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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅
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ピーターとバートの言葉に、私は思わず口を開いてしまった。
「あのさ、この世界では人に向けて鑑定を使う事はご法度になってるって言ったよね?」
「ああ、攻撃魔法を仕掛けるのと同等の行為だ」
バートが頷く。
「それは、自分のステータスを他人に見られたくないからだよね?」
「ええ、そうですね。ステータスには自分が何が出来るのかが書かれていますから、騙されたり利用されたりしないように一定以上の身分の人間や、冒険者なんかは防御できる魔道具を身に付けます」
ステータスなんて個人情報の塊以外の何物でもないから、安易に他人に見せるなんてことが出来ないのは当たり前だよね。だからこそ、先ほどの二人の会話が気に入らないのだ。
「じゃあさ、どうして私達みたいに異世界から無理やり連れてこられた人間のステータスを、あなた達は気にするの?私達だって自分のステータスやスキルを知られたくないよ」
「それは…」
言いよどむピーターに、私は構わず言葉を続ける。
「国の上層部は、周りの人間にまで自分のステータスを見せてしてしまう呪文をを言わせて、勝手に確認して使える人間は手元に置いて、使えない人間は放り出す。そしてあなた達も今、異世界から来た人間がステータスを誤魔化せる事を知って、全員確保してステータスを全て確認しなければみたいな思考になったよね?」
そう、確保って言いやがった。保護じゃなくて確保。
私達は好んでここに来たわけじゃない。いきなり召喚された。私達は便利な道具でも危険な道具でもない。
「それは…勇者や聖女の力は強すぎるから…」
「そんなもん、この世界にだって剣聖だの大魔導士だの賢者だのいるんでしょ?そういう人たちはちゃんとした指導者に導かれて真っ当にスキル使ってたんでしょ?それは私達だって同じだよ。こっちの世界での常識やルールをしっかり教えてくれれば悪い事する人間は、多分ほとんどいないよ?」
「しかしだな…」
「この世界の人たちだって、善人も居れば悪人もいる。お互いにどんなスキル持ってるかなんて知らなくても、仲良くしたり協力しあったりしてるんでしょ?だったら、私達異世界から来た人間にも同じようにして欲しいよ。文化の違う他国の人間みたいにさ」
私は一度言葉を切る。
「私たちは無理矢理この世界に呼ばれて来たの。あなた達にとって異世界から来た人間なんて得体の知れないものかもしれないけど、それはこっちも同じよ。だから危険かもしれないから捕まえなければ!とかそんな思考になる前に、こっちの世界の事をちゃんと教えてよ。私はこの国から出ていくけど、あなた達は他の人達を助けるとかなんかやる気なんでしょ?召喚された人の中にはまだ17歳とか20歳の若い子達だっているの」
「17…こちらでは成人しているぞ?」
「うちらの暮らしてた国では17歳はまだ半分子ども扱いで、保護者が監督しなきゃいけない年齢なの!!だから言ってるでしょ、こっちの世界と私たちのいた世界は常識が全然違う。こっちの物差しで私たちを測られても無理なの。文化も社会的な構造も違うんだから。そういう所も含めて、ちゃんとこっちの常識とかを教えてほしい」
一気にしゃべったせいで息が上がっちゃった。
冷めてしまったお茶を一気にあおる。
『マスター力説お疲れ様です』
(ほんとに疲れた!!)
「お前の言いたいことは分かった。確かに、文化や技術も全然違う所から来たという以外は同じ人間なんだよな」
バートは、はぁーとため息をついた。
「そう。だから初めて会う他国の人間と同じように接してほしいの。確保なんて言わないで欲しいよ」
「俺はただの冒険者だから、実際はいま城に居る召喚者たちをどうこうする事はできんが、もしお前たちのように城から逃げてきた奴らに関しては通常通りに対応する」
「私も、既に王城には入れないかもしれませんが、何かあれば手助けしたいと思います。それにサクラ様はガイドーン家の領内でポーションの事を学びたいと言ってくださっていますから」
「だったら構いません。私も言いたい事ばっかり言ってしまってすみませんでした」
「いえ、私達の方こそ、気遣いができておりませんでした…。そうですよね、お二方はいきなりこちらの世界に連れてこられたんですよね…」
(本当はその前に神様たちに会ってるんだけどねぇ…サクラちゃんは覚えてないっぽいんだよね…)
『そこらへんは、あとで神様たちにお聞きになればいいと思いますよ』
(そうだねー、王都出る前に教会行ったのに祈るの忘れちゃったしグラム国から出たらそうしましょ)
「まぁ…残業続きでヘロヘロだった所をこちらに呼ばれたので、私はラッキーだったのかもしれません」
「私も…縁を切りたくて仕方がない人とか居たので…こっちに来られて良かったと思います」
なんか、おとなしい感じの子なのに色々抱えてんね?
まあいいや、とりあえず顔合わせというかは出来たし、そろそろザラックの街まで行きたいね。
「とりあえず、会わせたい人ってのには会えたし…私は旅用の服に着替えて出発しようかな!」
「えっ!これからですか?」
私の言葉に、ピーターが驚く。
「え、だって、サクラちゃんにも会ったし、ここには用無いでしょ?さくっと国境越えたいし」
「待て待て待て、お前さっき子爵と話したよな?街道沿いにはまだ黒髑髏の連中がいるかも知れないんだぞ」
何故かバートも慌てている。
「近くで自分たちの仲間がやられた所にのこのこ出てくるとは思えないし、大丈夫かなーって」
私のマップスキルなら、そういう盗賊とかの位置もわかるし、いざとなれば絶対安全空間があるから大丈夫だしね。
「とりあえずザラックまでは俺が護衛してやるから、今すぐ出立するのはやめろ。それでまた襲われたら助けた意味がなくなる」
「えぇ…だって、子爵様のお屋敷だと豪華すぎて庶民の私は落ち着かないんだよなぁ…」
そう、メイドさんとか豪華なベットとか家具とか、慣れない物すぎて気が抜けないんだよね…。
「あの、とりあえず明日まで!明日まではこの屋敷に滞在していただけませんか?」
「ブロッサムさん、私からもお願いします!!この後一緒にお茶しましょう!!」
ピーターとサクラちゃんにも引き留められてしまう。
「うぅん…」
『マスター、諦めて明日出立しましょ。まぁ、バートさんがもれなくついてくると思いますけど』
(それが嫌なんだよなぁ…行きがけにゆっくりスキルチェックとかしたいのにぃ…)
「…はぁ…わかりました。今日だけお世話になります。けど、明日には出ていきますからね??」
とりあえず、今日もガイドーン子爵家でお世話になることが確定した。
「あのさ、この世界では人に向けて鑑定を使う事はご法度になってるって言ったよね?」
「ああ、攻撃魔法を仕掛けるのと同等の行為だ」
バートが頷く。
「それは、自分のステータスを他人に見られたくないからだよね?」
「ええ、そうですね。ステータスには自分が何が出来るのかが書かれていますから、騙されたり利用されたりしないように一定以上の身分の人間や、冒険者なんかは防御できる魔道具を身に付けます」
ステータスなんて個人情報の塊以外の何物でもないから、安易に他人に見せるなんてことが出来ないのは当たり前だよね。だからこそ、先ほどの二人の会話が気に入らないのだ。
「じゃあさ、どうして私達みたいに異世界から無理やり連れてこられた人間のステータスを、あなた達は気にするの?私達だって自分のステータスやスキルを知られたくないよ」
「それは…」
言いよどむピーターに、私は構わず言葉を続ける。
「国の上層部は、周りの人間にまで自分のステータスを見せてしてしまう呪文をを言わせて、勝手に確認して使える人間は手元に置いて、使えない人間は放り出す。そしてあなた達も今、異世界から来た人間がステータスを誤魔化せる事を知って、全員確保してステータスを全て確認しなければみたいな思考になったよね?」
そう、確保って言いやがった。保護じゃなくて確保。
私達は好んでここに来たわけじゃない。いきなり召喚された。私達は便利な道具でも危険な道具でもない。
「それは…勇者や聖女の力は強すぎるから…」
「そんなもん、この世界にだって剣聖だの大魔導士だの賢者だのいるんでしょ?そういう人たちはちゃんとした指導者に導かれて真っ当にスキル使ってたんでしょ?それは私達だって同じだよ。こっちの世界での常識やルールをしっかり教えてくれれば悪い事する人間は、多分ほとんどいないよ?」
「しかしだな…」
「この世界の人たちだって、善人も居れば悪人もいる。お互いにどんなスキル持ってるかなんて知らなくても、仲良くしたり協力しあったりしてるんでしょ?だったら、私達異世界から来た人間にも同じようにして欲しいよ。文化の違う他国の人間みたいにさ」
私は一度言葉を切る。
「私たちは無理矢理この世界に呼ばれて来たの。あなた達にとって異世界から来た人間なんて得体の知れないものかもしれないけど、それはこっちも同じよ。だから危険かもしれないから捕まえなければ!とかそんな思考になる前に、こっちの世界の事をちゃんと教えてよ。私はこの国から出ていくけど、あなた達は他の人達を助けるとかなんかやる気なんでしょ?召喚された人の中にはまだ17歳とか20歳の若い子達だっているの」
「17…こちらでは成人しているぞ?」
「うちらの暮らしてた国では17歳はまだ半分子ども扱いで、保護者が監督しなきゃいけない年齢なの!!だから言ってるでしょ、こっちの世界と私たちのいた世界は常識が全然違う。こっちの物差しで私たちを測られても無理なの。文化も社会的な構造も違うんだから。そういう所も含めて、ちゃんとこっちの常識とかを教えてほしい」
一気にしゃべったせいで息が上がっちゃった。
冷めてしまったお茶を一気にあおる。
『マスター力説お疲れ様です』
(ほんとに疲れた!!)
「お前の言いたいことは分かった。確かに、文化や技術も全然違う所から来たという以外は同じ人間なんだよな」
バートは、はぁーとため息をついた。
「そう。だから初めて会う他国の人間と同じように接してほしいの。確保なんて言わないで欲しいよ」
「俺はただの冒険者だから、実際はいま城に居る召喚者たちをどうこうする事はできんが、もしお前たちのように城から逃げてきた奴らに関しては通常通りに対応する」
「私も、既に王城には入れないかもしれませんが、何かあれば手助けしたいと思います。それにサクラ様はガイドーン家の領内でポーションの事を学びたいと言ってくださっていますから」
「だったら構いません。私も言いたい事ばっかり言ってしまってすみませんでした」
「いえ、私達の方こそ、気遣いができておりませんでした…。そうですよね、お二方はいきなりこちらの世界に連れてこられたんですよね…」
(本当はその前に神様たちに会ってるんだけどねぇ…サクラちゃんは覚えてないっぽいんだよね…)
『そこらへんは、あとで神様たちにお聞きになればいいと思いますよ』
(そうだねー、王都出る前に教会行ったのに祈るの忘れちゃったしグラム国から出たらそうしましょ)
「まぁ…残業続きでヘロヘロだった所をこちらに呼ばれたので、私はラッキーだったのかもしれません」
「私も…縁を切りたくて仕方がない人とか居たので…こっちに来られて良かったと思います」
なんか、おとなしい感じの子なのに色々抱えてんね?
まあいいや、とりあえず顔合わせというかは出来たし、そろそろザラックの街まで行きたいね。
「とりあえず、会わせたい人ってのには会えたし…私は旅用の服に着替えて出発しようかな!」
「えっ!これからですか?」
私の言葉に、ピーターが驚く。
「え、だって、サクラちゃんにも会ったし、ここには用無いでしょ?さくっと国境越えたいし」
「待て待て待て、お前さっき子爵と話したよな?街道沿いにはまだ黒髑髏の連中がいるかも知れないんだぞ」
何故かバートも慌てている。
「近くで自分たちの仲間がやられた所にのこのこ出てくるとは思えないし、大丈夫かなーって」
私のマップスキルなら、そういう盗賊とかの位置もわかるし、いざとなれば絶対安全空間があるから大丈夫だしね。
「とりあえずザラックまでは俺が護衛してやるから、今すぐ出立するのはやめろ。それでまた襲われたら助けた意味がなくなる」
「えぇ…だって、子爵様のお屋敷だと豪華すぎて庶民の私は落ち着かないんだよなぁ…」
そう、メイドさんとか豪華なベットとか家具とか、慣れない物すぎて気が抜けないんだよね…。
「あの、とりあえず明日まで!明日まではこの屋敷に滞在していただけませんか?」
「ブロッサムさん、私からもお願いします!!この後一緒にお茶しましょう!!」
ピーターとサクラちゃんにも引き留められてしまう。
「うぅん…」
『マスター、諦めて明日出立しましょ。まぁ、バートさんがもれなくついてくると思いますけど』
(それが嫌なんだよなぁ…行きがけにゆっくりスキルチェックとかしたいのにぃ…)
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