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第19話
しおりを挟む突然、明かりが消えた、舞踏会の会場内は混乱していた。
「キャー!なんなの!?」
「いって!動くなよ!ぶつかるだろ!!」
会場が混乱する中、マリベルは、アンドレス王子の盾となるようにすぐに王子を背に隠した。
なんなの!?一体、何が起こったの!?
マリベルが暗闇で目が使えないので、音に集中していると――
――ガシャンガシャンと窓が割れる音が響いた。
侵入者!?
暗闇で目が慣れきって居ない中で迫る危機に、マリベルは、ドレスの下に隠していた短剣を抜いた。
キーン!!
キラリと金属が月明かりを反射して、マリベルは間一髪の所で、振り下ろされた剣を短剣で防いだ。
暗闇に乗じて、王族を狙ってる!?
何度も襲ってくる剣にマリベルは、短剣でなんとか防いでいた。
しかし、敵は一人ではない――
別の人間がアンドレス王子、目掛けて突撃してきた。
「アンドレス!!」
ガッキーン!!
駄目かと思った時、別の誰かがアンドレスを狙ってきた剣を弾き返した。
ジェルさん?
かと思ったが、次の瞬間――
「マリベル!こっちを使うんだ!」
声の主にマリベルは、驚きと歓喜に息を呑んだ。
「早く!!」
その声に、マリベルはハッとして渡された剣を掴むと、その剣で敵を追い詰めた。
「はっ、流石!」
声の主に「当たり前でしょ?だてにいつも稽古に付き合ってたわけじゃないわよ!」とマリベルは返す。
目が慣れてくると、そこには、幾人もの侵入者、そして、声の主は……マルケルだった――
なぜか分からないが、マルケルと同じ外套を着ている柄の悪そうな人達が何人もいて、その人達の活躍もあり、早々に王族を狙う刺客を捉える事が出来た。
その日の舞踏会は中止となり、怪我をしたご令嬢は丁重に王宮で手当を受けていた。
◇
「一体誰がこんな事を!!」
国王様は頭を抱えていた。
今回の一件は今までとは比べ物にならない程の危険に晒されたからだ。それに、貴族のご令嬢には怪我をした者もいた。
「それにしても彼らは一体……」
国王様はお揃いの外套をきた者達を見た。彼らは、王宮の騎士らと共に侵入者と戦ってくれたのだ。彼らがいなければもっと大変な事態になっていただろう。
「国王様。お初にお目にかかります。ロッキン商会のボッカと申します。今回の件、事情を知っておりますので、是非お耳に入れてく……」
すると、ボッカの話を遮ったのはヴァロワ侯爵だった。
「国王様。お待ち下さい。ロッキン商会とは、お恥ずかしながら、我が領地の不良共が組織し、不正な輸出入を繰り返す業者です。再三注意をしていると管轄のホスタイ伯爵からは、報告を受けております。今回の事もお前達が手引したのだろ!?衛兵!こ奴らを捕えろ!!」
「はあ!?ちょっと!!話くらい聞いて……うぐっ!!」
すぐに、ボッカが取り押さえられ、他の者も取り押さえられようというところで、外套を被った一人がそのフードとって顔を見せた。
「待って下さい。国王様」
「お前は……、マルケル……か?んん、今宵は、アンドレスの護衛には諸事情で付けないと聞いていたが、お前は一体何をしていたんだ!?」
「俺はロッキン商会の人達と一緒に行動していました。そして、この舞踏会を襲った犯人を……、いや、ここ最近の王族を狙う事件の犯人を彼らと共に突き止めています」
「なんだと!?それは一体誰なんだ!?」
「それは……、ヴァロワ侯爵、あなたですね」
名指しされたヴァロワ侯爵は鼻で笑った。
「何をおかしな事を言ってるんだ?マルケル殿、これがどれ程の侮辱が分かっているのか?あんな、野蛮な者達と行動を共にして、ウリオス侯爵家として恥ずかしいと思わないのか?なあ、エリーク殿。一体ウリオス家ではどんな教育をしていたんだ?そこの君の娘なんて、剣を振り回していたそうじゃないか。野蛮な娘は、アンドレス王子の隣には相応しくない」
マリベルは、ヴァロワ侯爵の言葉に、さっき動きにくくて割いたドレスのスカートとギュッと握って顔を赤らめた。
それはそうよ。いくらアンドレス王子が良いと言ってくれても剣を振り回すような令嬢を他の人達が認めてくれるわけがないじゃない。
すると、スカートを握る手にアンドレス王子の手が重なる。
「ヴァロワ、マリベルは俺の婚約者だ。彼女を辱めるような物言いは、俺への侮辱とみなすぞ」
アンドレス王子の怒気を含んだ声色と鋭い視線に、ヴァロワ侯爵は、顔を引つらせる。
「ヴァロワ侯爵、自身の悪事がバレそうだからって、話を逸らさないで下さい。こっちには証人もいますから」
マルケルがそう言うと、部屋に入ってきたのはフワリとした銀髪の美しい女性だった。
マリベルは、その女性に見覚えがあった。
「あら……、あなた、もしかして、レイラ・カルデロン嬢?」
すると、レイラは嬉しそうに微笑んだ。
「マリベル様。覚えていて下さって、嬉しいですわ。国王様、私は元伯爵のカルデロンの娘、レイラと申します」
「お、お前……」
震えるようにヴァロワ侯爵が言うと、レイラはヴァロワ侯爵に冷めた視線を送ったあと、国王に向き直った。
「私は以前、ヴァロワ侯爵家で侍女として働いておりました。その時にヴァロワ侯爵から命じられたのは王宮に侍女として、侵入し情報を集め、然るべき時に、国王とアンドレス王子に毒を盛るよう命じられました。家は貧乏伯爵家だったので、お金をちらつかせて話を持ち掛けられたのですが、もちろんそんな事は出来るわけもないので断り、その事でヴァロワ侯爵の怒りを買ってしまい我が家は急速に資金繰りが厳しくなり没落しました。私は、もちろんヴァロワ侯爵邸の侍女を辞め、今はリタラ港町で働いています。その港町では、港の使用時間を厳しく制限され、皆が不満を抱いています」
「な!?適当な事を言うな!国王様、この女が言っている事も全て嘘です!信じるに値しません」
「いや、それなら気になる事がある」
そう言ったのはアンドレス王子だった。
「東部は輸出入の量が大幅に増えている。ブラスに確認したら、不作で他国からの輸入に頼っていると言っていた。そうだよな?ブラス」
名指しされたブラスは「は!はは、はい。そうです!」と明らかに焦って答えた。
「さっきの、港の使用時間が厳しく管理されているのなら、輸出入の量は減るはずじゃないのか?それとも、一般の商人が使えない時間は他の者が使っているのか?」
鋭い視線がブラスに注がれてブラスは、ハンカチで汗を拭っていた。
すると、ブラスの代わりに答えたのが、ボッカだった。ボッカは、取り押さえる衛兵の手を身動ぎして、外すと言った。
「ああ、港の規制については、リタラ港町で聞き込みすればすぐに真実だって分かるさ。それと、俺等が港を使えねぇ時間は、ホスタイ伯爵が大量の武器を輸入してるぜ。作物に隠してな。他の港町も同様だ。そのどれも、全ての大元はヴァロワ侯爵、あんただろ?」
「証拠は!?証拠はあるのか!?」
取り乱すヴァロワ侯爵にマルケルが紙の束を取り出した。
「これは、船に保管されてた他国からの納品書だって。港町の人達には文字が読めない人も多い。他国語となるとなおさらだ。だから管理が甘くて、簡単に見られる所に置いてあったらしいよ。俺も、ウリオス侯爵家の跡取りだからさ。他国の言語であっても読める。ちゃんとヴァロワ侯爵のサインもあった」
マルケルが書類を国王様へと渡しに行こうとして、ヴァロワ侯爵が慌てて、それを止めに行く。だが、それは国王様の一言で制止された。
「ヴァロワ!そこで待て!」
書類に目を通した国王様は神妙な面持ちで言った。
「ヴァロワを捕えろ」
◇
捕まったヴァロワ侯爵の悪事はボッカやレイラの言った事が正しかったと次々と明るみとなり、ヴァロワ侯爵は失脚した――
そして、戻ってきたマルケルはと言うと――
国王、王妃、アンドレス王子が揃う前で、私とお父様を連れてこう言った。
「国王様、王妃様、アンドレス王子。俺は、アンドレス王子の護衛騎士になる事に恐れをなし、逃げ出しました。今まで俺として護衛騎士を務めていたのは、マリベルなんです。しかし、マリベルはウリオス家や俺を庇う為に俺の代わりとして護衛騎士となったのです。ですから、責任は俺にあります。どうか、父やマリベルには温情を……。俺はどうなっても構いませんから」
しばらくの沈黙の後、国王は言った。
「ああ、知ってたいたよ」
「え?」「ええ!?」
マルケルよりも驚きの声を上げたのはマリベルだった。
「マリベル、気持ちは分かるが抑えなさい」
お父様が少し呆れ気味に言うと国王様が続けた。
「確か、アンドレスがマリベル嬢が舞踏会に参加しないって騒いでいた頃に、エリークから聞いたんだよ」
ちょっとどういう事よ!お父様!!
私は直ぐ様お父様を見ると、お父様は素知らぬ顔をする。
「いやあ、家の息子がマリベル嬢を参加させろってウリオスの屋敷まで乗り込んできたってきいたよ。しかもマリベル嬢に婚約する気がないなんてハッキリ言われて、余りにもアンドレスが不憫だからってエリークが本当の事を打ち明けてくれたんだよ」
「なんで、その時にすぐ教えてくれなかったんですか!?」
アンドレス王子がキッと国王様を見た。
「そうすると、私もエリークに何もお咎めなしってわけにもいかなくなるだろう?それは正直困るなあと」
すると国王に続けて王妃が話し出す。
「だから、だったらこのまま知らないフリをするって事を罰にしましょうかってなったのよ。アンドレスがいつマリベルちゃんに気付くのか見るのも楽しそうだったし。でも、思ったよりも早く気付いちゃったのよね。もう、ホント、マリベルちゃんの事、大好きなんだから」
な、なにこれ!?すっごく恥ずかしいんだけど!!
マリベルは顔を真っ赤にして王妃様の話を聞く羽目になってしまった。一方のアンドレスは、不服そうな顔で視線を逸している。
「まあ、そういうわけだから、今回の事は我々は気付いてなかったって事で。じゃないと、アンドレスの結婚問題にも関わってくるからな」
と言って、国王様はアハハハと豪快に笑った。だが、その後に顔を引き締めるとマルケルを見る目を細める。
「――だが、次はないぞ」
その鋭い視線にマルケルは背筋が凍るのを感じると共に、一生この恩に報いる事を肝に銘じたのだった――
◇
1年後――
王宮内に新たに作られたマリベルの部屋に、花嫁姿のマリベルがいた。
伸びた髪をアップにして美しい花嫁姿となったマリベルの姿をアンドレスが眩しそうに見つめていた。
「アンドレス、そろそろ時間じゃないの?いつまでここにいるつもり?貴方は先に教会に行ってなきゃいけないのよ?」
「マリベルのウェディングドレス姿を堪能して何が悪い」
大真面目に言うアンドレスにマリベルは、顔を赤くする。
「も、もう!さっきからずっとそこで見てたでしょう?きっと、皆んなあなたの事を探してるわよ!」
「ああ、それなら問題ない。俺がここにいる事はマルケルが知ってるから」
そう言うとアンドレスはマリベルの近くにやって来て、頬に触れた。
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「そ、それは……良かったわ……」
正式に婚約者となってから、アンドレスは何度もそう言って私に触れてくる。その度に、私は瞳を彷徨わせて頬を染めてしまうのだった。
綺麗だと言われる事も、優しくアンドレスに触れられる事も慣れなくて、恥ずかしいわ……。
「マリベル……」
アンドレスが甘く私の名を呼ぶ時は、口付けされる時だ。マリベルは、そっと瞳を閉じる。
その時、マリベルの部屋の外では、扉をノックしようとしたマルケルの手が止まった。
あと1分待とうかな……。なんとなく……
マルケルは、小さく微笑むと大切な双子の姉と自身の君主の結婚を一足先に心の中で祝うのであった――
fin
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