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第5話 お友達です
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フレシアム公爵邸の庭園では、最近ティータイムを楽しむエドワルドとシルヴィアの姿がよく見られていた。モテるにも関わらず、今まで浮いた噂のなかったエドワルドとシルヴィアが逢瀬を重ねている――ように見える姿は、フレシアム家の使用人の間で瞬く間に噂となっていた――
「まあ!貸本屋にも行った事があるのですか!?」
あれから友人として何度かフレシアム公爵邸に招待されたシルヴィアは、すっかりエドワルドと仲良くなっていた。
「ああ、一時期手当たり次第、恋愛小説を読んでいた時があってね。しかし、たくさん本を手に入れても隠す所に困るから、貸本屋を利用していたんだ」
「良いなあ。私も貸本屋に行ってみたい……」
「今度、一緒に行こう!って言いたい所だけど、プレーヘム伯爵の大切なご令嬢と二人で出かけるわけにはいかないからなあ。良ければ、今度行ったとき何か借りてくるよ」
「まあ!それでは、リリック・アリー先生の本をどれかお願いします。以前、うちで働いていた侍女が持っていて読んだ事があるのですが、面白かったので」
「ああ!リリック先生の小説、俺も読んだよ。ヒーローの台詞がこっちまでドキドキするくらい甘いよな」
「そうなんです!そうなんです!ヒーローがヒロインに甘々になっちゃう所がもう最高で!」
とシルヴィアは、赤くなった頬を押さえる。
そんなシルヴィアをエドワルドは微笑ましく見つめた。
「シルヴィア嬢もやっぱりああいう甘い言葉を言われたいのか?」
「え?」
突然の問いかけに、シルヴィアは視線を彷徨わせた。
「え、えーと……実は私、異性を好きになった事がないんです。だから、恋愛小説を読んでいても自分に置き換えるって事が出来なくて……」
と言ってシルヴィアは弱々しく笑ったがすぐに
「だから、あの甘々な台詞をヒロインに向けて言っている所にキュンキュンするんです!」
と気を取り直して先程のように陽気に言った。
「エドワルド様こそ、気になるご令嬢に甘い言葉を言ったりしているんじゃないですか?」
と今度はシルヴィアが逆にエドワルドをからかうように聞く。
「え?いや……、流石にリリック先生の小説に出てくるような台詞を実際に言う人はなかなかいないんじゃないか?それに俺も好きな人はいた事ないし、作る気もないからなあ。決められた相手と結婚しないといけないのに、そんな感情は邪魔にしかならないだろ?」
「それ、すごくよく分かります。せめてお父様が候補に考えている方の中で好意を持てる相手が出来ればと思ったんですが、それも無理で……。本の中には素敵な恋が詰まっているのに、私達の現実は親の決めた相手と政略結婚ですもんね」
シルヴィアが苦笑いをするとエドワルドも同じように苦笑いを浮かべた。
◇
フレシアム公爵邸から帰ったシルヴィアは、上機嫌で自分の部屋へと向かっていた。
フフッ。今日もたくさん小説のお話が出来て楽しかった!それに今度、リリック先生の本も借りて来てくれるって言ってたし、エドワルド様とお友達になれて本当に良かったわあ!!
来週はお忙しくてティータイムのお時間が取れないって言ってたけど、来週末の舞踏会は参加するって言ってたから、そこで少し話せるといいな。
フフッと思わず笑みを浮かべてた時
「シルヴィア、随分と機嫌が良さそうだな」
声を掛けてきたのは、シルヴィアの父親レイモンド・プレーヘム伯爵だった。
「あら、お父様。おかえりなさいませ。今日はお早いんですね」
「ああ、仕事が早く片付いてな。それより、最近、フレシアム公爵令息に招待されて、フレシアム公爵邸へよく行っているようだな?」
お父様の目の奥がキラリと光った気がするけど気のせいかしら?
「ええ。今日もお招き頂いて、帰ってきた所ですわ」
するとお父様の目がスッと厳しくなる。
「もしや……恋仲なのか?」
恋仲?何をトンチンカンな事を言っているのかしら?
「違いますよ。お友達になったんです。エドワルド様も読書がお好きらしくて、おすすめの本の情報交換などをしておりますの」
嘘は言ってないわよ。
「ほう……本当にそれだけなのか?随分と楽しそうにしていると聞いているが?」
私はチラリと一緒に公爵邸に行った侍女を見た。もちろん、彼女も離れた所で私達の様子を見ているから話の内容までは分かっていないはずだし、私が公爵邸に行っている事を報告するのも仕事でしょうけれど、変な誤解を生む言い方は辞めてほしい。
「ええ。本当ですわ。エドワルド様は知識が豊富な方なので、お話が弾むのは自然な事だと思いますけれど」
「まあ、確かに。御子息はかなり勤勉で優秀だと聞くしな。そうか。いや、節操なくうちの可愛い娘に手を出されていないか心配だったんだが、違うなら良いんだ」
お父様の顔つきは、さっきまでの厳しい顔からパッと明るくなった。
「はあ……。ご報告を受けたのなら知っていると思いますが、エドワルド様が私と二人っきりになった事がない事だって分かっていますでしょう?とても誠実な方なのに、変な誤解をしてはエドワルド様に失礼ですわ」
「ああ、すまんすまん」
申し訳なさそうに笑うお父様が、本当はこの時何を考えていたかなんて、私は全然気づいていなかった――
「まあ!貸本屋にも行った事があるのですか!?」
あれから友人として何度かフレシアム公爵邸に招待されたシルヴィアは、すっかりエドワルドと仲良くなっていた。
「ああ、一時期手当たり次第、恋愛小説を読んでいた時があってね。しかし、たくさん本を手に入れても隠す所に困るから、貸本屋を利用していたんだ」
「良いなあ。私も貸本屋に行ってみたい……」
「今度、一緒に行こう!って言いたい所だけど、プレーヘム伯爵の大切なご令嬢と二人で出かけるわけにはいかないからなあ。良ければ、今度行ったとき何か借りてくるよ」
「まあ!それでは、リリック・アリー先生の本をどれかお願いします。以前、うちで働いていた侍女が持っていて読んだ事があるのですが、面白かったので」
「ああ!リリック先生の小説、俺も読んだよ。ヒーローの台詞がこっちまでドキドキするくらい甘いよな」
「そうなんです!そうなんです!ヒーローがヒロインに甘々になっちゃう所がもう最高で!」
とシルヴィアは、赤くなった頬を押さえる。
そんなシルヴィアをエドワルドは微笑ましく見つめた。
「シルヴィア嬢もやっぱりああいう甘い言葉を言われたいのか?」
「え?」
突然の問いかけに、シルヴィアは視線を彷徨わせた。
「え、えーと……実は私、異性を好きになった事がないんです。だから、恋愛小説を読んでいても自分に置き換えるって事が出来なくて……」
と言ってシルヴィアは弱々しく笑ったがすぐに
「だから、あの甘々な台詞をヒロインに向けて言っている所にキュンキュンするんです!」
と気を取り直して先程のように陽気に言った。
「エドワルド様こそ、気になるご令嬢に甘い言葉を言ったりしているんじゃないですか?」
と今度はシルヴィアが逆にエドワルドをからかうように聞く。
「え?いや……、流石にリリック先生の小説に出てくるような台詞を実際に言う人はなかなかいないんじゃないか?それに俺も好きな人はいた事ないし、作る気もないからなあ。決められた相手と結婚しないといけないのに、そんな感情は邪魔にしかならないだろ?」
「それ、すごくよく分かります。せめてお父様が候補に考えている方の中で好意を持てる相手が出来ればと思ったんですが、それも無理で……。本の中には素敵な恋が詰まっているのに、私達の現実は親の決めた相手と政略結婚ですもんね」
シルヴィアが苦笑いをするとエドワルドも同じように苦笑いを浮かべた。
◇
フレシアム公爵邸から帰ったシルヴィアは、上機嫌で自分の部屋へと向かっていた。
フフッ。今日もたくさん小説のお話が出来て楽しかった!それに今度、リリック先生の本も借りて来てくれるって言ってたし、エドワルド様とお友達になれて本当に良かったわあ!!
来週はお忙しくてティータイムのお時間が取れないって言ってたけど、来週末の舞踏会は参加するって言ってたから、そこで少し話せるといいな。
フフッと思わず笑みを浮かべてた時
「シルヴィア、随分と機嫌が良さそうだな」
声を掛けてきたのは、シルヴィアの父親レイモンド・プレーヘム伯爵だった。
「あら、お父様。おかえりなさいませ。今日はお早いんですね」
「ああ、仕事が早く片付いてな。それより、最近、フレシアム公爵令息に招待されて、フレシアム公爵邸へよく行っているようだな?」
お父様の目の奥がキラリと光った気がするけど気のせいかしら?
「ええ。今日もお招き頂いて、帰ってきた所ですわ」
するとお父様の目がスッと厳しくなる。
「もしや……恋仲なのか?」
恋仲?何をトンチンカンな事を言っているのかしら?
「違いますよ。お友達になったんです。エドワルド様も読書がお好きらしくて、おすすめの本の情報交換などをしておりますの」
嘘は言ってないわよ。
「ほう……本当にそれだけなのか?随分と楽しそうにしていると聞いているが?」
私はチラリと一緒に公爵邸に行った侍女を見た。もちろん、彼女も離れた所で私達の様子を見ているから話の内容までは分かっていないはずだし、私が公爵邸に行っている事を報告するのも仕事でしょうけれど、変な誤解を生む言い方は辞めてほしい。
「ええ。本当ですわ。エドワルド様は知識が豊富な方なので、お話が弾むのは自然な事だと思いますけれど」
「まあ、確かに。御子息はかなり勤勉で優秀だと聞くしな。そうか。いや、節操なくうちの可愛い娘に手を出されていないか心配だったんだが、違うなら良いんだ」
お父様の顔つきは、さっきまでの厳しい顔からパッと明るくなった。
「はあ……。ご報告を受けたのなら知っていると思いますが、エドワルド様が私と二人っきりになった事がない事だって分かっていますでしょう?とても誠実な方なのに、変な誤解をしてはエドワルド様に失礼ですわ」
「ああ、すまんすまん」
申し訳なさそうに笑うお父様が、本当はこの時何を考えていたかなんて、私は全然気づいていなかった――
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