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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅
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早朝、目を覚ましてベットから降りると、正面に姿見があった。
そちらを見やると、そこには盛大に皺のよったワンピースを着た私が立っていた。
「あーやっちまった…」
思わず声を上げてしまった。
『マスターどうしましたか?』
(あるじ?)
「昨日、疲れすぎて爆睡しちゃったじゃん?その後もパジャマに着替えないで寝ちゃったから、子爵様が用意してくれたワンピースがしわくちゃになっちゃった…」
『あぁ…そういえばそうでしたね』
「お借りしてる物なのに、やっちまったなぁ…」
とはいえ、皺を伸ばす魔法なんて持ってないし、多分もうすぐアンナさんが起こしに来るから安全空間に入る時間も無い。
『とりあえず、別の服に着替えましょうか』
「うん。今日って子爵様にもお会いするんだよね…」
『そうですね、多分そうなると思います』
そうすると、昨日着ていたような男性用の服では失礼になりそうだ。
「ミルス様からいただいたあの服を着るしか無いか…」
私は、アイテムボックスからミルス様にいただいた服一式を引っ張り出して身に着けた。
着替えて髪を梳かし終わるころ、アンナさんが起こしに来てくれた。
お互いに挨拶を終えると、なぜかアンナさんがこちらを凝視している。
「あの…?」
顔に何かついていますか?と問いかけようと思った矢先、髪をいじらせてほしいと言い出した。
「お食事の前に、少し御髪を整えさせていただきますね!!」
「えッと…?」
「お召しになっているお洋服はとても似合っておりますが、御髪を整えればもっと素敵になりますので、さ、ドレッサーの前へ!!」
アンナさんの中の何かに火をつけてしまったらしく、グイグイとドレッサーの方へ追いやられ、あれよあれよという間に椅子に座らされてしまった。
いきなり動くわけにもいかず、とりあえずおとなしく髪をいじられているのだけど、アンナさんのキラキラした顔が眩しい。
『メイドさん、とても楽しそうですね』
(そうだね。私、昔から編み込みとか出来ないから、楽しそうにヘアアレンジ出来る人ってすごいなって思う)
『マスター、女子力なさそうですもんね』
(うるせー)
ナビと脳内でそんな会話をしている間に、私の髪は、アンナさんの手によって綺麗に結い上げられた。
しかし、アンナさんはそこで満足しなかったようで、バルコニーの近くに咲いていた花を髪の毛に飾っていった。
その時、何か呪文のような言葉をつぶやいていた。
『花が萎れないように、保存の魔法を使っていますね』
(そんな便利な魔法もあるんだね)
『効力は一日程度ですけどね。マスターのアイテムボックスには、保存魔法の最上位である時間停止がついてるでしょ』
(だって、あれは外に出てる物には使えないじゃん)
『じゃあ、後で魔法作ればいいと思いますよ?』
(確かに)
髪のアレンジ完成したようで、アンナさんは満足げに「よし!」とガッツポーズをした。
これで解放されるかな?と思っていたけど、まだ解放されないっぽい。
「ついでに軽くお化粧もさせていただきますね」
「えっ!?そこまでしなくても…」
アンナさんが鏡越しに、めっちゃ良い笑顔。
なんだろう、久々の獲物を逃がすわけねーだろ。っていう空気があるんですけど…。
「昨日は到着直後で仕方ありませんでしたが、お食事の後は子爵様にお会いしていただきますので、流石にすっぴんで。という訳には行かないのでございます…」
「そ、そうなんですね…」
「はい。そうなのです」
まあ、確かに貴族に会うって事で、私も多少なりとも服装には気を付けたし、髪の毛だけ綺麗にアレンジされてて、化粧してないって言うのもアンバランスだよね。
こうして、私はアンナさんに化粧を施された後、やっと朝食にありつけたのだった。
食卓の席に着くと、私は改めてアンナさんにお礼を言った。
こんな風に綺麗にヘアアレンジしたの、三年前くらい前に友人の結婚式に出席した時以来だったからね。
「アンナさん、ありがとうございます。私、髪型をいじるの苦手で…。いつも後ろで縛るかそのままだったので…こんなに綺麗に整えて貰えるのは久しぶりです」
「いえ、私もブロッサム様の綺麗な御髪を整える事が出来て嬉しく思います」
アンナさんはニコニコしながら、朝食をテーブルに並べていく。
不思議な事に、ヘアアレンジと化粧で30分くらい時間がかかったのに、並べられているお料理は全然冷めていなかった。
(これも保存魔法なのかな?)
『ですね。サービスワゴン自体に保存魔法がかけられているので、そこに乗っているお料理が冷めたり、温かくなったりしないようになってますね』
(便利だね)
料理を並べ終わると、アンナさんはすっと部屋の隅に移動した。
そこで、私が食べ終わるのを待つらしい。
(うーん、人に見られて食べるのって緊張するね)
『メイドや使用人はそれがお仕事ですから、仕方ありませんね』
(やっぱり私は一人でのんびり引きこもりたい)
『頑張って金稼ぎしましょうね』
(ですな…)
何だかんだと、自分のスキルを使ったりも出来ないし、早いところ一人と1匹?の旅を再開したいところだ。
勢いよくニガナを食べるライムを眺めつつ、ゆっくりと朝食をいただいた。
「しばらくしたらお迎えに上がりますので、それまでお寛ぎください」
食後のお茶を飲み終わると、アンナさんがそう言って部屋から出て行った。
いよいよ、私以外の召喚者と会うのかなー?
ていうか会って何話せばいいのかね?
そちらを見やると、そこには盛大に皺のよったワンピースを着た私が立っていた。
「あーやっちまった…」
思わず声を上げてしまった。
『マスターどうしましたか?』
(あるじ?)
「昨日、疲れすぎて爆睡しちゃったじゃん?その後もパジャマに着替えないで寝ちゃったから、子爵様が用意してくれたワンピースがしわくちゃになっちゃった…」
『あぁ…そういえばそうでしたね』
「お借りしてる物なのに、やっちまったなぁ…」
とはいえ、皺を伸ばす魔法なんて持ってないし、多分もうすぐアンナさんが起こしに来るから安全空間に入る時間も無い。
『とりあえず、別の服に着替えましょうか』
「うん。今日って子爵様にもお会いするんだよね…」
『そうですね、多分そうなると思います』
そうすると、昨日着ていたような男性用の服では失礼になりそうだ。
「ミルス様からいただいたあの服を着るしか無いか…」
私は、アイテムボックスからミルス様にいただいた服一式を引っ張り出して身に着けた。
着替えて髪を梳かし終わるころ、アンナさんが起こしに来てくれた。
お互いに挨拶を終えると、なぜかアンナさんがこちらを凝視している。
「あの…?」
顔に何かついていますか?と問いかけようと思った矢先、髪をいじらせてほしいと言い出した。
「お食事の前に、少し御髪を整えさせていただきますね!!」
「えッと…?」
「お召しになっているお洋服はとても似合っておりますが、御髪を整えればもっと素敵になりますので、さ、ドレッサーの前へ!!」
アンナさんの中の何かに火をつけてしまったらしく、グイグイとドレッサーの方へ追いやられ、あれよあれよという間に椅子に座らされてしまった。
いきなり動くわけにもいかず、とりあえずおとなしく髪をいじられているのだけど、アンナさんのキラキラした顔が眩しい。
『メイドさん、とても楽しそうですね』
(そうだね。私、昔から編み込みとか出来ないから、楽しそうにヘアアレンジ出来る人ってすごいなって思う)
『マスター、女子力なさそうですもんね』
(うるせー)
ナビと脳内でそんな会話をしている間に、私の髪は、アンナさんの手によって綺麗に結い上げられた。
しかし、アンナさんはそこで満足しなかったようで、バルコニーの近くに咲いていた花を髪の毛に飾っていった。
その時、何か呪文のような言葉をつぶやいていた。
『花が萎れないように、保存の魔法を使っていますね』
(そんな便利な魔法もあるんだね)
『効力は一日程度ですけどね。マスターのアイテムボックスには、保存魔法の最上位である時間停止がついてるでしょ』
(だって、あれは外に出てる物には使えないじゃん)
『じゃあ、後で魔法作ればいいと思いますよ?』
(確かに)
髪のアレンジ完成したようで、アンナさんは満足げに「よし!」とガッツポーズをした。
これで解放されるかな?と思っていたけど、まだ解放されないっぽい。
「ついでに軽くお化粧もさせていただきますね」
「えっ!?そこまでしなくても…」
アンナさんが鏡越しに、めっちゃ良い笑顔。
なんだろう、久々の獲物を逃がすわけねーだろ。っていう空気があるんですけど…。
「昨日は到着直後で仕方ありませんでしたが、お食事の後は子爵様にお会いしていただきますので、流石にすっぴんで。という訳には行かないのでございます…」
「そ、そうなんですね…」
「はい。そうなのです」
まあ、確かに貴族に会うって事で、私も多少なりとも服装には気を付けたし、髪の毛だけ綺麗にアレンジされてて、化粧してないって言うのもアンバランスだよね。
こうして、私はアンナさんに化粧を施された後、やっと朝食にありつけたのだった。
食卓の席に着くと、私は改めてアンナさんにお礼を言った。
こんな風に綺麗にヘアアレンジしたの、三年前くらい前に友人の結婚式に出席した時以来だったからね。
「アンナさん、ありがとうございます。私、髪型をいじるの苦手で…。いつも後ろで縛るかそのままだったので…こんなに綺麗に整えて貰えるのは久しぶりです」
「いえ、私もブロッサム様の綺麗な御髪を整える事が出来て嬉しく思います」
アンナさんはニコニコしながら、朝食をテーブルに並べていく。
不思議な事に、ヘアアレンジと化粧で30分くらい時間がかかったのに、並べられているお料理は全然冷めていなかった。
(これも保存魔法なのかな?)
『ですね。サービスワゴン自体に保存魔法がかけられているので、そこに乗っているお料理が冷めたり、温かくなったりしないようになってますね』
(便利だね)
料理を並べ終わると、アンナさんはすっと部屋の隅に移動した。
そこで、私が食べ終わるのを待つらしい。
(うーん、人に見られて食べるのって緊張するね)
『メイドや使用人はそれがお仕事ですから、仕方ありませんね』
(やっぱり私は一人でのんびり引きこもりたい)
『頑張って金稼ぎしましょうね』
(ですな…)
何だかんだと、自分のスキルを使ったりも出来ないし、早いところ一人と1匹?の旅を再開したいところだ。
勢いよくニガナを食べるライムを眺めつつ、ゆっくりと朝食をいただいた。
「しばらくしたらお迎えに上がりますので、それまでお寛ぎください」
食後のお茶を飲み終わると、アンナさんがそう言って部屋から出て行った。
いよいよ、私以外の召喚者と会うのかなー?
ていうか会って何話せばいいのかね?
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