悪を狩る獣たち(1次小説版)

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2章:頼み人の人生

第18話 山本香澄(3)

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 ある日、啓一が今日飲み会があるから電車で会社に行く、車で駅まで送ってくれないかと言ってきたので。
 送ることにしたのだけれど。

 澄子がまだ寝てて。
 車に乗せて一緒に行くことも考えたが、そうすると絶対起きるはずだから、起こすのも可哀想かな、車で行けば往復30分ちょいだし、多分寝てる間に完了するでしょ。
 そういう見立てを立てて澄子を寝かせたまま車で啓一を駅まで送ったら。

 帰ってきたら、家の、マンションの部屋の玄関ドアの鍵が開いてた。
 あれ? 締め忘れた? と思って、部屋に入ったら……

 娘が居なくなってた。

 血の気が引いた。
 背筋が凍った。

 ……誘拐? 

 だが、部屋には荒らされた跡が無い。
 土足で誰かが上がり込んだ跡が無かった。

 ……まさか!! 

 ベランダの鍵を調べた。

 ひとつも、開いていなかった。

 そこから、ひとつの仮説を立てた。
 娘は、この部屋を脱走したのだ。

 起きたら誰も居なかったから。
 私たちを探して。

 おそらく、玄関から。

 ……じゃあ、今どこに居るの? 

 最悪の想像が頭を過る。

 フラフラと外を歩いて、交通ルールも理解できてないものだから、そのまま車に轢かれる。
 階段から転落し、死亡する。
 変質者に見つけられ、攫われる……。

 私は飛び出していた。
 スマホも持たずに。

 一回家に入ったときに、置いていたのだ。

 結果的に、このミスが良かったんだけども。

 マンション内部と、その周辺をくまなく捜索して、階段周辺を特に念入りに調べた。

 子供の足だから、そんなに遠くまで行ってないはず……! 

 探して、探して、探して……

 見つからない。

 頭を抱え、泣きそうになった。
 大切な、大切な、私と啓一の宝物なのに。

 なんで、車に一緒に乗せてあげなかったのか。

 希望的観測で、この事態を予想しなかった私の甘さを後悔した。

 時間が気になったので腕時計を見た。

 ……出勤時刻が迫っている。

 スマホ……家に置き忘れた。

 連絡だけは、入れないと。職場に。
 社会人の常識だもの。

 事態がいくら深刻でも、連絡だけは入れるのが常識。

 青くなったまま、私は、その社会人の常識を果たそうと思い、マンションに戻って……

 居た。

「ママ!!」

「あっ! 澄子!」

 なんか金髪の女の子と、一緒にエントランスに居た。

 小さい手足を必死で動かして、澄子が駆け寄ってくる。私は抱き上げた。深い安堵と共に。

「良かった! どこに行ってたの!?」

「ママこそどこに!?」

「パパを駅まで送ってたの! 留守番してて欲しかったのに……でも、ママが悪いのよね。あなたが寝てる間にいけるだろうなんて、勝手に判断しちゃったんだから……!」

 目に涙が滲んだ。
 良かった……何かあったら、どうしようかと思った……! 

 最悪、もう娘を抱けないかもしれない。
 そう考えていたから、安堵感がすごかった。

 そこに、金髪の女の子がこう言ってきた。

「外で偶然澄子ちゃんを発見してここに連れてきたんです。じゃ、アタシはこれで」

 良く見ると、ものすごく綺麗な子だった。
 スタイルが抜群によく、顔も相当可愛い。
 目の大きさなんて、アイドル顔負けだ。

 金髪なので一瞬ギョッとしたが、全体の雰囲気からあまり怖い雰囲気は感じず。
 むしろ、朗らかな、優しい雰囲気を出していた。

 年齢は、高校生? 
 ただ、今は制服を着ていなかった。
 上は白いブラウス、下は水色のスカート。そしてブルーのサンダル。
 どうみても、デートに行った帰りみたいな。
 そんな衣装だった。

 ……ひょっとして、学校の準備もしないで澄子のために、ここで待っていてくれたの? 

 私は、確信した。
 この子、絶対良い子だ。

 ありがとう……本当にありがとう……澄子を見つけてくれて……

 彼女は腕時計を見て、立ち去ろうとした。
 これから着替えて、学校に行くのね。
 ……間に合うのかしら? 

 でも、ゴメン! 
 もうちょっとだけ、待って! 

「ありがとう! あなた、このマンションの人よね?」

 この時間帯にエントランスに居るってことは、そういうことの可能性が高いから。
 何故って、このマンション、オートロックだから。

 出るのは自動ドアで出られるけど、入るには内部の住人の許可か、電子キーが要る。
 そういうシステムになってる。

 そして、彼女は言った。

 外で偶然澄子を見つけた、って。
 こんな早朝に、電子キーなしでここに外から入るのはまず無理。

 だったらここの住人以外ありえない。
 名前と部屋を聞いておかないと! 

「名前を教えて! あと何号室? お礼、後でしたいから!」

「……201号室の佛野徹子って言います」

「……え?」

 私は耳を疑った。

「じゃあ、お隣さん?」

 私たちの家は、202号室。

 ……隣に住んでる子だった。

 よく、自分の隣人も良く知らない都会の闇とかいうけれど。
 私たち一家もその例に漏れなかったらしい。恥ずかしい限り。

 お隣さんに、こんな綺麗な子が住んでいたなんて。

 ……それが。
 私と徹子ちゃん……長く付き合うことになる、年の離れた友人? との出会いだった。
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