その溺愛は行き場を彷徨う

海野幻創

文字の大きさ
上 下
1 / 44

誕生日の

しおりを挟む
 久世くぜとおるは緊張して面持ちで、自宅へと向かう車内にいた。期待しないようにと考えても期待してしまう、落ち着かない一日を終えようとしているところだった。

 今日は26歳の誕生日だ。ニヶ月前に誕生日を祝ったパートナーから、透の誕生日も教えて欲しいと言われて以来はぐらかしている。
 免許証を見るなりしてわかることだが、久世は自分からは言えないでいた。

 惚れた男のためにと、御曹司の久世でも普段は行かないような高級レストランへ行ったり、最上級のスイートへ連れ行き、ずっと彼が欲しがっていたオメガのSEA MASTERをプレゼントしていたから、無理をするのではないかと心配だった。ただただ喜ばせたい気持ちでしたことで、だったらしなければいいのに、とは考え至らず、誤魔化すことしかできなかった。

 それでも少しは気にかけてくれたかもしれない、そう思うとソワソワして落ち着かない。

 マンションのオートロックを開けて部屋に入る。部屋の中は薄暗い。
 待て待て、まさかいきなり灯りが付いてハッピーバースデーの歌が流れるのでは……。と、期待をしたが違った。
 電灯のスイッチを付けてみても、誰もいない。彼は休みのはずだが、出かけているのか不在の様子だ。部屋を見渡してみても、朝出勤したときと変化はない。

 久世はリビングのソファに腰を下ろした。
 そこでようやくスマホの存在を思い出す。仕事中は専用のスマホを使用していて、プライベートの方は全く見ていなかった。
 通知はなく、LINEも着信履歴も何もなかった。
 久世は落胆するよりも不安になった。何か彼の身に起きたのではないかと心配になったのだ。

 その時、玄関の開く音がした。久世はその音で立ち上がり、リビングから廊下へ出た。
 そこには、久世の愛する恋人の姿があった。帰ってきたのだ。
 セットされた濃いブラウンの髪は乱れ、顔も曇っている。休日だというのにスーツを着ていて、ジャケットを片手に持ち、シャツは二つボタンが開けられて皺が寄っている。

「おかえり、雅紀まさき

「ただいま。透」

 生田いくた雅紀まさきは、24歳になったばかりの一般企業の会社員だ。
 新幹線の距離に住んでいた二人が同棲をすることになったとき、東京を離れられない久世を案じて、生田がこちらへ来てくれた。国会議員の秘書官をしている久世は多忙で、毎日帰宅は遅いし休日も不定期だった。
 生田は文句の一つも言わずに受け入れてくれていたが、慣れない都会で友人もおらず、初めての仕事にも疲弊している様子を見せていたから、とうとう限界がきたのだろうか。

 生田の様子を見て、誕生日のことなど一切が吹き飛んだ久世は、慌てて駆け寄った。
「どうした?」

 生田は何も答えず、ただ久世に力のない笑みを向けた。
 そしてそのまま久世の方へと寄り掛かるようにして、抱きついた。
 久世はすぐに反応し、受け止めるように抱きとめた。

「透、愛してるよ。誕生日おめでとう」
 生田が久世の耳元で囁いた。
 そして久世を壁に押し付けると、キスをした。
 久世はいきなりのことで驚いたが、抱き合ったまま素直に受け止めた。軽いキスではなく、深く相手を貪るようなキスだった。生田の舌が絡みつく。そのまま最後までしたいときに生田がいつもしているように、唇をついばむようにしながら、何度も久世にキスをして、そのまま顎へ首へと進んでいく。
 久世は戸惑った。見るからに疲弊しているであろう生田が、帰宅してすぐに、しかもこんなところで求めてくるとは思わなかった。
 しかもいつもとは様子が違っている。酒には強いはずの生田が、明らかに酔っているのだ。
 久世は何があったのかと心配で、受け入れることに躊躇っていた。

 生田はそんな久世の反応には構わず、久世のジャケットを肩から脱がせ、シャツのボタンを開けていく。
 久世を壁に押し付けたまま、荒々しすぎない程度に激しく、猛った欲望をぶつけるかのような熱を向けていく。
 久世のシャツのボタンを全て外し、生田は唇で吸い付きながらも舌で上半身を愛で、舐めていく。久世の全てを味わいたいとでも言うように、ゆっくりと丁寧に。

 久世は混乱しながらも愛する男からの情熱に反応し、興奮が高まっていた。
「……雅紀」久世の息が乱れる。
「透、好きだよ。ああ、透の全てが僕のものだったらいいのに」生田の声も艶がかっている。
「雅紀のものだ」
「透、僕の透。愛してるよ」
 生田は言いながら久世のベルトを外して、ファスナーを下ろした。
「……雅紀……」
 久世は反応した。ボクサーパンツの膨らみに生田は舌を這わす。甘噛みし、咥えるように吸い付いた。
 久世は自分からは何もしてあげようがなく、ただそれに反応し、焦らされてさらに煽り立てられている。
 生田は、間に隔てられていた布をとうとう下ろした。既に濡れて光っているそれに、生田の唇がゆっくりと近づく。先に触れるか触れないかのギリギリのところでさらに焦らす。生田の息がかかって、久世は思わず悶えた。
 ようやくそこに触れたかと思うと、そのまま大きく深く久世を味わった。生田の舌が動くたびに久世は身体を震わせる。生田は久世を焦らすのが好きだ。ゆっくり、じっくりと快感に浸らせる。我慢ができなくなる寸前で止め、おあずけするのを繰り返す。
 ようやく果てた久世のを生田は半分飲み干した。
「雅紀……」立ち上がって目を合わせた生田に向かって、久世は声を漏らす。

 生田は妖艶な笑みを浮かべると、久世の目の前で口から残りを手に吐き出して、それを自身のところへ持っていき、久世のを潤滑剤にして擦り始めた。
 生田の突然の行動に再び興奮を煽られた久世は、生田の頭を抱きかかえるようにしてキスをした。
 キスだけで互いの全身を愛撫するかのように舌を絡ませながら、生田は自分で終わらせた。
「……透、おいで」
 乱れた衣服のまま、生田は久世の手を引いてバスルームへと向かう。

 衣服を全て脱ぎ捨てて、シャワールームへ入ってお湯を頭からかぶる。視線で呼ばれた久世は、それに倣って生田の後を追う。
 生田は自分の身体を洗ったあと、丁寧に久世の身体も洗った。そしていつの間にやらコンドームを付けていたそれを、久世の後ろから中に入れた。久世は何も言わずにされるがままで、酔った勢いとでも言うような普段とは違う生田のやり方に戸惑い続けていたが、いつもよりも興奮していた。
 生田は久世を気遣うように動きながらも、どこか自棄やけになっているようにも感じられる。後ろを向いているので顔が見えない。久世は快感に酔いながらも案じてしまって気が散漫だ。しかし生田は止まらない。そのまま最後まですると、ようやく久世は生田の表情を見ることができた。果てた脱力感と共に生田の顔にあったのは、涙の跡だった。

 生田はそれを気取られないようにするためか、再びシャワーを出して、頭から被った。シャワーから目を覆うようにして両手で顔を抱えているが、隙間から覗く口元は、悲痛ともとれる形に歪んでいた。
 久世はそんな生田を後ろから抱き締めた。

 何も言わないからわからないが、何も言いたくないのならそれを尊重したい。

 そう考えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...