私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

文字の大きさ
上 下
42 / 89
【1部】第三章.自分のスキルを確認するまでが長い

閑話3:逃亡者(前)

しおりを挟む
私の名前は八重咲やえざきさくら。この春に大学2年になった。
授業で同じグループになったメンバーたちと、課題の完成を祝ってカラオケに行った帰りに突然異世界に召喚された。

突然の事で驚いたけど、いわゆる異世界転移物の小説が現実に起きたのだろう。
これはチャンスかもしれない。私はそう思った。

「ねえ、ヤエ!!あんたどんなスキル持ってるの?」
そう聞いてきたのは、同じグループのメンバーでもあり、小学生の頃からの幼馴染でもある桜庭優香さくらばゆうかだった。

明るくて面倒見のいい優香と、人見知りで内向的な私。端から見たらそんな関係らしい。
私は彼女が嫌いだ。特に彼女が私を「ヤエ」と呼ぶのが大嫌いだ。

私の「さくら」という名前と、自分の「桜庭」という苗字が似ているから自分を呼んでいる気がして嫌なのだ。と言って、私の事を「ヤエ」と呼び他人にもこれを広めた。

それだけじゃない。
私が好きになった人や、彼氏を横取りするのが大好きなのだ。
宿題や課題も、だまってノートを持って行ったりする。

だけど、取り繕うのがうまくて、いつも私が悪者になるのだ。
ずっと距離を置きたかったのに、母親同士が仲がいいせいで私から拒絶する事は出来なかった。

高校だって一生懸命勉強してあの子と一緒にならないようにしたのに、知らない内にあの子は推薦で入って来た。
私の母親から聞き出したのだとか…。

だから、大学受験の時は推薦の締め切りが過ぎるまで、どこを受けるのか教えなかったのに!
大学の入学式であの子の姿を見た時は絶望した。やっと離れられると思っていたのに!!

だから、この異世界召喚はチャンスだと思った。
私は自分のスキルを見てみた。

===
【名前】八重咲やえざき さくら
【性別】女
【年齢】19
【職業】大学生
【称号】召喚者されし者、5柱神の寵愛者
【スキル】
 薬調合(Lv1)
  ・治癒ポーション (低品質)
  ・解毒ポーション (低品質)

 鑑定
 アイテムボックス
===

どうやら私のスキルはポーション作成のようだ。

「優香ちゃん、私のスキルは…薬調合だって」
「なにそのスキルうけるんだけどー!私は何と聖女だって!!凄くない!?」
「…へぇ、それは凄いね」

人の物を取ったりする人間が聖女か。笑えてくる。

他にも高校生や、サラリーマンの人も居たし、私と同い年なのにスーツを着ている女性もいた。
その女性は、突然の事態なのになんだか余裕そうな雰囲気で印象に残った。

その後、私達は別の部屋へ案内されて、お茶を飲んだりして王様に謁見するまで待機していた。

「何で彼女だけ居ないんだ!」

突然、サラリーマンの男性が大声を上げ、役人の人たちを押しのけて部屋から出て行った。
ぐるりと部屋を見渡せば、先ほどまで一緒にいたスーツの女性だけ居ない。

そして私はこの国に居たらヤバいんじゃないかと思い始めていた。
さっき、魔王討伐をしてほしいと言っていた宰相さん。あの人の服装がやけに豪華だったのだ。
国が疲弊していると聞いていたのに、お城の中も豪華絢爛だしテーブルに出ているお菓子も豪華。
言ってる事と合っていない。

皆は、自分たちは選ばれたものだとか舞い上がってるけど…絶対に悪い事に利用されると思う。

どうしよう…今ならこっそり出て行けるかな…
でも、ここに居たら絶対にヤバい。
私一人で逃げる。
他の人たちなんて知らない。

グループメンバーだってそう。資料から現地の下調べ、課題の作成まで全部私がやったの。
他のメンバーは皆、優香の言いなりでただ遊ぶか、私を馬鹿にするだけだった。
ゴメンね。とか言うだけ言って、何も手伝ってくれなかった人もいた。
そんな人達の事なんて知らない。

私のスキルだったら、街に降りても食べて行けると思う。
ポーションって、こういう世界では結構重要だと思うんだ。

でも、部屋にいる騎士の人たちが目を光らせていて、ヘタに動けない。

じっと機会をうかがっていると、壁の一部が少しだけ動いて、そこから眼鏡をかけた男性が出てきた。
あそこ、隠し扉になってるのか…

私は意を決してそのから出てきた男性に声をかけた。
「あの…もう一人女性がいたと思うんですが、彼女はどうしたんでしょうか…?」

私が声をかけると、男性はびっくりした顔をしたかと思うと、なぜかわからないけど顔を赤くした。
何だろう?

「あなたは…薬調合をお持ちのヤエザキ様でしたか?」
「は、はい!」

この人、私の名前知ってるんだ。ちょっとびっくりした。
男性は、そっと辺りを伺うと壁の隠し扉を少しだけ開いてこういった。
「ここでは詳しくは話せませんので、こちらに来てください…」

えっと、人気のない所に誘導されてる?
大丈夫かなこの人…この人に付いて行って大丈夫かな…ちょっと不安になって来た。
「えっっと…」
「他の方々にはあまり聞かれたくありませんので…」

私が迷っていると、男性は真剣な顔でそう言ったので、私はとりあえず話を聞くことにした。
いざとなったら大声を出せばきっと大丈夫…

こうして、私は眼鏡の男性と隠し扉の奥にある部屋へ入った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...