上 下
13 / 13

12.無能聖女、許可をもらう

しおりを挟む
すっと背筋を伸ばし、トルテは王子に話しかけた。

「殿下、私ひとつお願いがございますの」
「何だいきなり」

何か雰囲気の変わったトルテに、戸惑う王子。その様子を見て、トルテはニコリとほほ笑んだ。

「大した事ではございませんの、私しばらくの間、領地で静養したいと思っております」
「ん、何故だ?森での役目があるだろう、サボる気か?」
「いえ、決してそのようなつもりはございませんが、前回の役目の後から少し体調がすぐれず魔力が戻り切っていませんの…」
という事にしておこう。

「何だと?ならば森の役目はどうするのだ」
「これから冬になりますから、春まではお役目もありませんので、ちょうどよい機会かと思いまして。もし春になっても回復しなさそうであれば、別の聖女にお願いしようと考えております。彼女たちの能力向上にもつながるでしょうし…」

今自分が反発しても、森の役目は誰かがやらされるのだ。だったら、さっさとあの結界を無くしてしまう方が絶対に良い。だから、春までにあの森にかけられている結界の解き方を調べようと考えたのだ。

もし、春までに解決策が見つからなければ、ほかの聖女にやってもらうしかない。本当は誰にもあの森での役目をさせたくない。しかし、あの森で簡単に手に入る高価な素材を、王子を含めたこの国の上層は諦めないだろう。トルテが解呪の呪文と唱えるより、他の聖女が唱える方が確実に被害者が減るのだから、他の聖女にやってもらう方がいい。そう考えるしかなかった。


幸いな事にトルテの実家であるザッハ侯爵家は、古くは「図書の番人」と言われており、屋敷の地下に屋敷と同じくらいの広さの書庫がある。中には貴重な本も数多く保管されているのだ。あの書庫にならば何か手掛かりがあるだろう。

「…うーむ、お前じゃなくても役目は出来るのか?」
「光魔法の力が強い者ならば、誰でも可能でございます。魔法を使った後に寝込んでしまいますが…」

ちょっと嫌だこの王子、聖女の事ちゃんと知らなかったのね…。
でも、ここ何代かは筆頭聖女だけがこの役目を果たしていたし、前任の筆頭聖女は王子の母君である王妃様だったから、一人にしか出来ないと思っても仕方ないか。

「分かった。貴様が領地へ帰る事を許そう」
「ありがとうございます」
「して、どのくらい領地へ帰るのだ」
「春までは向こうで静養しようと考えております。回復しましたら春からのお役目もさせていただきますわ」

春までたっぷり時間がある。森の結界について何か手掛かりが見つかる事を期待したい。

「そうか、ならば父上には俺から伝えておく。さっさと去れ」
王子は、シッシと犬を追い払うような仕草でトルテを見やる

「感謝いたします殿下。では私は失礼させていただきます。」
トルテは席を立つと、優雅に礼をし中庭を出た。

入り口に立っていた侍従に、帰るので馬車の用意をするように伝え、自身はゆっくりと王宮の廊下を歩くのだった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...