18 / 39
2章:頼み人の人生
第18話 山本香澄(3)
しおりを挟む
ある日、啓一が今日飲み会があるから電車で会社に行く、車で駅まで送ってくれないかと言ってきたので。
送ることにしたのだけれど。
澄子がまだ寝てて。
車に乗せて一緒に行くことも考えたが、そうすると絶対起きるはずだから、起こすのも可哀想かな、車で行けば往復30分ちょいだし、多分寝てる間に完了するでしょ。
そういう見立てを立てて澄子を寝かせたまま車で啓一を駅まで送ったら。
帰ってきたら、家の、マンションの部屋の玄関ドアの鍵が開いてた。
あれ? 締め忘れた? と思って、部屋に入ったら……
娘が居なくなってた。
血の気が引いた。
背筋が凍った。
……誘拐?
だが、部屋には荒らされた跡が無い。
土足で誰かが上がり込んだ跡が無かった。
……まさか!!
ベランダの鍵を調べた。
ひとつも、開いていなかった。
そこから、ひとつの仮説を立てた。
娘は、この部屋を脱走したのだ。
起きたら誰も居なかったから。
私たちを探して。
おそらく、玄関から。
……じゃあ、今どこに居るの?
最悪の想像が頭を過る。
フラフラと外を歩いて、交通ルールも理解できてないものだから、そのまま車に轢かれる。
階段から転落し、死亡する。
変質者に見つけられ、攫われる……。
私は飛び出していた。
スマホも持たずに。
一回家に入ったときに、置いていたのだ。
結果的に、このミスが良かったんだけども。
マンション内部と、その周辺をくまなく捜索して、階段周辺を特に念入りに調べた。
子供の足だから、そんなに遠くまで行ってないはず……!
探して、探して、探して……
見つからない。
頭を抱え、泣きそうになった。
大切な、大切な、私と啓一の宝物なのに。
なんで、車に一緒に乗せてあげなかったのか。
希望的観測で、この事態を予想しなかった私の甘さを後悔した。
時間が気になったので腕時計を見た。
……出勤時刻が迫っている。
スマホ……家に置き忘れた。
連絡だけは、入れないと。職場に。
社会人の常識だもの。
事態がいくら深刻でも、連絡だけは入れるのが常識。
青くなったまま、私は、その社会人の常識を果たそうと思い、マンションに戻って……
居た。
「ママ!!」
「あっ! 澄子!」
なんか金髪の女の子と、一緒にエントランスに居た。
小さい手足を必死で動かして、澄子が駆け寄ってくる。私は抱き上げた。深い安堵と共に。
「良かった! どこに行ってたの!?」
「ママこそどこに!?」
「パパを駅まで送ってたの! 留守番してて欲しかったのに……でも、ママが悪いのよね。あなたが寝てる間にいけるだろうなんて、勝手に判断しちゃったんだから……!」
目に涙が滲んだ。
良かった……何かあったら、どうしようかと思った……!
最悪、もう娘を抱けないかもしれない。
そう考えていたから、安堵感がすごかった。
そこに、金髪の女の子がこう言ってきた。
「外で偶然澄子ちゃんを発見してここに連れてきたんです。じゃ、アタシはこれで」
良く見ると、ものすごく綺麗な子だった。
スタイルが抜群によく、顔も相当可愛い。
目の大きさなんて、アイドル顔負けだ。
金髪なので一瞬ギョッとしたが、全体の雰囲気からあまり怖い雰囲気は感じず。
むしろ、朗らかな、優しい雰囲気を出していた。
年齢は、高校生?
ただ、今は制服を着ていなかった。
上は白いブラウス、下は水色のスカート。そしてブルーのサンダル。
どうみても、デートに行った帰りみたいな。
そんな衣装だった。
……ひょっとして、学校の準備もしないで澄子のために、ここで待っていてくれたの?
私は、確信した。
この子、絶対良い子だ。
ありがとう……本当にありがとう……澄子を見つけてくれて……
彼女は腕時計を見て、立ち去ろうとした。
これから着替えて、学校に行くのね。
……間に合うのかしら?
でも、ゴメン!
もうちょっとだけ、待って!
「ありがとう! あなた、このマンションの人よね?」
この時間帯にエントランスに居るってことは、そういうことの可能性が高いから。
何故って、このマンション、オートロックだから。
出るのは自動ドアで出られるけど、入るには内部の住人の許可か、電子キーが要る。
そういうシステムになってる。
そして、彼女は言った。
外で偶然澄子を見つけた、って。
こんな早朝に、電子キーなしでここに外から入るのはまず無理。
だったらここの住人以外ありえない。
名前と部屋を聞いておかないと!
「名前を教えて! あと何号室? お礼、後でしたいから!」
「……201号室の佛野徹子って言います」
「……え?」
私は耳を疑った。
「じゃあ、お隣さん?」
私たちの家は、202号室。
……隣に住んでる子だった。
よく、自分の隣人も良く知らない都会の闇とかいうけれど。
私たち一家もその例に漏れなかったらしい。恥ずかしい限り。
お隣さんに、こんな綺麗な子が住んでいたなんて。
……それが。
私と徹子ちゃん……長く付き合うことになる、年の離れた友人? との出会いだった。
送ることにしたのだけれど。
澄子がまだ寝てて。
車に乗せて一緒に行くことも考えたが、そうすると絶対起きるはずだから、起こすのも可哀想かな、車で行けば往復30分ちょいだし、多分寝てる間に完了するでしょ。
そういう見立てを立てて澄子を寝かせたまま車で啓一を駅まで送ったら。
帰ってきたら、家の、マンションの部屋の玄関ドアの鍵が開いてた。
あれ? 締め忘れた? と思って、部屋に入ったら……
娘が居なくなってた。
血の気が引いた。
背筋が凍った。
……誘拐?
だが、部屋には荒らされた跡が無い。
土足で誰かが上がり込んだ跡が無かった。
……まさか!!
ベランダの鍵を調べた。
ひとつも、開いていなかった。
そこから、ひとつの仮説を立てた。
娘は、この部屋を脱走したのだ。
起きたら誰も居なかったから。
私たちを探して。
おそらく、玄関から。
……じゃあ、今どこに居るの?
最悪の想像が頭を過る。
フラフラと外を歩いて、交通ルールも理解できてないものだから、そのまま車に轢かれる。
階段から転落し、死亡する。
変質者に見つけられ、攫われる……。
私は飛び出していた。
スマホも持たずに。
一回家に入ったときに、置いていたのだ。
結果的に、このミスが良かったんだけども。
マンション内部と、その周辺をくまなく捜索して、階段周辺を特に念入りに調べた。
子供の足だから、そんなに遠くまで行ってないはず……!
探して、探して、探して……
見つからない。
頭を抱え、泣きそうになった。
大切な、大切な、私と啓一の宝物なのに。
なんで、車に一緒に乗せてあげなかったのか。
希望的観測で、この事態を予想しなかった私の甘さを後悔した。
時間が気になったので腕時計を見た。
……出勤時刻が迫っている。
スマホ……家に置き忘れた。
連絡だけは、入れないと。職場に。
社会人の常識だもの。
事態がいくら深刻でも、連絡だけは入れるのが常識。
青くなったまま、私は、その社会人の常識を果たそうと思い、マンションに戻って……
居た。
「ママ!!」
「あっ! 澄子!」
なんか金髪の女の子と、一緒にエントランスに居た。
小さい手足を必死で動かして、澄子が駆け寄ってくる。私は抱き上げた。深い安堵と共に。
「良かった! どこに行ってたの!?」
「ママこそどこに!?」
「パパを駅まで送ってたの! 留守番してて欲しかったのに……でも、ママが悪いのよね。あなたが寝てる間にいけるだろうなんて、勝手に判断しちゃったんだから……!」
目に涙が滲んだ。
良かった……何かあったら、どうしようかと思った……!
最悪、もう娘を抱けないかもしれない。
そう考えていたから、安堵感がすごかった。
そこに、金髪の女の子がこう言ってきた。
「外で偶然澄子ちゃんを発見してここに連れてきたんです。じゃ、アタシはこれで」
良く見ると、ものすごく綺麗な子だった。
スタイルが抜群によく、顔も相当可愛い。
目の大きさなんて、アイドル顔負けだ。
金髪なので一瞬ギョッとしたが、全体の雰囲気からあまり怖い雰囲気は感じず。
むしろ、朗らかな、優しい雰囲気を出していた。
年齢は、高校生?
ただ、今は制服を着ていなかった。
上は白いブラウス、下は水色のスカート。そしてブルーのサンダル。
どうみても、デートに行った帰りみたいな。
そんな衣装だった。
……ひょっとして、学校の準備もしないで澄子のために、ここで待っていてくれたの?
私は、確信した。
この子、絶対良い子だ。
ありがとう……本当にありがとう……澄子を見つけてくれて……
彼女は腕時計を見て、立ち去ろうとした。
これから着替えて、学校に行くのね。
……間に合うのかしら?
でも、ゴメン!
もうちょっとだけ、待って!
「ありがとう! あなた、このマンションの人よね?」
この時間帯にエントランスに居るってことは、そういうことの可能性が高いから。
何故って、このマンション、オートロックだから。
出るのは自動ドアで出られるけど、入るには内部の住人の許可か、電子キーが要る。
そういうシステムになってる。
そして、彼女は言った。
外で偶然澄子を見つけた、って。
こんな早朝に、電子キーなしでここに外から入るのはまず無理。
だったらここの住人以外ありえない。
名前と部屋を聞いておかないと!
「名前を教えて! あと何号室? お礼、後でしたいから!」
「……201号室の佛野徹子って言います」
「……え?」
私は耳を疑った。
「じゃあ、お隣さん?」
私たちの家は、202号室。
……隣に住んでる子だった。
よく、自分の隣人も良く知らない都会の闇とかいうけれど。
私たち一家もその例に漏れなかったらしい。恥ずかしい限り。
お隣さんに、こんな綺麗な子が住んでいたなんて。
……それが。
私と徹子ちゃん……長く付き合うことになる、年の離れた友人? との出会いだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
Last Recrudescence
睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる