上 下
13 / 20

第13話

しおりを挟む
 一方、姿を消したマルケルはイリサール王国東部、リタラ港町にいた――

 ヨレたシャツとズボンに少し伸びた髪、マルケルはフラフラと歩きながらグーとなるお腹を擦った。

 ああ……、お腹空いたな……。
 でも、もうお金ないし……。売れる物もないし、仕事も出来ないし。
 これから、どうしよう……。


 ウリオス家を飛び出したマルケルは、早々に所持金を失い、身に付けていたものを売ってなんとか今日まで過ごして来たが、もう売る物もなくなってしまい途方に暮れていた。

「俺……しぬのかなぁ」

 そう呟いた時、すれ違いざまに肩がぶつかった。

「いってーな!!なにしやがんだ!」

 強面の男が勢いよく怒鳴ってきくる。

「あ、すいませ」「すいませんじゃねーんだよ!治療費だせ!」

「え……、でも、俺もう無一文で」

「はあ?」

 男が更に睨みを効かせた時だった。

「おい、何を揉めてるんだ?」

 別の男がやって来た。

「あ、頭、こいつがぶつかってきたのに、治療費も出せねーって言うんですよ!」

「あ?んなもんでいちゃもんつけんな!明らかにお前よりこっちのにーちゃんのが死にそうな面してんじゃねーか」

 そうだよ。もうすぐ俺死ぬかもしれないんだよ。何のためにあんなに稽古頑張ったんだろう。それすらもう何の意味もない……

 すると男の腰にある巾着が目に入る。

 お金だ!と思った瞬間、グワッと自分の中で嫌な感情が渦巻いた。

 あれがあれば、食べ物が買える……

 いや、何考えてんだ!人の物だろ!

 マルケルは、すぐに自分を建て直したが、相手の男の剣が俺に向かって振り下ろされるのを既出の所で避けた。

「ほう。ボロボロでも勘はいいな。今、俺の金盗もうと思ったろ?」

 あの一瞬の出来心によく気が付いたと逆に感心し、そして取り繕う気力もないから、そのまま思っている事が口をついて出る。

「その通りだ。一瞬、金に目が眩んだ。でもそこまで落ちぶれてまで生き延びたくはない」

 俺はそう言うと、フラフラと歩き始めた。

「フッ、ハハハハ!おい、お前!飯奢ってやるからこいよ!」

 俺は怪訝な顔で振りかえった。

 なぜ見ず知らずの、しかも金を盗もうと考えた相手に奢るなんて言うのか、その疑問がそのまま顔に出ていた。

「お前が盗みにくると確信して、剣出しちまったから、詫びだ!」

 そう言って男は豪快に笑った。

 詫び、ならいいのか?

 回らない頭で、俺はフラフラとその男たちに着いていった――

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~

有沢真尋
ファンタジー
 アリスは、代々癒やしの魔法を持つ子爵家の令嬢。しかし、父と兄の不慮の死により、家名や財産を叔父一家に奪われ、平民となる。  それでもアリスは、一族の中で唯一となった高度な魔法の使い手。家名を冠した魔法薬草の販売事業になくなてはならぬ存在であり、叔父一家が実権を握る事業に協力を続けていた。  ある時、叔父が不正をしていることに気づく。「信頼を損ない、家名にも傷がつく」と反発するが、逆に身辺を脅かされてしまう。  そんなアリスに手を貸してくれたのは、訳ありの騎士。アリスの癒やし手としての腕に惚れ込み、隣国までの護衛を申し出てくれた。  行き場のないアリスは、彼の誘いにのって、旅に出ることに。 ※「その婚約破棄、巻き込まないでください」と同一世界観です。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま・他サイトにも公開あり

処理中です...