その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい

海野幻創

文字の大きさ
上 下
2 / 44

手料理

しおりを挟む
 バスルームから出ると、生田はいつも通りの陽気な様子を見せた。

「驚いた? たまにこういうのもいいかなと思って」
 生田は調理していた料理を手早く温め直してダイニングテーブルに置いていく。
「……悪くはないが、帰ってきたときの様子も違っていた。その、話したくないのなら構わないが……」
 久世もそれを手伝って、生田の指示のもと料理を並べている。
「それも演出だよ。効果あっただろ」
 久世はその言葉で、皿を持ったまま生田の方へ振り向いた。生田はその視線を受けてニカッと少年のような邪気のない笑みを浮かべた。

 料理上手な生田による、久世にとっての豪華なディナーが始まった。久世の好きなものばかりがテーブルに所狭しと並べられ、どれから食べていいやら迷うほどだ。
 生田は和食が得意で、今日の料理も肉じゃがに魚の煮付け、ぶり大根にだし巻き卵と、その他にも色々な副菜が少量ずつ並んでいる。それに合わせて酒は日本酒にしたようで、久世の好きな八海山が熱燗に冷と、それぞれ準備されていた。

 久世が美味い美味いと、料理にパクついていると、改まった調子で生田が姿勢を正した。

「透、オメガとは天と地の差があるけど……」
 そう言って、生田は久世に包装された箱を差し出した。
「……ありがとう」
 久世はそれをおずおずと受け取る。
「開けてみて」
 生田は笑顔を浮かべながらも緊張した様子で言った。

 久世が箱を開けると、中には革の財布が入っていた。
 手に持ってみると、軽くて丈夫そうだ。作りがしっかりしている。しかしどこにもブランドロゴがない。

 その様子をニヤニヤと眺めていた生田が言った。
「僕の手作り」
 久世はそれを聞いて顔を上げた。
「……どう? ヘタクソだけど、悪くないと思うんだ」
 久世は感激して言葉にならなかった。しかし生田を不安にさせないようにと急いで言葉を絞り出す。

「……ありがとう」
 胸が詰まったようなその声は、言葉以上に久世の気持ちを物語っていた。

 生田はホッとした笑顔を浮かべて、熱燗の入った銚子を手に持つと言った。
「飲もう!」
 久世はお猪口を手に取り、その杯を受ける。
「ありがとう、雅紀」
「ん? いま『愛してるよ、雅紀』って言った?」
「……言った。愛してるよ」
 歯を見せて愉快そうに笑う生田に対して、久世は顔を赤らめて視線をお猪口に集中させていた。


 たらふく食べた後、二人はベッドに寝転んで、色々と話をしたり互いを軽く愛撫したりと、寝入るまで仲良く過ごした。



 翌朝になって、久世が目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
 久世は飛び起きて、部屋の中を隅々探す。
 今日は二人とも休日のはずだったが、急遽仕事へ行くことになったのだろうか。それともぷらっとコンビニにでも出かけたのか。
 スマホをチェックして連絡がないかを何度も確認した。久世からも電話をかけたしLINEもした。

 しかし、何時間経っても生田は戻らず、連絡もつかないままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司命令は絶対です!

凪玖海くみ
BL
仕事を辞め、新しい職場で心機一転を図ろうとする夏井光一。 だが、そこで再会したのは、かつてのバイト仲間であり、今は自分よりもはるかに高い地位にいる瀬尾湊だった。 「上司」と「部下」という立場の中で、少しずつ変化していく2人の関係。その先に待つのは、友情の延長か、それとも――。 仕事を通じて距離を縮めていく2人が、互いの想いに向き合う過程を描く物語。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イタズラ後輩と堅物上司

凪玖海くみ
BL
堅物で真面目な会社員・真壁尚也は、いつも後輩の市川悠太に振り回されてばかり。 そんな中、ある出来事をきっかけに、二人の距離が少しずつ縮まっていく。 頼ることが苦手な尚也と、彼を支えたいと願う悠太。仕事と日常の中で繰り広げられる軽妙なやり取りの果てに、二人が見つけた関係とは――? 職場で繰り広げられる、不器用で心温まる大人のラブストーリー。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...