私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

文字の大きさ
上 下
66 / 89
【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

057

しおりを挟む
翌朝、5時半ごろにやっと馬車が止まった。

初めての馬車の旅、流石に熟睡は出来なかった。
ウトウトしていても、時折踏む石の衝撃で目を覚ましてしまう。

(あんまり眠れんかった…)
『まだ1日目です。ファイトですマスター』

ナビからの無慈悲な応援。

車内で護衛をしていた冒険者の人が、そっと外に出て行った。
暫くすると、外から火を起こす音や朝食を準備する音が聞こえてきた。

他の乗客はまだ寝ているみたい。
私は、物音を立てないように馬車から出た。

「うーん、背中が痛い…」

ぐぐぐと伸びをすると、バキバキと音が聞こえそうなくらい背中がこわばってしまっていた。

『おはようございますマスター。眠そうですが大丈夫ですか?』
(おはようナビさん。うん、眠いけど、ちょっと外の空気が吸いたくてね)

辺りを見回すと、朝霧に覆われていて10メートル先も見えない感じだったけど、どうやら草原の真ん中に設置された駅らしい。

駅の職員の人は馬を馬車から外し、囲いの中に放してやっていた。
御者さんは、大きな樫の木の横にある炊事場で料理をしている。

外套に霧が付いてびしょびしょになってしまったが、ひんやりと澄んだ空気が美味しい。
濡れた外套は後でドライの魔法をかければ問題無いだろう。

(なんか、どっかの高原に居るみたいだわ)
『ここはグラム国最大の穀倉地帯でもあるグラス平原です』

(草原だけにグラスってか…)
『……』

ナビさんが無反応なので、私はマップを開いてみた。
寝ている間の数時間で、そこそこ距離を移動したみたいで、地図の縮尺が大きくなっている。
とはいえ、街道を真っすぐ移動してきただけだから、白地図の上に色の付いた線が描かれてるような感じになってる。

(ナビさん、地図作成っていうスキルはさ、マッピングの距離って広くならないの?)
『レベル表記が無いので多分そのままじゃないでしょうかね?』

(うーん。やっぱり自分で歩き回るしかないか)
『観光しながら地図埋めしていきましょう』
(そうだね)

このグラス平原は、グラム王国の実に三分の1を占めるくらい広いそうで、標高は800メートルから1200メートルと起伏のある土地らしい。

それぞれの気候に応じて、小麦や蕎麦、野菜、綿花などを栽培し、平原に隣接する森林地帯では馬やフォレストシープ、フォレストタインと呼ばれる乳牛の放牧などをしているんだってさ。

『マスター、ここら辺は結構薬草が生えてるっぽいので鑑定の練習も兼ねて探してみませんか?』
(お、それいいね!!)

今の所、ニガナしか薬草を知らないもんね。
ザラックで冒険者やるんだから、薬草くらいはちゃんと知っておかないとだ。

それに、鑑定はLvが付いていないけど熟練度という物があるって言ってたから、今後の為に腕を上げておかないとね。

私は周辺の植物をひたすらに鑑定する。
意外と普通に、足元に生えている草が毒草だったりするのでびっくりする。

薬になるようなものは、鑑定に書かれている説明や、ナビのアドバイスに従って採取した。
しかし、ニガナはここまでの道のりでは見つける事が出来なかった。

(ナビさん、ニガナって結構珍しい薬草なの?)
『いいえ、どこにでもある雑草レベルの植物です。この一帯は草食動物が多いので彼らが食べているのだと思います。ポーションの材料になる薬草ではありますが、彼等にとっても栄養価の高いごちそうですから』

(なるほど)

こうして私は、リムさんが朝食だと呼びに来るまで足元に生えている植物を片っ端から鑑定したのだった。


「ブロッサムちゃんおはよう!朝食の準備が出来たよー!!」

20メートルくらい後ろの方でリムさんの呼ぶ声が聞こえる。

「あ、リムさんおはようございますー!!」

気が付けばあたりの霧も綺麗に晴れて、なだらかな丘陵が遠くまで続いている。
私は小走りでリムさんの方へ向かった。

「昨日はよく眠れた?」
「実はあんまり眠れませんでした…振動がなかなかキツイですね」

「あははー、初めて馬車に乗る人はそう言うね。完全に横になるんじゃなくて、上半身を少し高くして寝るとマシになるよ」

「そうなんですね、今晩はそうしてみます」

私とリムさんは、ゆっくと駅の方へ歩いて行った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...