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第8話
しおりを挟むそれは王宮の舞踏会が近付いて来た日の事――
アンドレス王子が、王妃様と昼食をとっていると、王妃様が言った。
「アンドレス。今度の舞踏会なんだけど、招待状を送ったお嬢様方、皆、良いお返事だったけれど……、ウリオス家のマリベルちゃんだけは欠席だそうよ。どうする?」
「なに!?どういう事だ!?」
「なんでも今は花嫁修業の為に遠縁の親族の屋敷に行っているとかって……そうなの?」
と王妃様は首を傾げて私を見た。
「は、はい。マリベルは花嫁修業で今はウリオス家には、おりません」
私がマルケルの代わりをするにあたり、私が急に姿が見えなくなったら怪しまれるから、マリベルは花嫁修業に出た事になってるのよね。
「だったら、舞踏会の時だけ呼び戻せば良いじゃないか!」
アンドレス王子は、何故か私が参加できない事に納得していないようだ。
「え、えーと、それは難しいかと……」
だって、当日は私がアンドレス王子を護衛するんだから。
するとアンドレス王子は、少し考えた後
「よし、今日の夜、ウリオスの屋敷へ行く」
と言い出した。
「え!?ど、どうしてわざわざ我が屋敷に行かれるのですか!?」
「お前の両親に直接、舞踏会へ参加するよう話をするためだ」
ちょっと、ちょっと、どうしてそこまで私の参加に拘るのよ!?
◇
そして、アンドレス王子は仕事を終えた後、本当にウリオス家の屋敷を訪ねた。
「夜分にすまないな。どうしても話したい事があってな」
「こちらこそ、わざわざご足労頂き申し訳ございません。話しは聞いております。マリベルが今度の舞踏会に参加出来ず申し訳ございません」
お父様とお母様は深々とアンドレス王子に頭を下げた。
「エリーク。俺は謝罪をして欲しくて、今日ここへ来たのではない。なんとか舞踏会の時だけでも、マリベルを呼び戻して舞踏会に参加させて欲しいのだ」
「それは……」
お父様が言い淀む姿を見て、王子の護衛として付いてきていたマリベルは、意を決した。
「マリベルは、舞踏会に出席しない口実を作る為に、わざわざ遠くの親族の元へ花嫁修業に行ったのです」
「なんだって?」
アンドレス王子が鋭く私を睨んだ。
「今回の舞踏会は、アンドレス王子の婚約者を決める為の舞踏会だと聞いております。マリベルは、アンドレス王子の婚約者に選ばれるような事は避けたいので、遠くへ花嫁修業に行くのだと言っていました」
「なんだと!?それは……俺と婚約したくない……という事か……?」
アンドレス王子は下を向くと絞り出すような声で聞いてきた。
そんなアンドレス王子に、胸がズキンと痛む。それでも私はハッキリと言った。
「はい。そういう事です」
アンドレス王子は震える拳をギュッと握るとそのまま部屋を出ていった。
私も追いかけて部屋を出ようとすると、お父様が「マリベル……」と心配そうに小さく言った。お母様も心配そうに私を見ている。
今にも二人は王子を呼び止めて、本当の事を話してしまうのではないかという顔つきだった。
だから、私はそんな二人をしっかりと見ると顔を横に振った。
そして、そのままアンドレス王子を追いかけ、王宮へと戻っていった。
アンドレス王子は、馬車の中でも一言も話さず、私の顔を見る事もなくずっと窓の外を見ていた。しかし、その瞳にはとても景色が映っているようには見えなかった。
王宮へついて、自室の前までくると
「悪いが、今はお前の顔も見たくない。もう下がれ」
と言ってアンドレス王子は、マリベルの前で扉をパタンと締めた。
その音がやけに冷たく心に突き刺さる。
マリベルはドア越しに
「かしこまりました。お休みなさいませ」
と声をかけると、ジェルに任せて足早にその場を去った。
早く……、早く、一人になれる所に――
マリベルは、顔が歪むのを必死に耐えながら、宿舎を目指した――
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