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第11話
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翌日、カーラとアーロン王子が二人で過ごした事は、瞬く間に他の令嬢にも知れ渡った。
今までは、他の令嬢から軽い嫌味を言われるくらいだったのが、明らかな嫌がらせに変わった。
ジャクリーナを中心にジェナとケイシーがカーラのドレスにケチをつけて何度も着替える羽目になったり、カーラの語学や歴史学の本をボロボロにされていたり、ダンスのレッスンではカーラがいるとレッスンが進まないからと追い出されたり……。
ああ、やっぱりこうなるわよね。
カーラは諦めにも似た気持ちでいた。
だって私だって同じような事したもの。
昨日、アーロン王子と口付けを交わしてしまった事で、カーラにはもう、私にはその気はありません!などと言う事も出来なくなってしまった。
他の令嬢達に恨まれて当然よね。
ただ……、このまま行くと私、暗殺されちゃう可能性があるのよねぇ。
前世の自分も王子と両思いになった令嬢に嫌がらせして、そして最終的には相手の令嬢を毒殺する事を企てたのだ。今回だってそうなってもおかしくない。
でも、もしそんな事が起こって、候補者の令嬢の誰かを処刑するなんてなったら……。彼女達がどんなに今まで頑張ってこの宮廷で過ごして来たのかを知っているのに、絶対にそんな事させないわ!
とカーラが考えているとステフィが凄い勢いで扉を開けて、部屋に入ってきた。
赤い顔をして呼吸が物凄く荒い。
「ステフィどうしたの!?」
カーラがすぐに駆け寄って聞くと、ステフィはなんとも言えない作り笑いをし「な、何でもないのよ」と答えた。
それから1週間もしない内に、各令嬢へ正式にアーロンの妃はカーラになる事が告げられた。
そして、カーラ以外の妃候補者には、急がなくても良いが、宮廷を出て行く準備を始めて欲しいと通達されたのだった。
それから宮廷内の殺伐とした空気は恐ろしいものであった。
それに、ステフィの様子が何だかおかしいのが気になる。
部屋の中にいる時は何時ものように穏やかだけれど、部屋から出ると妙にビクビクしているのだ。もしかして、私だけじゃなく、ジャクリーナ達はステフィにも何か嫌がらせをしているんじゃないかしら。
「ねえ、ステフィ。貴方もしかして、ジャクリーナ様達から何かされているのじゃない?正直に言って?」
「大丈夫よカーラ。貴方が心配するような事は何もないわ。それよりもやっぱり、アーロン王子はカーラが本命だったのね!」
と言っていつものように微笑んだ。
それから数日後、ジャクリーナから宮廷を出て行く前に4人でお茶会をしようと招待状が届いた。
その招待状を見たステフィは、慌てて部屋を飛び出していった。
やっぱりステフィ、何か隠しているわ!
カーラはステフィの後を追いかけたが、何処にいるのか分からず、廊下をウロウロしているとジャクリーナに出くわした。
「あら、こんな所で何をしているのかしら?王子の婚約者ともあろう令嬢が共も付けないなんて、自覚がなさ過ぎよね?」
「その通りですわね。気を付けますわ」
今のジャクリーナにとって私は憎い相手だもの。これ位の嫌味は仕方ないわ。
「それから、お茶会には絶対に参加なさってね。貴方の為のお茶会なんだから。オホホホホホ」
ジャクリーナはそう言って高笑いをすると去っていった。
やっぱりあのお茶会、きっと何かあるわ。
そして、ジャクリーナが去ってすぐに赤い顔で涙目になって、慌てた様子のステフィが現れた。
「カ、カーラ!!こ、こここんな所で、な、何してるの!?」
明らかに動揺しているステフィに、カーラはやっぱりジャクリーナとステフィの間に何かあるのではと疑ってしまう。
「ステフィが慌てて出て行ったから、どうしたのかと思って」
「え!?な、何か見たの!?」
「いいえ、今ステフィが来る前にジャクリーナ様に出会っただけよ。今度のお茶会は絶対に参加してって言われたわ」
そう言うとステフィは明らかに青い顔になった。
「カーラ、そのお茶会行くのやめない?」
「どうして?」
「だ、だって最近ジャクリーナ様達ってカーラに対する嫌がらせが酷いじゃない。お茶会だって何をするか……」
「大丈夫よ。心配しないで。私、嫌がらせ位なんとも思ってないから」
「でも……」
とステフィはいつまでも心配そうにしていた。
◇◆◇
そして、お茶会当日――
「ねえ、カーラやっぱりお茶会に行くのやめない?」
とステフィは心配していた。
「ステフィ、どうしたの?このお茶会に行くと何かあるの?ステフィ知っているなら教えて」
「い、いいえ!ち、ちがうの!私は何も知らないわ!」
ステフィはやっぱり何か様子がおかしいのは気になるけれど、私はジャクリーナのお茶会に参加した。
参加しないという選択も考えたが、それではきっとジャクリーナは馬鹿にされたと、さらに恨みを抱きかねない。それならば、お茶会に参加して私がお茶を溢し、粗相をして嫌味を言われる方が良いだろう。
そして、今日このお茶会を無事に乗り切れば、明日にはジャクリーナ達はこの宮廷を出て行く事になっている。
そうすれば、彼女らが私に毒を盛ったとかそんな事が明るみになる事もなく、彼女達はこれからも人生を歩んでいけるのだから……。
「さあどうぞ、皆さん召し上がって」
ジャクリーナが言うと、ジェナとケイシーは紅茶に口を付けた。
そして、ジャクリーナの視線は私を見ている。
「さあ貴方もどうぞ」
と言って赤い唇の端を上げて笑った。
その時、確信した。このカップには毒が仕込んであると……。
カーラはカップを取るフリをしてカップを倒した。
「申し訳ございません。私ったらとんだ粗相を……」
その瞬間のジャクリーナのなんとも恐ろしい顔は見なかった事にしよう。
よし。これで、このお茶会で毒を盛られたという事実はない。これで、誰も罪に問われる事はないわ!
すると、突然扉が開いて、続々と騎士が入ってきた。
そして、最後にはアーロン王子が登場する。
「みな、動かないでくれ。今日このお茶会で紅茶に毒を仕込んだ者がいる!」
え!?どうしてアーロン王子がその事を知っているの!?
それよりも……不味いわ。今この溢れたお茶を調べられたら、毒が混入している事がバレてジャクリーナが罪人になってしまう。それは駄目よ!!
カーラは立ち上がるとアーロン王子に向き合った。
「急にご婦人のお茶会に入ってくるなど、無作法ではありませんか?しかも、毒を盛っただなんて、見てください。このお茶会の場で苦しんでいる者などおりませんよ?お分かりななりましたら、お取り引き頂けますか?」
「いや、カーラ。この情報は確かな筋から得たもの。君のカップを調べさせて欲しい」
「だ、駄目です!」
「何故だ!?狙われたのは君だぞ!?それなのにこんな重大な事を有耶無耶になど出来ない!!……ジャクリーナ、君がカーラのカップに毒を盛ったのは分かっている!」
名指しされたジャクリーナはビクリと肩を震わせた。
「ジャクリーナ!カーラにこんな事をして、どうなるか分かっているのか!?」
するとジャクリーナは、恨めしい顔で私を見た。
「貴方がいなければ、私がアーロン王子の妃に選ばれたのよ!貴方さえ居なければ……」
とその場で泣き崩れた。
ああ、駄目。見てられない。
「アーロン王子、確かにジャクリーナ様がした事はいけない事だけれど、どうして彼女がここまで追い込まれたか考えた事はありますか?」
「……え?」
「そもそも王子の妃候補、大本命の公爵令嬢がいるのに、急に中流貴族の令嬢が新しい候補者に加わったと思ったら、その令嬢を妃にするだなんて言われた気持ちが分かりますか!?ジャクリーナ様は王子の妃になる為に幼い頃から様々な努力をしてきているのですよ!いいえ、ジャクリーナ様だけではありません。ここにいるジェナ様もケリー様も妃教育として、毎日、毎日、努力をし続けていたんです!みんな貴方の妃になる為にどれだけ苦労したと思っているのよ!!」
シーンとした部屋にパチパチパチパチと手を叩く音が響く。
それは、驚いた顔で拍手をするジャクリーナだった。すると、ジェナとケリーもパチパチパチパチと手を叩き始め、そして、3人は泣きながら力一杯拍手をし出した。
「カーラ。よく言ってくれたわ。そうよ!そうなのよ!!私達だって、王子の為に頑張ったのよ!なのに家からは、格下の令嬢に負けて恥をかいたと罵られて、王子は私達には見向きもしてくれないのよ!」
ジャクリーナの意見にジェナもケリーも大きく頷く。
「そうよ。皆さん達は、この宮廷でずっと窮屈な暮らしをして、王子の妃になる為に頑張っていたのに選ばれなかったからって恥をかいただなんて、本当に酷い言われようよね」
とカーラが言うと
「分かって下さる!?もう!本当にお父様って酷いのよ!!昨日も手紙で……」
とジャクリーナは不満の数々をカーラにぶちまけ、それにジェナもケリーも同じ様な事があったのか加わった。
なかなか終わらない4人の話しにヴェルナーがアーロンに耳打ちする。
「アーロン王子。毒の件はどうするのですか?」
するとアーロンは小さくため息を吐いて「撤収してくれ」と騎士達を出て行かせた。
そして、アーロン王子は咳払いをすると、少し緊張した面持ちで話し始めた。
「その……、ジャクリーナ。今回の件はカーラが毒を摂取していなかった事もあり、不問とする。だが、二度とこのような事はしないと誓ってくれ」
「分かっております。もう、二度とそんな事、致しませんわ。だって、私、カーラの事とっても気に入りましたもの。カーラ、今回の事は本当にごめんなさい。もう二度としないと貴方に誓うわ。それから、これからも私達と仲良くして下さる?」
「もちろんよ!」
とカーラが答える。
その翌日、カーラは宮廷を出て行くジャクリーナをアーロンと共に見送った。その時にアーロンは宮廷を出て行く3人に今まで妃候補として頑張った事を大いに労い、後日高価なプレゼントを送った。
そして、カーラはアーロン王子の婚約者として、宮廷に残り1人妃教育を受ける事になったのだが、今まで、手を抜いていたカーラが急に語学が堪能になり、歴史学では先生が知らない細かな知識まで披露し、マナーは完璧であった為、改めて教える事がないので、自主学習という形になった。
ただ、ダンスレッスンだけは続いている。
それにしても、1つだけ気になっている事があるのよね……。
カーラは久しぶりに時間が出来たからと一緒にお茶を飲むアーロンに聞いた。
「そういえば、どうしてジャクリーナがお茶会で私のカップに毒を盛ったと知っていたの?」
「ああ、それはカーラと二人でお茶を飲んだ事は、すぐに他の候補者にも広がるだろうから、些細な事でも何かあれば、すぐに知らせるようにとステフィに協力を依頼していたんだ」
「……え!?ステフィどういう事!?」
「私は毎回、ヴェルナー様にその日にあった事を報告していただけよ。もちろん、何かあれば気をつけるようにとも言われていたから。お茶会の時もジャクリーナ様が毒を入手した事をヴェルナー様から聞いていて……。もちろん、カーラが口に入れる前に突入すると聞いていたけれど、心配でお茶会に行くのを何度も止めようとしてしまったわ」
「そうだったの。でも、あなた、何かに怯えているような様子なかった?私、ジャクリーナ様との間に何かあるのかとちょっと疑ってしまったわ」
「え?怯えた様子?ああ、それ違うのよ。報告相手がね。ヴェルナー様で、その毎回毎回、報告の度に近すぎて……その……、と、とにかく緊張して逃げるように部屋に帰ってたのよ!」
とステフィは何を思い出したのか赤い顔を手で覆った。
そんなステフィの反応に、カーラが冷めた視線をヴェルナーに向けるとニッコリと微笑まれてしまった。
ああ、ヴェルナーは確信犯ね。ステフィに必要以上に近付いて。全く!
「ところで、カーラ。ダンスレッスンの方は順調か?結婚式の次の日に舞踏会があるだろう?そこで二人だけで踊らないといけないんだが……」
「うっ……、それは聞かないで下さい……。なんとか間に合わせますから……」
しかし、結局カーラは流行りの振り付けを全て覚える事が出来ず、舞踏会では古い振り付けに流行りの振り付けを組み込む形で踊る事となった。
だが、それが逆に新鮮だったのか、その振り付けが新しい流行となったのだった。
こうして、地味な人生を望んでいたカーラは、アーロン王子と結婚し、後世に語り継がれる程の素晴らしい王妃となったのだった――
fin
今までは、他の令嬢から軽い嫌味を言われるくらいだったのが、明らかな嫌がらせに変わった。
ジャクリーナを中心にジェナとケイシーがカーラのドレスにケチをつけて何度も着替える羽目になったり、カーラの語学や歴史学の本をボロボロにされていたり、ダンスのレッスンではカーラがいるとレッスンが進まないからと追い出されたり……。
ああ、やっぱりこうなるわよね。
カーラは諦めにも似た気持ちでいた。
だって私だって同じような事したもの。
昨日、アーロン王子と口付けを交わしてしまった事で、カーラにはもう、私にはその気はありません!などと言う事も出来なくなってしまった。
他の令嬢達に恨まれて当然よね。
ただ……、このまま行くと私、暗殺されちゃう可能性があるのよねぇ。
前世の自分も王子と両思いになった令嬢に嫌がらせして、そして最終的には相手の令嬢を毒殺する事を企てたのだ。今回だってそうなってもおかしくない。
でも、もしそんな事が起こって、候補者の令嬢の誰かを処刑するなんてなったら……。彼女達がどんなに今まで頑張ってこの宮廷で過ごして来たのかを知っているのに、絶対にそんな事させないわ!
とカーラが考えているとステフィが凄い勢いで扉を開けて、部屋に入ってきた。
赤い顔をして呼吸が物凄く荒い。
「ステフィどうしたの!?」
カーラがすぐに駆け寄って聞くと、ステフィはなんとも言えない作り笑いをし「な、何でもないのよ」と答えた。
それから1週間もしない内に、各令嬢へ正式にアーロンの妃はカーラになる事が告げられた。
そして、カーラ以外の妃候補者には、急がなくても良いが、宮廷を出て行く準備を始めて欲しいと通達されたのだった。
それから宮廷内の殺伐とした空気は恐ろしいものであった。
それに、ステフィの様子が何だかおかしいのが気になる。
部屋の中にいる時は何時ものように穏やかだけれど、部屋から出ると妙にビクビクしているのだ。もしかして、私だけじゃなく、ジャクリーナ達はステフィにも何か嫌がらせをしているんじゃないかしら。
「ねえ、ステフィ。貴方もしかして、ジャクリーナ様達から何かされているのじゃない?正直に言って?」
「大丈夫よカーラ。貴方が心配するような事は何もないわ。それよりもやっぱり、アーロン王子はカーラが本命だったのね!」
と言っていつものように微笑んだ。
それから数日後、ジャクリーナから宮廷を出て行く前に4人でお茶会をしようと招待状が届いた。
その招待状を見たステフィは、慌てて部屋を飛び出していった。
やっぱりステフィ、何か隠しているわ!
カーラはステフィの後を追いかけたが、何処にいるのか分からず、廊下をウロウロしているとジャクリーナに出くわした。
「あら、こんな所で何をしているのかしら?王子の婚約者ともあろう令嬢が共も付けないなんて、自覚がなさ過ぎよね?」
「その通りですわね。気を付けますわ」
今のジャクリーナにとって私は憎い相手だもの。これ位の嫌味は仕方ないわ。
「それから、お茶会には絶対に参加なさってね。貴方の為のお茶会なんだから。オホホホホホ」
ジャクリーナはそう言って高笑いをすると去っていった。
やっぱりあのお茶会、きっと何かあるわ。
そして、ジャクリーナが去ってすぐに赤い顔で涙目になって、慌てた様子のステフィが現れた。
「カ、カーラ!!こ、こここんな所で、な、何してるの!?」
明らかに動揺しているステフィに、カーラはやっぱりジャクリーナとステフィの間に何かあるのではと疑ってしまう。
「ステフィが慌てて出て行ったから、どうしたのかと思って」
「え!?な、何か見たの!?」
「いいえ、今ステフィが来る前にジャクリーナ様に出会っただけよ。今度のお茶会は絶対に参加してって言われたわ」
そう言うとステフィは明らかに青い顔になった。
「カーラ、そのお茶会行くのやめない?」
「どうして?」
「だ、だって最近ジャクリーナ様達ってカーラに対する嫌がらせが酷いじゃない。お茶会だって何をするか……」
「大丈夫よ。心配しないで。私、嫌がらせ位なんとも思ってないから」
「でも……」
とステフィはいつまでも心配そうにしていた。
◇◆◇
そして、お茶会当日――
「ねえ、カーラやっぱりお茶会に行くのやめない?」
とステフィは心配していた。
「ステフィ、どうしたの?このお茶会に行くと何かあるの?ステフィ知っているなら教えて」
「い、いいえ!ち、ちがうの!私は何も知らないわ!」
ステフィはやっぱり何か様子がおかしいのは気になるけれど、私はジャクリーナのお茶会に参加した。
参加しないという選択も考えたが、それではきっとジャクリーナは馬鹿にされたと、さらに恨みを抱きかねない。それならば、お茶会に参加して私がお茶を溢し、粗相をして嫌味を言われる方が良いだろう。
そして、今日このお茶会を無事に乗り切れば、明日にはジャクリーナ達はこの宮廷を出て行く事になっている。
そうすれば、彼女らが私に毒を盛ったとかそんな事が明るみになる事もなく、彼女達はこれからも人生を歩んでいけるのだから……。
「さあどうぞ、皆さん召し上がって」
ジャクリーナが言うと、ジェナとケイシーは紅茶に口を付けた。
そして、ジャクリーナの視線は私を見ている。
「さあ貴方もどうぞ」
と言って赤い唇の端を上げて笑った。
その時、確信した。このカップには毒が仕込んであると……。
カーラはカップを取るフリをしてカップを倒した。
「申し訳ございません。私ったらとんだ粗相を……」
その瞬間のジャクリーナのなんとも恐ろしい顔は見なかった事にしよう。
よし。これで、このお茶会で毒を盛られたという事実はない。これで、誰も罪に問われる事はないわ!
すると、突然扉が開いて、続々と騎士が入ってきた。
そして、最後にはアーロン王子が登場する。
「みな、動かないでくれ。今日このお茶会で紅茶に毒を仕込んだ者がいる!」
え!?どうしてアーロン王子がその事を知っているの!?
それよりも……不味いわ。今この溢れたお茶を調べられたら、毒が混入している事がバレてジャクリーナが罪人になってしまう。それは駄目よ!!
カーラは立ち上がるとアーロン王子に向き合った。
「急にご婦人のお茶会に入ってくるなど、無作法ではありませんか?しかも、毒を盛っただなんて、見てください。このお茶会の場で苦しんでいる者などおりませんよ?お分かりななりましたら、お取り引き頂けますか?」
「いや、カーラ。この情報は確かな筋から得たもの。君のカップを調べさせて欲しい」
「だ、駄目です!」
「何故だ!?狙われたのは君だぞ!?それなのにこんな重大な事を有耶無耶になど出来ない!!……ジャクリーナ、君がカーラのカップに毒を盛ったのは分かっている!」
名指しされたジャクリーナはビクリと肩を震わせた。
「ジャクリーナ!カーラにこんな事をして、どうなるか分かっているのか!?」
するとジャクリーナは、恨めしい顔で私を見た。
「貴方がいなければ、私がアーロン王子の妃に選ばれたのよ!貴方さえ居なければ……」
とその場で泣き崩れた。
ああ、駄目。見てられない。
「アーロン王子、確かにジャクリーナ様がした事はいけない事だけれど、どうして彼女がここまで追い込まれたか考えた事はありますか?」
「……え?」
「そもそも王子の妃候補、大本命の公爵令嬢がいるのに、急に中流貴族の令嬢が新しい候補者に加わったと思ったら、その令嬢を妃にするだなんて言われた気持ちが分かりますか!?ジャクリーナ様は王子の妃になる為に幼い頃から様々な努力をしてきているのですよ!いいえ、ジャクリーナ様だけではありません。ここにいるジェナ様もケリー様も妃教育として、毎日、毎日、努力をし続けていたんです!みんな貴方の妃になる為にどれだけ苦労したと思っているのよ!!」
シーンとした部屋にパチパチパチパチと手を叩く音が響く。
それは、驚いた顔で拍手をするジャクリーナだった。すると、ジェナとケリーもパチパチパチパチと手を叩き始め、そして、3人は泣きながら力一杯拍手をし出した。
「カーラ。よく言ってくれたわ。そうよ!そうなのよ!!私達だって、王子の為に頑張ったのよ!なのに家からは、格下の令嬢に負けて恥をかいたと罵られて、王子は私達には見向きもしてくれないのよ!」
ジャクリーナの意見にジェナもケリーも大きく頷く。
「そうよ。皆さん達は、この宮廷でずっと窮屈な暮らしをして、王子の妃になる為に頑張っていたのに選ばれなかったからって恥をかいただなんて、本当に酷い言われようよね」
とカーラが言うと
「分かって下さる!?もう!本当にお父様って酷いのよ!!昨日も手紙で……」
とジャクリーナは不満の数々をカーラにぶちまけ、それにジェナもケリーも同じ様な事があったのか加わった。
なかなか終わらない4人の話しにヴェルナーがアーロンに耳打ちする。
「アーロン王子。毒の件はどうするのですか?」
するとアーロンは小さくため息を吐いて「撤収してくれ」と騎士達を出て行かせた。
そして、アーロン王子は咳払いをすると、少し緊張した面持ちで話し始めた。
「その……、ジャクリーナ。今回の件はカーラが毒を摂取していなかった事もあり、不問とする。だが、二度とこのような事はしないと誓ってくれ」
「分かっております。もう、二度とそんな事、致しませんわ。だって、私、カーラの事とっても気に入りましたもの。カーラ、今回の事は本当にごめんなさい。もう二度としないと貴方に誓うわ。それから、これからも私達と仲良くして下さる?」
「もちろんよ!」
とカーラが答える。
その翌日、カーラは宮廷を出て行くジャクリーナをアーロンと共に見送った。その時にアーロンは宮廷を出て行く3人に今まで妃候補として頑張った事を大いに労い、後日高価なプレゼントを送った。
そして、カーラはアーロン王子の婚約者として、宮廷に残り1人妃教育を受ける事になったのだが、今まで、手を抜いていたカーラが急に語学が堪能になり、歴史学では先生が知らない細かな知識まで披露し、マナーは完璧であった為、改めて教える事がないので、自主学習という形になった。
ただ、ダンスレッスンだけは続いている。
それにしても、1つだけ気になっている事があるのよね……。
カーラは久しぶりに時間が出来たからと一緒にお茶を飲むアーロンに聞いた。
「そういえば、どうしてジャクリーナがお茶会で私のカップに毒を盛ったと知っていたの?」
「ああ、それはカーラと二人でお茶を飲んだ事は、すぐに他の候補者にも広がるだろうから、些細な事でも何かあれば、すぐに知らせるようにとステフィに協力を依頼していたんだ」
「……え!?ステフィどういう事!?」
「私は毎回、ヴェルナー様にその日にあった事を報告していただけよ。もちろん、何かあれば気をつけるようにとも言われていたから。お茶会の時もジャクリーナ様が毒を入手した事をヴェルナー様から聞いていて……。もちろん、カーラが口に入れる前に突入すると聞いていたけれど、心配でお茶会に行くのを何度も止めようとしてしまったわ」
「そうだったの。でも、あなた、何かに怯えているような様子なかった?私、ジャクリーナ様との間に何かあるのかとちょっと疑ってしまったわ」
「え?怯えた様子?ああ、それ違うのよ。報告相手がね。ヴェルナー様で、その毎回毎回、報告の度に近すぎて……その……、と、とにかく緊張して逃げるように部屋に帰ってたのよ!」
とステフィは何を思い出したのか赤い顔を手で覆った。
そんなステフィの反応に、カーラが冷めた視線をヴェルナーに向けるとニッコリと微笑まれてしまった。
ああ、ヴェルナーは確信犯ね。ステフィに必要以上に近付いて。全く!
「ところで、カーラ。ダンスレッスンの方は順調か?結婚式の次の日に舞踏会があるだろう?そこで二人だけで踊らないといけないんだが……」
「うっ……、それは聞かないで下さい……。なんとか間に合わせますから……」
しかし、結局カーラは流行りの振り付けを全て覚える事が出来ず、舞踏会では古い振り付けに流行りの振り付けを組み込む形で踊る事となった。
だが、それが逆に新鮮だったのか、その振り付けが新しい流行となったのだった。
こうして、地味な人生を望んでいたカーラは、アーロン王子と結婚し、後世に語り継がれる程の素晴らしい王妃となったのだった――
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............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
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送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
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