【完結】悪役王子に宣戦布告したつもりがなぜか良い雰囲気になってます

花見 有

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 やり辛い。非常にやり辛い……。

 マリッタは、心を無にしてなんとか授業を聞いていた。

 しかし、自身の斜め後ろに座るオリヴェルの視線が気になって仕方がない。

 王子って私が気付いてなかっただけで、今までもこんなに私の事、見てたの?それとも気持がバレたから隠さなくなっただけ?

 なんにしても……やり辛いわ。

 マリッタは、大きな溜息を吐いた。

 そもそも、小説ではエリーナが好きだから二人を別れさせようと嫌がらせををしていたオリヴェルが、何を間違えて私を好きになったっていうのよ。しかも、私がクレディを好きだと勘違いした挙げ句、二人に嫌がらせって……。どうなってるの!?小説の世界ではあるけど小説とは違うって事なのかしら?


 休み時間にエリーナと話していると、エリーナが何とも苦い顔をしてくる。

「マリッタ、なんだかオリヴェル殿下がチラチラ見てるみたいだけど、マリッタに用があるんじゃなあい?」

「ああ、いいのよ。気にしないで。それより、エリーナ、あれから殿下に何かされたりしてない?」

「ええ、大丈夫よ。マリッタ心配してくれてありがとう」

「フフッ。いいの、いいの。推し活の為だから」

「おし、かつ?」

 エリーナは首を傾げて不思議そうな顔をした。

「ああ!気にしないで!エリーナはクレディと仲良くしててくれたら、私はそれで満足だから」

「フフッ。何だかよくわからないど、マリッタが私達を応援してくれてて心強いわ。私もマリッタに好きな人が出来たら精一杯応援するから!」

 エリーナが可愛くガッツポーズをするから、私の顔はニヨニヨしてしまうのだが、その先に見えたオリヴェルの視線に即座に真顔になったのだ。

 うーん。あれをなんとかしなければ……



 私は人気のない旧校舎の裏庭にオリヴェルを呼び出す事にした。

「オリヴェル殿下、何か言いたい事があるのなら仰って頂けますか?」

 もし、私の予想通り王子が私を好きだって言うなら、ここは丁重にお断りをして、さっさとこの煩わしい状態から抜け出したい。

「な、なんだよ。お前が俺に言いたい事があって呼び出したんだろ?」

 オリヴェルは、フンッと鼻を鳴らすが、その頬は少し赤くなっている。

 うーん。それなら遠慮なく言わせて頂きますが良いですかね?

「それではハッキリと言わせて頂きますが……――!!」

 そこでマリッタは、目を見開くと、オリヴェルの手を掴んで、急いで旧校舎の壁に隠れる。そして、オリヴェルを壁に追いやり自分はオリヴェルと壁を盾にして様子を伺う。

「お、おい。急に」「し、静かに!」


 そこには、エリーナとクレディがいた。

「クレディが、私の事を考えくれてるって分かってるけど、私はそんなの嬉しくないわ!」

 こ、これは……王子からの嫌がらせに悩んだクレディが、エリーナを思って別れを切り出すシーン!
 う、うそ!このシーンを生で見られるの!?

 マリッタはオリヴェルの服を握りしめた。

「でも、俺はこれ以上エリーナが辛い思いをする姿を見てられないんだ!」

「私……貴方と別れるほうがもっと辛いわ!」

 エリーナがそう言って走り出そうとすると

「エリーナ!」

 とクレディがエリーナの腕を取って引き止め、抱きしめた。

「ク、クレ……」

 エリーナが言うのを遮るようにクレディはエリーナを力強く抱き締める。

「俺だって君を離したくない」

 最高!最高のシーン来たー!!

 マリッタは、小説で読んだシーンが目の前で展開された事に感動していた。

「マ、マリッタ」

「へ?」

 見上げれば、すぐ近くで顔を赤らめ私を見下ろすオリヴェルがいた。

「そ、そろそろ離れるんだ」

 見れば、マリッタはオリヴェルの身体に密着して、服を力強く握り締めていた。

「あ、申し訳ございません」

 ああ、そうだった。オリヴェルがいたんだわ。忘れてた。

「ふん。お前の気持はよく分かった」

 ん?まだ何も言ってないけど、煩わしいって分かってくれたの?

「父上には俺から話しておくから心配するな。またな」

 オリヴェルは少し頬を赤くして、そう言うと去っていった。

「ん?父上って、国王陛下に何を話すの?自分の愚かさ?」

 まあ、いいわ。

 この時、オリヴェルの言葉を流した事を私はすぐに後悔する事になる。


 ◇


「マ、マリッタ!マリッタ!!」

「なに?お父様。そんなに慌ててどうしたの?」

 家に帰ってきた私は、ティータイムのクッキーを貪っていると、お父様が慌てた様子でやって来た。

「お、王家から!」

「ふむ、王家から?」

 と言いながら、私は新たなクッキーを口に運ぶ。

「オリヴェル王子殿下との婚約の話がきた!!」

 咥えていたクッキーが口からこぼれ落ちて、床に落ちて割れたと同時に

「…………は?」

 と私の声が響いた。


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