163 / 188
留学編 2章
第163話 経緯
しおりを挟む
「義手・・・ですか」
「ああ、そうだ。しかも元の手のようになめらかに動かすことができるすぐれものだ」
木箱の中にベルベットの柔らかい赤い布に包まれた、五本の指の生えた両手が黒く妖しく光っていた。
全員が思わず見惚れてしまうその美しさ。
「こんなに美しいものを・・・これ、どこで手に入れたんですか?手のサイズも、テラにちょうど良さそうですね」
そう言って、僕の顔を見ながらアルスが聞く。
「ふっ、それはもちろん、こういう身体の欠けた部位を補う魔道具を作っている一流の職人に依頼したのさ」
「こんな芸術品のような美しい義手を作れる魔道具職人が、いるんですね」
「ああ。世界でそいつしかそういう義手は作れないらしい」
そう僕が答えると、アルスは何かを察したような目でこちらを見る。
「な、なんだ?どうかしたか?」
「いえ。ただ、これを作るのに、事は穏便には進まなかったのではないか・・・と考えてしまって・・・」
「それは、どういう意味だ!」
だが、そう言って無言で、じっとしているアルス。
その沈黙に負けて、義手を手に入れた経緯を話した。
アルスがテラの面倒を見ていた頃。
セバスを煽るのに飽きた僕は、この奴隷の別の使い道を探していた。
すでにその時にはレーナから再生魔法を使うという案を受け入れていた。だが問題は、手を再生する技量がまだレーナには無いということだった。
かと言って、レーナができるようになるまで待つには時間がかかりすぎる。
そこで、たまたま耳にしたのが義手や義足の魔道具を作れるという職人の噂だ。
噂ではなんでも、困った人には無償で提供し、金持ちからは大金を取っているという怪しい人物だ。
だが、ウデは確かなようで、身体の一部を失った何人もの人々をまた以前のように普通に生活が送れるようしてきたらしい。
どうやら今はこの国にいるらしく、さっそく訪ねたのだが・・・
「帰れっ!!」
レーナとともにその人物を訪ねるなり、いきなり門前払いをくわされた。
「はぁ!?まだ何も用件を言っていない。どういうことだ!?」
「長年の勘で分かる。あんたは私に作らせた義手か義足を使って悪さしようと考えている。そうだろ?」
そのがっしりとしたガタイには似つかない鋭い言葉でこちらを牽制する。
「さあ、何のことやら?」
「ルイ・デ・ブルボンさん。あんたの噂が最近、出回っているんだ。奴隷をこき使ってひどいを仕打ちをしている、ってな!!」
なに!僕が奴隷にひどい仕打ちを、だって??
何が悪い?主人として、こき使って当然のはずだが・・・
「おい、話ぐらい聞け!金だろ?金ならあるぞ!!」
「なめるな!金で釣られると思ったら、大間違いだ!!」
そう言って、バタン!と扉を閉めて部屋の中へと消えていった。
「・・・・・・糞がっ!!」
「・・・ルイさま。失礼ですが、世の中、身分や家柄だけが全てではありません。ああいう方もいるのです。とくにこの国の場合には・・・」
無駄に説得感がある・・・が、そんなことは僕は断じて認めない!!
何としても、奴に分からせてやらねば!!!
そうしないと、この世界に転生した僕の存在理由が無くなってしまうからな。
僕はそこから二日間、レーナに職人の行動を逐一見張るよう命じた。
そして成果はあった。
あの職人の弱点はただ一つ。
家族がいること。
妻、そして五歳の娘。
レーナからその報告を聞いて、僕は”凄い作戦”を思いついた。
「よし、レーナ。家族を人質に取れ!」
「それって”凄い作戦”・・・ですか?」
「ああ、そうだ!貴族の恐ろしさを知らしめるには、ちょうどいい」
その後、どうやって作戦を遂行したかは知らないが、普通にレーナは屋敷へ奴の妻子を連れてきた。
それを確認した僕は、すぐに職人のいる仕事場へと向かった。
家族を誘拐したことを伝えると怒り狂ったように剣を抜き、僕に襲いかかってきた。
だが所詮、剣の腕は素人。
簡単に避けて再度尋ねた。
「作ってくれますよね?!」
「ルイ兄様!!それは立派な脅迫です!全然、事の経緯が穏やかではありませんよ!」
「なんてひどい奴だ!やっぱり、屑だニャ!!」
「ルイさまの横暴を止めることができなかったのが、私の罪です!」
三人まとめて僕に罵詈雑言(?)を浴びせてきやがる。
「そうだな、賛成に一票!本当にひどい奴だ!!しかも、一日でそれを作れと言うしな・・・」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、話に出ていた職人だった。
「で、家族と会えたのか?」
「お陰様で、な。傷一つ無く。そこの小娘、レーナとか言う従者に娘も懐いていて、逆に嫉妬したぞ!」
こいつの家族には一切危害は加えていない。
それは貴族としての僕の矜持に反するからな!(ま、人をさらっておいてどの口が言っているんだ?!と非難もおありだろうが・・・ハハハ)
それに、むしろ彼女たちが”人質”の期間は、一流ホテル並みの部屋と食事、待遇を与えていた。
「貴方は?」
「申し遅れた。その義手を作った職人、ヌアダだ。それにしても、本当に獣人を救おうとしていただなんて」
なに?誰を救う、って?僕が、か?・・・馬鹿馬鹿しい!
「誤解するな。あくまで、奴隷を使い物になるようするためだ」
「はいはい、そういうことにしておくよ!」
くそっ!何だ、この余裕は?!
お前、図に乗るなよ!後で覚えてろ!
「じゃあ、義手を取り付けていくぞ」
「ああ、そうだ。しかも元の手のようになめらかに動かすことができるすぐれものだ」
木箱の中にベルベットの柔らかい赤い布に包まれた、五本の指の生えた両手が黒く妖しく光っていた。
全員が思わず見惚れてしまうその美しさ。
「こんなに美しいものを・・・これ、どこで手に入れたんですか?手のサイズも、テラにちょうど良さそうですね」
そう言って、僕の顔を見ながらアルスが聞く。
「ふっ、それはもちろん、こういう身体の欠けた部位を補う魔道具を作っている一流の職人に依頼したのさ」
「こんな芸術品のような美しい義手を作れる魔道具職人が、いるんですね」
「ああ。世界でそいつしかそういう義手は作れないらしい」
そう僕が答えると、アルスは何かを察したような目でこちらを見る。
「な、なんだ?どうかしたか?」
「いえ。ただ、これを作るのに、事は穏便には進まなかったのではないか・・・と考えてしまって・・・」
「それは、どういう意味だ!」
だが、そう言って無言で、じっとしているアルス。
その沈黙に負けて、義手を手に入れた経緯を話した。
アルスがテラの面倒を見ていた頃。
セバスを煽るのに飽きた僕は、この奴隷の別の使い道を探していた。
すでにその時にはレーナから再生魔法を使うという案を受け入れていた。だが問題は、手を再生する技量がまだレーナには無いということだった。
かと言って、レーナができるようになるまで待つには時間がかかりすぎる。
そこで、たまたま耳にしたのが義手や義足の魔道具を作れるという職人の噂だ。
噂ではなんでも、困った人には無償で提供し、金持ちからは大金を取っているという怪しい人物だ。
だが、ウデは確かなようで、身体の一部を失った何人もの人々をまた以前のように普通に生活が送れるようしてきたらしい。
どうやら今はこの国にいるらしく、さっそく訪ねたのだが・・・
「帰れっ!!」
レーナとともにその人物を訪ねるなり、いきなり門前払いをくわされた。
「はぁ!?まだ何も用件を言っていない。どういうことだ!?」
「長年の勘で分かる。あんたは私に作らせた義手か義足を使って悪さしようと考えている。そうだろ?」
そのがっしりとしたガタイには似つかない鋭い言葉でこちらを牽制する。
「さあ、何のことやら?」
「ルイ・デ・ブルボンさん。あんたの噂が最近、出回っているんだ。奴隷をこき使ってひどいを仕打ちをしている、ってな!!」
なに!僕が奴隷にひどい仕打ちを、だって??
何が悪い?主人として、こき使って当然のはずだが・・・
「おい、話ぐらい聞け!金だろ?金ならあるぞ!!」
「なめるな!金で釣られると思ったら、大間違いだ!!」
そう言って、バタン!と扉を閉めて部屋の中へと消えていった。
「・・・・・・糞がっ!!」
「・・・ルイさま。失礼ですが、世の中、身分や家柄だけが全てではありません。ああいう方もいるのです。とくにこの国の場合には・・・」
無駄に説得感がある・・・が、そんなことは僕は断じて認めない!!
何としても、奴に分からせてやらねば!!!
そうしないと、この世界に転生した僕の存在理由が無くなってしまうからな。
僕はそこから二日間、レーナに職人の行動を逐一見張るよう命じた。
そして成果はあった。
あの職人の弱点はただ一つ。
家族がいること。
妻、そして五歳の娘。
レーナからその報告を聞いて、僕は”凄い作戦”を思いついた。
「よし、レーナ。家族を人質に取れ!」
「それって”凄い作戦”・・・ですか?」
「ああ、そうだ!貴族の恐ろしさを知らしめるには、ちょうどいい」
その後、どうやって作戦を遂行したかは知らないが、普通にレーナは屋敷へ奴の妻子を連れてきた。
それを確認した僕は、すぐに職人のいる仕事場へと向かった。
家族を誘拐したことを伝えると怒り狂ったように剣を抜き、僕に襲いかかってきた。
だが所詮、剣の腕は素人。
簡単に避けて再度尋ねた。
「作ってくれますよね?!」
「ルイ兄様!!それは立派な脅迫です!全然、事の経緯が穏やかではありませんよ!」
「なんてひどい奴だ!やっぱり、屑だニャ!!」
「ルイさまの横暴を止めることができなかったのが、私の罪です!」
三人まとめて僕に罵詈雑言(?)を浴びせてきやがる。
「そうだな、賛成に一票!本当にひどい奴だ!!しかも、一日でそれを作れと言うしな・・・」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、話に出ていた職人だった。
「で、家族と会えたのか?」
「お陰様で、な。傷一つ無く。そこの小娘、レーナとか言う従者に娘も懐いていて、逆に嫉妬したぞ!」
こいつの家族には一切危害は加えていない。
それは貴族としての僕の矜持に反するからな!(ま、人をさらっておいてどの口が言っているんだ?!と非難もおありだろうが・・・ハハハ)
それに、むしろ彼女たちが”人質”の期間は、一流ホテル並みの部屋と食事、待遇を与えていた。
「貴方は?」
「申し遅れた。その義手を作った職人、ヌアダだ。それにしても、本当に獣人を救おうとしていただなんて」
なに?誰を救う、って?僕が、か?・・・馬鹿馬鹿しい!
「誤解するな。あくまで、奴隷を使い物になるようするためだ」
「はいはい、そういうことにしておくよ!」
くそっ!何だ、この余裕は?!
お前、図に乗るなよ!後で覚えてろ!
「じゃあ、義手を取り付けていくぞ」
15
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる