私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

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森の中で一夜を明かした私達は、朝食をとると再び移動を開始した。
車内では、後ろの方で冒険者たちが交代で仮眠を取っている。

4人で夜の警戒もしなければならいし、薄暗く、見通しの悪い森の中での護衛は気を遣うだろう。
流石に、リムさんと気軽に喋れるような雰囲気ではない。

今日もまた、倒木をどけながら荒れた道を進んでいった。

「こりゃぁ、今日も森で泊まらないと厳しいな…」

休憩中、御者さんがそう呟いていた。
それほどまでにどかす倒木が多いのだ。

『マスター、この倒木の多さは少し不自然です』
(どういうこと?)

『この辺りは森の奥ですし斜面でもありませんから、一昨日の嵐が強かったとしても、背の低い木がここまで大量に折れるようには思えません。どれも枯れ木ではありませんでしたし…』

(確かに…)

言われてみればそうだ。折れるなら背の高い木が先のような気がする。

『もしかしたら野盗か何かの襲撃があるかもしれません』
(ちょっとリムさん達に言ってくるわ)

私はコソコソとリムさんに、倒木の多さや不自然さを伝えた。

「私達も不自然だと話していたところなの。枝に縄をかけて無理矢理引き倒したのかもしれないわ。もし襲撃が来たら馬車の扉に鍵をかけてジッとしててね」
「はい、わかりました」

休憩が終わり、馬車は再び走り出した。

(あるじ、てき、くる?)
(かも知れない。ライムは戦える?)

(とびつく、できる。でも、それだけ)
『ライムは生まれたばかりですから力は殆どありません。不意打ちで顔に張り付いて窒息させるか皮膚を少し溶かす程度が限界です』

(それはそれで強いと思うけど…)

(あるじ、あぶない、あう、たすける)
(ありがとうライム、その時はお願いね)

私は地図スキルを使って、周辺の情報を見る事にした。
すると、私達の馬車の後方から誰かが付けて来ているのがわかった。

(後ろから誰かが尾行してるね…)
『やはり野盗の類でしょうかね』

(多分ね…)

しかし、野盗たちの襲撃は中々やってこない。
相変わらず、一定の距離を保ったまま追いかけてくる奴しか地図には表示されていない。

(この尾行、嫌だなぁ…人なのか魔物なのかもわからないよ…)

襲撃を警戒して、昼食はパンと果物を馬車の中でいただいた。
我が儘娘は、何でこんな貧相な夕食なのよっ!と憤慨していたが、母と祖母に窘められて、しぶしぶ口に運んでいた。

その後も馬車は走り続けた。
この辺りは、道の状況も良く結構な速さで走ることが出来ている。
御者さんも、上手く行けば今夜中にラオッタに到着できるかも知れないと言っていた。

しかし、そう順調にはいかなかった。

またもや道を塞ぐように、倒木が横たわっていたのだ。
しかも、今までの倒木より数倍太い木だった。

「これは全員でやらないとどかせないぞ…」

流石に冒険者4人と御者だけではどかせない為、我が儘娘と高齢の祖母以外の全員でどかす事にした。
8人がかりで何とか道の端にどかすと、ほっと一息ついた。

その時、両脇の茂みから男たちが飛び出てきた。

「男は殺せ!!女は捕まえるんだ!!」

「なっ!!敵襲か!!」

気を抜いた瞬間を狙われた私たちは、反応が一瞬遅れた。
この大きな倒木は、やつらの罠だったのだ。

「ぐあっ!!」

御者さんが切りつけられ倒れた。

「御者さん!!」
「ブロッサムちゃん、馬車に隠れてて!!」

「でも!」
「あなた戦えないでしょ!早く隠れて!!」

リムさんの言葉に、私は馬車の方へ走り出した。

馬車へ近づくと、馬車の扉が開け放たれていた。
「いやー!!離して!!離してってばぁ!!」
中から、少女の声が聞こえる。

(まずい!!)

中に飛び込むと、そこには床に倒れているお婆さんと、男に手を引っ張られて必死に抵抗している少女がいた。

(ライム!その男の顔に飛びついて!!)
(しょうち)

ライムはカバンから飛び出ると、男の目の辺りにへばりついた。

「うお!!くっそ!!何だこれ!?離れろ!!」

ライムが男の顔に飛びつくと、驚いた男は掴んでいた少女の腕を離した。
張り付いたライムを剥がそうとするが中々できない。


ライムを男に引き剥がそうとしている男正面に回り込んで、私は思い切り体当たりをした。

「うお!!」

男は勢いよく吹き飛び、馬車の後方で頭を打って動かなくなった。

死んだ…?
いや、息してるから気絶しただけか。

(ライム!大丈夫?)
(だいじょぶ)
(良かった…ありがとうね。カバンの中で休んでて)

ライムをカバンの中に入れると、私は少女とお婆さんのもとへ駆け寄った。

「大丈夫ですか?」
「ああ…ありがとうございます…大丈夫です…」

お婆さんは顔に殴られた跡があったけど、何とか大丈夫のようだ。
治癒のポーションを手渡し、飲んでもらった。
すると、赤く腫れていたお婆さんの頬が綺麗になった。

「もっと早く助けに来なさいよ!!」

少女はこんな時でもこんな感じだ。

「私はただの一般人、今のだってたまたま撃退できただけよ。あなたはお婆さんを見てて!」

私はそう言って、手早く前方の扉や窓に閂を掛ける。
後方でのびている男をデッキから何とか外に放り出し、再び車内へ戻ろうとした時だった。

『マスター!!後ろ!!』

ナビの悲鳴のような叫び声が聞こえた。
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