【完結】悪役王子に宣戦布告したつもりがなぜか良い雰囲気になってます

花見 有

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4

しおりを挟む
 ここは王宮、オリヴェルの部屋――

「オリヴェル殿下、紅茶をお持ちしました」

「そこに置いといてくれ」

 侍女がテーブルに置いたカップを手に取り、俺は軽く香りを楽しむと口を付けた。

 俺はこの国の王子オリヴェル・アヴェルダ。王族の証である赤い髪に、青い瞳の凛々しい目元。どこからどう見てもイケてる俺は、加えて地位も財産もある。
 俺と結婚したい女なんて五万といる。

 なのに、何を悩む事があるのか、俺の将来の妃となるマリッタ・リストンは、未だ婚約の返事をしてこない。

「恥ずかしがっているのか?フンッ、可愛いな」

 俺はカップをソーサーに戻してソファにもたれると、ニヤニヤと口元を綻ばせた。

 マリッタは、クレディの恋人であるエリーナの友人として紹介された。

 ハッキリ言って顔が超絶タイプであった。

 フワリとしたブラウンの髪に綺麗なグリーンの瞳でシャープな顔立ちのマリッタは、控え目でいつもエリーナとクレディと一緒にいた。二人といる時はブラウンのフワリとした髪を揺らして、コロコロと笑う。そうして、マリッタを目で追って……、いや、王族として気にかけていると綺麗なグリーンの瞳がいつもエリーナとクレディを追っていて、二人を羨ましそうに見つめて頬を染めているのに気が付いた。

 マリッタはクレディが好きなのか!?

 マリッタはいつも二人ばかり見ていた。王子である俺がすぐ近くにいるにも関わらず。全然、俺の事を見ていないと思い知った時、俺が二人を別れさせたらマリッタが喜ぶと思ったんだ。そうしたら、マリッタのあの綺麗なグリーンの瞳に俺の姿を映してくれると思った。

 しかし、一番最悪な状況で俺はマリッタの瞳に映し出される事となる。
 噴水に落ちたマリッタは、濡れた前髪の間から俺を初めて真正面から睨み見た。

 怖かった。正直あの視線は震え上がった。その後の事は言うまでもない。マリッタは俺を噴水に投げ入れると「二人を別れさせるならただじゃ置かないから!」と怒って行ってしまったのだ。

 控え目だと思っていたマリッタの意外な一面は、俺の心臓は撃ち抜いた。

 その後のマリッタは、可愛いの連続だった。
 クレディが好きじゃないと必死に否定したのも、俺を旧校舎の裏庭に呼び出して抱き付いて来たのも、「後ろから抱き締めて」と可愛くお願いして来たのも、マリッタが俺に向ける気持ちに気づかせるには十分過ぎた。それに今度は一緒に舞台を観に行こうだって。

「フッフフフフ。自分からデートに誘って来るなんて、本当に可愛いやつ」

今度のデートで最高にロマンチックなプロポーズをしてやる!そうすれば、恥ずかしがって返事も出来ないマリッタも首を縦に振るだろう。
そして王宮主催の舞踏会でマリッタをエスコートして、一緒にダンスを踊るんだ。

「クフフフ」

 オリヴェルの部屋からは今日も不気味な笑い声が聞こえてくるのだった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。

下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。 リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

後に悪の帝王となる王子の闇落ちを全力で回避します!

花見 有
恋愛
どうして私は主人公側ではなく、敵国のルイーザ・セルビアに転生してしまったのか……。 ルイーザは5歳の時に前世の記憶が蘇り、自身が前世で好きだったゲームの世界に転生していた事を知った。 ルイーザはゲームの中で、カルヴァ王国のレオン国王の妃。だが、このレオン国王、ゲームの中では悪の帝王としてゲームの主人公である聖女達に倒されてしまうのだ。そして勿論、妃のルイーザも処刑されてしまう。 せっかく転生したのに処刑ないんて嫌!こうなったら、まだ子供のレオン王子が闇落ちするのを回避して、悪の帝王になるのを阻止するしかない!

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

【完結】みそっかす転生王女の婚活

佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。 兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に) もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは―― ※小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

国王と義母の陰謀で追放された侯爵令嬢は隣国王子に溺愛される。

克全
恋愛
「かくよむ」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...