悪を狩る獣たち(1次小説版)

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エピローグ

第36話 佛野徹子(9)

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「殺し屋さん」

 渾身の呪詛を吐いた後。
 香澄さんは、小さく、言った。

「なんだ? お客さん?」

 文人は、後始末を開始しながら、返す。
 死体と道具を砂利に変え、血しぶきを水へと錬成し、拷問殺害現場の痕跡を消しながら。
 手を全く止めていない。

「あとひとつ、お願い、いいですか?」

「言ってくれ」

 続いた言葉。
 アタシは辛かったな。

「……私も殺してください。方法は任せます」

 ……香澄さん。

 何でそうなるのよ? 
 香澄さん、何も悪いことしてないじゃん。

 香澄さんは、頭を抱えて、震えた。
 その表情は、強張っていて

「……私は、今地獄に堕ちた悪魔に、辛い現実から逃げたいからと、身体を許してしまいました……それがどうしても許せません……家族に顔向けできない……罰して欲しいんです」

 香澄さんは震えながら泣いていた。

 文人、手を止めないで話を聞き。
 一言、言った。

「殺しは追加料金が発生する。当たり前だよな。僕ら、殺し屋なんで」

「……おいくらですか?」

「3兆円」

「……!!」

 砂利を、砂利袋に入れつつ文人は、何でもないようにそう答える。

「払えるか? 払えるならすぐにでもやるけど?」

「ちなみに、現金以外受け付けない。犯罪絡みの金も拒否する。真っ当に稼いで、3兆円」

 文人……

 この相方、こういうところ。ホント好き。

「……分かりました……お願いするのは、諦めます……」

 香澄さん、依頼は断念したようだった。

 ……でも、このままではいけない気がした。

「ねぇ、お客さん」

「……なんですか?」

 モニタの中の香澄さんがアタシに反応する。

「ちょっとさ、アタシの昔話、聞いてほしいんだけど、いいかな?」

「……どうぞ?」

 アタシは、語った。
 今に至るまでの、話を。


 アタシは、真面目な父と、情熱的な母の子として生まれた。
 恋愛結婚だったらしい。
 でも、アタシが5歳のときに、状況が一変する。

 母が家族を裏切ったのだ。
 もうあなたにときめきを感じないの、という下らない理由で。母は他の男の女になった。

 それだけなら、まだ良かった。

 母は、離婚調停を有利にするためか。養育費を掠めとる目的か。
 アタシを連れ去り、不倫相手のところに転がり込んだ。

 アタシは不倫相手の家で育てられ、9歳になったとき。
 不倫相手が、アタシを犯した。

「だからさ、アタシの初体験、9歳。すごいでしょ?」

 笑って、言った。

 香澄さんは、絶句していた。

 続けた。

 そして、アタシはそのことを母に告げ、助けを求めた。
 でも……

「お前があの人を誘惑したからそうなったんだ! って言って、助けてもらうどころかボコボコに叩かれたよ」

「いやらしい身体! いやらしい娘! お前なんて産むんじゃなかった! 死んでしまえばいい! ってね」

 そして、アタシは1年間、母の不倫相手の性的玩具、母にはそれを嫉妬されサンドバックという地獄に居て。
 10歳の時、異能が目覚めた。

「そこからは、もう、快感」

 アタシを虐待した豚二匹に、今までのお返しをしてやった。
 手足を切り刻み、どっちから先に死ぬかを相談させてやった。
 そうしたらさ……

「先にお前が死ねって、罵りあってんの。何が恋よ。何がときめきよ。笑わせる」

 最期は二人とも背骨を引き抜いて殺してやったんだけど。
 最初は不倫相手。最後は母。

「牝豚やるときは面白かったな。最初に不倫相手を殺したもんだから、自分は助かるとか思ったらしくてさ」

 ありがとう。あなたを産んでよかった。私も苦しかったの、とかほざいてきて。
 それに

「え? 人じゃない牝豚のくせに、助けてもらえるとでも思ってんの?」

 って言ってやった時の表情。
 今でもゾクゾクするほど興奮する。

 泣いて命乞いする牝豚を、少しずつ刻んで、全く動けなくなったところで背骨を引き抜いて殺してやった。
 あれは、最高に気持ちよかった。

「で。その後今の組織のスカウトマンに拾われて、今ここに居るの」

 香澄さんは、何も言わなかった。

「勘違いして欲しくないのは、アタシは、今はそれなりに幸せってことで。同情して欲しいわけじゃなくてさ」

「ここにいる限り、クズを殺して愉しめるし」

 そう言って、アタシは座って作業している文人に抱き着いて、彼の背中に胸を押し付けるようにした。
 まぁ彼、こういう冗談あまり好きじゃないから、後で文句言われるかもだけど。
 今は許して。

「こんなステキな、地獄への道連れもできちゃったし」

「でもさ」

 香澄さんの方に送信される映像を意識して、カメラ目線で言った。

「だからこそ、お客さんみたいに、家族を大事にして、一人の男性への愛を貫き続ける女の人って、アタシ、好きだし、憧れるんだよ」

「だから、死んでほしくないなぁ」

 香澄さんは、黙っていた。

「以上、終わり。ご利用、ありがとうございました!」

 立ち上がってアタシはペコリと頭を下げ。
 カメラの電源をオフにした。
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