私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

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はるにれ亭で昼食をご馳走になった後、私は夕方まで王都の中をブラブラと観光していた。

魔道具店では、私が所持しているアイテムボックススキルと同じ効果を持つカバンなどが売っていたが、保管数が30個で時間停止が付いていない物でも三千万ミルスと恐ろしく高価な物だった事がわかったりした。

「いやぁ…容量無制限で時間停止が付いてる私のスキルはやべぇですね」
『何を今更言ってるんですか』

他にもいろいろなお店を見て回ていると、あっという間に時間が過ぎ駅馬車の出発時刻の30分前になった。
駅馬車の乗り場に着くと、この前来た受付の所でザラック行の馬車の受付が始まっていた。

「すみません、私もこの馬車に乗ります」
「では割符のご提示をお願いします」

「はい」

私は割符を手渡す。
受付の人が割符の片割れを合わせた。
カチリと割れ目が綺麗にくっついて一つになった。

どんな原理なんだろう?磁石みたいな感じかな?

「はい、確認いたしました。ではこの割符をあの奥の青い屋根の馬車に居る御者へ渡してください」
「わかりました」

私は符を受け取ると言われた通り青い屋根の馬車へ向かった。

そこには、御者と思われる老人と、武装した男女が4人いた。
「すみません、この馬車に乗ります」
「符を渡してくれるかい?」

私は係りの人に符を手渡した。

「確認しました。今回の乗客はお客様を含めて6人です。荷台に載せる荷物はございますか?」
「いえ、有りません」
「それでは、お好きな席に座ってください。2時間程走りましたら一度休憩になります」
「わかりました。五日間よろしくお願いします」

私はぺこりと御者さんと護衛の冒険者たちに頭を下げた。

「こちらこそご利用りがとうございます。最近は治安も良く、こちらの冒険者の方達が護衛してくれますので、安心してください」
「しっかり護衛するからまかしときな!!」

馬車は後ろ側についているオープンデッキから乗る仕組みになっているようで、梯子がかけられていた。
中に入ると馬車の両側に対面するような感じで革張りされた長椅子が設置されている。

天井からロープが垂れ下がっている。
もしかして、揺れが酷い時とかに掴まるのかな…?

あと、トイレは付いていないから、差し迫った場合は御者さんに声を掛けなければいけないようだ。

両側には大きな窓が付けられていて閉塞感は無かった。電車の椅子みたいな感じかな。
その椅子には既に5人の客が座っていた。

奥に座っている4人はどうやら家族の様で、左側にはお婆ちゃんと女の子、右側には若い夫婦が座っていて、仲良く会話をしていた。身綺麗な格好をしているから、そこそこ富裕層っぽい。

もう一人は、外套のフードを目深にかぶり右側の真ん中より後ろ辺りに座っていた。
顔は見えないが、背格好からすると男の様だ。やけにボロボロのブーツを履いている。

私は左側の一番後ろの席に座った。
ここなら、遠ざかっていく景色が良く見えそうだったから。

「出立の手続きが終わり次第出発しますので、乗客の皆様はご準備ください」
御者さんのアナウンスが聞こえてきた。

それと同時に、車内に設置されているランプに明かりが灯った。
大きい窓があるとはいえ夕暮れに近い時間帯で薄暗かった車内が明るくなった。

遠隔操作で明かりをつけられるのか、凄いな。

『マスター、酔い止めをお飲みになった方が良いのでは?』
(あ、そうだね。馬車がどれだけ揺れるかわからないしね)

私はバックから水袋と酔い止めの丸薬を取り出し一粒飲んだ。

少しすると、オープンデッキに三人の冒険者が乗り込み、梯子を外した。
そして、三人のうちの一人、女性の冒険者が馬車の中に入ってきてデッキの間にある扉を閉じてしまった。

「今日は私が車内の護衛に付きますのでよろしくお願いしますー。冒険者のリムって言います」

リムさんはそう挨拶をすると、私と対面する席に座った。
冒険者たちは、御者の横に一人、中に一人、後ろのデッキに2人の体制で護衛をするようだ。

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