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手料理
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バスルームから出ると、生田はいつも通りの陽気な様子を見せた。
「驚いた? たまにこういうのもいいかなと思って」
生田は調理していた料理を手早く温め直してダイニングテーブルに置いていく。
「……悪くはないが、帰ってきたときの様子も違っていた。その、話したくないのなら構わないが……」
久世もそれを手伝って、生田の指示のもと料理を並べている。
「それも演出だよ。効果あっただろ」
久世はその言葉で、皿を持ったまま生田の方へ振り向いた。生田はその視線を受けてニカッと少年のような邪気のない笑みを浮かべた。
料理上手な生田による、久世にとっての豪華なディナーが始まった。久世の好きなものばかりがテーブルに所狭しと並べられ、どれから食べていいやら迷うほどだ。
生田は和食が得意で、今日の料理も肉じゃがに魚の煮付け、ぶり大根にだし巻き卵と、その他にも色々な副菜が少量ずつ並んでいる。それに合わせて酒は日本酒にしたようで、久世の好きな八海山が熱燗に冷と、それぞれ準備されていた。
久世が美味い美味いと、料理にパクついていると、改まった調子で生田が姿勢を正した。
「透、オメガとは天と地の差があるけど……」
そう言って、生田は久世に包装された箱を差し出した。
「……ありがとう」
久世はそれをおずおずと受け取る。
「開けてみて」
生田は笑顔を浮かべながらも緊張した様子で言った。
久世が箱を開けると、中には革の財布が入っていた。
手に持ってみると、軽くて丈夫そうだ。作りがしっかりしている。しかしどこにもブランドロゴがない。
その様子をニヤニヤと眺めていた生田が言った。
「僕の手作り」
久世はそれを聞いて顔を上げた。
「……どう? ヘタクソだけど、悪くないと思うんだ」
久世は感激して言葉にならなかった。しかし生田を不安にさせないようにと急いで言葉を絞り出す。
「……ありがとう」
胸が詰まったようなその声は、言葉以上に久世の気持ちを物語っていた。
生田はホッとした笑顔を浮かべて、熱燗の入った銚子を手に持つと言った。
「飲もう!」
久世はお猪口を手に取り、その杯を受ける。
「ありがとう、雅紀」
「ん? いま『愛してるよ、雅紀』って言った?」
「……言った。愛してるよ」
歯を見せて愉快そうに笑う生田に対して、久世は顔を赤らめて視線をお猪口に集中させていた。
たらふく食べた後、二人はベッドに寝転んで、色々と話をしたり互いを軽く愛撫したりと、寝入るまで仲良く過ごした。
翌朝になって、久世が目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
久世は飛び起きて、部屋の中を隅々探す。
今日は二人とも休日のはずだったが、急遽仕事へ行くことになったのだろうか。それともぷらっとコンビニにでも出かけたのか。
スマホをチェックして連絡がないかを何度も確認した。久世からも電話をかけたしLINEもした。
しかし、何時間経っても生田は戻らず、連絡もつかないままだった。
「驚いた? たまにこういうのもいいかなと思って」
生田は調理していた料理を手早く温め直してダイニングテーブルに置いていく。
「……悪くはないが、帰ってきたときの様子も違っていた。その、話したくないのなら構わないが……」
久世もそれを手伝って、生田の指示のもと料理を並べている。
「それも演出だよ。効果あっただろ」
久世はその言葉で、皿を持ったまま生田の方へ振り向いた。生田はその視線を受けてニカッと少年のような邪気のない笑みを浮かべた。
料理上手な生田による、久世にとっての豪華なディナーが始まった。久世の好きなものばかりがテーブルに所狭しと並べられ、どれから食べていいやら迷うほどだ。
生田は和食が得意で、今日の料理も肉じゃがに魚の煮付け、ぶり大根にだし巻き卵と、その他にも色々な副菜が少量ずつ並んでいる。それに合わせて酒は日本酒にしたようで、久世の好きな八海山が熱燗に冷と、それぞれ準備されていた。
久世が美味い美味いと、料理にパクついていると、改まった調子で生田が姿勢を正した。
「透、オメガとは天と地の差があるけど……」
そう言って、生田は久世に包装された箱を差し出した。
「……ありがとう」
久世はそれをおずおずと受け取る。
「開けてみて」
生田は笑顔を浮かべながらも緊張した様子で言った。
久世が箱を開けると、中には革の財布が入っていた。
手に持ってみると、軽くて丈夫そうだ。作りがしっかりしている。しかしどこにもブランドロゴがない。
その様子をニヤニヤと眺めていた生田が言った。
「僕の手作り」
久世はそれを聞いて顔を上げた。
「……どう? ヘタクソだけど、悪くないと思うんだ」
久世は感激して言葉にならなかった。しかし生田を不安にさせないようにと急いで言葉を絞り出す。
「……ありがとう」
胸が詰まったようなその声は、言葉以上に久世の気持ちを物語っていた。
生田はホッとした笑顔を浮かべて、熱燗の入った銚子を手に持つと言った。
「飲もう!」
久世はお猪口を手に取り、その杯を受ける。
「ありがとう、雅紀」
「ん? いま『愛してるよ、雅紀』って言った?」
「……言った。愛してるよ」
歯を見せて愉快そうに笑う生田に対して、久世は顔を赤らめて視線をお猪口に集中させていた。
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翌朝になって、久世が目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
久世は飛び起きて、部屋の中を隅々探す。
今日は二人とも休日のはずだったが、急遽仕事へ行くことになったのだろうか。それともぷらっとコンビニにでも出かけたのか。
スマホをチェックして連絡がないかを何度も確認した。久世からも電話をかけたしLINEもした。
しかし、何時間経っても生田は戻らず、連絡もつかないままだった。
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