上 下
6 / 7
1章「はじめまして、相棒」

5「全ては突然に」

しおりを挟む
 「(うーん、現実味がなさすぎる・・・・)」
 今日の放課後から、全てが突然であった。
 しろがねの話も結局10%も理解出来ていないかもしれない。

 他の世界、しろがねと一心同体、転生・・・・。
 実感もないため、考えようとしても結局答えもでない。


 
 毎日が嫌で嫌でたまらなかった。
 そんな自分が都合の良い夢をみているだけではないだろうか。



 「(いや・・・・そんなに都合良くないわ)」
 よくよく考えると、目の前で甘味に夢中になっているこの白猫。相当ヤバい存在で前の世界を追い出されたのではないだろうか。


 尊大。偉そう。口も悪い。説明が下手。目つきも悪い。
 しかし、この獣に魅かれている自分がいる。


 
 「しろがね、口汚れてる」
 そんなにすごい存在にも見えないなと思いながら、ウェットティッシュを出す。


 「む。ご苦労・・・。」
 流石にはしゃぎすぎたことに少し気まずくなったのか大人しくなる。
 目だけはがっちりと生チョコを見つめながら。



 「ねえ、その、次に行く世界のことはわからないの?」
 準備できることがあれば可能な限りしていきたい。
 心の準備も整えたい。


 「わからぬ。ただ、縁がつながるだけの話。どの世界と縁があるのかは、その時にわかるのみ。」
 ぐびぐびとコップに顔を突っ込むしろがね。

 「生き物のいない世界かもしれぬ。戦場の絶えない世界かもしれぬ。一面水の世界かもしれぬ」
 
 「行く先がわからぬのが良いのだ。わかっていたらつまらんだろうに」
 わかっていないなとでも言いたげな視線。


 「う、うん。その、次の世界がつまらなかったら、またすぐに移動するの?」
 どんな世界に行こうとも自分は驚愕できる自信があるが、しろがねの「面白い」はハードルが高そうである。



 「すぐに移動が出来ぬときもある。その次の世界とのめぐりあわせが悪いとな。まあ千年もあれば縁はつながるであろう」
 何でもないように説明をするしろがね。



 「?!せん・・・・せんねん?」
 聞き違えかと思った。
 一面水の世界で千年もどうしろというのだ。
 とろとろにふやけきってしまう。



 「ふん。つまらぬならその世界など滅ぼせば良いのだ。しからばすぐに飛ばされる」
 無理矢理に飛ぶのは面白いからなと、しろがねはニヤニヤ嫌な笑顔を浮かべる。
 
 嗜虐的で残酷な、強者の笑み。蹂躙することに慣れている、捕食者の笑み。
 蟻を踏みつぶすことを楽しむような純粋な悪意。




 「・・・・性格悪いって言われない?」
 あ、こいつやっぱりヤバいやつか。
 神様っていっても祟り神かな。
 遠い目になる小夜。



 「弱者の戯言だ。我に敵わぬことが奴らの罪よ」
 大きく口が割けた残忍な笑み。



 白猫が生チョコにかぶりついている光景を見なければ、背筋も凍るような存在なのであろう。
 
 きっと(だいぶ)しろがねは恐ろしい存在なのだろう。
 世界にとっては敵なのだろう。


 そんなしろがねだったから小夜は惹かれた。
 小夜自身、自分はこの世界にとっての敵なのだろうと思っていたから。
 この世界は、小夜のことを嫌いなのだろうと思っていたから。


 堂々と好き勝手しているしろがねは、大多数の存在にとっては恐怖の大魔王だったとしても、小夜にとっては美しい獣でしかない。


 振り返ってみて、この世界がなくなってしまったとしても驚くほど未練がない。
 数千年、数万年としろがねとともにいたら、この世界を懐かしむことがくるのだろうか。


 今の小夜にとってはどうでも良い話だった。
 世界が小夜のことを嫌いなくらい、小夜だって世界を嫌いなのだから。



 
 「あ・・・・しろがね、お茶おかわりいる?」
 次はコーヒーでもいれようかな、と小夜が立ち上がりかけた瞬間。


 「っ小夜。渡るぞ!」
 ぼんっと元の巨大な姿になったしろがねが小夜に覆いかぶさる。
 絶対に離さないと言わんばかりに小夜を咥えるしろがね。
 


 えっ?とも言えない内に、視界が白く染まる。ぐにゃりと歪む。
 足元の感覚もなくなる。
 ぐらぐらと強烈なめまいに襲われているかのよう。




 自分の体を包むしろがねの感触だけがはっきりとわかる。
 ―――――――――そして、意識が飛んだ。
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命のいたずら世界へご招待~

夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。 しかし、それをさっと避けて危険回避をした。 故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。 絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。 ※ 自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。 1話が500字前後と短いです。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

クズな恩恵を賜った少年は男爵家を追放されました、 恩恵の名は【廃品回収】ごみ集めか?呪いだろうこれ、そう思った時期がありました、

shimashima
ファンタジー
成人に達した少年とその家族、許嫁のジルとその両親とともに参加した恩恵授与式、そこで教会からたまわった恩恵は前代未聞の恩恵、誰が見たって屑   文字通りの屑な恩恵 その恩恵は【廃品回収】  ごみ集めですよね これ・・  それを知った両親は少年を教会に置いてけぼりする、やむを得ず半日以上かけて徒歩で男爵家にたどり着くが、門は固く閉ざされたまま、途方に暮れる少年だったがやがて父が現れ 「勘当だ!出て失せろ」と言われ、わずかな手荷物と粗末な衣装を渡され監視付きで国を追放される、 やがて隣国へと流れついた少年を待ち受けるのは苦難の道とおもいますよね、だがしかし  神様恨んでごめんなさいでした、 ※内容は随時修正、加筆、添削しています、誤字、脱字、日本語おかしい等、ご教示いただけると嬉しいです、  健康を害して二年ほど中断していましたが再開しました、少しずつ書き足して行きます。

異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織
ファンタジー
コンビニのお店ごと異世界へと転移してしまったサオリのサバイバルは突然始まった。 魔物との遭遇、ライフラインやお店の発注システムの謎、神様、勇者、魔王、妖精、そして天使の存在。 異形が蔓延る見知らぬ地で、騎士団のランドルフやトレジャー・ハンターのエリオット等、様々な出会いを経て成長して行くサオリ。 やがて天使を味方につけ、天使の羽根ペンを手に入れたサオリはこの世界で生きる術を見つけたかに見えたが、 魔王アランの存在と、この世界の『魔王一年ルール』に巻き込まれて行く。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...