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第4話 契約の合意

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 そして翌日、カレンはさっそくエリック王子を呼び出した。

「やあ、カレン嬢から呼んでくてるなんて嬉しいよ。もうすぐ、結婚式だしなにか相談でもあるのかい?」

「ええ。とても重要な相談事があるわ」

「なんだい?」

 エリックはニコリと微笑んでカレンの言葉を待った。

「私、貴方とは結婚したくない」

「……え?どういう事?」

 エリックのにこやかだった顔が一瞬にして険しいものになった。

「エリック王子は私と夫婦として信頼関係を築く気がないのでしょう?そんな人と結婚なんてできないわ」

「何を言っているんだい?もしかして、他に好きな男がいたのか?それで結婚が嫌だという事?」

「違うわ」

 カレンはエリックを睨むと昨日、廊下でエリックとデヴォンが話していた内容を聞いていたと告げた。

 エリックはカレンの話しに驚いた顔をした後、下を向いて「ハッハハハハハ」と何がおかしいのか笑い始めた。

「何なの?何がおかしいのよ!?」

「いや、あの話を聞かれていたなら、君の前で良い王子を演じる必要はもうないだろう」

 顔を上げたエリック王子は良い王子とは言い難いニヒルな笑みを浮かべていた。

「昨日の事、弁解もしないのね」

「今更それをしたところで、君はそれを信じるのか?」

「いいえ。無理ね。国民の事を大切に思う慈悲深い王子が、本当はこんな人だなんて知ったら、国民の支持はガタ落ちね」

 カレンも負けないようしっかりと王子を見据えた。

「ああ、それは困るな。だって次期国王になる為には、国民の支持は絶対だ。それに加え、聖女と結婚して国を救えば俺の次期国王は確実なものになるんだよ」

「だ、だからって私はもう貴方と結婚する気はないわ!国王にもそう言うつもりよ!」

するとエリック王子は憐れむように笑った。

「残念だが、国王にそれを言った所で、君が俺と結婚する事は変わらない。同じ年頃の王族は俺だけだからな」

「確かにそうだけど、ヴァーン王子がいるわ!まだ12歳で確かに歳の差はあるけれど、彼と結婚して国を救う事だって出来ないわけじゃないはずよ!」

すると今度は凄く真面目な顔になりエリック王子は言った。

「無理だ」

「どうして!?」

「魔王を倒すのは簡単な事じゃない。いくら聖女の加護を受けたとしても即死すればそれで終わりだ。まだ12歳のヴァーンにそんな危険な事をさせたいか?」

 カレンはエリックの言葉にグッと押し黙った。だが、昨日考えた策はこれだけでは無い。

「だ、だったら、他にも貴方の従兄弟とかちょっと歳いってても独身の叔父とか……王族の血を引く者が他にもいるでしょ!?」

カレンの言葉にエリックは首を振る。

「無理だ。皆、もし魔王が復活しても倒す役目は俺かヴァーンだと思っていたからな。そもそもの覚悟も準備も出来ていない。従兄弟の中で俺の剣術が群を抜いているのは何故か分かるか?魔王が復活した時に備えて、俺は剣術の訓練に一際、覚悟と決意を持って取り組んでいた。自分の命に関わる事だからな。いいか?聖女と結婚して魔王を倒すのは俺しかいない!」

 エリックの勢いにカレンが押し黙ると、エリックそのまま言葉を続けた。

「つまり、君は俺と結婚するしかない。だがそんなに嫌なら魔王を倒した後……」

 エリックはそう言ってほくそ笑む。

 一方カレンも最後の手段として考えていた事を口にする。

 だったら魔王を倒した後……

「離縁して下さい」「離縁するがいい」

 カレンとエリックは同時に声を上げた。

 王子からも同じ提案をされて、カレンは驚き固まったが、王子はおかしそうに鼻を鳴らした。

「どうやら、そこの意見は合ったようだ。結婚して魔王を倒した後、我等は離縁する。それでいいな?」

 エリック王子は意外にも穏やかな笑みを浮かべた。

「え、ええ。私はそれで構いませんが、聖女と離縁しただなんてエリック王子の完璧な王子像に傷がつくんじゃないですか?」

 あれだけ次期国王になる事に拘っていたのに……

「心配ない。その時、俺は国を救った英雄だ。国王になるに相応しい事に変わりはない」

 そう自信満々に言ったエリックにカレンもモヤモヤしていた気持ちが吹っ切れた。

「では、私達は魔王を倒す為に結婚して、魔王を倒した後に離縁するという契約をするんですね」

「ああ、これは互いの目的を達成する為の契約結婚という事だ」

 カレンとエリックは互いの瞳を逸らすことなく頷き合ったのだった。


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