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誕生日の
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久世透は緊張して面持ちで、自宅へと向かう車内にいた。期待しないようにと考えても期待してしまう、落ち着かない一日を終えようとしているところだった。
今日は26歳の誕生日だ。ニヶ月前に誕生日を祝ったパートナーから、透の誕生日も教えて欲しいと言われて以来はぐらかしている。
免許証を見るなりしてわかることだが、久世は自分からは言えないでいた。
惚れた男のためにと、御曹司の久世でも普段は行かないような高級レストランへ行ったり、最上級のスイートへ連れ行き、ずっと彼が欲しがっていたオメガのSEA MASTERをプレゼントしていたから、無理をするのではないかと心配だった。ただただ喜ばせたい気持ちでしたことで、だったらしなければいいのに、とは考え至らず、誤魔化すことしかできなかった。
それでも少しは気にかけてくれたかもしれない、そう思うとソワソワして落ち着かない。
マンションのオートロックを開けて部屋に入る。部屋の中は薄暗い。
待て待て、まさかいきなり灯りが付いてハッピーバースデーの歌が流れるのでは……。と、期待をしたが違った。
電灯のスイッチを付けてみても、誰もいない。彼は休みのはずだが、出かけているのか不在の様子だ。部屋を見渡してみても、朝出勤したときと変化はない。
久世はリビングのソファに腰を下ろした。
そこでようやくスマホの存在を思い出す。仕事中は専用のスマホを使用していて、プライベートの方は全く見ていなかった。
通知はなく、LINEも着信履歴も何もなかった。
久世は落胆するよりも不安になった。何か彼の身に起きたのではないかと心配になったのだ。
その時、玄関の開く音がした。久世はその音で立ち上がり、リビングから廊下へ出た。
そこには、久世の愛する恋人の姿があった。帰ってきたのだ。
セットされた濃いブラウンの髪は乱れ、顔も曇っている。休日だというのにスーツを着ていて、ジャケットを片手に持ち、シャツは二つボタンが開けられて皺が寄っている。
「おかえり、雅紀」
「ただいま。透」
生田雅紀は、24歳になったばかりの一般企業の会社員だ。
新幹線の距離に住んでいた二人が同棲をすることになったとき、東京を離れられない久世を案じて、生田がこちらへ来てくれた。国会議員の秘書官をしている久世は多忙で、毎日帰宅は遅いし休日も不定期だった。
生田は文句の一つも言わずに受け入れてくれていたが、慣れない都会で友人もおらず、初めての仕事にも疲弊している様子を見せていたから、とうとう限界がきたのだろうか。
生田の様子を見て、誕生日のことなど一切が吹き飛んだ久世は、慌てて駆け寄った。
「どうした?」
生田は何も答えず、ただ久世に力のない笑みを向けた。
そしてそのまま久世の方へと寄り掛かるようにして、抱きついた。
久世はすぐに反応し、受け止めるように抱きとめた。
「透、愛してるよ。誕生日おめでとう」
生田が久世の耳元で囁いた。
そして久世を壁に押し付けると、キスをした。
久世はいきなりのことで驚いたが、抱き合ったまま素直に受け止めた。軽いキスではなく、深く相手を貪るようなキスだった。生田の舌が絡みつく。そのまま最後までしたいときに生田がいつもしているように、唇をついばむようにしながら、何度も久世にキスをして、そのまま顎へ首へと進んでいく。
久世は戸惑った。見るからに疲弊しているであろう生田が、帰宅してすぐに、しかもこんなところで求めてくるとは思わなかった。
しかもいつもとは様子が違っている。酒には強いはずの生田が、明らかに酔っているのだ。
久世は何があったのかと心配で、受け入れることに躊躇っていた。
生田はそんな久世の反応には構わず、久世のジャケットを肩から脱がせ、シャツのボタンを開けていく。
久世を壁に押し付けたまま、荒々しすぎない程度に激しく、猛った欲望をぶつけるかのような熱を向けていく。
久世のシャツのボタンを全て外し、生田は唇で吸い付きながらも舌で上半身を愛で、舐めていく。久世の全てを味わいたいとでも言うように、ゆっくりと丁寧に。
久世は混乱しながらも愛する男からの情熱に反応し、興奮が高まっていた。
「……雅紀」久世の息が乱れる。
「透、好きだよ。ああ、透の全てが僕のものだったらいいのに」生田の声も艶がかっている。
「雅紀のものだ」
「透、僕の透。愛してるよ」
生田は言いながら久世のベルトを外して、ファスナーを下ろした。
「……雅紀……」
久世は反応した。ボクサーパンツの膨らみに生田は舌を這わす。甘噛みし、咥えるように吸い付いた。
久世は自分からは何もしてあげようがなく、ただそれに反応し、焦らされてさらに煽り立てられている。
生田は、間に隔てられていた布をとうとう下ろした。既に濡れて光っているそれに、生田の唇がゆっくりと近づく。先に触れるか触れないかのギリギリのところでさらに焦らす。生田の息がかかって、久世は思わず悶えた。
ようやくそこに触れたかと思うと、そのまま大きく深く久世を味わった。生田の舌が動くたびに久世は身体を震わせる。生田は久世を焦らすのが好きだ。ゆっくり、じっくりと快感に浸らせる。我慢ができなくなる寸前で止め、おあずけするのを繰り返す。
ようやく果てた久世のを生田は半分飲み干した。
「雅紀……」立ち上がって目を合わせた生田に向かって、久世は声を漏らす。
生田は妖艶な笑みを浮かべると、久世の目の前で口から残りを手に吐き出して、それを自身のところへ持っていき、久世のを潤滑剤にして擦り始めた。
生田の突然の行動に再び興奮を煽られた久世は、生田の頭を抱きかかえるようにしてキスをした。
キスだけで互いの全身を愛撫するかのように舌を絡ませながら、生田は自分で終わらせた。
「……透、おいで」
乱れた衣服のまま、生田は久世の手を引いてバスルームへと向かう。
衣服を全て脱ぎ捨てて、シャワールームへ入ってお湯を頭からかぶる。視線で呼ばれた久世は、それに倣って生田の後を追う。
生田は自分の身体を洗ったあと、丁寧に久世の身体も洗った。そしていつの間にやらコンドームを付けていたそれを、久世の後ろから中に入れた。久世は何も言わずにされるがままで、酔った勢いとでも言うような普段とは違う生田のやり方に戸惑い続けていたが、いつもよりも興奮していた。
生田は久世を気遣うように動きながらも、どこか自棄になっているようにも感じられる。後ろを向いているので顔が見えない。久世は快感に酔いながらも案じてしまって気が散漫だ。しかし生田は止まらない。そのまま最後まですると、ようやく久世は生田の表情を見ることができた。果てた脱力感と共に生田の顔にあったのは、涙の跡だった。
生田はそれを気取られないようにするためか、再びシャワーを出して、頭から被った。シャワーから目を覆うようにして両手で顔を抱えているが、隙間から覗く口元は、悲痛ともとれる形に歪んでいた。
久世はそんな生田を後ろから抱き締めた。
何も言わないからわからないが、何も言いたくないのならそれを尊重したい。
そう考えた。
今日は26歳の誕生日だ。ニヶ月前に誕生日を祝ったパートナーから、透の誕生日も教えて欲しいと言われて以来はぐらかしている。
免許証を見るなりしてわかることだが、久世は自分からは言えないでいた。
惚れた男のためにと、御曹司の久世でも普段は行かないような高級レストランへ行ったり、最上級のスイートへ連れ行き、ずっと彼が欲しがっていたオメガのSEA MASTERをプレゼントしていたから、無理をするのではないかと心配だった。ただただ喜ばせたい気持ちでしたことで、だったらしなければいいのに、とは考え至らず、誤魔化すことしかできなかった。
それでも少しは気にかけてくれたかもしれない、そう思うとソワソワして落ち着かない。
マンションのオートロックを開けて部屋に入る。部屋の中は薄暗い。
待て待て、まさかいきなり灯りが付いてハッピーバースデーの歌が流れるのでは……。と、期待をしたが違った。
電灯のスイッチを付けてみても、誰もいない。彼は休みのはずだが、出かけているのか不在の様子だ。部屋を見渡してみても、朝出勤したときと変化はない。
久世はリビングのソファに腰を下ろした。
そこでようやくスマホの存在を思い出す。仕事中は専用のスマホを使用していて、プライベートの方は全く見ていなかった。
通知はなく、LINEも着信履歴も何もなかった。
久世は落胆するよりも不安になった。何か彼の身に起きたのではないかと心配になったのだ。
その時、玄関の開く音がした。久世はその音で立ち上がり、リビングから廊下へ出た。
そこには、久世の愛する恋人の姿があった。帰ってきたのだ。
セットされた濃いブラウンの髪は乱れ、顔も曇っている。休日だというのにスーツを着ていて、ジャケットを片手に持ち、シャツは二つボタンが開けられて皺が寄っている。
「おかえり、雅紀」
「ただいま。透」
生田雅紀は、24歳になったばかりの一般企業の会社員だ。
新幹線の距離に住んでいた二人が同棲をすることになったとき、東京を離れられない久世を案じて、生田がこちらへ来てくれた。国会議員の秘書官をしている久世は多忙で、毎日帰宅は遅いし休日も不定期だった。
生田は文句の一つも言わずに受け入れてくれていたが、慣れない都会で友人もおらず、初めての仕事にも疲弊している様子を見せていたから、とうとう限界がきたのだろうか。
生田の様子を見て、誕生日のことなど一切が吹き飛んだ久世は、慌てて駆け寄った。
「どうした?」
生田は何も答えず、ただ久世に力のない笑みを向けた。
そしてそのまま久世の方へと寄り掛かるようにして、抱きついた。
久世はすぐに反応し、受け止めるように抱きとめた。
「透、愛してるよ。誕生日おめでとう」
生田が久世の耳元で囁いた。
そして久世を壁に押し付けると、キスをした。
久世はいきなりのことで驚いたが、抱き合ったまま素直に受け止めた。軽いキスではなく、深く相手を貪るようなキスだった。生田の舌が絡みつく。そのまま最後までしたいときに生田がいつもしているように、唇をついばむようにしながら、何度も久世にキスをして、そのまま顎へ首へと進んでいく。
久世は戸惑った。見るからに疲弊しているであろう生田が、帰宅してすぐに、しかもこんなところで求めてくるとは思わなかった。
しかもいつもとは様子が違っている。酒には強いはずの生田が、明らかに酔っているのだ。
久世は何があったのかと心配で、受け入れることに躊躇っていた。
生田はそんな久世の反応には構わず、久世のジャケットを肩から脱がせ、シャツのボタンを開けていく。
久世を壁に押し付けたまま、荒々しすぎない程度に激しく、猛った欲望をぶつけるかのような熱を向けていく。
久世のシャツのボタンを全て外し、生田は唇で吸い付きながらも舌で上半身を愛で、舐めていく。久世の全てを味わいたいとでも言うように、ゆっくりと丁寧に。
久世は混乱しながらも愛する男からの情熱に反応し、興奮が高まっていた。
「……雅紀」久世の息が乱れる。
「透、好きだよ。ああ、透の全てが僕のものだったらいいのに」生田の声も艶がかっている。
「雅紀のものだ」
「透、僕の透。愛してるよ」
生田は言いながら久世のベルトを外して、ファスナーを下ろした。
「……雅紀……」
久世は反応した。ボクサーパンツの膨らみに生田は舌を這わす。甘噛みし、咥えるように吸い付いた。
久世は自分からは何もしてあげようがなく、ただそれに反応し、焦らされてさらに煽り立てられている。
生田は、間に隔てられていた布をとうとう下ろした。既に濡れて光っているそれに、生田の唇がゆっくりと近づく。先に触れるか触れないかのギリギリのところでさらに焦らす。生田の息がかかって、久世は思わず悶えた。
ようやくそこに触れたかと思うと、そのまま大きく深く久世を味わった。生田の舌が動くたびに久世は身体を震わせる。生田は久世を焦らすのが好きだ。ゆっくり、じっくりと快感に浸らせる。我慢ができなくなる寸前で止め、おあずけするのを繰り返す。
ようやく果てた久世のを生田は半分飲み干した。
「雅紀……」立ち上がって目を合わせた生田に向かって、久世は声を漏らす。
生田は妖艶な笑みを浮かべると、久世の目の前で口から残りを手に吐き出して、それを自身のところへ持っていき、久世のを潤滑剤にして擦り始めた。
生田の突然の行動に再び興奮を煽られた久世は、生田の頭を抱きかかえるようにしてキスをした。
キスだけで互いの全身を愛撫するかのように舌を絡ませながら、生田は自分で終わらせた。
「……透、おいで」
乱れた衣服のまま、生田は久世の手を引いてバスルームへと向かう。
衣服を全て脱ぎ捨てて、シャワールームへ入ってお湯を頭からかぶる。視線で呼ばれた久世は、それに倣って生田の後を追う。
生田は自分の身体を洗ったあと、丁寧に久世の身体も洗った。そしていつの間にやらコンドームを付けていたそれを、久世の後ろから中に入れた。久世は何も言わずにされるがままで、酔った勢いとでも言うような普段とは違う生田のやり方に戸惑い続けていたが、いつもよりも興奮していた。
生田は久世を気遣うように動きながらも、どこか自棄になっているようにも感じられる。後ろを向いているので顔が見えない。久世は快感に酔いながらも案じてしまって気が散漫だ。しかし生田は止まらない。そのまま最後まですると、ようやく久世は生田の表情を見ることができた。果てた脱力感と共に生田の顔にあったのは、涙の跡だった。
生田はそれを気取られないようにするためか、再びシャワーを出して、頭から被った。シャワーから目を覆うようにして両手で顔を抱えているが、隙間から覗く口元は、悲痛ともとれる形に歪んでいた。
久世はそんな生田を後ろから抱き締めた。
何も言わないからわからないが、何も言いたくないのならそれを尊重したい。
そう考えた。
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