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番外編
しおりを挟む俺はマルケル・ウリオス。ウリオス侯爵家の一人息子で、今はアンドレス王子の護衛騎士をしている。
俺の1日は、まずアンドレス王子を起こすところから始まる――
寝室の前にやって来ると、ジェルさんが声を掛けてきた。
「マルケル!」
「ジェルさん、お疲れ様です」
昨夜はジェルさんが夜の護衛をしていたので、今から交代する所だ。
「じゃあ、後よろしくなー。あ!さっきドア越しに声かけたら、不機嫌な声でまだ入るなって言われちゃったから、しばらく待った方がいいぞ」
ジェルさんはそう言うと苦笑いした。
「ハハッ。いつもの事ながら、朝は声掛けるのに気を使うな」
そう言いながらも、俺はニコリとした。
俺は寝室の扉から少し離れて待機していた。そこには、同じように部屋に入れない侍女達が困ったように待っている。ここ一ヶ月、侍従達は朝のアンドレス王子を起こすのに苦労していた。
君主であるアンドレス王子は、1ヶ月前に結婚したからだ。相手は俺の双子の姉マリベルなのだが、結婚してからというもの、アンドレス王子の愛妻家ぶりは日に日に王宮内で知れ渡っていっている。
例えば、アンドレス王子が朝起きるのを渋るのは、妃との時間を邪魔されたくないからだからだ。
しかし、そんなアンドレス王子の態度が俺はとても嬉しいと思っている。
だって、それだけマリベルを愛しく思ってくれているという事だからだ。
良かったな、マリベル。アンドレス王子と幸せに過ごせていて……。
俺はたくさん迷惑を掛けた分、マリベルには思い切り幸せになって欲しいと思っている。
もちろんそのためにも、俺は護衛騎士としてしっかりと2人をお守りするつもりだ。
◇
「ね、ねえ。アンドレス。そろそろ離してくれない?」
ベッドの中でマリベルを後ろから抱き締めるアンドレスに、マリベルは気恥しそうに言った。
「んー……あともう少し」
マリベルの茶色く長い髪に顔を埋めて、アンドレスは唸るように言った。
さっきもそう言ってたんだけど、全然起きる気ないじゃない……。ああ……、部屋の外で皆が待ってると思うといたたまれないわ。
「ねえ、もう本当に起きないと皆も待ってるし、朝食も遅くなってしまうわ」
マリベルは、少し後ろを向くとアンドレスを見た。
すると、アンドレスは気怠そうにマリベルを見つめると、目を瞑った。
「じゃあ、マリベルが口付けをして起こしてよ」
「え!?な、何言ってるのよ!?」
マリベルが顔を赤くして焦っていると
「あー、早く口付けしてくれないと、また寝てしまいそうだ」
とアンドレスが呟く。
え!?そ、そんな……
「し、仕方がないわね」
マリベルは、自身の顔をアンドレスに近付ける。
しかし、そこでマリベルは、はたと止まってしまった。
え、えーと……、ここからどうしたらいいの?このまま顔を近づけても、鼻が当たってしまって唇に届かないじゃない。あら?じゃあ、アンドレスって、いつもどうやって私に口付けしているの?……わ、分からないわ。だって、アンドレスに口付けされると、いつも何も考えられなくなるんだもの!!
マリベルはキュッと唇を一文字に結んで、真っ赤な顔でアンドレスを見下ろしたまま身動きが取れなくなってしまった。
「マリベル?」
目を開けたアンドレスは、目の前の可愛らしい妻の顔に極上の笑みをこぼす。そして、意地悪く聞いた。
「マリベル、しないのか?」
「……や、やり方が、分からないの……」
赤い顔で困って視線を彷徨わせるマリベルをアンドレスは、さっと上下の位置を変えてマリベルを見下した。
「それじゃあ、教えてやるからちゃんと覚えて、明日からはマリベルがしてくれよ」
「え、それ覚えられない――」
マリベルの意見はアンドレスの唇に遮られたのだった――
◇
カチャリと寝室の扉が開くとアンドレスが姿を表した。
「おはようございます。アンドレス王子」
待機していた者達が一斉にアンドレスに挨拶をする。
そして、侍女の一人が聞いた。
「あの、マリベル様は?」
するとアンドレス王子は、ククッと笑うと答えたのだった。
「マリベルは、まだ寝ているから、静かにしてやってくれ」
ああ、またアンドレス王子の愛妻家ぶりが王宮内で噂になるなとマルケルは思ったのだった――
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