36 / 39
エピローグ
第36話 佛野徹子(9)
しおりを挟む
「殺し屋さん」
渾身の呪詛を吐いた後。
香澄さんは、小さく、言った。
「なんだ? お客さん?」
文人は、後始末を開始しながら、返す。
死体と道具を砂利に変え、血しぶきを水へと錬成し、拷問殺害現場の痕跡を消しながら。
手を全く止めていない。
「あとひとつ、お願い、いいですか?」
「言ってくれ」
続いた言葉。
アタシは辛かったな。
「……私も殺してください。方法は任せます」
……香澄さん。
何でそうなるのよ?
香澄さん、何も悪いことしてないじゃん。
香澄さんは、頭を抱えて、震えた。
その表情は、強張っていて
「……私は、今地獄に堕ちた悪魔に、辛い現実から逃げたいからと、身体を許してしまいました……それがどうしても許せません……家族に顔向けできない……罰して欲しいんです」
香澄さんは震えながら泣いていた。
文人、手を止めないで話を聞き。
一言、言った。
「殺しは追加料金が発生する。当たり前だよな。僕ら、殺し屋なんで」
「……おいくらですか?」
「3兆円」
「……!!」
砂利を、砂利袋に入れつつ文人は、何でもないようにそう答える。
「払えるか? 払えるならすぐにでもやるけど?」
「ちなみに、現金以外受け付けない。犯罪絡みの金も拒否する。真っ当に稼いで、3兆円」
文人……
この相方、こういうところ。ホント好き。
「……分かりました……お願いするのは、諦めます……」
香澄さん、依頼は断念したようだった。
……でも、このままではいけない気がした。
「ねぇ、お客さん」
「……なんですか?」
モニタの中の香澄さんがアタシに反応する。
「ちょっとさ、アタシの昔話、聞いてほしいんだけど、いいかな?」
「……どうぞ?」
アタシは、語った。
今に至るまでの、話を。
アタシは、真面目な父と、情熱的な母の子として生まれた。
恋愛結婚だったらしい。
でも、アタシが5歳のときに、状況が一変する。
母が家族を裏切ったのだ。
もうあなたにときめきを感じないの、という下らない理由で。母は他の男の女になった。
それだけなら、まだ良かった。
母は、離婚調停を有利にするためか。養育費を掠めとる目的か。
アタシを連れ去り、不倫相手のところに転がり込んだ。
アタシは不倫相手の家で育てられ、9歳になったとき。
不倫相手が、アタシを犯した。
「だからさ、アタシの初体験、9歳。すごいでしょ?」
笑って、言った。
香澄さんは、絶句していた。
続けた。
そして、アタシはそのことを母に告げ、助けを求めた。
でも……
「お前があの人を誘惑したからそうなったんだ! って言って、助けてもらうどころかボコボコに叩かれたよ」
「いやらしい身体! いやらしい娘! お前なんて産むんじゃなかった! 死んでしまえばいい! ってね」
そして、アタシは1年間、母の不倫相手の性的玩具、母にはそれを嫉妬されサンドバックという地獄に居て。
10歳の時、異能が目覚めた。
「そこからは、もう、快感」
アタシを虐待した豚二匹に、今までのお返しをしてやった。
手足を切り刻み、どっちから先に死ぬかを相談させてやった。
そうしたらさ……
「先にお前が死ねって、罵りあってんの。何が恋よ。何がときめきよ。笑わせる」
最期は二人とも背骨を引き抜いて殺してやったんだけど。
最初は不倫相手。最後は母。
「牝豚やるときは面白かったな。最初に不倫相手を殺したもんだから、自分は助かるとか思ったらしくてさ」
ありがとう。あなたを産んでよかった。私も苦しかったの、とかほざいてきて。
それに
「え? 人じゃない牝豚のくせに、助けてもらえるとでも思ってんの?」
って言ってやった時の表情。
今でもゾクゾクするほど興奮する。
泣いて命乞いする牝豚を、少しずつ刻んで、全く動けなくなったところで背骨を引き抜いて殺してやった。
あれは、最高に気持ちよかった。
「で。その後今の組織のスカウトマンに拾われて、今ここに居るの」
香澄さんは、何も言わなかった。
「勘違いして欲しくないのは、アタシは、今はそれなりに幸せってことで。同情して欲しいわけじゃなくてさ」
「ここにいる限り、クズを殺して愉しめるし」
そう言って、アタシは座って作業している文人に抱き着いて、彼の背中に胸を押し付けるようにした。
まぁ彼、こういう冗談あまり好きじゃないから、後で文句言われるかもだけど。
今は許して。
「こんなステキな、地獄への道連れもできちゃったし」
「でもさ」
香澄さんの方に送信される映像を意識して、カメラ目線で言った。
「だからこそ、お客さんみたいに、家族を大事にして、一人の男性への愛を貫き続ける女の人って、アタシ、好きだし、憧れるんだよ」
「だから、死んでほしくないなぁ」
香澄さんは、黙っていた。
「以上、終わり。ご利用、ありがとうございました!」
立ち上がってアタシはペコリと頭を下げ。
カメラの電源をオフにした。
渾身の呪詛を吐いた後。
香澄さんは、小さく、言った。
「なんだ? お客さん?」
文人は、後始末を開始しながら、返す。
死体と道具を砂利に変え、血しぶきを水へと錬成し、拷問殺害現場の痕跡を消しながら。
手を全く止めていない。
「あとひとつ、お願い、いいですか?」
「言ってくれ」
続いた言葉。
アタシは辛かったな。
「……私も殺してください。方法は任せます」
……香澄さん。
何でそうなるのよ?
香澄さん、何も悪いことしてないじゃん。
香澄さんは、頭を抱えて、震えた。
その表情は、強張っていて
「……私は、今地獄に堕ちた悪魔に、辛い現実から逃げたいからと、身体を許してしまいました……それがどうしても許せません……家族に顔向けできない……罰して欲しいんです」
香澄さんは震えながら泣いていた。
文人、手を止めないで話を聞き。
一言、言った。
「殺しは追加料金が発生する。当たり前だよな。僕ら、殺し屋なんで」
「……おいくらですか?」
「3兆円」
「……!!」
砂利を、砂利袋に入れつつ文人は、何でもないようにそう答える。
「払えるか? 払えるならすぐにでもやるけど?」
「ちなみに、現金以外受け付けない。犯罪絡みの金も拒否する。真っ当に稼いで、3兆円」
文人……
この相方、こういうところ。ホント好き。
「……分かりました……お願いするのは、諦めます……」
香澄さん、依頼は断念したようだった。
……でも、このままではいけない気がした。
「ねぇ、お客さん」
「……なんですか?」
モニタの中の香澄さんがアタシに反応する。
「ちょっとさ、アタシの昔話、聞いてほしいんだけど、いいかな?」
「……どうぞ?」
アタシは、語った。
今に至るまでの、話を。
アタシは、真面目な父と、情熱的な母の子として生まれた。
恋愛結婚だったらしい。
でも、アタシが5歳のときに、状況が一変する。
母が家族を裏切ったのだ。
もうあなたにときめきを感じないの、という下らない理由で。母は他の男の女になった。
それだけなら、まだ良かった。
母は、離婚調停を有利にするためか。養育費を掠めとる目的か。
アタシを連れ去り、不倫相手のところに転がり込んだ。
アタシは不倫相手の家で育てられ、9歳になったとき。
不倫相手が、アタシを犯した。
「だからさ、アタシの初体験、9歳。すごいでしょ?」
笑って、言った。
香澄さんは、絶句していた。
続けた。
そして、アタシはそのことを母に告げ、助けを求めた。
でも……
「お前があの人を誘惑したからそうなったんだ! って言って、助けてもらうどころかボコボコに叩かれたよ」
「いやらしい身体! いやらしい娘! お前なんて産むんじゃなかった! 死んでしまえばいい! ってね」
そして、アタシは1年間、母の不倫相手の性的玩具、母にはそれを嫉妬されサンドバックという地獄に居て。
10歳の時、異能が目覚めた。
「そこからは、もう、快感」
アタシを虐待した豚二匹に、今までのお返しをしてやった。
手足を切り刻み、どっちから先に死ぬかを相談させてやった。
そうしたらさ……
「先にお前が死ねって、罵りあってんの。何が恋よ。何がときめきよ。笑わせる」
最期は二人とも背骨を引き抜いて殺してやったんだけど。
最初は不倫相手。最後は母。
「牝豚やるときは面白かったな。最初に不倫相手を殺したもんだから、自分は助かるとか思ったらしくてさ」
ありがとう。あなたを産んでよかった。私も苦しかったの、とかほざいてきて。
それに
「え? 人じゃない牝豚のくせに、助けてもらえるとでも思ってんの?」
って言ってやった時の表情。
今でもゾクゾクするほど興奮する。
泣いて命乞いする牝豚を、少しずつ刻んで、全く動けなくなったところで背骨を引き抜いて殺してやった。
あれは、最高に気持ちよかった。
「で。その後今の組織のスカウトマンに拾われて、今ここに居るの」
香澄さんは、何も言わなかった。
「勘違いして欲しくないのは、アタシは、今はそれなりに幸せってことで。同情して欲しいわけじゃなくてさ」
「ここにいる限り、クズを殺して愉しめるし」
そう言って、アタシは座って作業している文人に抱き着いて、彼の背中に胸を押し付けるようにした。
まぁ彼、こういう冗談あまり好きじゃないから、後で文句言われるかもだけど。
今は許して。
「こんなステキな、地獄への道連れもできちゃったし」
「でもさ」
香澄さんの方に送信される映像を意識して、カメラ目線で言った。
「だからこそ、お客さんみたいに、家族を大事にして、一人の男性への愛を貫き続ける女の人って、アタシ、好きだし、憧れるんだよ」
「だから、死んでほしくないなぁ」
香澄さんは、黙っていた。
「以上、終わり。ご利用、ありがとうございました!」
立ち上がってアタシはペコリと頭を下げ。
カメラの電源をオフにした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
Last Recrudescence
睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる