私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第三章.自分のスキルを確認するまでが長い

閑話3:逃亡者(後)

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ピーターさんが考えた脱出計画はこうだ。

元々バートさんに渡すはずだったポーションが入った木箱を一つ増やして、そこに私が入る。
そして、そのまま冒険者ギルドまで運んでもらう。というシンプルもシンプルな方法だった。

この城は入ってくる物品には厳しいチェックが入るが、出ていくものに関してはザルだそうで、私が居なくなった事もまだ発覚いないだろうから簡単に行けるだろうとの事だ。

「なるほど、この嬢ちゃんを荷物に紛れさせて外まで運ぶってわけか」
「はい、ヤエザキ様には窮屈な思いをさせてしまいますが、これなら確実に城の外へでられますから…」

冒険者ギルドに着いたら、ピーターさんが迎えに来るらしい。
元々ピーターさんは今日この城を辞して、そのまま自分の家の領地へ帰る予定らしく、箱から出たらそちらの馬車に乗り換えるんだってさ。

領地へ着いたら、適当な戸籍を作り別人として好きに生きればいいと言ってくれた。
その為の知識やお金なども援助すると。

「ピーターさんは何でそんなに親切にしてくれるんですか?」

「…私は昔、貴方と同じように異世界から召喚され、無理やり魔道具を着けさせられた人を知っているんです。でもその時の私は子供で何もできなかった。でも今なら全員は無理でも数人なら助けられると思ったんです、訳も分からず召喚されて、道具みたいに使われるなんて間違ってますから」

そう言うピーターさんの顔は、とても真摯だった。
今までの感じから、ピーターさんが本気で私を逃がしてくれるのだという事は分かった。
私も、ここで良いように使われたくはないから、うなずいた。

「わかりました、私その中に入ります」

こうして、私は木箱に丸まって入ると蓋をされた。
自分が閉所と暗所の恐怖症じゃなくて良かった。
そのまま荷台に載せられて、さらに上からポーションが入った木箱が置かれる音がした。
私が怪我をしないように、木箱の底には折りたたんだ絨毯が敷かれ、周りにもクッションが詰められている。

「ヤエザキ様、なるべく揺れないようにしますが、頑張ってください」
「はーい」

ガラガラと荷台が動き出した。

暫くすると、ぴたりと動きが止まった。

どうやら、誰かに呼び止められたらしく話し声が聞こえてきた。
「おやおやおや、誰かと思えばガイドーン家のピーター殿ではありませんか」
「ボルシェイク家のジェファーソン様、このようなところで奇遇ですね」

「はっ!奇遇か!!貴様が惨めたらしく城から出ていく様を見に来てやったのさ!!」
「調合士の私にはとても快適な場所でございました。今日でこの場所を離れなければならないのが残念です」

「子爵の分際で我が侯爵家に逆らうから、父親もろとも城から追い出されるのだ。せいぜい田舎でポーションづくりに励むがいい。我が家の認可が得られる物が作れればの話だがな!!」

「ええ、領地にいる調合士と共に尽力いたします」

なんだか、物凄く陰険な相手に捕まっているようだ…

ピーターさんはお父さんも一緒に、話しかけてきた相手のせいでお城から追い出されちゃったみたい…。
でも、しれーっとした口調で対応してる。大人だね。

「生意気だぞ!!こんなもの、我がボルシェイク家でもっと上質な物をつくれるんだぞ!!」

ガンッ!と物凄い音がした。
どうやら私が入っている箱の側面を蹴られたようだ。

「おいボンボン!この荷物は冒険者ギルドが買い上げたもんだ。中身が割れたらどう責任を取るつもりだ?」
「何だ貴様は!?」

バートさんの低音ボイスに、箱を蹴った相手はひるんだようで声が震えている。

「鬼のバートって言えば分かるか?」
「あの宝石級冒険者!?」
「俺とこいつは急いでんだ、邪魔するんじゃねぇ。さっさと失せな!」

「ひぃぃ!お父様に言いつけてやる!!ガイドーンも覚えてろよ!!」

ジェファーソンはそんな捨て台詞を吐いて逃げて行ったようだ。
その後は、特に怪しまれることも無く馬車に積まれ、私は無事に城を脱出できたのだった。




*---*

次から新しい章になりますが、数日間投稿をお休みさせていただきます。m(_ _)m

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