17 / 17
第17話
しおりを挟む
お茶を飲んだ後、バシリオ王子自らホステラーノの王宮内を案内してくれる事になった。
「ここは、我らがホステラーノ王国が誇る騎士団の訓練場だよ」
そこには、剣術の稽古をする騎士達がいて、その中に赤い髪の騎士、ゴートンがいた。
ゴートンだわ!
それにしても、改めて見てもやっぱりゴートンとリシェントって似てるわね。
リシェントもちょうどホステラーノ王国で仕事があるからと、私達と一緒にホステラーノ王国にやってきていた。
私達がホステラーノ国王に挨拶に行くというと、仕事があるからとフラフラ何処かへ消えてしまったけれど……。
私達が騎士団の訓練を見ているとバシリオ王子が手を上げて訓練を止めて、ゴートンを呼ぶ。
「彼は、騎士団で1番強いと言われているゴートン・デイヴィスだ」
「はじめまして」
ゴートンは爽やかに笑った。
ああ、ゲーム画面越しに見たゴートンの笑顔が目の前に!!
レオンにバシリオ王子、ゴートンが同じ場所で談笑してるとかどんな奇跡よ!
「ああ、ここにシーフスが居てくれたら最高なのに……」
ルイーザが小さく呟いた瞬間、ルイーザの肩に手が置かれた。
「呼んだか?」
声に驚いて、後ろを振り返るとそこには7年前と変わらぬ姿のシーフスがいた。
「シーフス、どうしてここに!?」
「いや、何か面白い事がありそうだと思って、最近、エルフの里を出てホステラーノ王国に来ていたんだ」
「そ、そうなの?」
確かに、シーフスはゲームでもファニアちゃんが聖女に目覚めると、エルフ里を出てホステラーノ王国に来ていたから、エルフにはそういう勘があるのかもしれない。
「ルイーザ嬢は、シーフス殿と知り合いなのか?」
「え、ええ。レオンと前にお世話になった事があって……」
と言いながら、私は4人が並ぶ様を見て叫びたいのを猛烈に我慢していた。
な、何なの!?この豪華な並びは!!最高過ぎる!!
ま、不味い……。頭に血が登りすぎてフラフラしてきたわ……
「ルイーザ!?」
そして、興奮し過ぎた私は倒れてしまった――
◇
あれ?ここは……?
気が付くと、そこはベッドの上であった。
豪華なベッドてある所を見ると、ホステラーノ王国の客室なのだろう。
起き上がると、一人の侍女姿の女性がこちらを振り返った。
「あら、お目覚めになられましたか?」
ふわっと笑ったその侍女は
「ファ、ファニアちゃん!!」
「は、はい!」
驚いた顔で返事をしたファニアに、私は思った。
やっぱ、ヒロイン可愛いわぁ。
ファニアの可愛いさに、ルイーザが気の抜けた顔になっていると
「ルイーザ様、お加減は如何ですか?お医者様をお呼びしましょうか?」
と心配そうに聞かれて、ルイーザはハッとして淑女のキリッとした顔になると言った。
「いいえ、もう大丈夫よ」
それを聞いたファニアは、眉を下げて安心したように息を吐いた。
「はあ、良かったですわ。それでは、外にいる皆さんに、ルイーザ様がお目覚めになったとお教えしてきますわね。特にレオン王子はとてもご心配されておりましたから……」
そうか……、レオンはエヴァルト王子が何度も倒れているから、私が倒れてきっととても不安がっているわよね。
「大丈夫よ。私が直接行くわ」
そう言って、私は起き上がるとファニアちゃんに手伝って貰い身支度を整え始めた――
その頃、ルイーザがいる客室の扉の前には、心配してレオン、バシリオ、ゴートン、シーフスがルイーザが目覚めるのを待っていた。
しかし、そこは異様に重たい空気に包まれていた――
その重い空気の原因はレオンであった。
レオンはルイーザが倒れた事に激しく動揺していた。
ルイーザ!ルイーザ!!早く目覚めてくれ!お願いだから!
君に何かあったら、俺は……俺は……――
レオンを包む空気が重く黒く渦巻いていく。
その様を魔力を持つバシリオ王子は、何事かと注視し、眉を寄せて、いつでも剣を抜けるように気を張っていた。
シーフスは、無表情で闇に落ちかけているレオンの様子を伺っていた。
ゴートンは、この重い空気の原因が、レオンだと分からず、しかし、何かがおかしいと肌で感じており、落ち着かない様子で部屋の周りに異常がないかと確認していた。
そんな中、ルイーザが倒れたと聞いたリシェントが、急いだ様子でやって来た。
「ルイーザが倒れたって聞いたぞ!……って、おい!レオン!!」
レオンが黒い空気に包まれている事に驚いたリシェントは、すぐ様レオンの肩を掴んだ。
「おい!レオン!!しっかりしろ!!」
「リシェント……、ルイーザが倒れたんだ……」
無表情でそう言うレオンに、闇に食われるんじゃないかという恐ろしさを感じてリシェントは、一旦レオンから距離を取った。
「兄ちゃん!」
リシェントはその声に後ろを振り返ると、そこにはゴートンがいた。
「おい!ゴートン、これはどういう事だ!?レオンは一体どうしたんだ!?」
「レオン王子は、婚約者が倒れて心配して、落ち込んでいるようだね」
ゴートンには、それ以上はよく分からないという顔で言った。
「そうか……、お前は魔力がないんだったな」
リシェントは小さく呟くと、シーフスの方に視線を移した。
「シーフス、これはどういう事なんだ!?」
するとシーフスは小さく笑って言った。
「ああ、レオンは見ての通り闇に落ちかけている。ルイーザが倒れて闇に食われるようなら、やはりレオンは何も変わってなかったって事だ」
「お前!それ本気で言ってるのか!?」
「我はエルフだ。人間とは違う」
シーフスの冷淡な表情と言葉に、リシェントはシーフスにこれ以上何か言った所で仕方がないと、それ以上は何も言わなかった。
それよりもレオンだ。これまで魔力をコントロールする為に頑張っていたんだ。あと一年でルイーザと結婚するっていうのに……。
「レオン!お前、ルイーザと結婚するんだろう!?この先、お前がそんな事でルイーザを守っていけるのか!?」
「ルイーザを……守る……?」
「そうだよ!お前がルイーザを守るんだよ!」
ルイーザ……――
レオンは初めて、ルイーザに会った日の事を思い出していた。お母様が居なくなったばかりで落ち込んでいた時に、ルイーザと初めて出会って、あの時もルイーザは倒れてしまったっけ……。
それから、エヴァルトお兄様が毒に侵された時は、ルイーザが解毒草の事を教えてくれて、ムブルに乗って一緒に二人で取りに行ったんだ。
その後も、ルイーザが侍女やカルメラ王妃に怯む事なく立ち向かってくれたおかげで、お兄様に解毒草を飲ませる事が出来た。
あの時にはルイーザの事を可愛くて格好良い女の子だなって思って、もう好きになってた。だから、ルイーザが僕の事を支えたいって言ってくれて、凄く嬉しくて……婚約したいって初めてお父様に我儘を言ったんだ――
ルイーザと婚約してから、ルイーザと一緒にいられる時間が増えて嬉しくて、楽しくて、幸せだった。ルイーザと二人で王都に行った時だって、ルイーザは社会勉強の為だなんて言ってたけど、僕はデートのつもりで……。ラステックに追いかけられた時は焦ったけど、リシェントと仲良くなって、魔力の事を教えて貰う事が出来たんだ……――
レオンが今までのルイーザとの事を思い出していく度にレオンを包む闇が小さくなっていく。
もうすぐ、ルイーザと結婚する……。今度は僕がルイーザを守れるように強くなるんだ!!
レオンを包む闇が消えた瞬間、客室の扉が開いてルイーザが顔を出した。
「みんな心配させてしまったみたいで、ごめんなさい」
申し訳なさそうに言って笑ったルイーザをレオンは駆け出して、抱き締めた。
レオンの闇はすっかり消え去っていて、リシェントは大きく息を吐いた。
シーフスはレオンの闇が消えた事に楽しそうに笑い始めて、ゴートンはよくわからないが、釣られて一緒に笑っていた。
バシリオは、何かを乗り越えたらしいレオンに、剣を抜こうとしていた手を戻すと肩の力を抜いて、一息ついた。
すると、ファニアがそっとバシリオにハンカチを差し出した。
「よろしければ、汗を拭うのにお使い下さい」
そう言われて、バシリオは初めて自身が冷や汗をかくほど緊張していたのだと気が付いた。
「ああ、助かる」
そう言って、ファニアからハンカチを受け取ると、ファニアはふわっと微笑んだ。
その笑顔にバシリオも笑みを返したのだった。
「ごめんなさい。とっても心配させちゃったみたいで」
強くルイーザを抱きしめるレオンに、ルイーザは少々困惑しながらも優しく言って、レオンを抱き締め返した。すると、レオンは耳元でルイーザにだけ聞こえるように言った。
「ルイーザ、これからは僕が君を守るから、安心して」
その言葉にルイーザは、涙が溢れるのを感じた。
それは、もうレオンが悪の帝王にならないようにと頑張らなくて良いんだと言われたような気がしたからだ。
ああ……、レオンはもう大丈夫なんだね……。良かった――
ルイーザは、甘えるようにレオンの胸に頭を擦り付けて、「ありがとう」と小さく呟いたのだった――
◇
それから1年後、レオンとルイーザの結婚式が執り行われた――
結婚式には友人として、バシリオ王子も招待されていた。
そして、バシリオ王子の護衛でゴートンと侍女のファニアも一緒にきていた。
バシリオ王子とファニアちゃん、いつの間にか良い感じになってるわ!良かった!悪の帝王が居なくたって二人は上手くのね!
とルイーザは一人ホクホク顔で二人の様子を伺っていた。
そして、驚いたのが、ゴートンとリシェントが兄弟だったという事だ。ゴートンはリシェントを見つけると
「兄ちゃん、たまにはホステラーノにも来てくれよー」
と言って弟らしく甘えていた。なんでもリシェントは貴族の家を継ぐのが嫌で、デイヴィス家を飛び出して、世界各国を旅している内に商人になったそうなのだ。ただ、父親とは気まずいらしく、ホステラーノには余り行かないらしい。二人の関係を知った時はそんな、裏設定があったのか!!と興奮してしまった。
そして、ルイーザは皆の姿を見てこう思っていた。
やっぱり、真のハッピーエンドルートはレオンが悪の帝王にならないって事だったのだと――
ルイーザは、自身の隣にいるレオンを見上げる。――が、すぐに顔を逸してしまった。
ホステラーノ王国でルイーザが倒れた後から、ルイーザは前には感じなかった頼もしさをレオンに感じるようになっていた。そして、そんなレオンにルイーザは最近落ち着かない気持ちでいた。
最近、レオンが近くにいるだけでドキドキして落ち着かないのに、花婿姿のレオンは何時もより割増で格好良くて、全然顔を見れないわ。
「ルイーザ、どうしたの?疲れた?」
そんなルイーザの様子にレオンは敏感に反応する。
「う、ううん。なんでもないわ。大丈夫よ」
「本当に?少し、顔が赤いよ。あっちで休もう」
そう言って、レオンはルイーザをエスコートして、人気のない場所へ来ると、ルイーザを椅子に座らせた。
「何か、飲み物を持ってこようか?」
「ううん。大丈夫だから、ここに居て」
ルイーザは、レオンの服の袖を掴んで言うと、レオンの顔を見上げた。
あ、目が合っちゃった……
レオンと見つめ合うと、途端にルイーザはドキドキとして頬を赤くして顔を逸らしてしまう。
しかし、そんなルイーザの頬を優しくレオンの手が包んだ。
「ルイーザ、どうして今日は僕の顔を見てくれないの?」
ほ、ほら!前はこんな事言わなかったのに!
「ねえ……、どうして?」
レオンの綺麗な顔と色気のある声に、ルイーザは本音をポロリと溢してしまう。
「だ、だって……格好良くてドキドキしてしまうから」
その言葉にレオンは嬉しそうに微笑むと、ルイーザの顔を優しく上に向けて、口付けたのだった――
そんな二人の姿を離れた所でムブルとシーフスが祝福していた。
「グルグ、グー」《今回は、レオンが闇落ちしなかったぞ。ルイーザはまるでレオンが悪の帝王になる事を知っているかのような回避術だったな》
「ルイーザは夢見が出来るようだよ。もしかしたら、レオンが違う姿になる夢も見た事があったんじゃないのか?それとも我らのようにいくつもの違うルートを知っているとか?我らは人間とは違う時間軸で過ごしているからな。しかし、今回は格別に面白かった」
「グルルル」《レオンが幸せなら俺はそれでいい》
「お前は本当にレオンが好きなんだな」
そんな話しをムブルとシーフスがしているとは知らず、口付けしているのを見られた事に慌てたルイーザは、真っ赤になってレオンに抗議するのであった――
fin
「ここは、我らがホステラーノ王国が誇る騎士団の訓練場だよ」
そこには、剣術の稽古をする騎士達がいて、その中に赤い髪の騎士、ゴートンがいた。
ゴートンだわ!
それにしても、改めて見てもやっぱりゴートンとリシェントって似てるわね。
リシェントもちょうどホステラーノ王国で仕事があるからと、私達と一緒にホステラーノ王国にやってきていた。
私達がホステラーノ国王に挨拶に行くというと、仕事があるからとフラフラ何処かへ消えてしまったけれど……。
私達が騎士団の訓練を見ているとバシリオ王子が手を上げて訓練を止めて、ゴートンを呼ぶ。
「彼は、騎士団で1番強いと言われているゴートン・デイヴィスだ」
「はじめまして」
ゴートンは爽やかに笑った。
ああ、ゲーム画面越しに見たゴートンの笑顔が目の前に!!
レオンにバシリオ王子、ゴートンが同じ場所で談笑してるとかどんな奇跡よ!
「ああ、ここにシーフスが居てくれたら最高なのに……」
ルイーザが小さく呟いた瞬間、ルイーザの肩に手が置かれた。
「呼んだか?」
声に驚いて、後ろを振り返るとそこには7年前と変わらぬ姿のシーフスがいた。
「シーフス、どうしてここに!?」
「いや、何か面白い事がありそうだと思って、最近、エルフの里を出てホステラーノ王国に来ていたんだ」
「そ、そうなの?」
確かに、シーフスはゲームでもファニアちゃんが聖女に目覚めると、エルフ里を出てホステラーノ王国に来ていたから、エルフにはそういう勘があるのかもしれない。
「ルイーザ嬢は、シーフス殿と知り合いなのか?」
「え、ええ。レオンと前にお世話になった事があって……」
と言いながら、私は4人が並ぶ様を見て叫びたいのを猛烈に我慢していた。
な、何なの!?この豪華な並びは!!最高過ぎる!!
ま、不味い……。頭に血が登りすぎてフラフラしてきたわ……
「ルイーザ!?」
そして、興奮し過ぎた私は倒れてしまった――
◇
あれ?ここは……?
気が付くと、そこはベッドの上であった。
豪華なベッドてある所を見ると、ホステラーノ王国の客室なのだろう。
起き上がると、一人の侍女姿の女性がこちらを振り返った。
「あら、お目覚めになられましたか?」
ふわっと笑ったその侍女は
「ファ、ファニアちゃん!!」
「は、はい!」
驚いた顔で返事をしたファニアに、私は思った。
やっぱ、ヒロイン可愛いわぁ。
ファニアの可愛いさに、ルイーザが気の抜けた顔になっていると
「ルイーザ様、お加減は如何ですか?お医者様をお呼びしましょうか?」
と心配そうに聞かれて、ルイーザはハッとして淑女のキリッとした顔になると言った。
「いいえ、もう大丈夫よ」
それを聞いたファニアは、眉を下げて安心したように息を吐いた。
「はあ、良かったですわ。それでは、外にいる皆さんに、ルイーザ様がお目覚めになったとお教えしてきますわね。特にレオン王子はとてもご心配されておりましたから……」
そうか……、レオンはエヴァルト王子が何度も倒れているから、私が倒れてきっととても不安がっているわよね。
「大丈夫よ。私が直接行くわ」
そう言って、私は起き上がるとファニアちゃんに手伝って貰い身支度を整え始めた――
その頃、ルイーザがいる客室の扉の前には、心配してレオン、バシリオ、ゴートン、シーフスがルイーザが目覚めるのを待っていた。
しかし、そこは異様に重たい空気に包まれていた――
その重い空気の原因はレオンであった。
レオンはルイーザが倒れた事に激しく動揺していた。
ルイーザ!ルイーザ!!早く目覚めてくれ!お願いだから!
君に何かあったら、俺は……俺は……――
レオンを包む空気が重く黒く渦巻いていく。
その様を魔力を持つバシリオ王子は、何事かと注視し、眉を寄せて、いつでも剣を抜けるように気を張っていた。
シーフスは、無表情で闇に落ちかけているレオンの様子を伺っていた。
ゴートンは、この重い空気の原因が、レオンだと分からず、しかし、何かがおかしいと肌で感じており、落ち着かない様子で部屋の周りに異常がないかと確認していた。
そんな中、ルイーザが倒れたと聞いたリシェントが、急いだ様子でやって来た。
「ルイーザが倒れたって聞いたぞ!……って、おい!レオン!!」
レオンが黒い空気に包まれている事に驚いたリシェントは、すぐ様レオンの肩を掴んだ。
「おい!レオン!!しっかりしろ!!」
「リシェント……、ルイーザが倒れたんだ……」
無表情でそう言うレオンに、闇に食われるんじゃないかという恐ろしさを感じてリシェントは、一旦レオンから距離を取った。
「兄ちゃん!」
リシェントはその声に後ろを振り返ると、そこにはゴートンがいた。
「おい!ゴートン、これはどういう事だ!?レオンは一体どうしたんだ!?」
「レオン王子は、婚約者が倒れて心配して、落ち込んでいるようだね」
ゴートンには、それ以上はよく分からないという顔で言った。
「そうか……、お前は魔力がないんだったな」
リシェントは小さく呟くと、シーフスの方に視線を移した。
「シーフス、これはどういう事なんだ!?」
するとシーフスは小さく笑って言った。
「ああ、レオンは見ての通り闇に落ちかけている。ルイーザが倒れて闇に食われるようなら、やはりレオンは何も変わってなかったって事だ」
「お前!それ本気で言ってるのか!?」
「我はエルフだ。人間とは違う」
シーフスの冷淡な表情と言葉に、リシェントはシーフスにこれ以上何か言った所で仕方がないと、それ以上は何も言わなかった。
それよりもレオンだ。これまで魔力をコントロールする為に頑張っていたんだ。あと一年でルイーザと結婚するっていうのに……。
「レオン!お前、ルイーザと結婚するんだろう!?この先、お前がそんな事でルイーザを守っていけるのか!?」
「ルイーザを……守る……?」
「そうだよ!お前がルイーザを守るんだよ!」
ルイーザ……――
レオンは初めて、ルイーザに会った日の事を思い出していた。お母様が居なくなったばかりで落ち込んでいた時に、ルイーザと初めて出会って、あの時もルイーザは倒れてしまったっけ……。
それから、エヴァルトお兄様が毒に侵された時は、ルイーザが解毒草の事を教えてくれて、ムブルに乗って一緒に二人で取りに行ったんだ。
その後も、ルイーザが侍女やカルメラ王妃に怯む事なく立ち向かってくれたおかげで、お兄様に解毒草を飲ませる事が出来た。
あの時にはルイーザの事を可愛くて格好良い女の子だなって思って、もう好きになってた。だから、ルイーザが僕の事を支えたいって言ってくれて、凄く嬉しくて……婚約したいって初めてお父様に我儘を言ったんだ――
ルイーザと婚約してから、ルイーザと一緒にいられる時間が増えて嬉しくて、楽しくて、幸せだった。ルイーザと二人で王都に行った時だって、ルイーザは社会勉強の為だなんて言ってたけど、僕はデートのつもりで……。ラステックに追いかけられた時は焦ったけど、リシェントと仲良くなって、魔力の事を教えて貰う事が出来たんだ……――
レオンが今までのルイーザとの事を思い出していく度にレオンを包む闇が小さくなっていく。
もうすぐ、ルイーザと結婚する……。今度は僕がルイーザを守れるように強くなるんだ!!
レオンを包む闇が消えた瞬間、客室の扉が開いてルイーザが顔を出した。
「みんな心配させてしまったみたいで、ごめんなさい」
申し訳なさそうに言って笑ったルイーザをレオンは駆け出して、抱き締めた。
レオンの闇はすっかり消え去っていて、リシェントは大きく息を吐いた。
シーフスはレオンの闇が消えた事に楽しそうに笑い始めて、ゴートンはよくわからないが、釣られて一緒に笑っていた。
バシリオは、何かを乗り越えたらしいレオンに、剣を抜こうとしていた手を戻すと肩の力を抜いて、一息ついた。
すると、ファニアがそっとバシリオにハンカチを差し出した。
「よろしければ、汗を拭うのにお使い下さい」
そう言われて、バシリオは初めて自身が冷や汗をかくほど緊張していたのだと気が付いた。
「ああ、助かる」
そう言って、ファニアからハンカチを受け取ると、ファニアはふわっと微笑んだ。
その笑顔にバシリオも笑みを返したのだった。
「ごめんなさい。とっても心配させちゃったみたいで」
強くルイーザを抱きしめるレオンに、ルイーザは少々困惑しながらも優しく言って、レオンを抱き締め返した。すると、レオンは耳元でルイーザにだけ聞こえるように言った。
「ルイーザ、これからは僕が君を守るから、安心して」
その言葉にルイーザは、涙が溢れるのを感じた。
それは、もうレオンが悪の帝王にならないようにと頑張らなくて良いんだと言われたような気がしたからだ。
ああ……、レオンはもう大丈夫なんだね……。良かった――
ルイーザは、甘えるようにレオンの胸に頭を擦り付けて、「ありがとう」と小さく呟いたのだった――
◇
それから1年後、レオンとルイーザの結婚式が執り行われた――
結婚式には友人として、バシリオ王子も招待されていた。
そして、バシリオ王子の護衛でゴートンと侍女のファニアも一緒にきていた。
バシリオ王子とファニアちゃん、いつの間にか良い感じになってるわ!良かった!悪の帝王が居なくたって二人は上手くのね!
とルイーザは一人ホクホク顔で二人の様子を伺っていた。
そして、驚いたのが、ゴートンとリシェントが兄弟だったという事だ。ゴートンはリシェントを見つけると
「兄ちゃん、たまにはホステラーノにも来てくれよー」
と言って弟らしく甘えていた。なんでもリシェントは貴族の家を継ぐのが嫌で、デイヴィス家を飛び出して、世界各国を旅している内に商人になったそうなのだ。ただ、父親とは気まずいらしく、ホステラーノには余り行かないらしい。二人の関係を知った時はそんな、裏設定があったのか!!と興奮してしまった。
そして、ルイーザは皆の姿を見てこう思っていた。
やっぱり、真のハッピーエンドルートはレオンが悪の帝王にならないって事だったのだと――
ルイーザは、自身の隣にいるレオンを見上げる。――が、すぐに顔を逸してしまった。
ホステラーノ王国でルイーザが倒れた後から、ルイーザは前には感じなかった頼もしさをレオンに感じるようになっていた。そして、そんなレオンにルイーザは最近落ち着かない気持ちでいた。
最近、レオンが近くにいるだけでドキドキして落ち着かないのに、花婿姿のレオンは何時もより割増で格好良くて、全然顔を見れないわ。
「ルイーザ、どうしたの?疲れた?」
そんなルイーザの様子にレオンは敏感に反応する。
「う、ううん。なんでもないわ。大丈夫よ」
「本当に?少し、顔が赤いよ。あっちで休もう」
そう言って、レオンはルイーザをエスコートして、人気のない場所へ来ると、ルイーザを椅子に座らせた。
「何か、飲み物を持ってこようか?」
「ううん。大丈夫だから、ここに居て」
ルイーザは、レオンの服の袖を掴んで言うと、レオンの顔を見上げた。
あ、目が合っちゃった……
レオンと見つめ合うと、途端にルイーザはドキドキとして頬を赤くして顔を逸らしてしまう。
しかし、そんなルイーザの頬を優しくレオンの手が包んだ。
「ルイーザ、どうして今日は僕の顔を見てくれないの?」
ほ、ほら!前はこんな事言わなかったのに!
「ねえ……、どうして?」
レオンの綺麗な顔と色気のある声に、ルイーザは本音をポロリと溢してしまう。
「だ、だって……格好良くてドキドキしてしまうから」
その言葉にレオンは嬉しそうに微笑むと、ルイーザの顔を優しく上に向けて、口付けたのだった――
そんな二人の姿を離れた所でムブルとシーフスが祝福していた。
「グルグ、グー」《今回は、レオンが闇落ちしなかったぞ。ルイーザはまるでレオンが悪の帝王になる事を知っているかのような回避術だったな》
「ルイーザは夢見が出来るようだよ。もしかしたら、レオンが違う姿になる夢も見た事があったんじゃないのか?それとも我らのようにいくつもの違うルートを知っているとか?我らは人間とは違う時間軸で過ごしているからな。しかし、今回は格別に面白かった」
「グルルル」《レオンが幸せなら俺はそれでいい》
「お前は本当にレオンが好きなんだな」
そんな話しをムブルとシーフスがしているとは知らず、口付けしているのを見られた事に慌てたルイーザは、真っ赤になってレオンに抗議するのであった――
fin
0
お気に入りに追加
543
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢とバレて、仕方ないから本性をむき出す
岡暁舟
恋愛
第一王子に嫁ぐことが決まってから、一年間必死に修行したのだが、どうやら王子は全てを見破っていたようだ。婚約はしないと言われてしまった公爵令嬢ビッキーは、本性をむき出しにし始めた……。
乙女ゲームが始まってるらしいです〜私はあなたと恋をする〜
みおな
恋愛
私が転生した世界は、乙女ゲームの世界らしいです。
前世の私がプレイした乙女ゲーム『花束みたいな恋をあなたと』は伯爵令嬢のヒロインが、攻略対象である王太子や公爵令息たちと交流を深め、そのうちの誰かと恋愛をするゲームでした。
そして、私の双子の姉はヒロインである伯爵令嬢のようです。
でもおかしいですね。
『花束みたいな恋をあなたと』のヒロインに妹なんていなかったはずですが?
転生王女は推しの護衛騎士と恋するはずが、幼馴染みの公爵令息が気になっている
花見 有
恋愛
前世で読んだ小説の世界に転生したレイアは、小説内でレイアと結ばれる護衛騎士ハンスの事を推していた。推しと結ばれるレイアに転生した事を喜んでいたが、遊学から帰ってきた幼馴染みの公爵令息エルドの事が気になってしまい、ハンスとの恋に身が入らないでいた。
2人の騎士と壁の花
room521
恋愛
自ら望んで壁の花をしている伯爵令嬢ゾフィアには、夜会のたびに楽しみにしていることがある。それは貴族たちの華やかなダンスを眺めることと、密かにある騎士を探すことで──。彼女に近づく騎士と、もう1人の騎士が現れるとき、彼女の世界は色鮮やかに変貌を遂げる。
※※※三角関係のような逆ハーのような軽めなノリのラブコメです。中世ではなく異世界という設定なので、ダンスのアレソレは大雑把に読んでくれると大変助かります。完結まで投稿予定。
転生したヒロインのはずなのに地味ダサ令嬢に脇役に追いやられ、氷の貴公子に執着されました
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
やったーー! 私は気付いたらゲームの世界のヒロインに転生していた。これから愛しの王子様とラブラブの学園生活を送るのだ。でも待って、私の前には何故か地味でダサい女がいてくれて、尽く私のイベントを邪魔してくれるんだけど。なんで! この女、ものすごく鈍くて私の嫌味も意地悪も果ては虐めても全く通用しない。でも、何故か女嫌いの王子様との仲はうまくいっているんだけど。ちょっとあなた、どきなさいよ! そこは私の位置なのよ!
ヒロインの座を奪われても、人の良い主人公はその地味ダサ令嬢と馬鹿にしていた令嬢のために奔走させられてしまって……
果たして主人公は地味ダサ令嬢からヒロインの座を奪い返せるのか? 更には何故か一番近づきになりたくないと思っていた攻略対象の一人の氷の侯爵令息に興味を持たれてしまって……
『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて執着されました』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/497818447
のサイドストーリーです。
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
【完結】私の初めての恋人は、とても最低な人でした。
Rohdea
恋愛
──私の初めての恋人は、私を騙してた。
あなただけは違うと……信じていたのに──
「ゆくゆくはこのまま彼女と結婚して、彼女にはお飾りの妻になってもらうつもりだ」
その日、私は交際して間もない恋人の本音を聞いてしまった。
彼、ウォレスには私じゃない好きな人が別にいて、
最初から彼は私を騙していて、その平民の彼女と結ばれる為に私を利用しようとしていただけだった……
──……両親と兄の影響で素敵な恋に憧れていた、
エリート養成校と呼ばれるシュテルン王立学校に通う伯爵令嬢のエマーソンは、
今年の首席卒業の座も、間違い無し! で、恋も勉強も順風満帆な学校生活を送っていた。
しかしある日、初めての恋人、ウォレスに騙されていた事を知ってしまう。
──悔しい! 痛い目を見せてやりたい! 彼を見返して復讐してやるわ!
そう心に誓って、復讐計画を練ろうとするエマーソン。
だけど、そんなエマーソンの前に現れたのは……
※『私の好きな人には、忘れられない人がいる。』 『私は、顔も名前も知らない人に恋をした。』
“私の好きな人~”のカップルの娘であり、“顔も名前も~”のヒーローの妹、エマーソンのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ほんわか優しいストーリーで、ランキング上位に殺伐としたお話が多い中、非常に癒されました。
スルーされ続ける少年に萌えました。
恋のテクニックもお勉強してるの、可愛すぎました。
感想ありがとうございます!
癒しになれて嬉しいです(^o^)
優しいお話で面白かったです。ありがとうございました❗️
ご感想頂けて、嬉しいです!
ありがとうございます!
12話
一気読み中。
ひとまず、誤字報告を。
誤→ 「はあ、せめてシーフスがホステ
ラーノの国に居てくれたるなぁ」
正→ 「はあ、せめてシーフスがホステ
ラーノの国に居てくれたらなぁ」
誤字報告、ありがとうございます!
修正しました!