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第2章
ヒーロー
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それからというもの、大湯は俺に話しかけなくなった。そのため、俺は仕事内容を教えてもらえなかったし、今さら大倉さんの所に行くのも気が引けた。
…ただ、大湯は決まって大倉さんがいない時には話しかけてきたし、その時に触られることもあった。
そんな日が何日か続いた時のことだった。昼休憩になり、俺は大好きなオレンジジュースを買いに食堂へ向かおうとした時だった。
「木田君っ!」
「あぁ…大湯さん。どうしたんですか?」
「ちょっと来てくれる?」
「…あ、はい。」
大湯はチラチラと周りを確認しながら、人気のない部屋へと連れ込んだ。大湯の様子からして、何か企んでいる…そう思って口を開いた瞬間だった。
「…あの?何ですかっ…んっ…!」
不意打ちで唇を塞がれてしまった俺は、必死でエロオヤジの胸板を押し返す。
「やめてっ…下さいっ!」
そう言って、思いっきり体を押し返し、触れられた唇をゴシゴシとスーツの袖で拭う。
「…大倉に、目をつけられたら終わりなのはわかってるけど、…木田君が俺には必要なんだよ。」
…こういう目を、俺は知っている。気持ち悪い、異常者の目だ。
ジリジリと詰め寄ってくる大湯から距離を取ろうと後退るが、逆に壁まで追い込まれてしまった。
「…これ以上、近寄んじゃねぇ!殴るぞ!」
「…殴ってもいいよ。まぁ、そうなった場合、木田君は会社を辞めなければならないね。…だって、入社わずかで上司を殴ったんだから。」
ねっとりとした言い方に鳥肌が立ちながらも、それだけはダメだと脳内で警報が鳴り響く。…せっかく手に入れた職を、こんなことで失うわけにはいかない。
「ほら、どうしたの?殴っても大丈夫だよ。…殴らないんなら、俺がその柔らかい唇、また塞いじゃおうかなぁ?」
そう言って、さらに距離を詰めてくる。フッと耳元に息がかかり、俺の鳥肌と寒気が限界を迎えた時…俺の頭はスッとクリアになった。
…殴らずに、股間でも蹴り上げればバレないんじゃね?しかも、そんな状況なら…俺の言い分も聞いてくれる人もいるんじゃね?
そう思い立ち、スッと足を蹴り上げようとした瞬間だった。
暗い部屋に光が差し込み、人が一人立っているのが見えた。ただ、逆光でよく見えない…。そう思って目を細めるとそこにいたのは大倉さんだった。
「誰だっ…って、ひっ!」
さっきまでの威勢のいい大湯は何処へやら。後ろを振り返った瞬間、立っていたのが大倉さんだったため、怯えた声を出した。
「大湯、お前そこで何してたのか…言ってみろ。」
決して怒鳴るわけではない。…ただ、ドスの聞いた低い声の威圧感は到底耐えられるものではなかったのだろう。大湯は後退りしながら怯えた声を発している。
「な、なっ、何もしてませんっ!」
「そうか。この期に及んでしらばっくれるつもりか。…木田、何があったか言えるか?」
急に優しい声で、俺の名前を呼んで問いかける大倉さんの対応に風邪を引きそうになった。
登場のタイミングも含めて、俺には大倉さんが俺にとっての救世主…いや、ヒーローかなんかに見えた。
「あ、えと…大湯さんにこの部屋に連れ込まれて…あの、無理やりキスされて…殴って抵抗しようとしたんですけど、それだと会社やめることになるって脅されて…」
「…もういい。」
股間を蹴ろうとしました、まで言おうと思ったのに大倉さんに制止されたため口をつぐんだ。
「…大湯、お前のしてきたことはこれが一度や二度じゃない。情状酌量の余地もないんだよ。…わかるか?」
「……。」
「お前のことは俺がしっかり報告しておく。…今まで処分されなかったのは、お前の仕事の出来を考慮してのことだ。放置してきた上にも責任があるが…今回はもう終いだ。」
「あっ、えっ…?」
「わかったなら、とっとと消えろ。二度も言わせるなよ。」
「くっ……!」
大倉さんに何も言い返せない大湯は、悔しそうに顔を歪ませながら走って部屋を出て行った。
…ただ、大湯は決まって大倉さんがいない時には話しかけてきたし、その時に触られることもあった。
そんな日が何日か続いた時のことだった。昼休憩になり、俺は大好きなオレンジジュースを買いに食堂へ向かおうとした時だった。
「木田君っ!」
「あぁ…大湯さん。どうしたんですか?」
「ちょっと来てくれる?」
「…あ、はい。」
大湯はチラチラと周りを確認しながら、人気のない部屋へと連れ込んだ。大湯の様子からして、何か企んでいる…そう思って口を開いた瞬間だった。
「…あの?何ですかっ…んっ…!」
不意打ちで唇を塞がれてしまった俺は、必死でエロオヤジの胸板を押し返す。
「やめてっ…下さいっ!」
そう言って、思いっきり体を押し返し、触れられた唇をゴシゴシとスーツの袖で拭う。
「…大倉に、目をつけられたら終わりなのはわかってるけど、…木田君が俺には必要なんだよ。」
…こういう目を、俺は知っている。気持ち悪い、異常者の目だ。
ジリジリと詰め寄ってくる大湯から距離を取ろうと後退るが、逆に壁まで追い込まれてしまった。
「…これ以上、近寄んじゃねぇ!殴るぞ!」
「…殴ってもいいよ。まぁ、そうなった場合、木田君は会社を辞めなければならないね。…だって、入社わずかで上司を殴ったんだから。」
ねっとりとした言い方に鳥肌が立ちながらも、それだけはダメだと脳内で警報が鳴り響く。…せっかく手に入れた職を、こんなことで失うわけにはいかない。
「ほら、どうしたの?殴っても大丈夫だよ。…殴らないんなら、俺がその柔らかい唇、また塞いじゃおうかなぁ?」
そう言って、さらに距離を詰めてくる。フッと耳元に息がかかり、俺の鳥肌と寒気が限界を迎えた時…俺の頭はスッとクリアになった。
…殴らずに、股間でも蹴り上げればバレないんじゃね?しかも、そんな状況なら…俺の言い分も聞いてくれる人もいるんじゃね?
そう思い立ち、スッと足を蹴り上げようとした瞬間だった。
暗い部屋に光が差し込み、人が一人立っているのが見えた。ただ、逆光でよく見えない…。そう思って目を細めるとそこにいたのは大倉さんだった。
「誰だっ…って、ひっ!」
さっきまでの威勢のいい大湯は何処へやら。後ろを振り返った瞬間、立っていたのが大倉さんだったため、怯えた声を出した。
「大湯、お前そこで何してたのか…言ってみろ。」
決して怒鳴るわけではない。…ただ、ドスの聞いた低い声の威圧感は到底耐えられるものではなかったのだろう。大湯は後退りしながら怯えた声を発している。
「な、なっ、何もしてませんっ!」
「そうか。この期に及んでしらばっくれるつもりか。…木田、何があったか言えるか?」
急に優しい声で、俺の名前を呼んで問いかける大倉さんの対応に風邪を引きそうになった。
登場のタイミングも含めて、俺には大倉さんが俺にとっての救世主…いや、ヒーローかなんかに見えた。
「あ、えと…大湯さんにこの部屋に連れ込まれて…あの、無理やりキスされて…殴って抵抗しようとしたんですけど、それだと会社やめることになるって脅されて…」
「…もういい。」
股間を蹴ろうとしました、まで言おうと思ったのに大倉さんに制止されたため口をつぐんだ。
「…大湯、お前のしてきたことはこれが一度や二度じゃない。情状酌量の余地もないんだよ。…わかるか?」
「……。」
「お前のことは俺がしっかり報告しておく。…今まで処分されなかったのは、お前の仕事の出来を考慮してのことだ。放置してきた上にも責任があるが…今回はもう終いだ。」
「あっ、えっ…?」
「わかったなら、とっとと消えろ。二度も言わせるなよ。」
「くっ……!」
大倉さんに何も言い返せない大湯は、悔しそうに顔を歪ませながら走って部屋を出て行った。
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