泡恋

あきひら

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序章

Prologue

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世界には、神が存在する。
精霊も魔王も居るし、勇者も居る。
お伽話に出てくる物語や神話は、事実を伝えていて、
今も、私たちに問いかけている。

7人の神々に、
神々を守る勇者がいる。

どこの誰が神で、誰が勇者なのかは誰も知らない。

人が産まれて。私も産まれた。
いや、私が産まれるのが先だったかは思い出せない。

不思議に溢れたこの世界で。
当たり前を探しつづけている私の願いは、穏やかな日々を送ること。

暖かな日の光に、咲き誇る花。生命溢れる新緑に。駆け回る生き物たち。目を閉じると思い出す。思い出した記憶は、私から溢れ出して、誰かの夢に紛れていく。夢鬱つの世界の中から産まれた世界は、誰かによって創作されて、紡がれる。
それらは新しい物語になり、それはSFやファンタジーと呼ばれて広がっていく。魔法の替わりに知識と科学が溢れる世界。
星の命のカケラで動く機械に、禁忌の力で動く機械。
全てが、科学と化学で理論された、そんな夢の世界で、私はかつて神だった。
神社や神殿の社で過ごす、穏やかな日々。

戻りたい。

太陽が登る日は暖かく。
月の光は穏やかに。
星々は大地を導いていた。
そんな時に。

もうすぐ私も、物語の一部となり、意識は大地に還る。
柔らかく、白い布が風になびいている。
誰かの声が聞こえた気がしたけれど。私に聞く力はない。
目を閉じて耳をすます。悲しみの声が聞こえるようになって、だいぶたつ。悲鳴、泣き声、怒鳴り声、妬み声。いつから世界は、こんなに寂しさで溢れるようになったのだろう。

私を呼ぶ、優しい声を最後に聞いたのはいつだろう。
私の名前は、何だったのだろう。
私を覚えているものは、居るだろうか。
あぁ、居ないから。私は。私の名前がわからない。

水が淀み出したのはいつからだろう。
空が淀みだしたのはいつからだろう。

いつから私は助ける事が出来なくなったんだろう。

清らかな空気を私に返して。
美しい水を返して。

誰か、私を助けて。

淀んだ暗闇でも、光があることを信じさせて。
暗闇を浄化して、光の中へ帰りたい。

あぁ、そうだ。眠ろう。

私は今、悪魔と呼ばれて、心を縛る呪霊だった。
邪悪と呼ばれ続けても。夢をみる。幸せな夢だ。
星に産まれた、あらゆる生命が、輝いていた物語の夢。
現の夢は悪夢だから。目を閉じて眠ろう。
愛おしい夢にただ落ちよう。
この生命が終わったら、目覚めない夢に閉じ込められて、穏やかな世界の中で過ごしたい。



天まで届くような無機質な建物たち。
ビル林やビル群と人々はいう。光に反射して七色に光る建物たちは、常に魔法壁で守られていて、地震や津波の被害はもちろん、火山の被害も受けないようになっている。

人間のうち、ノア族と言われるこの世界創生の一族は、この星の人々の中でも100名を満たないが、強い魔力と知識、財力は想像をもつかないものとなっていると言われている。
人間の交わす言葉のうち、世界に散らばる様々な方言があるが、共通語として交わされているスギリ族のスギリ語。スギリ族は、世界の約半分の人口を占める。
世界の中でも、昔、幻の島と呼ばれていたグパ島の民は約2億人いるらしいが、純血種は珍しく、血と共に伝承している独特の文化を知るものは少ない。それは、世界の半数以上いると言われるスギリ族も等しく。ノア族以外の人間は、世界で混ざり合い、その数を増やしている。かつて、動物と呼ばれていた種族も、知識と言葉を持つものは文化を形成し、人間と共存、または交わることにより生き延びてきた。それが獣族である。
地球上で生きている全ての人間と獣族、ハーフには番号が付き。各地域で管理されている。それらの番号は、産まれたらすぐに張り巡らされた魔法により察知され、認識される。
普通に生きていく分には便利な生活と祝福が待っている。

魔法が当たり前に使える中、もちろん苦手な者も存在するが、日常生活のなかでは何も問題はなかった。何故なら、魔法の力を蓄えるお札やコインが存在し、お金でそれらを買う事が出来たから。
夜、灯りを灯す為にコインを使い、軽く願えば灯りが付くし。お腹が空いて、お札に願えばご馳走がならんだ。
暑さや寒さも関係なく、各種族の適温が魔法で管理された快適な世界で、生き物は快適に管理されて生きている。
そこには、貧困もなく、幸せで満ち溢れている。

ーーーように思えた。違和感に気づくまでは。
その他大勢のままの思考のままで、何も疑問に思わなければ、私の暮らしは設定されたレールの上で、幸せな生涯を終えていたんだと思う。

ファン、ファン、ファン、ファン・・・
大音量のサイレンが聞こえる。魔法を使えば、気付かれるだろう、奴らに。魔法解除の警報音も聞こえてくる。

決して諦めない、諦めたくない。しかし、今はここまでかもしれない。

「・・・ミライ」
掌ほどの、茶色く小さな獣である相棒の名前を呼び、私は首輪に細工をする。
私が呟く声や、仕草すら、奴らにはお見通しであろう。
扉を破る銃砲が聞こえる。
指先の仕草で合図を送り、相棒を逃す。小さな獣は、隠れるのが得意で賢いから、奴らには捕まらない。

誰かの意思が頭に入り込む、思考を読む魔法だ、これ以上は閉ざさないと。
私は、目を閉じて全てを閉ざす。

ーーー緊急プログラムヲ作動致シマス

「さあ、はじまりだ。」

バン!
勢いよく扉が開き、警官が部屋へなだれこんでくる。

目の前に、一人の男性がデスクに座って目を閉じていた。

青白いその顔からは生きているのかわからない。

上官が、警官の間から顔を出し、その異様さから何かを感じとった
「!全員退却!!避難しろ!!!」
叫びと同時に、上官は目を閉じる男性の周りに結界をはる。


おびただしい光線と共に。あたりは沈黙で包まれた。
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