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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅
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アンナさんが出ていって、1時間くらい経った頃、昨日屋敷に来た時に案内してくれた使用人の人が呼びに来た。
「ブロッサム様、これより子爵様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
いつまでもライムをカバンの中に入れているのもあれだし、腕に抱えてみた。
その様子を見た使用人は、既にアンナさんから聞いているようで、ライムを見ても何の反応もしなかった。
こうして私は、昨日とは別の応接室へ案内された。
そこには既に子爵様とバートの姿があった。バートは何やら目を見開いてこちらを見ている。顔に何かついてるかな?そして意外な事に、私と一緒に駅馬車に乗っていたフードの男がバートの後ろに立っていた。
「旦那様、ブロッサム様をお連れ致しました」
「ご苦労だった。下がって良いぞ」
使用人は頭を下げて、部屋から出て行った。
扉が閉まるのを確認してから、子爵様は改めて口を開いた。
「ブロッサムさん、昨日はゆっくりお休みできましたか?」
「おかげさまで、ゆっくりできました。ありがとうございます」
「それは良かった。ではこちらの席にかけてください」
示された席は、子爵様と向かい合う椅子だった。
私の席の左手にはバートが座り、その後ろにフードの男がそっと控えている。
「はい…」
「昨日、メイドのアンナから聞きましたが、確かにあなたの従魔はスモールスライムのようですね」
「ちょっとまて、お前そんなもん持ってたのか?確かに何か変な気配がずっとしてると思ってたが…」
バートが驚いたように声を上げた。
まあ、ずっと隠れてたし。
「カバンの中に隠れて貰ってた」
つか、子爵様の言葉遮っていいんかね?
「おや、バート殿が気が付いていなかったとは、よほど隠れるのが上手な個体なのでしょう」
「そうなんでしょうか?スモールスライムは希少種で知能が高いとは聞きましたが…」
「確かに、スモールスライムはジュエルスライムに進化しますので、各国が血眼になって探しています」
「やはり人目に付かないようにした方が良いんでしょうか?」
「そうですね、別の種に進化するまではなるべく人目に付かないようにしていた方が良いかもしれません」
「進化ですか…?」
「ええ、ジュエルスライムはスモールスライムからしか進化しませんので、別の属性のスライムになってしまえば欲しがる人間もいなくなるでしょう」
「なるほど…ありがとうございます」
「いえいえ、それでは本題に入りましょうか」
「あ、はい」
本題って、やっぱり私が召喚者だって事の話かな。と思っていたんだけど、ちょっとだけ違った。
「駅馬車の襲撃についての顛末です」
「それは俺から話そう」
どうやらバートが話すらしい。子爵様の役目じゃないのそれ。
「とりあえず先に、俺の部下を紹介しておく。ウッド・ブラックだ」
「初めましてでは無いけど、ウッドでーす。一応金上級の冒険者。よろしくな嬢ちゃん」
ウッドはそう名乗ると目深に被ったフードを外した。
細目でボサボサ頭、頬に傷のある、なんというかまさに盗賊の様な顔があった。
人は見た目では無いけど、ちょっとびっくりした。
『マスター、金の上級って冒険者の中では一番上位の等級です』
(まじか)
「あ、ブロッサムです。よろしくお願いします?」
良く解らないけど、とりあえず挨拶し返してみた。
ていうか、冒険者なのに部下?
「こいつの事はとりあえず後で説明するが、襲撃事件の犯人たちは黒髑髏の一味だった。こいつらはこのラオッタからザラック、さらに国境を越えて隣国でも悪さをしている奴らなんだ」
「結構大きい組織なんですね」
「ああ。でだ、その黒髑髏のメンバーの一人が、お前たちが嵐の時に泊まっていた駅舎の職員に紛れ込んでいたんだ」
「そうだったんですか…」
すみません、私はてっきりウッドさんが黒髑髏の仲間だと思ってました!とは言えないよね…。
「あの駅は王都から来る馬車もザラックから来る馬車も馬の交換に止まる駅なんだが、そこでスプリット渓谷を抜ける馬車の乗客の情報を流して、街道で襲撃するという事をしていたようだ」
「それって、結構前からやってる手口何ですか?」
「ああ。年に数度はそこで襲撃が起こっていた。ラオッタの警備隊が警備にあたってはいたが、あいつらも馬鹿じゃない。同じ場所で何度も襲撃をせず色々な場所で襲撃するせいで出没する位置が掴みにくく、ラオッタの警備隊も、辺境伯の率いる警備隊もなかなか取り締まれなかったんだ」
「なるほど…いわゆる神出鬼没の盗賊団ってやつですか」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、バートさんは何で黒の森に居たんですか?なんか物凄くタイミングが良かったですが…」
「たまたまここに泊まっていて、嵐の後、森の見回りをしていたんだ」
バートは王都からザラックへ戻る途中、王家を仲介しない新たなポーション売買の契約を結ぶ為にラオッタに滞在したいたのだが、あの嵐で足止めを食らってしまい、嵐のおさまった翌日からラオッタ周辺の被害状況を確認する為に見回りを手伝っていたところ、黒の森の中で盗賊に襲われている馬車を見つけて部下たちと一緒に助太刀した。という事らしい。
「なるほど。それは助かりました。あそこで来てくれなかったら、私殺されてましたから…」
刃を振り下ろされる恐怖が思い出され、ぶるりと身を震わせた。
「ああ、間に合って良かった。これ以降の盗賊の討伐は、ガイドーン子爵様とビルヘルム辺境伯の討伐隊で行う事になる」
「冒険者ギルドは関与しないんですか?」
「今回はたまたま俺が見つけたからギルド主導で動いたが、俺たちは魔物や魔獣を狩るのが仕事であって人間相手の仕事は騎士や警備隊の役目さ」
「その通りです。あとは我々の仕事です。ビルヘルム卿と共にこの周辺の輩を一掃しますよ」
ニコリと笑う子爵様はちょっとだけ怖かった。
「さて、私の要件は以上です。この後はブロッサム様にお会いしたいという方がそろそろ来るはずです…」
子爵様がそう言うと、タイミング良く、扉がノックされた。
一体だれが来るのかな?
「ブロッサム様、これより子爵様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
いつまでもライムをカバンの中に入れているのもあれだし、腕に抱えてみた。
その様子を見た使用人は、既にアンナさんから聞いているようで、ライムを見ても何の反応もしなかった。
こうして私は、昨日とは別の応接室へ案内された。
そこには既に子爵様とバートの姿があった。バートは何やら目を見開いてこちらを見ている。顔に何かついてるかな?そして意外な事に、私と一緒に駅馬車に乗っていたフードの男がバートの後ろに立っていた。
「旦那様、ブロッサム様をお連れ致しました」
「ご苦労だった。下がって良いぞ」
使用人は頭を下げて、部屋から出て行った。
扉が閉まるのを確認してから、子爵様は改めて口を開いた。
「ブロッサムさん、昨日はゆっくりお休みできましたか?」
「おかげさまで、ゆっくりできました。ありがとうございます」
「それは良かった。ではこちらの席にかけてください」
示された席は、子爵様と向かい合う椅子だった。
私の席の左手にはバートが座り、その後ろにフードの男がそっと控えている。
「はい…」
「昨日、メイドのアンナから聞きましたが、確かにあなたの従魔はスモールスライムのようですね」
「ちょっとまて、お前そんなもん持ってたのか?確かに何か変な気配がずっとしてると思ってたが…」
バートが驚いたように声を上げた。
まあ、ずっと隠れてたし。
「カバンの中に隠れて貰ってた」
つか、子爵様の言葉遮っていいんかね?
「おや、バート殿が気が付いていなかったとは、よほど隠れるのが上手な個体なのでしょう」
「そうなんでしょうか?スモールスライムは希少種で知能が高いとは聞きましたが…」
「確かに、スモールスライムはジュエルスライムに進化しますので、各国が血眼になって探しています」
「やはり人目に付かないようにした方が良いんでしょうか?」
「そうですね、別の種に進化するまではなるべく人目に付かないようにしていた方が良いかもしれません」
「進化ですか…?」
「ええ、ジュエルスライムはスモールスライムからしか進化しませんので、別の属性のスライムになってしまえば欲しがる人間もいなくなるでしょう」
「なるほど…ありがとうございます」
「いえいえ、それでは本題に入りましょうか」
「あ、はい」
本題って、やっぱり私が召喚者だって事の話かな。と思っていたんだけど、ちょっとだけ違った。
「駅馬車の襲撃についての顛末です」
「それは俺から話そう」
どうやらバートが話すらしい。子爵様の役目じゃないのそれ。
「とりあえず先に、俺の部下を紹介しておく。ウッド・ブラックだ」
「初めましてでは無いけど、ウッドでーす。一応金上級の冒険者。よろしくな嬢ちゃん」
ウッドはそう名乗ると目深に被ったフードを外した。
細目でボサボサ頭、頬に傷のある、なんというかまさに盗賊の様な顔があった。
人は見た目では無いけど、ちょっとびっくりした。
『マスター、金の上級って冒険者の中では一番上位の等級です』
(まじか)
「あ、ブロッサムです。よろしくお願いします?」
良く解らないけど、とりあえず挨拶し返してみた。
ていうか、冒険者なのに部下?
「こいつの事はとりあえず後で説明するが、襲撃事件の犯人たちは黒髑髏の一味だった。こいつらはこのラオッタからザラック、さらに国境を越えて隣国でも悪さをしている奴らなんだ」
「結構大きい組織なんですね」
「ああ。でだ、その黒髑髏のメンバーの一人が、お前たちが嵐の時に泊まっていた駅舎の職員に紛れ込んでいたんだ」
「そうだったんですか…」
すみません、私はてっきりウッドさんが黒髑髏の仲間だと思ってました!とは言えないよね…。
「あの駅は王都から来る馬車もザラックから来る馬車も馬の交換に止まる駅なんだが、そこでスプリット渓谷を抜ける馬車の乗客の情報を流して、街道で襲撃するという事をしていたようだ」
「それって、結構前からやってる手口何ですか?」
「ああ。年に数度はそこで襲撃が起こっていた。ラオッタの警備隊が警備にあたってはいたが、あいつらも馬鹿じゃない。同じ場所で何度も襲撃をせず色々な場所で襲撃するせいで出没する位置が掴みにくく、ラオッタの警備隊も、辺境伯の率いる警備隊もなかなか取り締まれなかったんだ」
「なるほど…いわゆる神出鬼没の盗賊団ってやつですか」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、バートさんは何で黒の森に居たんですか?なんか物凄くタイミングが良かったですが…」
「たまたまここに泊まっていて、嵐の後、森の見回りをしていたんだ」
バートは王都からザラックへ戻る途中、王家を仲介しない新たなポーション売買の契約を結ぶ為にラオッタに滞在したいたのだが、あの嵐で足止めを食らってしまい、嵐のおさまった翌日からラオッタ周辺の被害状況を確認する為に見回りを手伝っていたところ、黒の森の中で盗賊に襲われている馬車を見つけて部下たちと一緒に助太刀した。という事らしい。
「なるほど。それは助かりました。あそこで来てくれなかったら、私殺されてましたから…」
刃を振り下ろされる恐怖が思い出され、ぶるりと身を震わせた。
「ああ、間に合って良かった。これ以降の盗賊の討伐は、ガイドーン子爵様とビルヘルム辺境伯の討伐隊で行う事になる」
「冒険者ギルドは関与しないんですか?」
「今回はたまたま俺が見つけたからギルド主導で動いたが、俺たちは魔物や魔獣を狩るのが仕事であって人間相手の仕事は騎士や警備隊の役目さ」
「その通りです。あとは我々の仕事です。ビルヘルム卿と共にこの周辺の輩を一掃しますよ」
ニコリと笑う子爵様はちょっとだけ怖かった。
「さて、私の要件は以上です。この後はブロッサム様にお会いしたいという方がそろそろ来るはずです…」
子爵様がそう言うと、タイミング良く、扉がノックされた。
一体だれが来るのかな?
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