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第4話
しおりを挟む宮廷の舞踏会当日――
懐かしいわね。この感じ……
きらびやかな舞踏会の会場。自身を際立たせる為に高価なドレスを着た令嬢達。その中でも一際、派手に自身を着飾る令嬢がいた。
あれは、確か公爵令嬢のジャクリーナ・ケメット。アーロン王子の結婚相手の第一候補だと言われていたわね。
それにしてもこの国のアーロン王子は、未だ婚約者を決めず、妃候補の令嬢を宮廷に集めて住まわせているらしい。そんな事をしたらお妃候補のご令嬢達で妃の座を巡って激しい争いになるのは必須だろうに……。
地獄絵図だわ。絶対に関わりたくないわね。
カーラは想像しただけで恐ろしい光景に身震いした。
「カ、カーラ!いたわ!」
ステフィが興奮したように私の手を引いてきた。
遠くにはアーロン王子とその護衛をしているヴェルナーがいた。
この国の王子、アーロン・ハンメルン。金髪碧眼の美麗な王子は妃候補と目される高貴なお嬢様方に囲まれていた。
そして、その輪から少し離れた所には今回の舞踏会に招待されたリーブシス国王の弟夫妻であるジミリー・リーブシス様と妃のレギナ様がいた。
しかし、国王とジミリー様で話が盛り上がってしまっているらしく、レギナ様は後方で静かにされていた。
あらあら、あれじゃあレギナ様が退屈じゃない。
この国の王妃様は既に亡くなっているし、国王もジミリー様と話中。
公爵夫人がレギナ様のお相手をしてはいるが、言葉が上手く噛み合っていないようだ。
リーブシス国は独自の言語を持つ国。もちろんレギナ様も共通言語はある程度は出来るのでしょうが、どうやら細かい部分が上手く伝わらなくて、会話が盛り上がっていないようだ。
カーラは舞踏会の様子を観察しながら、近くのテーブルに用意された美味しそうな料理に思わず手を伸ばした。
「んー!美味しい!」
と次々と料理を口に運んでいく。
「もう、カーラ!食べすぎじゃない?」
とステフィに注意されてしまう。
「ごめん、ごめん。宮廷料理なんて久しぶりだから、つい」
「久しぶり?」
「あーとっ、そう!舞踏会久しぶりだから!それに何と言っても宮廷の舞踏会の料理だもの!たくさん食べないと勿体ないわ!」
転生してからは、町の露店で売っている食べ物の美味しさに感動したりもしたけど、たまーに王宮御用達の茶葉とお菓子が恋しくなるのよね。
カーラは久しぶりの宮廷料理に舌鼓を打っていると、レギナ様が一人でフラフラと会場を出て行ってしまった。
え?ちょっと誰も一緒に行かないの!?
国王とジミリー様は相変わらず二人の話に熱中しているし、アーロン王子とヴェルナーは令嬢に囲まれて身動きが取れないようだし、相手をしていた公爵夫人も他の夫人とのお話に夢中になってしまって、気づいていない。
「ちょっと、抜けるわ」
「え?カーラ、ちょ、どこいくの!?」
カーラはレギナ様を追うように舞踏会の会場を出ると、廊下で聞き覚えのある声が聞こえた。
「おい!俺にぶつかるとはどういうつもりだ!?」
この声、この言い方、あれは……やっぱり、リドット・ラビリス!!
しかも因縁つけられてるのはレギナ様じゃない!!
ちょっと、ちょっと!国際問題に発展するわよ!!
カーラは急いでレギナ様に駆け寄るとリーブシス語で話しかけた。
『どうされたのですか?』
『彼にぶつかってしまったのかしら?私も間違えてお酒を飲んでしまったみたいだから、体調が……。私はお酒が合わない体質だから飲まないように気を付けていたのだけれど……』
とフラフラとしながらレギナ様は答えた。
「おい!お前!なんでそんなババアを庇うんだ!!」
「リドット様、こちらのご婦人はリーブシス国のレギナ様ですわ。無礼な態度がどんな事になるかおわかりですよね?」
「え!?」
顔面蒼白になるリドット。
そんなリドットの事など、構わずカーラはレギナ様を支えるとステフィに言った。
「ステフィ、レギナ様が体調を悪くしているからすぐに休める部屋を用意するように伝えて」
「わ、分かったわ」
そう言って急いでステフィは人を呼びにいく。
『すぐに部屋で休めるように致しますね』
『ええ。ありがとう』
とそこにアーロン王子とヴェルナーが駆けつけた。
「レギナ様!?」
カーラに支えられるレギナ様を見て驚くアーロンに、カーラは事務的に状況を伝える。
「レギナ様は手違いでお酒を飲まれたようです。お酒が合わない体質だと仰っています」
「な、なんだって!?」
するとステフィが使用人を連れて戻ってきた。
「カーラこっちの部屋使えるって!」
私はステフィが連れてきた使用人にレギナ様を任せると、アーロン王子とヴェルナーもレギナ様に付き添って部屋へ入っていった。
アーロン王子も付いているし、レギナ様はもう大丈夫でしょう。
カーラはそっとその場を離れた。
レギナは医者に診てもらい薬を飲むとすっかり元気を取り戻した。
『はあ、なんだか大事になってしまって申し訳ないわ』
顔色が良くなったレギナはアーロンに申し訳なさそうに言った。
『いいえ。こちらこそ、不手際があり申し訳ございません』
アローンは誠心誠意を込めて頭を下げる。
『いいのよ。私もちゃんと伝えられなかったんだから。それより、さっきのお嬢さんに改めてお礼をしたいのだけれど、どちらにいるかしら?』
と言ってレギナはアーロンを見た。
すると、アーロンは申し訳なさそうに答えた。
『レギナ様、申し訳ございません。私も彼女を探しているのですが、どうやらもう会場には居ないようで、既に帰ってしまったのではないかと……』
『あら、そうなの!?残念だわ。彼女、リーブシス語がとってもお上手だったのよ。もっとお話したかったわ』
『ええ、私も……彼女ともっと話してみたいです』
そう言ってアーロンは意味あり気に微笑んだ。
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