私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第二章.やっと召喚されました

021

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跳ね橋を渡り切り貴族街に入ると、どこの高級住宅街ですか?というような感じだった。

道は広く石で綺麗に舗装され、両脇には歩道と綺麗に手入れされた街路樹が整然と並んでおり、高い塀の向こうには庭付きの屋敷がずらーっと建っている。流石は貴族街。

多分ここに建っている屋敷は、貴族たちが自分の領地から王都に来た時だけ滞在する屋敷だ。
もしかしたら、王城に勤めてる貴族もここから王城に出勤してるかもしれない。

「うわー!綺麗なところですね!!」

まるでヨーロッパのどこかの都市に居るみたいだなぁ

「そりゃぁ、王城のすぐ近くは位の高い貴族様たちのお屋敷ばかりだからなぁ。てぇか、お前さん来るときに見なかったんかい?」
「あぁ…お城に来るときの記憶があんまり無いんですよねー、えっと…そう!緊張しちゃってて!!」
「わっはっは!!そうかそうか、そりゃそうだなぁ、城に来るなんて緊張しない奴の方が珍しいかもしれんな…」

やっべ、田舎から出てきたことになってるんだっけ。なんだこの面倒くさい設定。

「しかし、お前さん城で働こうって王都まで来たのに、変な男に付け回されて可哀そうになぁ…」
「あははは…こっちにきてから知り合ったんですけど、名前も知らないのにいきなり声かけられて怖かったですねー」

うん、こっち来てから知り合ったで間違ってないよね。なんかセクハラまがいな事言われたりもしたし。もうすでに名前すら憶えてないし。スーツで良いよスーツで。

「なんと!あの男ろくでもないな!!今度王城で見かけたらギッチギチに絞っておくから安心しとけ!!」
「ありがとうございます…多分もう関わることは無いので、ほどほどにしといてください」

このオジサン、やっぱり良い人だわー

その後も、オススメの宿の場所を聞いたり、貰ったお金でどのくらい宿に泊まれるのかを聞きながら歩いていると、貴族街と平民街を繋ぐ門へたどり着いた。

「さて、お嬢さん。ここから先が平民街だ…なるべく大通りを歩くんだぞ?」
「はい、ここまで送っていただいて、ありがとうございました!!」

「いや、気にせんでいいよ。これも任務の内だからな。達者でな!!」
「オジサンもお元気で!!」

こうして私は、無事グラム国の王城から放り出されたのだった。


***

「さて、ブロッサムちゃんは無事に王城から出られたみたいね」
「そうじゃな、これで儂らの仕事ができるというものじゃ」

ずっと水盤を覗き込んでいたミルスとグラームスは口を開いた。

「それにしても、ブロッサムちゃんは名前を変えていて本当に良かったわね…」
「漠然としすぎた命令にも助けられたの。やはりあの男に隷属魔法など与えるべきでは無かったかのぉ…」

「そうねぇ、グラム国がどうなろうと関係は無いけれど、魔法の発動条件、こっそり厳しくしておきましょうか」
「それが良さそうじゃな。あれは世界を乱しかねん」

グラームスはそういうと、水盤の中に前島秀臣を映し、その上にさっと手をかざした。

「よし、名を呼ぶだけでは隷属魔法が発動しないようにしておいたぞ」
「あれだけ欲しがっていたスキルだもの、発動条件を必死で探すでしょうね…」
「それであの国が乱れるのは仕方がないじゃろう。これ以上の介入は出来んからの」
「それもそうね。じゃあ本題の魔法陣封鎖をしてしまいましょうか」

この2柱神の会話の数日後、グラム国の王城の一部で蜂の巣をつつくような騒ぎが起きた。

次の召喚に備え、魔法陣に新たに魔力を注ごうとしたところ何故か魔力が一切注げなくなっていたのだ。
いや、魔力を注ぐことは出来るのだが、注いだ先から魔力が抜けていくのだ。
こんな事態は初めてだった。この事件で魔導士や神官たちが右往左往する事態となった。


ブロッサムが2柱神の会話を聞いていたら「隷属魔法の発動条件ゆるすぎ!!」と突っ込んだに違いない。



*----*

ここで第二章はおしまいです。

次は、閑話・補足と2話続きます。その後に第三章開始になります。

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