姉弟が夫婦になるまで

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第1話 失恋した私が実弟に告白されるまで。

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 高校の廊下で、いきなりこう言われた。

「別れよう」

 ……え?
 私は、その言葉が一瞬理解できなかった。

 相手は恋人だった先輩。
 先月初体験を済ませて、これからというところだったのに。

「何でですか先輩!」

 私は憧れの先輩の彼女になれたから、頑張った。
 ファッションにも気を遣ったし。
 体重管理も頑張った。
 お弁当だって作ったし。
 そして先月、私は純潔を捧げた。

 なのに。

 私は先輩に詰め寄る。
 先輩は……

「正直、キミは重いんだ」

 やたら僕の行動を気にするし。
 他の子と話すだけで文句を言うし。
 束縛が過ぎる。

 私の問題点を、先輩は淡々と流れるように並べていく。

 そんな……!

 な、直します!
 私、悪いところ直しますから!

 そう、言おうとした。
 だけど……
 
「そういうことだから、さよならだ。悪いけど」

 そんなチャンスは与えてもらえなかった。

 ……そうして。
 私の初恋はフラれるという形で終わってしまった。

 泣きそうになったので、私はトイレに駆け込んだ。
 嗚咽が洩れそうになる。
 堪えた。

 顔を洗う。

 そして、鏡を見る。

 私の名前は桃井夏子。
 17才の高校生の女子。

 鏡の中の私は……
 手入れを頑張ってる黒い髪。
 自慢のサラサラストレートヘアー。
 長さは肩に届くくらい。

 顔だって悪くない。
 アーモンド形の目がチャームポイントだと思う。
 顔つき、シュっとしてて綺麗、って言われたのに。

 身体だって悪くないはずだ。
 今まで劣等感を感じたこと無かったし、先輩だって嬉しそうだったのに。

 なのに……なんで……!

 なんで私はフラれたの……!



 その日は、泣きたいのを我慢して、残りの授業をこなし。
 どこにも寄り道をしないで、そのまま家に帰宅した。

「ただいま」

 中流家庭。
 普通の一戸建て。
 それが私の家。
 両親は共働き。

 リビングに行くと、弟がいた。
 弟は制服のガクラン姿。
 その姿でリビングでテレビを見ていた。

「おかえり、姉ちゃん」

 これが、私の弟。
 弟の明。
 中学2年生。
 14才。

 体格は私より低め。
 まだ小学生時代の幼さが残ってる顔立ち。
 私の弟だからか、決して不細工ではなく、将来はモテるかもしれない男の子。

「あんた、いい加減にしてよね」

 そんな弟に私は怒りをブチ撒けた。
 半ば八つ当たりだったけど、理不尽では無い。

 家に帰っても制服を脱がず、靴下も脱がないでソファに寝そべっている。
 我が家は家では素足が基本なのに。
 外の汚い服は、帰宅したらさっさと脱ぐ。
 脱いで着替える。
 そう、指導されて育ってきた。我が家では。

「せめて靴下くらいは脱ぎなさい!」

 ピシャリと言うと、弟は面倒そうに靴下を脱ぎ始めた。
 全く! だらしないんだから!
 私は私で、洗面所に向かい、靴下を脱ぎに行く。

 洗面所には、大きな姿見があった。
 姿見に映る私。

 ……絶対、可愛いと思うのに。
 どうしてダメだったんだろう……フラれたんだろう……!

 また、泣きそうになって来た……


 部屋に戻って、制服を脱ぎ。
 部屋着のゆったりとした肌色の服に着替える。

 そしてリビングに戻る。

 まだ弟が居た。
 靴下は……脱いでいる。
 制服は上着を脱いでいるけど、脱いだ上着がそのまま。

 もう!
 私はイラつきながら、それを弟の部屋に運ぼうと手に取ろうとして……

「なぁ、姉ちゃん」

 弟が声を掛けて来た。
 私は振り返る。

「私が明の部屋に持っていくわ! いつまでもここに置いておかれてると困るもの!」

「……何、泣いてんの?」

 え……?
 
 私は頬を、目尻を拭う。
 ……濡れていた。
 私は泣いていたのだ。

 それに気づくと……
 止まらなくなった。

 私はその場に跪き、泣いてしまった。
 耐えていた涙だ。



「……なんだよそれ……ふざけんなよ……」

 私はリビングで、ソファに腰掛けて。
 弟を相手に、全部話してしまった。

 どうしても話したかった。
 話すことで、楽になる。
 それを実感してしまう心境。

 全て話してしまった。
 ……私が純潔を捧げてしまったことも。

 ……私は正気ではなかったのかもしれない。
 こんなこと、弟に話すことじゃ無いのに。

「好きだったの……本当に好きだったの……」

 先輩が好きだった。
 本当に好きだった。

 だから全部捧げたのに……

 フラれた。
 辛い。

 話したかったんだ。
 どうしても。

「俺、そいつ殴ってやる! 家教えろ! 姉ちゃん!」

 弟はすごい剣幕だった。
 ……本気で怒っていた。

 でも、嬉しい。
 弟の気持ち。
 家族としての愛。

 私は初恋を、男女の愛を失ったけど。
 家族の愛を持っている。

 それで、いいのよ。
 何も、恋はこれだけではない。
 私には家族の愛がまだあるし。
 男女の愛はこれからだって……

「いいよ明、姉ちゃん、もういいから……」

 弟の怒りが、私の悲しみを溶かしていく。
 そこに浮かんでくる感謝の念。

 私は微笑んだ。
 ありがとう。

 怒りの表情を浮かべる弟に、私は感謝の念しかない。

 だけど

「良くない!」

 弟は立ち上がって……

 ……私に詰め寄って来た。
 ……え?

「もう、他の男なんかに姉ちゃんを任せておけるか!」

 弟の表情……
 なんか、真っ赤で。
 それは、怒りによるものじゃなくて……

 私は肩を掴まれた。

 そして、言われたのだった。

「好きだ! 姉ちゃん!」

 正面から、衝撃の言葉を。
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