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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅
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エルザさんの店を出ると、まだお昼には早い時間帯だった。
私はとりあえず西の教会に行ってみる事にした。
教会は、高い鐘楼が目印だ。この鐘が開門と閉門の時間を知らせているんだよね。
他の東と南の教会でも同じように鐘を鳴らしているらしいけど、時計も無いのにどうやって合わせてるんだろう?
ちなみに、北側にも教会はあるけど、ここは死者を弔う時にしか鐘を鳴らさないらしい。
そんな事を考えながら歩いていると教会へたどり着いた。
教会は、白っぽい石を使った荘厳な建物だった。
細く尖った尖塔が二つあり、正面には綺麗な薔薇窓がある。
確か、こんな感じの建物は…ゴシック様式とか言った気がする。
「うわお…すごい立派だし綺麗…」
『二百年くらい前に異世界から来た青い瞳の賢者様によって建築されたらしいですよ。どうやらマスターとは別の国の人だったようですね』
なるほど。召喚される人間は何もニホンからだけとは限らないのか。
「とりあえず中に入ってみよう!」
教会の中に入ると、やはり柱や天井にも細かい装飾が施されている。
奥には祭壇があり、5つの石像が並べられている。
あれがミルス様たちの姿なのかな。遠くてよく見えない。
「教会へようこそ。旅の方」
入ってすぐに、30代くらいのシスターが声をかけてきた。
「えっと、ここでは子供たちに読み書きを教えていると聞きまして、少し見学しても良いでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
するとシスターは一度教会の外に出て、横に立っている建物の方へ歩いて行った。
教会の横の建物が学校になっているようだ。
「今日はちょうどイザベル様も来ていらっしゃるんですよ」
「えっと、この取り組みを始めた御令嬢の方ですか?」
「そうです!イザベル様は第二王子であるアルトラン殿下の婚約者なのです。子供たちには等しく教育を受ける権利がある。と申されましてはじめた事なのです」
「そうなんですか、素晴らしい方なんですね」
「こちらの部屋で子供たちが勉強をしています」
シスターが案内してくれた部屋は扉が開け放たれていて、中では小学生くらいの子供たちが紙に書かれた問題を懸命に解いていた。その中には、アコットちゃんの姿もあった。
その奥には、優しい笑みを浮かべた品の良い少女が座っていた。
あの子がイザベル様だろう。
「みんな頑張ってますね」
「ええ、本来は孤児たちの為にと始めた取り組みだったのですが、街の子供たちも習いたいという声が大きくなりまして、孤児たちの勉強の日とは分けて、物置小屋を改装したここで週に2日だけ午前中に街の子供たちも受け入れているのです」
そっか、本来は孤児の為の取り組みだったのか。
孤児の子達だって、いつまでもここに居られる訳じゃないもんね。自分の力で食っていかなきゃならない。
「文字が読める書ける、計算が出来る。というだけで仕事の幅が広がりますもんね」
「ええ、その通りです。おかげでこの街の孤児たちは、今では色々なお店に雇っていただけるようになったんです」
初めてのお給料を孤児院に寄付してくれる子までいるんですよ。とシスターは嬉しそうに話してくれた。
この国の学校制度ってどうなってるのかな…リカルドさんも余裕が無くて通わせてやれないって言っていたし、学費が高いのかな。
そんな事を考えて居ると、チリンチリンと鈴の音が鳴った。
どうやら授業が終わった合図の様で、問題を解いていた子達が一斉に騒がしくなった。
「皆さん今日もよく頑張りましたね。今やったテストは次の授業までに採点しますから、私に渡してちょうだいね」
先ほど微笑んでいたイザベラ嬢が、子供たちに声をかけた。
子供たちは、イザベラ嬢に紙を手渡すと足早に教室から出て行った。
「イザベラ様!また来てくださいね!!俺、もっと勉強頑張りますから!!」
「僕も勉強頑張ります!!」
「ふふふ、皆さん頑張ってくださいね。でも、お父様お母様のお手伝いもしっかりするんですよ」
「はーい!!」
イザベラ嬢と子供たちのやり取りを見ていたシスターがぽつりとつぶやいた。
「街の子供たちは、これから家の手伝いに行かなければいけないのです。ここに居る子供の大半は、貴重な労働の時間を削ってここに来ているのです」
この世界の子供たちは学ぶことも遊ぶことも、思うまま好きには出来ないのだろう。
「子供たちにはもっとのびのびと生きてほしいですね…」
「きっと第二王子妃となられたイザベラ様が変えてくださると思っております」
「そうですね」
貴族様の事は良く解らないけど、アコットちゃん達が生きやすい国になってくれると良いなとは思った。
「それでは私は教会の方へ戻りますので失礼しますね」
「ここまで案内していただいてありがとうございました」
歩き去るシスターを見送っていたら、イザベラ嬢にテストを渡し終わったアコットちゃんがこちらに気が付いて歩いてきた。
アコットちゃんに軽く手を挙げて挨拶をする。
「ブロッサムさん!」
「朝起きたらもう出かけたって聞いたから来ちゃったよ」
ニホンの小学生達も7時とか7時半とかに家を出ていたけど、こちらも同じような感じなのかね。
「そうだったんですね、もうしばらく会えないと思っていたので嬉しいです!!」
「そういって貰えるとこっちも嬉しいな。そういえば、テスト頑張ってたね」
「はい!今回は自信があります!」
「そっかー、結果を知れないのは残念だなぁ…」
私とアコットちゃんは建物から出て、はるにれ亭へ歩きながら話をした。
「ブロッサムさん、出発は夕方でしたっけ?」
「うん、そうだよ」
「夕方は危ないからお見送りに行けないなぁ…」
「別に見送りなんてしなくて良いよ。ザラックに着いたら手紙書くからさ」
「本当ですか!楽しみにしてますね!!」
そんな事を話していると、あっという間にはるにれ亭に到着してした。
宿の中へ入ると、リカルドさんとアイシャさんにお昼に誘われてしまった。
「良いんですか?」
「おう。昨日の騒動で助けてもらったしな」
「ブロッサムさん、一緒にお昼食べましょう!!」
アコットちゃんに誘われてしまっては断れない。
「ではお言葉に甘えて…」
こうして私は、リカルドさん一家と楽しく昼食の時間を過ごし、教会でお祈りしようと思っていた事はすっかり忘れていたのだった。
私はとりあえず西の教会に行ってみる事にした。
教会は、高い鐘楼が目印だ。この鐘が開門と閉門の時間を知らせているんだよね。
他の東と南の教会でも同じように鐘を鳴らしているらしいけど、時計も無いのにどうやって合わせてるんだろう?
ちなみに、北側にも教会はあるけど、ここは死者を弔う時にしか鐘を鳴らさないらしい。
そんな事を考えながら歩いていると教会へたどり着いた。
教会は、白っぽい石を使った荘厳な建物だった。
細く尖った尖塔が二つあり、正面には綺麗な薔薇窓がある。
確か、こんな感じの建物は…ゴシック様式とか言った気がする。
「うわお…すごい立派だし綺麗…」
『二百年くらい前に異世界から来た青い瞳の賢者様によって建築されたらしいですよ。どうやらマスターとは別の国の人だったようですね』
なるほど。召喚される人間は何もニホンからだけとは限らないのか。
「とりあえず中に入ってみよう!」
教会の中に入ると、やはり柱や天井にも細かい装飾が施されている。
奥には祭壇があり、5つの石像が並べられている。
あれがミルス様たちの姿なのかな。遠くてよく見えない。
「教会へようこそ。旅の方」
入ってすぐに、30代くらいのシスターが声をかけてきた。
「えっと、ここでは子供たちに読み書きを教えていると聞きまして、少し見学しても良いでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
するとシスターは一度教会の外に出て、横に立っている建物の方へ歩いて行った。
教会の横の建物が学校になっているようだ。
「今日はちょうどイザベル様も来ていらっしゃるんですよ」
「えっと、この取り組みを始めた御令嬢の方ですか?」
「そうです!イザベル様は第二王子であるアルトラン殿下の婚約者なのです。子供たちには等しく教育を受ける権利がある。と申されましてはじめた事なのです」
「そうなんですか、素晴らしい方なんですね」
「こちらの部屋で子供たちが勉強をしています」
シスターが案内してくれた部屋は扉が開け放たれていて、中では小学生くらいの子供たちが紙に書かれた問題を懸命に解いていた。その中には、アコットちゃんの姿もあった。
その奥には、優しい笑みを浮かべた品の良い少女が座っていた。
あの子がイザベル様だろう。
「みんな頑張ってますね」
「ええ、本来は孤児たちの為にと始めた取り組みだったのですが、街の子供たちも習いたいという声が大きくなりまして、孤児たちの勉強の日とは分けて、物置小屋を改装したここで週に2日だけ午前中に街の子供たちも受け入れているのです」
そっか、本来は孤児の為の取り組みだったのか。
孤児の子達だって、いつまでもここに居られる訳じゃないもんね。自分の力で食っていかなきゃならない。
「文字が読める書ける、計算が出来る。というだけで仕事の幅が広がりますもんね」
「ええ、その通りです。おかげでこの街の孤児たちは、今では色々なお店に雇っていただけるようになったんです」
初めてのお給料を孤児院に寄付してくれる子までいるんですよ。とシスターは嬉しそうに話してくれた。
この国の学校制度ってどうなってるのかな…リカルドさんも余裕が無くて通わせてやれないって言っていたし、学費が高いのかな。
そんな事を考えて居ると、チリンチリンと鈴の音が鳴った。
どうやら授業が終わった合図の様で、問題を解いていた子達が一斉に騒がしくなった。
「皆さん今日もよく頑張りましたね。今やったテストは次の授業までに採点しますから、私に渡してちょうだいね」
先ほど微笑んでいたイザベラ嬢が、子供たちに声をかけた。
子供たちは、イザベラ嬢に紙を手渡すと足早に教室から出て行った。
「イザベラ様!また来てくださいね!!俺、もっと勉強頑張りますから!!」
「僕も勉強頑張ります!!」
「ふふふ、皆さん頑張ってくださいね。でも、お父様お母様のお手伝いもしっかりするんですよ」
「はーい!!」
イザベラ嬢と子供たちのやり取りを見ていたシスターがぽつりとつぶやいた。
「街の子供たちは、これから家の手伝いに行かなければいけないのです。ここに居る子供の大半は、貴重な労働の時間を削ってここに来ているのです」
この世界の子供たちは学ぶことも遊ぶことも、思うまま好きには出来ないのだろう。
「子供たちにはもっとのびのびと生きてほしいですね…」
「きっと第二王子妃となられたイザベラ様が変えてくださると思っております」
「そうですね」
貴族様の事は良く解らないけど、アコットちゃん達が生きやすい国になってくれると良いなとは思った。
「それでは私は教会の方へ戻りますので失礼しますね」
「ここまで案内していただいてありがとうございました」
歩き去るシスターを見送っていたら、イザベラ嬢にテストを渡し終わったアコットちゃんがこちらに気が付いて歩いてきた。
アコットちゃんに軽く手を挙げて挨拶をする。
「ブロッサムさん!」
「朝起きたらもう出かけたって聞いたから来ちゃったよ」
ニホンの小学生達も7時とか7時半とかに家を出ていたけど、こちらも同じような感じなのかね。
「そうだったんですね、もうしばらく会えないと思っていたので嬉しいです!!」
「そういって貰えるとこっちも嬉しいな。そういえば、テスト頑張ってたね」
「はい!今回は自信があります!」
「そっかー、結果を知れないのは残念だなぁ…」
私とアコットちゃんは建物から出て、はるにれ亭へ歩きながら話をした。
「ブロッサムさん、出発は夕方でしたっけ?」
「うん、そうだよ」
「夕方は危ないからお見送りに行けないなぁ…」
「別に見送りなんてしなくて良いよ。ザラックに着いたら手紙書くからさ」
「本当ですか!楽しみにしてますね!!」
そんな事を話していると、あっという間にはるにれ亭に到着してした。
宿の中へ入ると、リカルドさんとアイシャさんにお昼に誘われてしまった。
「良いんですか?」
「おう。昨日の騒動で助けてもらったしな」
「ブロッサムさん、一緒にお昼食べましょう!!」
アコットちゃんに誘われてしまっては断れない。
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