私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

文字の大きさ
上 下
22 / 89
【1部】第二章.やっと召喚されました

021

しおりを挟む
跳ね橋を渡り切り貴族街に入ると、どこの高級住宅街ですか?というような感じだった。

道は広く石で綺麗に舗装され、両脇には歩道と綺麗に手入れされた街路樹が整然と並んでおり、高い塀の向こうには庭付きの屋敷がずらーっと建っている。流石は貴族街。

多分ここに建っている屋敷は、貴族たちが自分の領地から王都に来た時だけ滞在する屋敷だ。
もしかしたら、王城に勤めてる貴族もここから王城に出勤してるかもしれない。

「うわー!綺麗なところですね!!」

まるでヨーロッパのどこかの都市に居るみたいだなぁ

「そりゃぁ、王城のすぐ近くは位の高い貴族様たちのお屋敷ばかりだからなぁ。てぇか、お前さん来るときに見なかったんかい?」
「あぁ…お城に来るときの記憶があんまり無いんですよねー、えっと…そう!緊張しちゃってて!!」
「わっはっは!!そうかそうか、そりゃそうだなぁ、城に来るなんて緊張しない奴の方が珍しいかもしれんな…」

やっべ、田舎から出てきたことになってるんだっけ。なんだこの面倒くさい設定。

「しかし、お前さん城で働こうって王都まで来たのに、変な男に付け回されて可哀そうになぁ…」
「あははは…こっちにきてから知り合ったんですけど、名前も知らないのにいきなり声かけられて怖かったですねー」

うん、こっち来てから知り合ったで間違ってないよね。なんかセクハラまがいな事言われたりもしたし。もうすでに名前すら憶えてないし。スーツで良いよスーツで。

「なんと!あの男ろくでもないな!!今度王城で見かけたらギッチギチに絞っておくから安心しとけ!!」
「ありがとうございます…多分もう関わることは無いので、ほどほどにしといてください」

このオジサン、やっぱり良い人だわー

その後も、オススメの宿の場所を聞いたり、貰ったお金でどのくらい宿に泊まれるのかを聞きながら歩いていると、貴族街と平民街を繋ぐ門へたどり着いた。

「さて、お嬢さん。ここから先が平民街だ…なるべく大通りを歩くんだぞ?」
「はい、ここまで送っていただいて、ありがとうございました!!」

「いや、気にせんでいいよ。これも任務の内だからな。達者でな!!」
「オジサンもお元気で!!」

こうして私は、無事グラム国の王城から放り出されたのだった。


***

「さて、ブロッサムちゃんは無事に王城から出られたみたいね」
「そうじゃな、これで儂らの仕事ができるというものじゃ」

ずっと水盤を覗き込んでいたミルスとグラームスは口を開いた。

「それにしても、ブロッサムちゃんは名前を変えていて本当に良かったわね…」
「漠然としすぎた命令にも助けられたの。やはりあの男に隷属魔法など与えるべきでは無かったかのぉ…」

「そうねぇ、グラム国がどうなろうと関係は無いけれど、魔法の発動条件、こっそり厳しくしておきましょうか」
「それが良さそうじゃな。あれは世界を乱しかねん」

グラームスはそういうと、水盤の中に前島秀臣を映し、その上にさっと手をかざした。

「よし、名を呼ぶだけでは隷属魔法が発動しないようにしておいたぞ」
「あれだけ欲しがっていたスキルだもの、発動条件を必死で探すでしょうね…」
「それであの国が乱れるのは仕方がないじゃろう。これ以上の介入は出来んからの」
「それもそうね。じゃあ本題の魔法陣封鎖をしてしまいましょうか」

この2柱神の会話の数日後、グラム国の王城の一部で蜂の巣をつつくような騒ぎが起きた。

次の召喚に備え、魔法陣に新たに魔力を注ごうとしたところ何故か魔力が一切注げなくなっていたのだ。
いや、魔力を注ぐことは出来るのだが、注いだ先から魔力が抜けていくのだ。
こんな事態は初めてだった。この事件で魔導士や神官たちが右往左往する事態となった。


ブロッサムが2柱神の会話を聞いていたら「隷属魔法の発動条件ゆるすぎ!!」と突っ込んだに違いない。



*----*

ここで第二章はおしまいです。

次は、閑話・補足と2話続きます。その後に第三章開始になります。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...