんだ!なんとなくはるかの字に似てるからお守りにとっておいたんだよね。やば、女々しい俺」



自分で出しておいて、勝手に恥ずかしくなって顔を赤くしている真崎くん。
ちょっと待って、恥ずかしいのは私のほうなんだけど。
まさか、今になってご対面するとは思ってもないから。




「その、普段は持ち歩いてないんだけど、なんとなく同窓会のときに持ち出したんだ、はるかに会えればいいなって…そしたら会えたし、これはお守りだなと思って」



以来、持ち歩いているというわけですか。



「変だよな、けど嫌いにならないで欲しいんだけど、ようやく成就したわけだし、長年の想いが」



「き、嫌いになんてならないし!」



むしろ、大好き!ますます好きになってしまいそう。
心臓がものすごい速さで脈をうっている。ヤバい。



「だったら、こんなことしても平気?」




そういって、私の唇に真崎くんの唇が重なった。
ちょっと触れるだけの優しいキス。

キスするの初めてじゃないのに
ファーストキス以上にどきどきするのはなんで?



「へっ平気じゃない…」



うぅ、まだ心臓どきどきしてる。
平気なわけないじゃん!
ずっと好きだった人とキスしたんだよ?
まだ、夢を見てるみたいで。



「慣れてもらわないと困るんだけど」


そう言ってさっきよりも深いキスをされる。
さっきまで飲んでいたミルクティーの味が口の中に広がる。
甘くて、それだけで酔ってしまいそうだ。


ようやく解放されたけど
長いキスのせいで
息が上がってしまう。


「エロいなはるか」

「真崎くん…手が早い」


顔を真っ赤にしながら抗議してみた。
けど、そんなことは彼に通じるわけもなく



「そりゃあね、あのころと違って俺もそれなりに大人だから」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる
こんな顔初めて見た。
ドキドキが止まらない。


「あ、あの…お手やらかに…」


「善処します」



やっと手に入れた初恋。
もう絶対に手放さない。

ねえ、真崎くん
甘い甘い
ミルクティーのような夜を
これから何度も過ごして行こうね。


ようやく実った恋だから
二人で育てよう。






END
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