上 下
163 / 179
留学編 2章

第163話 経緯

しおりを挟む
「義手・・・ですか」
「ああ、そうだ。しかも元の手のようになめらかに動かすことができるすぐれものだ」

木箱の中にベルベットの柔らかい赤い布に包まれた、五本の指の生えた両手が黒く妖しく光っていた。

全員が思わず見惚れてしまうその美しさ。

「こんなに美しいものを・・・これ、どこで手に入れたんですか?手のサイズも、テラにちょうど良さそうですね」

そう言って、僕の顔を見ながらアルスが聞く。

「ふっ、それはもちろん、こういう身体の欠けた部位を補う魔道具を作っている一流の職人に依頼したのさ」
「こんな芸術品のような美しい義手を作れる魔道具職人が、いるんですね」
「ああ。世界でそいつしかそういう義手は作れないらしい」

そう僕が答えると、アルスは何かを察したような目でこちらを見る。

「な、なんだ?どうかしたか?」
「いえ。ただ、これを作るのに、事は穏便には進まなかったのではないか・・・と考えてしまって・・・」
「それは、どういう意味だ!」

だが、そう言って無言で、じっとしているアルス。

その沈黙に負けて、義手を手に入れた経緯を話した。


アルスがテラの面倒を見ていた頃。

セバスを煽るのに飽きた僕は、この奴隷の別の使い道を探していた。

すでにその時にはレーナから再生魔法を使うという案を受け入れていた。だが問題は、手を再生する技量がまだレーナには無いということだった。

かと言って、レーナができるようになるまで待つには時間がかかりすぎる。

そこで、たまたま耳にしたのが義手や義足の魔道具を作れるという職人の噂だ。

噂ではなんでも、困った人には無償で提供し、金持ちからは大金を取っているという怪しい人物だ。

だが、ウデは確かなようで、身体の一部を失った何人もの人々をまた以前のように普通に生活が送れるようしてきたらしい。

どうやら今はこの国にいるらしく、さっそく訪ねたのだが・・・

「帰れっ!!」

レーナとともにその人物を訪ねるなり、いきなり門前払いをくわされた。

「はぁ!?まだ何も用件を言っていない。どういうことだ!?」
「長年の勘で分かる。あんたは私に作らせた義手か義足を使って悪さしようと考えている。そうだろ?」

そのがっしりとしたガタイには似つかない鋭い言葉でこちらを牽制する。

「さあ、何のことやら?」
「ルイ・デ・ブルボンさん。あんたの噂が最近、出回っているんだ。奴隷をこき使ってひどいを仕打ちをしている、ってな!!」

なに!僕が奴隷にひどい仕打ちを、だって??

何が悪い?主人として、こき使って当然のはずだが・・・

「おい、話ぐらい聞け!金だろ?金ならあるぞ!!」
「なめるな!金で釣られると思ったら、大間違いだ!!」

そう言って、バタン!と扉を閉めて部屋の中へと消えていった。

「・・・・・・糞がっ!!」
「・・・ルイさま。失礼ですが、世の中、身分や家柄だけが全てではありません。ああいう方もいるのです。とくにこの国の場合には・・・」

無駄に説得感がある・・・が、そんなことは僕は断じて認めない!!

何としても、奴に分からせてやらねば!!!

そうしないと、この世界に転生した僕の存在理由が無くなってしまうからな。

僕はそこから二日間、レーナに職人の行動を逐一見張るよう命じた。

そして成果はあった。

あの職人の弱点はただ一つ。

家族がいること。

妻、そして五歳の娘。

レーナからその報告を聞いて、僕は”凄い作戦”を思いついた。

「よし、レーナ。家族を人質に取れ!」
「それって”凄い作戦”・・・ですか?」
「ああ、そうだ!貴族の恐ろしさを知らしめるには、ちょうどいい」


その後、どうやって作戦を遂行したかは知らないが、普通にレーナは屋敷へ奴の妻子を連れてきた。

それを確認した僕は、すぐに職人のいる仕事場へと向かった。

家族を誘拐したことを伝えると怒り狂ったように剣を抜き、僕に襲いかかってきた。

だが所詮、剣の腕は素人。

簡単に避けて再度尋ねた。

「作ってくれますよね?!」


「ルイ兄様!!それは立派な脅迫です!全然、事の経緯が穏やかではありませんよ!」
「なんてひどい奴だ!やっぱり、屑だニャ!!」
「ルイさまの横暴を止めることができなかったのが、私の罪です!」

三人まとめて僕に罵詈雑言(?)を浴びせてきやがる。

「そうだな、賛成に一票!本当にひどい奴だ!!しかも、一日でそれを作れと言うしな・・・」

そう言いながら部屋に入ってきたのは、話に出ていた職人だった。

「で、家族と会えたのか?」
「お陰様で、な。傷一つ無く。そこの小娘、レーナとか言う従者に娘も懐いていて、逆に嫉妬したぞ!」

こいつの家族には一切危害は加えていない。

それは貴族としての僕の矜持に反するからな!(ま、人をさらっておいてどの口が言っているんだ?!と非難もおありだろうが・・・ハハハ)

それに、むしろ彼女たちが”人質”の期間は、一流ホテル並みの部屋と食事、待遇を与えていた。

「貴方は?」
「申し遅れた。その義手を作った職人、ヌアダだ。それにしても、本当に獣人を救おうとしていただなんて」

なに?誰を救う、って?僕が、か?・・・馬鹿馬鹿しい!

「誤解するな。あくまで、奴隷を使い物になるようするためだ」
「はいはい、そういうことにしておくよ!」

くそっ!何だ、この余裕は?!

お前、図に乗るなよ!後で覚えてろ!

「じゃあ、義手を取り付けていくぞ」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...