私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第三章.自分のスキルを確認するまでが長い

閑話3:逃亡者(中)

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私は部屋に入るとすぐに、男性に詰めよった。
「それで、あの女性の方はどうなったんですか?」

すると、男性はまたもや顔を赤らめて視線を逸らした。
なんなのこの人?

「かっ…彼女は、スキルが一つしか無かった為、宰相の指示で城の外に追い出されました」
「えっ!?」

男性の口から出てきた言葉に驚いた。
あの女性が追い出された?
この国の人が私達を無理矢理こっちに呼んだのに、それを追い出したの??

「スライムテイムというスキルしか持っておらず、使えないと判断されました」
「ちょっと待ってください、使えないってどういうことですか?」

男性は、少し迷ったような表情をしていたが、ぽつぽつとこの国での異世界人の召喚と、召喚された人がどういう扱いを受けたのかを、彼の知る限りのことを話してくれた。

まず、宰相の言っていた魔王討伐は嘘で、私達はスキルレベルがある程度上がったらそのまま隷属や傀儡の魔法をかけられて宰相の駒にされてしまうらしい。

特に、今回は勇者と聖女という称号を持った人間が来たので、彼等は王子や王女と結婚させられて、宰相の傀儡にされるだろうと。他の人たちに関しても、全員が鑑定とアイテムボックスという非常に珍しいスキルを持っているので、色々なところでこき使われると。

過去も含めて異世界から召喚された人間は皆、宰相によって利用されていることを話してくれた。
それでも、この国は宰相に牛耳られているせいで心ある者達は動けずにる。と

ただ、今回城の外に放り出された女性、山野さんというらしいけど彼女はその心ある人の一人に託したから大丈夫だろうとも言っていた。

「そんな…私そんな事に利用されるなんて嫌だわ。憧れてた異世界に来れたのにっ!」
「…だったら、この城から逃げますか?」

いきなり、眼鏡の男性がそんな事を言い出した。

今の話を聞く限り嘘を言っていた様子も無いし、多分良い人なんだと思う。
それに、私ひとりじゃこの城から逃げることも出来ないし、街に逃げられたってお金も無いからどうしようもない。
ここは、この人を頼るしかないと思う。それしかないわ。

「出来るんですか!?」
「手は有ります」

男性は何か手がある様でしっかりとうなずいた。


眼鏡の彼を信じて、私はこの城を逃げる事にした。
彼の名前は、ピーター・ガイドーン。この国の貴族なんだってさ。
なんというか、とてもお人よしそうな感じ。

「まずは着替えましょう。その恰好ではすぐにばれてしまいます」

確かに、私の今の服装じゃ、どんなに逃げてもすぐに見つかっちゃうよね。
彼は、人目に付かないように彼の部屋へ案内してくれた。

部屋に入ると、何だろう…引っ越し準備の終わった部屋見たいで、床に木箱が二つ積まれている以外、物が何も置いてなかった。

「私の替えの服で申し訳ないのですが、これに着替えていただけますか?もちろん私は部屋の外に出ていますから」
「は、はい」

そう言うと彼は、木箱から取り出した服を渡して部屋から出て行った。
受け取った服を広げてみると、貴族というだけあって綺麗な刺繍とかが施されてるちょっと高そうな感じだった。

洋服と変わらないみたいだったから、苦労せずに着る事が出来た。
でも、ベルトやファスナーが無いと、ちょっと着にくいね。
男性物だからズボンも上着も、すこしぶかぶか。

着替え終わって、自分の服をアイテムボックスへ入れていると、扉がノックされた。

「ヤエザキ様、部屋に入ってもよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です…」

扉が開くと、ピーター以外にももう一人男の人が立っていた。
真っ赤な髪の毛のとても背の高い人だった。

「ヤエザキ様、この方は冒険者のバート様です。世界に7人しかいない宝石級冒険者の一人です」
「は、はあ…」

何でそんな凄い人が一緒なのか良く解らない…

「バート様、僕の依頼というのは、彼女をのこ城から逃がすのを手伝ってほしいのです」
「オイ、この嬢ちゃんはもしかして、さっき召喚された人間の一人か…?」

「はい、サクラヤエザキ様です」
「ピーターお前…」
バートは思わず顔を手で覆った。

やけに仲のよさそうな二人だけど、このバートとかいう大男は本当に味方なのだろうか?

「…俺がここに来たのは、残ったポーションの受け取りに来ただけだ。それで良いんだな?」
「はい!」

なんだか話の流れが良く解らない。

「あの、バートさんでしたっけ…あなたは召喚された部屋に居ましたよね…?」
私が警戒心マックスで聞くと、二人が事情を話してくれた。

「ああ、あれは代理であそこに居たのさ。本来の用事はピーターから冒険者ギルドに卸すポーションの受け取りさ。俺はこの国の冒険者だが、この城の連中は好かん。こいつみたいな良い人材をないがしろにするからな」

「私の家は領地でポーションを作り、騎士団と冒険者ギルドにそれを卸す仕事をしていたんです」
それも今日で最後なんですけどね。とピーターさんが寂しそうに笑った。

「そうだったんですか…」
とりあえず、バートさんもあまりこの城の人間が好きではない様なので、信用しても良いのかもしれない。

「わかりました、信用します」
「ヤエザキ様、ありがとうございます!」

「では、これから私が考えた脱出方法をお話しますね…」

ピーターさんが声を潜めて、脱出方法を話し始めた。
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