私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

文字の大きさ
上 下
85 / 89
【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

076

しおりを挟む
「あれ?案内眼鏡君…?」
意外な場所で意外な人物に再会しちゃったよ?

使用人の人がドアを開けると、そこにはいつか見た案内眼鏡君が立っていた。

彼の後ろには、私と同じくらいの年齢の女の子がいた。
この子、どっかで見た事があるうな…?

「何だその変な名前は」

バートが変な顔をしている。
案内眼鏡君は、にこりと笑ってから自己紹介をしてくれた。

「私はこのラオッタの街を治めるガイドーン家の次男、ピーターガイドーンと申します。ヤマノ様が無事に王都を脱出できていて安心しました」

「え、君、子爵様の息子だったの?」
「はい、あの時は宰相にいきなりあなたを城の外に追い出せと命令されてしまいまして、ろくな手助けも出来ず申し訳ありませんでした…」

「いやいや、別に大丈夫だよ。兵士のおじさんも親切に宿とか教えてくれたし、街の人に色々助けてもらったから」
「それは良かったです」

約2週間ぶりくらいの再会かな?
なんだろう、召喚されてから何日経ったのか分かんなくなってるわ。

「さて、私は仕事がありますので、ここは息子に任せましょうか。それでは皆様ごゆるりとお過ごしください」

子爵様はそう言うと部屋を出て行ってしまった。


「私に紹介したかったのってピーターさんの事だったの?私と同じ召喚された人って言ってたよね?」
子爵様が部屋から出て行ったあと、私はバートに話しかけた。

「ピーターも会わせたかった一人だ」

という事は、もう一人は必然的にピーターの後ろに隠れている女の子になるわけだけど…ちらりとその子を見ると、こちらに気が付いたようで、メッチャぐいぐい来た。

「あの!初めまして、私は八重咲桜と言います!!ピーターさんからあなたの事は聞いて、一度お話したいと思っていたんです!!」

おおぅ?なんだろ、凄い距離近い。

「あー…初めまして。私はヤマノイツキですー。とりあえず今はブロッサムって名乗ってるの。よろしくね八重咲さん。桜って綺麗な名前だねー」

とりあえずニコリとあいさつを返しておく。

「ヤマノ様は、今はそう名乗られているのですね」
これからはブロッサム様とお呼びさせていただきますね。とピーター。

「えっと…偽名を使ってるって事ですか?ステータスで分かっちゃうのに??」

そっか、この子は鑑定を人に向けて使っちゃいけないって知らないのか。

「えっとね、この世界では鑑定を人とか魔物に向けて使う事は、喧嘩を吹っ掛けるのと同じ事になるから、安易に鑑定しちゃダメなんだって。だから偽名を名乗ってても大丈夫なんだよ」

「えっ…そうだったんですか。あれ、でもブロッサムさん、ステータスの所の名前、ブロッサムになってますよね?」

「えっ!?今鑑定した?」
「はい…思わず使っちゃいました…」

なんてこったパンナコッタ。
これじゃぁ、ステータス改ざんしてる事言わないといけないじゃないか。

『鑑定をレジスト出来なかったマスターも悪いです。仕方ないです、腹くくってしゃべっちゃいましょう』
(ナビさん無慈悲!!ていうか、レジスト出来るの?鑑定使われた事すら気が付かなかったんだけど?)

『マスターのレベルも低いから、気が付けなかったんでしょうね』
(うーん。早いとこ鍛えないとやばいなこれ…)

とりあえず、バートとかピーターに知られるのはなかなかに痛いんだけど、腹をくくって話すしかない。
もしかしたら、ステータス改ざんって結構メジャーな方法かもしれないし!!

「あぁ、なんていえば良いのかな…ステータスを改ざんしてる?んだよ」

神様に名前を変えて貰ったって言っても信じて貰えないし、名前を改ざんしてたのも事実だから、ややこしくなるし全部ステータス改ざんって事にしよう。

「ステータスって改ざん出来るんですか!?」
「うん、出来るよ…」

「おい待て、そんな話は聞いた事が無いぞ!?」
「信じられません…」
「おいおい…マジかよー!!ウケるわー!!」

なんだか周りの反応がおかしいぞ……。

「えーと…?」
ピーターやバートはこの世の終わりのような顔をしているし、ウッドさんは何故か腹を抱えて笑い転げている。

やっぱりステータス改ざんはメジャーな方法では無かったようです…。
『マスター、ドンマイ!!』
めっちゃ楽しそうなナビさんの声!!

「…お前……いや…防音結界!」

何か問いかけようとしていたバートは、部屋全体に防音結界を張ると改めて声を荒げた。

「異世界から来た人間が規格外なのは知っていたが、ステータスを改ざん出来るなんざ聞いた事がねぇぞ!!」

うるさいデス。

「いや、だってステータス開いたときに出来たんだもん!!」

名前の件もそうだけど、神様から直々に教わったなんて言えないわ…。

「出来たんだもん。じゃねぇよ!!」
「バートさん、落ち着いてください!」

私につかみかかりそうな勢いのバートを、ピーターが抑えてくれた。

「ブロッサムさん、それはいつ気が付いたんでしょうか?」
「えーと、城から出てリカルドさんの所の宿に泊まってる時…かな」

山野樹っていう、元本名から現本名のブロッサムに変えたのもこの時だし、間違っちゃいない!

「やり方を教えていただく事は出来ますか?」
「大して手間のいる手順でもないので良いですよ」

こうなりゃ自棄よ。
私は4人にステータスの改ざんと隠蔽の仕方を教えたのだ。

「おい、出来たか?」
「いいえ、ブロッサム様のおっしゃるように、変えたい場所を触っても何も起きませんね」
「俺も無理だったなぁー」

「えっと…私は出来ちゃいました…」

男三人は出来なかったようだが、桜はしっかり出来たみたいだった。
本人の許可を得て鑑定を掛けてみると、名前の欄が「八重咲桜」から「サクラ(八重咲桜)」になっていた。

どうやら、名前の改ざんも出来るけど、やっぱり本名までは変えられないようだ。とは言え、鑑定と真贋スキルと併用しなければバレないから、これで良いんじゃないかな。それ以外の項目は、私では変わったのか分からないのでとりあえず何も言わない。

「これは異世界から来た人間だけに許される行為なのかもしれませんね」

ピーターが眼鏡をクイっと上げながら言う。

「そのようだな。という事は、他の連中も本当のステータスを隠している可能性があるわけか…やはりどうにかして早急に彼らを確保しなければいけないな…」

何だか二人の口調から、ステータスを隠すことが悪い事の様に聞こえる。
私自身、スキルチェックされるのが分かっていたから厄介ごとに巻き込まれたくなくて、あえてステータス隠したけど…何かちょっと気に喰わない。

私は思わず口を開いた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...