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12.無能聖女、許可をもらう
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すっと背筋を伸ばし、トルテは王子に話しかけた。
「殿下、私ひとつお願いがございますの」
「何だいきなり」
何か雰囲気の変わったトルテに、戸惑う王子。その様子を見て、トルテはニコリとほほ笑んだ。
「大した事ではございませんの、私しばらくの間、領地で静養したいと思っております」
「ん、何故だ?森での役目があるだろう、サボる気か?」
「いえ、決してそのようなつもりはございませんが、前回の役目の後から少し体調がすぐれず魔力が戻り切っていませんの…」
という事にしておこう。
「何だと?ならば森の役目はどうするのだ」
「これから冬になりますから、春まではお役目もありませんので、ちょうどよい機会かと思いまして。もし春になっても回復しなさそうであれば、別の聖女にお願いしようと考えております。彼女たちの能力向上にもつながるでしょうし…」
今自分が反発しても、森の役目は誰かがやらされるのだ。だったら、さっさとあの結界を無くしてしまう方が絶対に良い。だから、春までにあの森にかけられている結界の解き方を調べようと考えたのだ。
もし、春までに解決策が見つからなければ、ほかの聖女にやってもらうしかない。本当は誰にもあの森での役目をさせたくない。しかし、あの森で簡単に手に入る高価な素材を、王子を含めたこの国の上層は諦めないだろう。トルテが解呪の呪文と唱えるより、他の聖女が唱える方が確実に被害者が減るのだから、他の聖女にやってもらう方がいい。そう考えるしかなかった。
幸いな事にトルテの実家であるザッハ侯爵家は、古くは「図書の番人」と言われており、屋敷の地下に屋敷と同じくらいの広さの書庫がある。中には貴重な本も数多く保管されているのだ。あの書庫にならば何か手掛かりがあるだろう。
「…うーむ、お前じゃなくても役目は出来るのか?」
「光魔法の力が強い者ならば、誰でも可能でございます。魔法を使った後に寝込んでしまいますが…」
ちょっと嫌だこの王子、聖女の事ちゃんと知らなかったのね…。
でも、ここ何代かは筆頭聖女だけがこの役目を果たしていたし、前任の筆頭聖女は王子の母君である王妃様だったから、一人にしか出来ないと思っても仕方ないか。
「分かった。貴様が領地へ帰る事を許そう」
「ありがとうございます」
「して、どのくらい領地へ帰るのだ」
「春までは向こうで静養しようと考えております。回復しましたら春からのお役目もさせていただきますわ」
春までたっぷり時間がある。森の結界について何か手掛かりが見つかる事を期待したい。
「そうか、ならば父上には俺から伝えておく。さっさと去れ」
王子は、シッシと犬を追い払うような仕草でトルテを見やる
「感謝いたします殿下。では私は失礼させていただきます。」
トルテは席を立つと、優雅に礼をし中庭を出た。
入り口に立っていた侍従に、帰るので馬車の用意をするように伝え、自身はゆっくりと王宮の廊下を歩くのだった。
「殿下、私ひとつお願いがございますの」
「何だいきなり」
何か雰囲気の変わったトルテに、戸惑う王子。その様子を見て、トルテはニコリとほほ笑んだ。
「大した事ではございませんの、私しばらくの間、領地で静養したいと思っております」
「ん、何故だ?森での役目があるだろう、サボる気か?」
「いえ、決してそのようなつもりはございませんが、前回の役目の後から少し体調がすぐれず魔力が戻り切っていませんの…」
という事にしておこう。
「何だと?ならば森の役目はどうするのだ」
「これから冬になりますから、春まではお役目もありませんので、ちょうどよい機会かと思いまして。もし春になっても回復しなさそうであれば、別の聖女にお願いしようと考えております。彼女たちの能力向上にもつながるでしょうし…」
今自分が反発しても、森の役目は誰かがやらされるのだ。だったら、さっさとあの結界を無くしてしまう方が絶対に良い。だから、春までにあの森にかけられている結界の解き方を調べようと考えたのだ。
もし、春までに解決策が見つからなければ、ほかの聖女にやってもらうしかない。本当は誰にもあの森での役目をさせたくない。しかし、あの森で簡単に手に入る高価な素材を、王子を含めたこの国の上層は諦めないだろう。トルテが解呪の呪文と唱えるより、他の聖女が唱える方が確実に被害者が減るのだから、他の聖女にやってもらう方がいい。そう考えるしかなかった。
幸いな事にトルテの実家であるザッハ侯爵家は、古くは「図書の番人」と言われており、屋敷の地下に屋敷と同じくらいの広さの書庫がある。中には貴重な本も数多く保管されているのだ。あの書庫にならば何か手掛かりがあるだろう。
「…うーむ、お前じゃなくても役目は出来るのか?」
「光魔法の力が強い者ならば、誰でも可能でございます。魔法を使った後に寝込んでしまいますが…」
ちょっと嫌だこの王子、聖女の事ちゃんと知らなかったのね…。
でも、ここ何代かは筆頭聖女だけがこの役目を果たしていたし、前任の筆頭聖女は王子の母君である王妃様だったから、一人にしか出来ないと思っても仕方ないか。
「分かった。貴様が領地へ帰る事を許そう」
「ありがとうございます」
「して、どのくらい領地へ帰るのだ」
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春までたっぷり時間がある。森の結界について何か手掛かりが見つかる事を期待したい。
「そうか、ならば父上には俺から伝えておく。さっさと去れ」
王子は、シッシと犬を追い払うような仕草でトルテを見やる
「感謝いたします殿下。では私は失礼させていただきます。」
トルテは席を立つと、優雅に礼をし中庭を出た。
入り口に立っていた侍従に、帰るので馬車の用意をするように伝え、自身はゆっくりと王宮の廊下を歩くのだった。
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