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学園編 3.5章
第108話 主人公⑨ (リリス視点)
しおりを挟むそれは、学園での初ダンジョン探索が終わった後のこと。
私は一人運動場にいた。
ミナスには先に帰ってもらって、私はやらなければいけないことをやる。
「ぷはぁ~~、久しぶりの外の世界じゃ!この建物の造りを見る限り、結構文明も発展したようじゃな。良きことだ!」
私は、目の前を浮遊するクロ程の大きさをした水色の球体を見つめる。
[それにしても何処にでも水の気配がするわね!?]
「たぶん、街の地面の下には上下水道管が縦横に張り巡っているからね」
[ほうほう、つまりこの世界の人々は水に困ってはいないというわけか。それは良きかな!]
その幼女のような声色とは真逆な偉そうな発言。
「ねえ、ところで貴方は誰なのよ?」
私は耐え切れず、質問する。
隠しダンジョンで檻に閉じ込められていた、この目の前の水色の球体を、私は解放した。
だが、相手が誰だかしっかり確認しなかったため、急に力を持っていかれて私は意識を失った。
その後も、私と契約したからと言って後を付いてくる。
[まさか妾(わらわ)のことを忘れたのか、ルルスよ]
「ルルスじゃない、リリスよ!」
[そうだった、ララスよ]
「わざと間違えてない!?」
[そんなことはないわ]
ぼけているのか、本当に間違えているのか。
「貴方の名前は覚えているわ。フィーン!」
[???私の名前はニンフィーンよ!]
[気にするな。そいつは人にあだ名を付けるが、 壊滅的にセンスがない]
クロが私たちの会話に横から参加して、私の悪口を言い出す。
[つまり、フィーンはあだ名ということね。うん、気に入ったわ!]
「本当!!!やったぁ!」
[え?まじで・・・]
私たちやり取りにビックリするクロ。
それはそれで、置いといて。
「ところで、フィーンは水の精霊王と言っていたけど本当なの?」
私は一番の質問をぶつける。
[たぶん、そうだよ]
「たぶん?」
[うん。記憶が朧気なのよ。数百年前に突如封印されたのを最後にほとんど眠りっぱなしだったから。本当にごくたまに誰かがあの地下にやって来たけど、誰にも私の声が届かないみたいで。でも、やっと、あなたにリリスに会えた、ってわけ]
なるほど、少しクロと似た感じだね。
「それにしても水の精霊王って、五霊王の一人じゃん!」
五霊王とは、姿をほとんど確認することの出来ない精霊王の中でも最も強いとされている属性のこと。
水、火、土、風、雷の五属性だ。
ただでさえ存在すらほとんど知られていない精霊王を前にして、さらに水属性。
なんだか頭から湯気が出そう。
[ふふ~ん、凄いでしょ!?あ、そうだ。ついでに妾の弟も紹介するぞ]
「[・・・・・・はぁぁ!!!]」
弟!?!?!?!
[おいおい、急に何を言い出すんだ!弟って、何処にもいないじゃないか!]
クロが私の代わりにフィーンにツッコミを入れる。
[だって、妾の中にいるからな。本来はそなたたちには見えんのだよ。ほら、出てこい!]
そうフィーンが言うと、突如、彼女の形が変形していく。
水色の球体が大きく口を開けたような形になると、次の瞬間、外へと何かを吐き出した。
吐き出されたのは黄色の小さな玉。
ビー玉ほどの小さな玉が、段々と膨張していく。
そしてその黄色の球体は、クロとフィーンのサイズになると成長を止めた。
[紹介するぞ。妾の弟、人呼んで雷の精霊王、ユーピタルよ!]
[ど、どうもです。お、お初にお目にかかりますです]
少しオドオドした可愛らしい声で答えるユーピタル、いや、あだ名はタルルにしよう!
ってか?!
「[雷の精霊王!!!!!]」
再び、私はクロとハモる。
「え、いやいやおかしいでしょ!何で精霊王に二体と会えるのよ!え、本物?!」
[え、ええ。まあ、一応]
タルルの声からは威厳など感じられない。
それにしても、まさかこんなにもあっけなく精霊王たちに会えるだなんて。
「知らないと思ってからかってるんじゃないの?実は私たち、守護精霊でーす、とか?」
そう言って確認するが、フィーンとタルルは否定する。
[精霊王を名乗れるのは精霊王だけ。偽ることは出来ない。それが精霊界のルール]
つ、つまり、本当に本物っ!!!
それでも私は目の前で起きている事が受け入れられず、身体が固まってしまう。
[じゃあ、早く弟とも契約してね!]
そんな私の気持ちも知らずに、話を進めるフィーン。
[ね、姉さん。急に話を進めないでよ!]
[何?妾に文句か?!]
[そうじゃないけどさ、急に言われても困るよ!]
私抜きの姉弟喧嘩が始まる。
[じゃあ、貴方は彼女と契約せずに、そこら辺をほっつき回ると]
[・・・それはそれで嫌だけどさ]
[じゃあ、決まりだ。新たにリリスを主として契約する。そうすればいいと思うぞ]
[・・・もう、いっつも姉さんに振り回されてばかりだよ。分かった、契約するよ]
[OK。じゃあ、リリス。あとは、よろしく!]
放心状態だった私はフィーンに呼ばれて我に返る。
[じ、じゃあ、やるね。我は契約を望む]
[同意する]
咄嗟に答えてしまった。
すると次の瞬間、微量の電流が全身に走り、力がみなぎってくるのを感じた。
[これで完了だ]
こうして、私は雷の精霊王と新たに契約をしたのであった。
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