聖女の呪い

もりのたぬき

文字の大きさ
上 下
1 / 5

しおりを挟む
まだ夜の明けきらない群青の空の中、山の麓に深く広がる針葉樹の森の中を、双子が下草を踏み分けながら歩いている。明るい赤黄色のつやつやした毛並みに大きくとがった耳、ガマの穂のような太いしっぽを持つキツネの兄弟だった。

「アトゥイ、早く夜露を集めてしまおう。朝日が昇ってきてしまう」

カントはそう言いながら、器用に夜光草の葉にたまる夜露を透明な硝子瓶へ集めていく。

「わかってるよカント」

少しばかり先に産まれたからと偉そうに声をかけてくる兄に、アトゥイは少しむくれながら答える。

二人が持っている硝子瓶いっぱいに夜露を集め終わると、いよいよ空が白んできた。もう間もなく水平線から太陽が顔を出す時刻だ。

「朝日に当たる前にトゥレプのオババの所にもっていかないと、アトゥイ急ぐぞ!!」

「兄ちゃん待って!!」

足場の悪い小川の岩を、ひょいひょいと跳んでいくカント。その後ろを、危なっかしくついていくアトゥイ。小川を渡り、ひたすら山の方へ走ってゆく。

日の出はもうすぐだ。

暫く走ると、一本の大きな杉の木の切り株があらわれた。切り株にはうろがあり、大きな扉が付いていた。双子はその扉を三回叩いた。

「トゥレプのオババ、夜光草の夜露を持ってきたよ!」

「おお、ご苦労だったね、お入り…」

ギィィと扉が開くと、中からアナグマが顔を出した。双子は切り株の家の中に入っていった。家の中はストーブがたかれていて、早朝の冷気で冷えた体に暖かい。

「さ、早く夜露をお出し」

「はい」

兄弟は集めた夜露をトゥレプに渡した。

「うん、沢山採って来たね。これなら十分足りるだろう」

「本当に!?」

「あぁ、本当さ。さて薬を作っちまうからお前たちはゆっくり寝てな。夜通し採っていたんだろう」

「オババ、ありがとう」

双子はホッと息をつくと、ストーブの前で体を寄せ合い眠るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

異世界に行ってた母が帰ってきた

里見知美
ファンタジー
行方不明になっていた母が十五年ぶりに帰ってきた。 異世界に行ってたとか言うんだが。 ****** カテゴリ選択が悩むところなんですが、これはライト文芸なのか、ファンタジーなのか、キャラ文芸なのか。間違ってたらごめんなさい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

処理中です...