上 下
8 / 8

8

しおりを挟む
 マーデン王妃の登場に、その場にいた皆が礼をする。
 フェデリカも慌ててカーテシーをした。

「入口で一体何を騒いでいたの?」

「王妃様。クレリッチ公爵令嬢が王妃様の誕生日パーティーのパートナーに、あろう事か平民の男をパートナーとして連れてきたんです」

 レディナがマーデン王妃様にそう言うと、王妃は私とルカを見て驚いたように「まあ」と声を上げた。そして、王妃様は眉間のシワを深くして言った。

「レディナ嬢、それは王太子と王太子妃を侮辱しているのかしら?」

 マーデン王妃の後ろには王太子と王太子妃も騒ぎの様子を見に来ていた。

 それを見たレディナは一瞬で顔を青くする。

「い、いいえ。滅相もございません」

 そう、この国が1年前に身分に関係なく自由に結婚が出来ると法令を出したのは、王太子が平民であった王太子妃と恋に落ちて結婚したからだったのだ。

 そして、マーデン王妃は改めてルカを見ると深々とカーテシーをした。

「ルカニス第二皇太子殿下。本日はお目にかかれて光栄でございます。そして、我が国の者の無礼をお許し下さい」

 へ?皇太子殿、下?

 皇太子殿下といえば、この辺りの国を統括しているシーヤ帝国の皇太子殿下?でも、シーヤ帝国の皇太子殿下ってイニアス殿下じゃなかったかしら?

「マーデン王妃、お辞めください。私は皇太子争いを降り、この国に亡命した身。今は平民として暮らしていますから」

 え?え?どういう事!?

 フェデリカが王妃とルカを交互に見合って混乱していると

「あらあら。どうやら、フェデリカ嬢はご存知ではなかったようですね。余計な事を言ってしまいましたか?」

 とマーデン王妃はフフッと笑った。

「いいえ、先程覚悟を決めた所でしたから、彼女に全てを話そうと思っていた所なので、説明が省けました」

 そう言うと、ルカは私を前にして片膝を着くと右手を差し出して言った。

「フェデリカお嬢様、今はなんの地位もない私ですが、貴方を守りたいと心から思いました。私と結婚をして頂けませんか?」

 う、うそ……。本当に!?

 フェデリカは目の前で起こっている事に混乱しつつも、ルカの手を緊張した面持ちで取った。

「は、はははい!よろしくお願いしまふ」

 ああ!また噛んだー!

 その手を掴んで、私を抱込むようにするとルカは「可愛い」と言って頭に口付けたものだから、フェデリカは目が回り始めた。

 突然の事だったが、会場は大盛り上がりで、フェデリカは会場中の視線を集めた事で

「も、もう目がクルクルします……」

 と言ってそのまま意識を手放してしまった。


 ◇


 ガタガタと揺られているわ。きっと馬車で屋敷に帰る途中ね。それにしても座席ってこんなにフカフカだったかしら……

 フェデリカが手で座席をバンバンと叩くと、その手を温かい手が包んだ。

「目が覚めましたか?」

 聞こえたルカ様の声にハッと目覚めた。すると私を見下ろすルカ様の顔が近くて赤くなってしまう。

「あれ?顔が赤いですね。やはり熱でもあるのでしょうか?」

 とルカ様が私のおでこに手を当てる。

 よく見れば、顔だけでなく身体も目の前だ。

 ル、ルカ様ちょっと近すぎやしませんか?

 そう思った時、フェデリカはルカに膝枕してもらっている事にやっと気がついた。

「ひゃあ!?」

 飛び上がって起きたフェデリカの頭と当たらないよう、ルカがそれを瞬時に避ける。

「それだけ動けるのなら、心配いらなそうですね」

 ルカが笑うから、フェデリカは顔を赤くした。

「ご、ごめんなさい。膝枕なんてさせてしまって」

「そんな事、気にしないで。だって結婚してくれるんでしょ?」

 その言葉にフェデリカは、倒れる前の事を思い出し、顔を覆って照れた。

「は、はい……」

「あ、ちゃんと覚えててくれてよかった」

「あの、本当に私と結婚して下さるんですか?」

 フェデリカは赤い顔を少し上げてルカを見つめた。

「もちろん。先ずは君の両親のお見舞いに伺おうかな」

 そう言って微笑むルカに、フェデリカは嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。両親も喜びます」


 二人を乗せた馬車は、もうすぐクレリッチ公爵の屋敷に到着する。

 フェデリカは、両親が喜ぶ顔を思い浮かべ、顔を綻ばせた。
 フェデリカにルカを紹介された両親は、あのフェデリカが自分で相手を見つけてきた事に大いに喜び、祝福した。


 そして、フェデリカとルカ結婚したルカは、後にクレリッチ公爵の爵位を継いだのだった――

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

【完結】強制力なんて怖くない!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。 どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。 そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……? 強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。 短編です。 完結しました。 なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea
恋愛
───婚約破棄されて追放される運命の悪役令嬢に転生ですって!? そんなのどんな手を使っても回避させて貰うわよ! 侯爵令嬢のディアナは、10歳になったばかりのある日、 自分が前世で大好きだった小説の世界の悪役令嬢に転生した事を思い出す。 (殿下が私に冷たいのはそういう事だったのね) だけど、このままではヒロインに大好きな婚約者である王子を奪われて、婚約破棄される運命…… いいえ! そんな未来は御免よ! 絶対に回避! (こうなったら殿下には私を好きになって貰うわ!) しかし、なかなか思う通りにいかないディアナが思いついて取った行動は、 自分磨きをする事でも何でもなく、 自分に冷たい婚約者の王子が自分に夢中になるように“呪う”事だった……! そして時は経ち、小説の物語のスタートはもう直前に。 呪われた王子と呪った張本人である悪役令嬢の二人の関係はちょっと困った事になっていた……?

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

悪役令嬢がグレるきっかけになった人物(ゲーム内ではほぼモブ)に転生したので張り切って原作改変していきます

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずだった子を全力で可愛がるだけのお話。 ご都合主義のハッピーエンド。 ただし周りは軒並み理不尽の嵐。 小説家になろう様でも投稿しています。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

溶け合った先に

永江寧々
恋愛
幼い頃に両親を亡くした少女は莫大な遺産を手に入れ、広すぎるお屋敷に執事も雇わず一人で暮らしている。 ある日、気分転換に街を歩いていると道端で職探しをする青年を見つけ、少女は気まぐれにその青年を執事として雇うことにした。 美しく優しい執事に出会えたことを感謝する少女はこの穏やかな日常が永遠に続けばいいと思っていたが、夢を見る度に忘れていた何かが甦るようで…… ※現在と過去の場面の切り替えが多いため一話一話が短くなっています。 毎日更新です。

双子の弟の代わりに男装して王子の護衛騎士になりました

花見 有
恋愛
※番外編を公開したした(2022/6/15) 「ああ……、お前がマリベルなら良かったのにな。そうしたら、今すぐここで口説いてやるというのに……」  え、ま、待って!!これは一体どういう事態なの!?というか、本当は私がマリベルなんだけどー!!

処理中です...