姉弟が夫婦になるまで

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第６話　姉がプールに誘われて

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　私たち姉弟の恋人関係は続いた。
　しかし。
　廊下で鉢合わせるハプニングの後、特に問題が起きることもなく。
　私たちは夏を迎えた。

「ねえ夏子」

　教室で。
　友人のひとりが声を掛けてくる。

「なぁに？」

　振り返ると

「今度の土曜日、プールに行かない？」

　期待する眼差しでそんなことを言われた。
　プール……

　水着が真っ先にイメージに来る。
　そしてナンパ。

　ちなみに私はよくナンパされる。
　可愛いから。

　どうしようか……
　今、一応彼氏いるもんな。

　弟だけど。

　彼氏差し置いて、ナンパされる可能性のあるプールに行くなんて、ちょっとダメだよね。
　どうせ上手く……うん。どうせ上手くいくわけ無い恋人関係でも、義理は要る。

「ゴメン、ちょっと保留で」

　今日、聞いてみよう。

「ねぇ明」

「なぁに？　姉ちゃん」

　帰宅後。
　リビングでコーヒーを入れながら、私は弟に話しかける。
　弟は何かの文庫本を読んでいた。

「姉ちゃん、今週の土曜日にプールに誘われているんだけど」

　コーヒーを二人分入れながら。

「どうして欲しい？」

　そこで、弟の動きが止まったのが私にも分かった。

「……姉ちゃんは行きたいの？」

　何か、絞り出すような声で、明。
　苦渋の決断なのかな？

「ん～、どっちでもいい」

　正直に答える。
　すると

「じゃあ、行かないで」

　ほぼ即答だった。

　……独占欲？
　なんだか、可愛いと思った。

　明は、私の方を見ない。
　顔を見られたく無いのかな？

「何で行って欲しく無いのかな？」

　……ちょっと、悪戯したくなった。
　そっと近づく。

　明は緊張していた。

　顔を近づけた。
　そして耳元で囁く。

「……姉ちゃんの水着姿を、他の男に見られたくなかったのかな？」

　ピクン、と明の肩が震える。
　図星なんだ。

　……ドキドキしてきた。
　頭に浮かんできたのは、前に廊下でバッタリ会ったとき。
　私も恥ずかしかったけど、この子も相当興奮したんだよね。
　……自分が求められている。その実感。

「どうなの？」

「……そうだよ」

　え……？
　こういうはっきりとした答えは、予想してなくて

「じゃあ、なんで最初姉ちゃんの意思を確認したの？」

　もっと、あやふやな気持ちだと思ってたから、こんな言葉が自然に出た。
　そしたら

「姉ちゃんを守り切れないのは、俺の弱さだから」

　……と、言われた。

　姉ちゃんを、私を守り切れない……

　こんなこと、先輩は言ってくれなかったなぁ。
　私、尽くすばっかりで……

「よ、弱さって……」

　声が少し上擦っていたかもしれない。

　もし、プールに行ってたら、明は私を守ろうとしてくれるの？
　彼氏として？
　でも、実力が足りないから、守り切れないから、私に行かないで欲しいって。

　そういうことなの？

　……すごく、嬉しくなった。
　この子、身を挺して私を守るつもりがあるのか、って……

「俺がもっと強ければ、姉ちゃんをどこにでも連れて行ってあげられるのに……」

　あ……

　私は、そのとき感じてしまったんだ。
　伴侶って、こういうことを言ってくれる人のことなのかもしれない、って……

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