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番外編2 ローレンの母、カタリーナ
しおりを挟むリヴァイとトニーが暮らす一軒家から、3軒隣には先日離縁が成立したばかりのローレンの母、カタリーナと前世の夫だったビゲルが暮らしていた――
「カタリーナ、どうした?前はあんなに料理が得意だったのに……」
テーブルの上には、焦げたおかずが並んでいて何とも侘しい食卓となっていた。
「こ、ごめんなさい。しばらくやっていなかったら、感覚が戻らなくて……」
カタリーナは、申し訳なさそうに言うと、焦げた料理を見て顔をしかめた。
「ああ、いいんだ。君は侯爵夫人だったんだし、料理なんてしていなかっただろう?少しずつ思い出してくれたらいいから」
ビゲルは、優しく笑うと焦げた料理を食べ始めた。
「ごめんなさい。あの……それから、今度、娘の結婚式があるの。あの子、家を出たけれど私にも参加して欲しいって招待状を送ってきて……。行ってきていいかしら?」
「ああ、もちろんだよ」
ビゲルの答えにカタリーナは、安心したように微笑んだのだった。
◇
ローレンとアランの結婚式――
カタリーナは、ラミエス侯爵邸で催される結婚式に参加していた。
はあ。まだ離婚して1年も経ってないけれど、この空気、久しぶりね……。
上質な物に囲まれた部屋にカタリーナは、安心感を覚えていた。今日のドレスはローレンがこの日の為に贈ってくれた、以前カタリーナが御用達にしていた衣装店のドレスであった。着心地もデザインも良質で上品なドレスに、座り心地の良いソファ。舌が喜ぶ美味しい料理に、耳心地の良い弦楽器の生演奏。
離婚する前までは、この上質な物に囲まれる生活自体に嫌気が差していたのに、不思議なもので、今はこの空間に懐かしさと安心感を抱き、日頃の生活の疲れが癒やされる思いであった。
幸せそうに微笑む娘に目頭が熱くなる。ホーテミー侯爵子息と共にローレンは、私にも挨拶にきてくれた。
「お母様、今日は来てくれて本当にありがとう」
ブラッシュ侯爵家に嫁いでから、二人の子を産み育てた日々が沸々と蘇ってきた。ローレンの兄は、もう立派な侯爵家の後継者として、仕事をしているし、ローレンも今日、お嫁に行くのだ。
「ローレン、おめでとう。とっても綺麗よ」
「ありがとう。お母様……」
ローレンは、そう言うと涙が溢れて来るのが分かった。
まさか、お母様が私の結婚式に参加してくれるとは思わなかった。前世の記憶が戻ってから母の関心は全て前世の相手へ向けられていたから、もうその視線をこちらに向けてくれる事はないと思っていたから……。
「お母様、今……幸せ?」
「ええ。そうね。今になって冷静になると、あなたにも、ローレンの兄にも、それにローレンの父にも申し訳ない事をしたと思っているけれど、あの人と一緒にいられるのは、幸せよ」
カタリーナは、控え目に微笑んだ。
「そう……。それなら良かったわ。私もね……。少しだけ分かったの。好きな人と一緒にいられる幸せというものが……」
そう言ってローレンは、隣にいるアレンを見上げた。アレンもローレンを見ると二人は、幸せそうに微笑みあった。
カタリーナは、そんな二人を見て、安心したように穏やかに微笑んだのだった――
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